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一章 全てを忘れた怨霊
9話 あなたの恨みはどこから?私はあなたから
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空は徐々に赤みを増していき、カラスの鳴き声が森をかき巡る。正しい時刻は分からないが、どうやら日が落ちかけて夕方というモノらしい。私はそんななかで石のあった場所から歩き、ボロボロに朽ち果てて何もない建物にまで戻ってきた。吉田君も少し離れながらついてきているらしい。
吉田君は確か、この地は私達には危険であり、一刻も早くこの場を離れた方がいいと言っていた。しかし私は立ち止まって、この壊れた建物をただ何の気もなく見つめていた。どういう訳か、普段は口の多い吉田君はあの場所以来私に話しかけてこない。そして私から少し距離を置くように立って、ただ私を注視しているように見えた。
「ざっ、ざっ、ざっ」
建物から延びる草に覆われた道の先から数人の歩く音が聴こえる。そしてその音は徐々に近づいてきており、何やら細々と話をする声まで聴こえてきた。
「ここらしいよ。ここは出るって」
「こわいよ拓~」
「前祓われたって聞いたけど、まだ何かいんのか? 」
「いってみねぇとわかんねぇよ」
「……帰りたい」
足音と話し声を発しているのはどうやら生きている人間だ。見た目をいえば私より少し年上のようだが、男性が二人と女性が二人いる。しかし何故か、私と同じような強い雰囲気を持つモノが一人混じっている。『帰りたい』とかいった女性がその様だ。
一体何の目的があってこんな何もない所に生きている人間が来たのかは謎だけど、徐々に近づいている四人に私は一人の人間と目が合った。
「ひっ――」
私と同じような雰囲気を持った女性が、私と目が合った瞬間に小さな叫び声をあげて体を反対に向けて逃げようとした。しかし、横にいた男に手を掴まれて止められてしまったようだ。
「おい、どうしたんだよ。ここまで来て」
「やだ、ここやだよ。いるよ、逃げて」
それからその女性は私をさも恐ろしいモノを見るように顔を引きつけ青くなり、声もガタガタ震えている。それを無視するかのように強引な男性ともう一人の女性はたしなめて、私の横にある朽ち果てた建物を楽しそうに見ていた。
「まぁまぁ琴音ちゃん。せっかく来たんだし、ちょっとだけ見て行こ? ね、拓」
「そうだよ。まぁ、でも注意な。琴音がいるっていうならいる、だ、ろ――」
もう一人の拓と呼ばれている男性とも目が合った。しかしその男性は大して驚きもせず、ただ私をじっと見て顔から汗をにじませていた。
あの石の事といい、『木口』という名前といい、この二本目の右腕の疼きといい、私は初めての不機嫌感を味わった。なぜかは分からないが、私から逃げる人間、特に男性や私に謝る者はただひたすらに追って喰らいたい。そういう衝動が初めて私を動かせた。
じりじり人間に向かって歩くなか、ルーフを出して人間を襲おうとした。しかし吉田君が何故か私の邪魔をする。人間たちの間に入って私に対して何かを言っていた。口を動かしているけど、何故か断片的にしか聞き取れない。しかし、断片的にだが『ごめんなさい』と聞こえた。意味が分からず私は初めて怒り、ルーフに喰らわせた。心なしかルーフは全身が溶けて血の涙を流しているように見えた。
「お前ら、絶対に謝るな。きっとあいつは、意味のない謝りが許せない事なのだろう」
拓という人間が小さく他の人間に言葉を細々と伝えているのが横耳に確認できたが、正面の吉田君はルーフに襲われて頭を半分吹き飛ばされたようだ。しかしうまいこと魂が喰われない様にかわしているようだ。だけど、どうやらそれが精いっぱいのようで、もう邪魔は出来ないだろうと私は再び人間たちに歩み寄った。
