彼女が来たら

宵糸 こより

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おまけ 夜半の月

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 ロスリンははっと目を覚ます。しかし、まだ部屋は暗い。真夜中に目が覚めてしまったのだ。もう一度寝付こうとして目を閉じたり寝返りを打ったりしたが、なかなか眠気は襲って来ない。
 隣を見れば、シリルがぐっすりと眠っている。ここ数日、彼は新しく始める事業について忙しくしていた。今夜もロスリンが寝る前には帰って来られなかった。

 疲れているでしょうし、私があんまりもぞもぞ動いては起こしてしまうかもしれないわ。

 ロスリンはそっとベッドから抜け出す。寝ているシリルを優しい瞳で一瞥し、ずれたシーツを彼の肩に掛け直してあげた。
 本でも読んだら眠くなるかもしれないと思い、ロスリンは寝室を出る。主人の隣の部屋は女主人の部屋だ。そこにはロスリンが揃えた本が並んでいる。彼女の読み慣れたお気に入りの
 本ばかりなので、読んでいるうちに眠くなるだろう。

「今日は満月だし、カーテンを開ければ明かりもそれほどいらないわ」

 ロスリンは椅子を窓辺に置いて本を読み始める。


 どのくらい経ったか、ロスリンは大きな欠伸をした。そろそろ眠れそう、と思い本を仕舞って寝室に戻ろうとしたときだった。突然、部屋の扉が勢い良く開いたのだ。

「ロスリン!」

 シリルが血相を変えた顔で、彼女に近づいてくる。

「シリル?」

 驚く妻を他所に、シリルは彼女を抱きしめた。その腕は小刻みに震えている。

「どうしたの、あなた?」
「目を覚ましたら君が居なかったから……」

 慌てて探しに来たのだった。シリルが安堵のため息を吐くと、ロスリンが苦しくなるくらいに抱きしめる腕に力を込める。

「また、君が居なくなったかと……」

 彼の青ざめて泣きそうな顔を見上げ、ロスリンは困ったように笑む。

「目が覚めてしまって。寝付けるように本でも読んで眠気を誘おうと思っただけです。ベッドの中で落ち着きなくしていたら、貴方を起こしてしまうと思って」
「起こしてくれて良いんだよ」
「そういう訳にはいかないわ。最近忙しくしてらっしゃるでしょう。起こしたら悪いわ。それに反対の立場だったら、貴方も私を起こさないでしょう?」
「それは……」

 シリルは拗ねた顔になった。

「私は君の温もりがないと寝られないんだ」
「まぁ。そんな子どもみたいなこと言って」

 ロスリンが苦笑する。

「事実だから仕方ない。現に起きてしまったし。それに目が覚めて、君が居なかったとき、私がどれだけ肝を冷やしたと思っているんだ」

 まるで駄々っ子のような夫の言い草にロスリンは折れた。

「分かりました。寝室に戻りますから。貴方はお疲れでしょうから、しっかり寝て下さい」
 とは言ったものの、ロスリンはすっかり目が覚めてしまいベッドに入ってもしばらくは寝付けないな、と思った。

「いや、私もすっかり目が覚めてしまった。もっと別のことをしよう」
「別のこと?」

 にやりと笑うシリルにロスリンは何か嫌な予感がした。彼の手がロスリンの体をなぞるように動く。

「ちょ、ちょっと……」

 ロスリンはそのくすぐったさと恥ずかしさに顔を赤らめ身を捩る。

「冷えた体を温めないとな。このところ御無沙汰だったし」


 シリルは色のこもった眼でロスリンを捉えて、今宵は離さないだろう。
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