死んだら超ド級の怨霊になっていた私が、記憶を取り戻そうとしたり幸せを求めていたら好きになった人に祓われそうになった話

O.F.Touki

文字の大きさ
上 下
22 / 27
一章 全てを忘れた怨霊

22話 夢と現実の予感

しおりを挟む
 目が覚めた時にはお日様が横から眩い光で照らし、街が眼下に広がっていた。ルーフは伏せているらしく、吉田君がその横で街の景色を見つめている。
 私がルーフとの同化を解いて地面に降りて一息つき、寝ぼけた頭を覚まして場所を確認すると、どうやらここはビルの屋上らしい。なるほど、街が眼下に見えてお日様が横から照らしているこの景色はその為かと私は納得した。

「あ、おはようございます。なにか先輩」

 吉田君は振り返ってそう言うと、私に歩み寄って何かキラキラと光る物を私に見せてきた。

「これ、さっきルーフが口から吐いたんすよ。割れた鏡っすかね、でもこれって……」

 よく見てみると吉田君が両手に持つそれは割れたガラスか石のような物だったが、私も知る鏡とは違うような物だ。鏡なら反射した物を映すが、やはり私やルーフの姿はそこには映っていなかった。いや、でも何でこんな変な鏡をルーフが吐き出したのだろう。私がそんな疑問を抱いていると、吉田君が口を開いた。

「いやでも、この鏡って……。酷く割れてるっすけど『狐鏡』、『ショウマキョウ』じゃないっすか。ていうか、実体化してない俺が触れるってことは、この鏡の実体は別にある感じっすね」

 吉田君曰く、この鏡は普通の鏡なら映らない私達みたいな霊や、妖や神を映し出す力を持った変わった鏡だそうで、過去には妖狐を暴いたとされているので『狐鏡』とも言われているらしい。
 しかしそんな物なら私達が映し出されてもいいはずなのだけど、その酷く割れた鏡は私達を映さず、お日様が昇りかけている地平線を映し出すばかりだ。そのことについて質問しようとしたら、先に吉田君が答え出す。

「俺生前仕事でコレ使ったことあるんすよ。造りといい素材といい、コレは間違いないっす。ただ完璧に破壊されて魂も無いので、俺達も映せてないっすね」

 どうやらこの鏡らしき物は一種の呪物らしく、とある術を行うことで魂が宿った鏡となると吉田君は言う。

「この鏡は使い用によっては面白い使い方ができるんすよ。まぁ相当力がなければできないっすが」

 この魂の宿った鏡は、霊を映し見るだけの使い道だけではないと彼はつづけた。霊的な力が強く、それについての知識が多ければ多数の使い道があるという。
 その一つとして、疑似的な守護霊を作ることができる。その方法とは、とある術で宿らせた魂に無理やり魂を喰らわせることで強大なものにする。その後に鏡の魂を完全に支配することで、支配者の命令をきく魂をつくるとのことだ。

「よっぽどじゃないとできないっすけどね。だけど、できたら便利っす。コレは降霊術じゃないんすよ。だからどこにいても同じ霊に指示できるし、すぐ呼べるんす」

 コウレイジュツとは何だろうかと彼に聞くが、どうやら人間が霊に対して『接触』を望む合図を出す行為だそうで、仕組みとしては自分の守護霊を一時的に封印することで霊が近づける状況を作るということだという。ほとんどの人間がそれを自覚せずにやってる自殺行為だと吉田君は苦笑した。

「それにしても、何故この鏡がルーフの中にあったのか……。今までなかったっすよね」

 彼はいつもの様に何やらを考えているので、私も思い当たることを思い返したり考えたりしてみる。そして、一つ引っかかる所が記憶の中にある。
 この厚いガラスのような鏡らしき物、彼曰く『狐鏡』は割れている。それもヒビ程度ではなく、破片が何個もある程にバラバラに割れている。鏡が割れている、分厚いガラスが割れている、ガラスが割れている。その時だ、私はさっきまで観ていた夢のことを思い出す。

「なにか先輩? 」

 そうだ、夢の中で木口がいたんだ。そして狐が九匹いた。木口は私に何やら謝って、それで私は琴音たちに抱いたような気分になって、木口を襲おうとしてたんだ。そしたら燃える狐が襲ってきて、ルーフに喰わせた。……その時だ、確かにガラスが割れる音が響いた。
 夢の内容を思い出した私はこのことを吉田君に伝えてみようと思い、彼の腕を引っ張った。

「夢の中で木口と九匹の狐が? それでルーフが狐を喰ったらガラスが割れる音……」

 吉田君はルーフを見ながらまた考えるような感じになって固まっていた。少し時間が過ぎたと思えば、今度は手に持っている鏡を見つめている。そしてまた口を開いた。

「狐は木口を守ってたっぽいんすよね。じゃあやっぱり、その狐は木口が支配している魂っすね。……でも白く燃えるって、普通の霊ではないっすね。ガチな守護霊かどこかの神か」

 またブツブツ言いながら考え事を続ける吉田君だが、私が話したこの話はあくまで夢の内容なんだ。ガラスが割れる音で連想しただけで、この現実にある鏡とは関係がないかもしれない。そんな時だ、彼は私に質問をしに口を開く。

「なにか先輩。夢の中で観た場所って知ってる場所っすか? 木口やなにか先輩がいた場所は」

 そうだ。夢の中で私は、吉田君とルーフとも一緒に行ったことがあの寺の廃墟を観ていたんだ。そこに木口がおり、私がそれを観ていた。そして夢でこの場所が出てきたのは二回目だということも薄ぼんやりと思い出す。

「場所はあの琴音とかいう子達が来たあの破寺っすね。……二回目っすか、どんな夢だったか覚えてるっすか? 」

 どんな夢だったか、さっきから思い返してみてるが……。両方の夢に木口らしいというか、情報と一致するというか、最終的に完全に勘だけど確かに木口がいたんだ。
 最初の夢では木口が丸い墓に神札を貼って、鎧を着て刀を持つ恐ろし気な霊を消滅させた。そして二番目、さっき見た夢は、私が落とした『木製のボールペン』を木口が丸い墓の近くで拾う夢だったが、最終的に私が木口を襲う夢となった。

「なるほど。……なるほど。おそらく、一番目の夢は過去の事を夢の中で観た感じっすね。あの神札は木口家のですし。そして二番目はルーフの中からこの鏡が出てきたところを見ると、リアルタイムっす」

 え、でもこれはただの夢では? と私は思うのだが、どうやら吉田君が唸って考える程に難しいことらしい。
 そもそも眠気や夢とは何だろう。人間や生きている他の動物だって眠気がきて眠って夢を見るらしいが、吉田君曰く霊なのに夢を見るというのは私以外に見たことがないという。私の見る夢と生きているモノ達が見る夢では何か違うのだろうか、いくら考えてみても、私には分からない。

「なにか先輩の感じる眠気について前一緒に考えたっすよね。また今思うんすけど、なにか先輩の眠気は生前の記憶を取り戻すために働いているのではないかと思うっす」

 吉田君が話すにはこうだ。霊は普通睡眠をとらないしとる必要がない、と考えていたが、実際には違う可能性があるらしい。
 そもそも私には自我があるため、喰らった魂の肉体が勝手に動き出すことがない。私が睡眠をとれば、私の霊体も動かずに正に『寝ている』状態だ。だが他の多数の魂を喰らっている霊の場合は自我を保つことができず、眠っていても身体が動くため、起きているように見えているということだ。

「俺が気が付いていないだけで、霊も実は結構眠っている可能性があるっす」

 吉田君が考えるには、幽霊の睡眠は失われた生前の記憶を取り戻そうとする行為という説があるらしい。では吉田君は? そうだ、彼は生前の記憶が全てあるんだ。じゃあ魂を喰らっていない一般の霊はどうだろう。中には私と同じように記憶の無い霊もいそうなものだ。

「いるもなにも、霊は普通死んだ数年は生前の記憶や自我がないっす。だから守護霊になるのに時間がかかるんす」

 なんだと。つまり記憶がないというのは普通の事なのではないか。じゃあ一般の霊もわからないだけで睡眠をとっているということなのだろうか。

「でもなにか先輩以外で見たこと無いんすよ、人間みたいに寝る霊。……もしかしたら睡眠の深さの問題っすかね。なにか先輩は、俺の推測っすけど死後かなりの年数が経ってるっす。なのに記憶がないということは、それほど深いところに記憶があるということかも」

 つまり、他の霊も睡眠はとっているということか。彼の言い方だと、起きていると変わらないほど一瞬の睡眠という感じになるんじゃないか。それで生前の記憶がよみがえるのか。
 それに比べて私はぐっすりと何時間も睡眠をとっているのに、なかなか記憶が取り戻せない。普通の霊と私の睡眠の違いは……。

「なにか先輩の記憶は、もしかしたら先輩自身が無意識に思い出すことを防御してるのかもしれないっすね」

 自分自身で思い出すことを防御している? 私は私自身を拒絶しているとでもいうのだろうか。でも今現在の私は、自分自身に近づけることに喜びを感じている。
 霊なのに何故か走る動機を無意識におさめようとしたのか、私は少し深呼吸をして手に震えながら握る日記帳に目を落とす。記憶を取り戻すのは喜びのはずだと思っていた。でも何故だろう、今は恐く感じている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

処理中です...