徐々に近づくにつれ、何かを決意したような『琴音』と呼ばれる人間が他の人間から頷かれると、急にスッと眠りに落ちた。その眠りに落ちた体をもう一人の大柄の男性がおぶさると、じりじり後退を始めた。そして眠りに落ちた瞬間から私と似た雰囲気は『琴音』と呼ばれる人間から離れ、白か黒か、守護霊か怨霊かもわからない異形の存在となって私をみた。
「琴音ちゃんが眠ったって、なんかやばいの拓? 」
もう一人の女性がきょろきょろとあたりを見渡すが、身体は細かく震えていた。そんな女性を『拓』と呼ばれる人間が私から目を一瞬たりとも離さず、手で後ろにおしていった。
「逃げろ」
逃げろと言われてその女性は、先に後退を始めた男女に追いついて走っていく。しかしなぜか、私から逃げる存在がこの時は無性に許せなかった。私は三人の人間を追おうとすると、『琴音』と呼ばれる人間から離れた異形の存在が攻撃的に邪魔をする。
容は定まっていないらしく、ゆらゆらと炎の様に揺れている。部分が大きく口の様に開き、私の身長を超えようとするそれは私に喰らい付いた。痛いけど、焼けるような感覚はあるけど、でも私は喰われない。消滅しない。まだできない。
「――、おい拓。お前も早く逃げろ! 」
「コレは、なんだ。やばいな」
また『逃げ』という言葉が聴こえる。私から何故逃げるのか、私には分からない。なぜ、謝るのかもわからない。
異形のモノが何を想って攻撃しているのかもわからない。ただ、私は私の邪魔をするモノを喰らおうと思った。私の身体は焼きただれるが、同時に少しづつ異形の存在を喰らっていく。当然の様に喰らう私だが、それでも異形の存在は私をさも滅ぼそうとするように一心不乱に攻撃を休めない。その時、私の身体は二つに別れ、下半身を千切られた。
「よし、俺も逃げるか」
拓と呼ばれる男性の人間がまた私から逃げようと動き始めた。地に転がる私の半身から今まで喰ってきた怨霊が湧き出て、最早人型を保つのも忘れて人間たちを追った。私の意志によって最優先目標が変わったルーフも、半分ほど喰らった吉田君を置いて人間たちを追った。
追う先を防ぐというよりは、目の前にいる私を滅ぼそうとする異形の存在は再度私を襲う。異形の存在がもつ私の下半身は煙を上げて燃え上がり、灰となって消えていく。それでも、私は体を再生させて更なる複数の感情をもって相手をした。
「な、にか、先、輩――」
どこからか聞きなれた声が聴こえるが、今の怨念溢れる私には届かなかった。おそらく今の私は醜く、どこにでもいるであろう怨霊そのモノだったと思う。
腕を大きくして異形の存在を私がされたように千切り返し、その存在を喰らう。部位を握り潰され、引きちぎられて喰われる。そんなバラバラになりながら絶叫と威嚇をする異形の存在はそれでも依然変わりなく私を破壊しようとする。
「にか、なにか先輩! 」
いつの間にか吉田君は私を後ろから抱きしめて叫んでいた。吉田君の身体はボロボロで、腕が一本なく、再生をしようとしていないのか、腕は一向に生えてこない。
時間は経ったのか辺りは闇夜に包まれている。暗い闇を月明りが照らすなかで周りを探って見回してみると、一人の生きている女性が腰を地につけながら私をみながら泣いているのを目の前で見つける。脅えてはいるようだが、その泣き顔はどうやらそれだけではない。怒りのようなモノも感じ取れる。しばらく考えると思い出した。どうやらこの人間は『琴音』と呼ばれていた人間だ。
「あなたは、なにを恨んでいるの? 」
涙を流しながらその『琴音』と呼ばれていた女性は、私に冷たい音で質問をした。『何を恨んでいる』それは私にも分からない。ただ私から逃げ、謝り、更に逃げる男の子がいつかいた気がして、その存在が憎く、愛おしく、虚しく感じるんだ。私はそれを恨んでいるのだろうか、恨んでいると言ってもいいのか、分からないのだ。
