両親の愛を諦めたら、婚約者が溺愛してくるようになりました

ボタニカルseven

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懐妊

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「レオナード公爵夫妻、それにご子息様。私の招待に応じていただきありがとうございます」

 レオナード公爵家、私たちフロライン公爵家と同じ御三家だ。だからこそ毎年誕生パーティーには招待させていただいている。レオナード家はとても仲睦まじく夫婦仲、家族仲どちらも非常に良好だ。いや私と同じように外面だけよくしている可能性もあるが。

「これはこれは公爵令嬢。そして、第三王子殿下、ご機嫌麗しゅう」
 
 公爵の挨拶に軽く礼をすることでアルは答えた。

「それはそうと、先ほどフロライン公爵夫妻が会場から退場されるのを見ましたが如何なさったのですか?」

 私から本当は切り出そうと思ったことをレオナード公爵が先だって言ってくれた。

「すごく言いにくいこと、なのですが」

 私はそう言いながら目を潤ませ下を見る。

「きっと、私の誕生日パーティーだからだと思います」
「というと?」

 公爵が食いついてくれた。

「私は、その。お、お父様の前妻の娘です。だからきっと、疎ましく思っているに違いありません」

 そう涙ながらに話す私にレオナード公爵家は駆け寄ってくれた。それに、アルだって一番に涙を拭ってくれた。

「そんなことありません。ご令嬢はとても素敵なお方です。ですからフロライン公爵がそのようなこと思うことなど」
「私が素敵なんてことありません。どれだけ努力してもお父様とお母様には見向きもされないのですから。私はダメな子です。何もできない、お父様たちのお邪魔な存在なのです。わ、私はきっとうまれて――」

 生まれてこなければよかった。そう言おうと思ったらアルに口を手で塞がれた。

「リュシー、そんなこと言わないでください」

 演技に夢中になっていた私は一気に現実に戻された。アルがとても悲しそうな瞳をしていたから。

「ご、ごめんなさい」
「殿下の言うとおりです。ご令嬢がどんな目にあったとしてもその一言だけは言ってはなりません。生まれてこなければいい者など誰もいないのですから」

 レオナード公爵は私の視線に合わせるためにしゃがみながら話してくれた。それだけでも、とても優しい方なのだということが伺えた。だからだろう思わず言葉がこぼれてしまったのは。

「わたしレオナード家に生まれたかったな…………!ごめんなさいなんでもないんです」

 漏れ出てしまったその声を必死に掻き消すように訂正をした。レオナード公爵は唖然とした顔をしている。きっとこの呟きが聞こえてしまっていたのだろう。これ以上、ここに長居は無用だと思い次の挨拶に行くことにした。

「申し訳ありませんが失礼させていただきます。この後にも挨拶をしなければなりませんので」

 私はドレスを翻して御三家のもう一つブルーゲンベルク公爵家に挨拶参りに行くことにした。確かブルーゲンベルク公爵はとても厳格な方だったはずだから演技をするのはよそう。そう思いながらブルーゲンベルク公爵を探すはいいけれどなかなか見つからない。すると一人の使用人が私に耳打ちをしてきた。

「お嬢様、夫人がご懐妊なされました」

 今、判明したのね。一言礼を伝えてから、その使用人を下がらせた。きっと今頃二人は大層喜んでいるでしょうね。愛し合った末にその子供ができたのだから。わかっていたことなのに、私は酷く衝撃を受けた。普通の子供であれば妹ができると知ったら、喜ぶべきだったのに。その演技をすべきだったのに。それができなかった。

「リュシー?今のはどうしたのですか」

 固まっている私を心配してくれたアル。婚約者とはいえどまだこの情報を話すべきではないだろう。適当に誤魔化すことにした。

「いえ、公爵夫人の体調がすぐれないそうでそのまま公爵邸に帰るとのことでした」

 懐妊したばっかの夫人には申し訳ないけど、あなたたちの評判落とすのはやめないから。

「そうでしたか。このままパーティーはつづけるのですか?」
「もちろんです。あの人がどうなろうと知ったことではないので」

 私はアルの問いにそう一言言って挨拶回りを再開した。







 
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