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最終章 この愛が全て

おまけ2 王都にてー舞踏会編ー

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 長い冬が終わり、街道の雪が融けアデレードとカールは王都へ向けて出発した。

「どうして社交シーズンは春夏なのかしら? 冬にやれば良いのに。今からお客様が来る時期になりますのよ」

 馬車の中で不満気にアデレードが呟く。

「会うべき人に会って、取るべき許可を取って、帰って来たら良いさ」

 隣に座るカールは宥めるように声を掛け肩を抱く。

「そうね。王都に行くからには向こうで色々とやるべきことをやりましょう」

 アデレードは鞄に自分が纏めた民話集の原稿を入れていた。まとまった量になったので、また本にしてもらうつもりだった。
 ちなみに、彼女が纏めた民話は、後の世に民俗学的観点から大変貴重な資料として扱われることになる。ただし、言い回しが上品過ぎると評価する専門家もいるが。
 王都に着いたカールは王に面会を申し出て、王宮にて謁見することとなった。その場で、王はカールの願い通り、アデレードとの結婚を許可した。

「あぁ、そうだ。マイヤール公爵から伝言を預かっておるぞ」
「マイヤール公爵から、でございますか?」

 実はカールはマイヤール公爵にも面会を願い出ていたが、多忙を理由に断られ続けていた。

「まったく王を伝書鳩代わりにするとは失礼なやつめ。で、その伝言だが」
「はい」
「娘の事は好きにしろ、だそうだ。ふむ、これでマイヤール家から許可が降りたな」
「そうでしょうか……」
「マイヤール公は素直じゃないからの。今度の宮中舞踏会で精々困らせてやれ」

 王はそう言って悪戯っぽい笑みを見せた。



 そして宮中舞踏会当日。

「貴方、きちんと髪を撫でつけて下さいまし」
「しかし、それでは頬の傷が丸見えになってしまうぞ」

 舞踏会へ向けて準備を進めていたカールはアデレードの言葉に困惑する。唯でさえ、顔が怖い怖いと言われているのに、傷を晒すのは抵抗があった。

「もう、隠そうとするから却って怖くなってしまわれるのですわ。別にやましい理由でついた傷でもありませんもの、堂々とお見せになれば良いのですわ」
「……ご婦人方に怖がられるだけだと思うが」
「別にもう、おもてになる必要はないと思いますけれど」

 アデレードは不機嫌そうに腕を組んでぷいっとそっぽを向いた。嫉妬である。

「そういう問題ではないが……まぁ、君がそう言うなら」

 王宮には次々と貴族達を乗せた馬車が到着し、貴族達が宮殿に入る度にその名を高らかに告げられる。
 リーフェンシュタール伯爵夫妻到着、と聞いた途端、人々はアデレードとカールの方に振り返り、そして不自然に左右に分かれ、まるで2人に道を譲ったような形になった。

「あらっ」
「……やはり怖がられているのではないか、私が」

 カールは内心傷ついた。

「貴方の所為とは限らないわ。私、裏社会の元締めのような者に思われているみたいですもの。裏社会の元締めって具体的にどういうものか、よく分かりませんけど」

 励ますようにアデレードはカールに微笑みかける。そういう普通の若者のような反応をするカールも愛おしい。

「怖がる人達には怖がらせておきましょう。道が空いて歩きやすいですわ」

 人々の視線に晒され慣れている所為か、アデレードは動じない。
 長い廊下を渡り切った先に、眩しく輝かんばかりの大広間がある。その広間の一番奥まったところに王を中心に王族が並んでいる。クラウスの姿もあった。だが、エーリッヒの姿はない。
 カールとアデレードは広間を通り抜け、国王の前に出る。そして恭しく一礼した。通例こういう場では、王は挨拶を受けるだけで、声は掛けないが今回は違った。

「祝福を言わせてくれ、フラウ・リーフェンシュタール。そなたを娘に出来なかったことは残念だが、幸せな姿を見られて私も救われた気持ちだ」
「陛下……勿体ないお言葉でございます」
「おぉ、そうだ。あちらにマイヤール公爵夫妻がおるぞ」

 王はにやりと笑い、指で方向を示した。2人は王の御前を辞し、指し示された方向へ向かう。そして人混みの中で両親を見つけたアデレードはずんずんと近づいていった。カールは見守るように後ろからついていく。

「お父様、お母様」

 アデレードは声を掛ける。父親であるマイヤール公爵は彼女と同じ銀髪(プラチナブロンド)と菫色の瞳をしているが、娘の姿を見て眉間に皺を寄せた。隣に立つ夫人は顔立ちが娘に似ている。だが、今はその顔に困惑したものが浮かんでいた。夫と娘がどうなるのか不安なようだ。
 アデレードは父の牽制するような視線にも怯まず、目の前に来た。マイヤール公爵が何か言いかけたとき、娘は父に抱きついた。これには夫妻も驚く。貴族令嬢の礼儀作法としてありえないからだ。

「不出来な娘でごめんなさい。でも、私知っていますから。お父様もお母様も、愛情表現が苦手なだけだってこと。私をリーフェンシュタールの別荘へ送ったのも、お金を送ってくれたことも、全部私の身になっていますもの」

 別荘はホテルに、金貨は改装の費用になった。公爵夫妻が実際に何を思いアデレードをリーフェンシュタール領へ置いていったのかは分からない。が、アデレードはそれを確かめようとは思わない。

 だって、私は2人を愛しているもの。それが、大切。

 そして父も娘を無理やり引きはがしたりはしなかった。アデレードは抱きしめる腕に力を込める。

「結婚を認めてくれてありがとう、お父様。大好きよ」

 父を抱きしめたあと、今度は母をぎゅっと抱きしめて同じく大好きと告げる。カールは公爵と目が合い、頭を下げた。

「娘さんとの結婚を許して下さり、感謝致します。多忙なところ、幾たびの面会の申し出、申し訳ございませんでした」
「……ふん、山賊と言われるからには、娘の1人ぐらい好きに奪っていけばどうかね」
「もう、お父様ったら! カールは山賊などではありませんわっ」

 照れ隠しにしても、な言い方にアデレードは怒ったが、カールは笑う。

「では、公爵、遠慮なく、娘さんを頂いていきますよ」

 王への貴族達の挨拶が終わったのか、大広間に音楽が流れ始めた。

「さぁ、行こう。アデレード」

 カールはアデレードの手を取り、広間の真ん中へ進んだ。軽やかな演奏に合わせて着飾った人々が優雅に踊っている。2人も見つめ合って踊る。そして唐突に、カールはアデレードの腰を抱き持ち上げ、彼女の体が宙に浮く。

「きゃっ」

 カールはアデレードを抱き上げたままくるりと回ると、彼女のドレスがふわりと揺れる。そしてアデレードをゆっくりと降ろす。背が高く、力も強い彼だからこそ出来る芸当だった。

「野蛮だったかな?」

 カールが悪戯っぽく笑う。

「えぇ、とっても。でも最高!」

 アデレードは満面の笑みでカールに抱きつく。
 そんな2人の情熱的な姿を公爵夫妻は恥ずかしそうに、国王は愉快そうに笑って見守っていた。
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