「何も、言わないのね。でも私は、あなたを恨む」
人の恨みは何になるのだろう。どうせ自分でも何もかも忘れて、何か分からない様になってしまうのだ。それが例え、どんなに強い想いでも。言葉でも。
吉田君は確か、この地は私達には危険であり、一刻も早くこの場を離れた方がいいと言っていた。しかし私は立ち止まって、この壊れた建物をただ何の気もなく見つめていた。どういう訳か、普段は口の多い吉田君はあの場所以来私に話しかけてこない。そして私から少し距離を置くように立って、ただ私を注視しているように見えた。
「ざっ、ざっ、ざっ」
建物から延びる草に覆われた道の先から数人の歩く音が聴こえる。そしてその音は徐々に近づいてきており、何やら細々と話をする声まで聴こえてきた。
「ここらしいよ。ここは出るって」
「こわいよ拓~」
「前祓われたって聞いたけど、まだ何かいんのか? 」
「いってみねぇとわかんねぇよ」
「……帰りたい」
足音と話し声を発しているのはどうやら生きている人間だ。見た目をいえば私より少し年上のようだが、男性が二人と女性が二人いる。しかし何故か、私と同じような強い雰囲気を持つモノが一人混じっている。『帰りたい』とかいった女性がその様だ。
一体何の目的があってこんな何もない所に生きている人間が来たのかは謎だけど、徐々に近づいている四人に私は一人の人間と目が合った。
「ひっ――」
私と同じような雰囲気を持った女性が、私と目が合った瞬間に小さな叫び声をあげて体を反対に向けて逃げようとした。しかし、横にいた男に手を掴まれて止められてしまったようだ。
「おい、どうしたんだよ。ここまで来て」
「やだ、ここやだよ。いるよ、逃げて」
それからその女性は私をさも恐ろしいモノを見るように顔を引きつけ青くなり、声もガタガタ震えている。それを無視するかのように強引な男性ともう一人の女性はたしなめて、私の横にある朽ち果てた建物を楽しそうに見ていた。
「まぁまぁ琴音ちゃん。せっかく来たんだし、ちょっとだけ見て行こ? ね、拓」
「そうだよ。まぁ、でも注意な。琴音がいるっていうならいる、だ、ろ――」
もう一人の拓と呼ばれている男性とも目が合った。しかしその男性は大して驚きもせず、ただ私をじっと見て顔から汗をにじませていた。
あの石の事といい、『木口』という名前といい、この二本目の右腕の疼きといい、私は初めての不機嫌感を味わった。なぜかは分からないが、私から逃げる人間、特に男性や私に謝る者はただひたすらに追って喰らいたい。そういう衝動が初めて私を動かせた。
じりじり人間に向かって歩くなか、ルーフを出して人間を襲おうとした。しかし吉田君が何故か私の邪魔をする。人間たちの間に入って私に対して何かを言っていた。口を動かしているけど、何故か断片的にしか聞き取れない。しかし、断片的にだが『ごめんなさい』と聞こえた。意味が分からず私は初めて怒り、ルーフに喰らわせた。心なしかルーフは全身が溶けて血の涙を流しているように見えた。
「お前ら、絶対に謝るな。きっとあいつは、意味のない謝りが許せない事なのだろう」
拓という人間が小さく他の人間に言葉を細々と伝えているのが横耳に確認できたが、正面の吉田君はルーフに襲われて頭を半分吹き飛ばされたようだ。しかしうまいこと魂が喰われない様にかわしているようだ。だけど、どうやらそれが精いっぱいのようで、もう邪魔は出来ないだろうと私は再び人間たちに歩み寄った。
徐々に近づくにつれ、何かを決意したような『琴音』と呼ばれる人間が他の人間から頷かれると、急にスッと眠りに落ちた。その眠りに落ちた体をもう一人の大柄の男性がおぶさると、じりじり後退を始めた。そして眠りに落ちた瞬間から私と似た雰囲気は『琴音』と呼ばれる人間から離れ、白か黒か、守護霊か怨霊かもわからない異形の存在となって私をみた。
「琴音ちゃんが眠ったって、なんかやばいの拓? 」
もう一人の女性がきょろきょろとあたりを見渡すが、身体は細かく震えていた。そんな女性を『拓』と呼ばれる人間が私から目を一瞬たりとも離さず、手で後ろにおしていった。
「逃げろ」
逃げろと言われてその女性は、先に後退を始めた男女に追いついて走っていく。しかしなぜか、私から逃げる存在がこの時は無性に許せなかった。私は三人の人間を追おうとすると、『琴音』と呼ばれる人間から離れた異形の存在が攻撃的に邪魔をする。
容は定まっていないらしく、ゆらゆらと炎の様に揺れている。部分が大きく口の様に開き、私の身長を超えようとするそれは私に喰らい付いた。痛いけど、焼けるような感覚はあるけど、でも私は喰われない。消滅しない。まだできない。
「――、おい拓。お前も早く逃げろ! 」
「コレは、なんだ。やばいな」
また『逃げ』という言葉が聴こえる。私から何故逃げるのか、私には分からない。なぜ、謝るのかもわからない。
異形のモノが何を想って攻撃しているのかもわからない。ただ、私は私の邪魔をするモノを喰らおうと思った。私の身体は焼きただれるが、同時に少しづつ異形の存在を喰らっていく。当然の様に喰らう私だが、それでも異形の存在は私をさも滅ぼそうとするように一心不乱に攻撃を休めない。その時、私の身体は二つに別れ、下半身を千切られた。
「よし、俺も逃げるか」
拓と呼ばれる男性の人間がまた私から逃げようと動き始めた。地に転がる私の半身から今まで喰ってきた怨霊が湧き出て、最早人型を保つのも忘れて人間たちを追った。私の意志によって最優先目標が変わったルーフも、半分ほど喰らった吉田君を置いて人間たちを追った。
追う先を防ぐというよりは、目の前にいる私を滅ぼそうとする異形の存在は再度私を襲う。異形の存在がもつ私の下半身は煙を上げて燃え上がり、灰となって消えていく。それでも、私は体を再生させて更なる複数の感情をもって相手をした。
「な、にか、先、輩――」
どこからか聞きなれた声が聴こえるが、今の怨念溢れる私には届かなかった。おそらく今の私は醜く、どこにでもいるであろう怨霊そのモノだったと思う。
腕を大きくして異形の存在を私がされたように千切り返し、その存在を喰らう。部位を握り潰され、引きちぎられて喰われる。そんなバラバラになりながら絶叫と威嚇をする異形の存在はそれでも依然変わりなく私を破壊しようとする。
「にか、なにか先輩! 」
いつの間にか吉田君は私を後ろから抱きしめて叫んでいた。吉田君の身体はボロボロで、腕が一本なく、再生をしようとしていないのか、腕は一向に生えてこない。
時間は経ったのか辺りは闇夜に包まれている。暗い闇を月明りが照らすなかで周りを探って見回してみると、一人の生きている女性が腰を地につけながら私をみながら泣いているのを目の前で見つける。脅えてはいるようだが、その泣き顔はどうやらそれだけではない。怒りのようなモノも感じ取れる。しばらく考えると思い出した。どうやらこの人間は『琴音』と呼ばれていた人間だ。
「あなたは、なにを恨んでいるの? 」
涙を流しながらその『琴音』と呼ばれていた女性は、私に冷たい音で質問をした。『何を恨んでいる』それは私にも分からない。ただ私から逃げ、謝り、更に逃げる男の子がいつかいた気がして、その存在が憎く、愛おしく、虚しく感じるんだ。私はそれを恨んでいるのだろうか、恨んでいると言ってもいいのか、分からないのだ。
「何も、言わないのね。でも私は、あなたを恨む」
人の恨みは何になるのだろう。どうせ自分でも何もかも忘れて、何か分からない様になってしまうのだ。それが例え、どんなに強い想いでも。言葉でも。
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