1 / 3
プロローグ
しおりを挟む禍々しくどんよりとした雲の中、二人の男女が意を決した表情で立っている。その目線はこの天気、そしてランチェード大陸にあるダリテール王国を壊滅させた元凶に対して向けられていた。
「ルージュ」
「はっ。ここにいます」
赤髪赤目を持った女は男にそう呼ばれる。
「見えるか。あれが禍々しく人智を超えた存在が住まう城だ」
「はい、はっきりと」
ルージュは男と同じ場所を見る。少し離れたところにはそこにあるにはとても不自然で異質感を漂わせる城があった。あたりを漂う不思議な気のせいなのだろうか、周りの木々は不自然に萎れていた。
「私はダリテール王国のため、死を決して闘いに挑む。ルージュはどうする」
「私の身は全て殿下のものであり、殿下を守護するためのものでございます。私より殿下が先に身罷るなどあり得ません」
「はっそうだったな。お前はそういう奴だったな…………だが、先に死ぬのは俺だ。もう先に死なれるのは懲り懲りだ」
「いえ、私の最期は殿下に看取ってもらいます」
男とルージュは少しの間、沈黙を貫く。これからは厳しい戦いになることを想定し、そしていつ灯火が消えてもいいように今までの思い出を振り返る。
「準備はいいか」
「私はいつでも殿下のおそばに」
決戦の前だというのに、淡々と答えるルージュに男は苦笑した。だがこれが落ち着く。そう言って走り始めた。決戦の地に向けて。
「ぐあああああああああああああああああああああ!!!」
声と表現するのも難しい叫び声があたりに響き渡る。
「どうした、ルージュよ。お前の大切な「殿下」は息をしていないようだな?」
禍々しい城の主の腕は殿下の腹を突き刺していた。殿下が息をしていないことを確認してから片方の腕で汚れを取るように殿下をもち払い捨てた。
「あぁ、少し時間をやろう。気持ちの整理が必要だろう?」
ルージュは城の主に捨てられた大切な人の元へ歩み寄る。そして長い髪を束ねていた髪留めをとり軽く口づけをしてから亡骸に添えた。
「あなたの無念は必ず。それとちゃんと私が見取りましたからね」
そう淡々と表情を崩さずに言った。
「つまらないつまらないつまらない!!」
城の主が顔を歪めて怒声を上げた。
「何がつまらないのだ」
「……っあぁやっぱり苦しいんだぁその顔今にも崩れそうだねぇ」
ルージュの顔を見て城の主は楽しそうに声を上げる。
「さぁ戦いを再開しよう。私は一刻も早く殿下を弔わなければならないからな」
「あぁあぁ!!さすがだルージュ。私をここまで追い詰めるとは!!」
あれからどれだけの時が経っただろうか。城の主とルージュは互角の戦い、いやルージュが少し押されている戦いをずっと続けていた。だが、もう人間であるルージュの身体は限界に近い。
「戯言を。お前は私が与えた傷をすぐに治してしまっているではないか」
「ルージュがせっかく傷を与えてくれたのだから残しておきたいのは山々だが、勝手に傷が治ってしまうんだ。すまんな」
そう一切傷のない城の主は微笑んだ。
「私はまだまだいけるが、ルージュはもう、限界そうだな……」
城の主の目線の先には肩を上下させながら剣を持つルージュの姿があった。きっともうそろそろ立っているのも限界になる頃だろう。
「そうだな、そろそろ限界だ」
「そうか……やはりお前にも私を倒すことは無理なのだな……あぁそうだ」
急に物憂げな表情をしたかと思えば、何やら覚悟を決めた表情をみせ自分の腕を噛みちぎった。
「――!?」
その狂った行動にルージュは目を疑った。だが何をしてくるかわからない、そう思い気持ちを切り替えようとしたその瞬間―――
「――――ぐはっ」
ルージュはいきなり血を吐き出していた。ルージュは必死に考えを巡らした。何をした。この急激な痛みはなんだ。いやそれよりも早くこいつを倒さなければ。動け動け動け。
「あとは、一応あいつの血も取っておこう。そうしたほうがきっとたのしい」
だが、ルージュの意識はだんだんと濁っていく。ただ楽しそうな城の主の声だけが頭に響く。
「はははっ準備はできた。そうだルージュ私の名前はヴォルトまた会った時呼んでくれじゃあまた――」
そこでルージュの意識は途切れた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

婚約者を親友に盗られた上、獣人の国へ嫁がされることになったが、私は大の動物好きなのでその結婚先はご褒美でしかなかった
雪葉
恋愛
婚約者である第三王子を、美しい外見の親友に盗られたエリン。まぁ王子のことは好きでも何でもなかったし、政略結婚でしかなかったのでそれは良いとして。なんと彼らはエリンに「新しい縁談」を持ってきたという。その嫁ぎ先は“獣人”の住まう国、ジュード帝国だった。
人間からは野蛮で恐ろしいと蔑まれる獣人の国であるため、王子と親友の二人はほくそ笑みながらこの縁談を彼女に持ってきたのだが────。
「憧れの国に行けることになったわ!! なんて素晴らしい縁談なのかしら……!!」
エリンは嫌がるどころか、大喜びしていた。
なぜなら、彼女は無類の動物好きだったからである。
そんなこんなで憧れの帝国へ意気揚々と嫁ぎに行き、そこで暮らす獣人たちと仲良くなろうと働きかけまくるエリン。
いつも明るく元気な彼女を見た周りの獣人達や、新しい婚約者である皇弟殿下は、次第に彼女に対し好意を持つようになっていく。
動物を心底愛するが故、獣人であろうが何だろうがこよなく愛の対象になるちょっとポンコツ入ってる令嬢と、そんな彼女を見て溺愛するようになる、狼の獣人な婚約者の皇弟殿下のお話です。
※他サイト様にも投稿しております。
腹黒宰相との白い結婚
黎
恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

実在しないのかもしれない
真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・?
※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。
※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。
※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。


【コミカライズ】今夜中に婚約破棄してもらわナイト
待鳥園子
恋愛
気がつけば私、悪役令嬢に転生してしまったらしい。
不幸なことに記憶を取り戻したのが、なんと断罪不可避の婚約破棄される予定の、その日の朝だった!
けど、後日談に書かれていた悪役令嬢の末路は珍しくぬるい。都会好きで派手好きな彼女はヒロインをいじめた罰として、都会を離れて静かな田舎で暮らすことになるだけ。
前世から筋金入りの陰キャな私は、華やかな社交界なんか興味ないし、のんびり田舎暮らしも悪くない。罰でもなく、単なるご褒美。文句など一言も言わずに、潔く婚約破棄されましょう。
……えっ! ヒロインも探しているし、私の婚約者会場に不在なんだけど……私と婚約破棄する予定の王子様、どこに行ったのか、誰か知りませんか?!
♡コミカライズされることになりました。詳細は追って発表いたします。

淡泊早漏王子と嫁き遅れ姫
梅乃なごみ
恋愛
小国の姫・リリィは婚約者の王子が超淡泊で早漏であることに悩んでいた。
それは好きでもない自分を義務感から抱いているからだと気付いたリリィは『超強力な精力剤』を王子に飲ませることに。
飲ませることには成功したものの、思っていたより効果がでてしまって……!?
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です。
★他サイトからの転載てす★

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる