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第3章 アデレードの挑戦
第57話 王子と伯爵 下
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「では、最後に御聞かせ下さい、殿下。貴方にとってフロイライン・アデレードはただの邪魔な婚約者だったのですか?」
「いいえ、まさか、そんな。私も彼女のことは好ましいと思っていました。だたそれは、年下の従妹や親類に対するような、親愛の情だったというだけです。彼女の望む恋や愛では無かっただけで」
「……殿下、貴方にまだ少しでもフロイライン・アデレードに対する情がおありなら、どうぞこれを」
カールは懐から一通の封筒を取り出した。
「これは……?」
「フロイライン・アデレードから殿下とフロイライン・イザベルへ宛てた手紙です」
その言葉を聞いて、王子の目が大きく開かれる。
「彼女は貴方と恋人が幸せになることを望んでいます。読む読まないは、殿下にお任せします」
「リーフェンシュタール伯……」
「王子、貴方は2人の女性の人生を大きく変えてしまった。居るはずだった場所から遠く離して。そのことの責任は取らねばならないと存じます」
今の状態はあまりにも中途半端であった。王子の恋人は王宮に出入りを許されず、王子の私的なこの別宅に留め置かれてるが、それなら王族や貴族の愛人と何ら変わらない。
上流階級なら政略結婚が当たり前で、お互いに愛人を持っているのも珍しくないのだから、王子とて、その例に倣えば良い。わざわざ、婚約破棄しなくても良かったのは、と今では囁かれている。イザベル本人も、作法や言葉使い、品性についてあることないこと貴族から陰口を叩かれている始末。
それもこれも、王子が彼女の処遇をはっきりさせないからであった。では、何故そうしないのか。それはカールには分からない。王子に何か思うことでもあるのかもしれないが、それは2人の問題だ。
「もしや、こうなったことに罪悪感をお持ちですか?」
「それは……」
王子は言い淀んだ。カールの質問に同意すれば、自分のしたことを後悔している気がして。彼は目を閉じ、そして静かに呟く。
「誰かに、そうはっきりと言われたかったのかもしれません」
「殿下……」
王子の顔に色濃い疲れが見える。
思えばこの方も孤独だったのかもしれないな。
「手紙はお預かりします、伯爵」
王子は手紙を受け取り、カールは恭しく一礼した。
「殿下、色々と失礼な物言い、申し訳ございませんでした」
「今日はお時間を頂き、ありがとうございました。失礼致します」
「伯爵、私が言うのも変ですが、フロイライン・アデレードのこと……」
「私は彼女を見守るだけですよ。それでは」
彼が部屋を出ると、そこに心配そうな顔をした栗色の髪の小柄な女性が立っていた。カールに気付いて慌てて頭を下げる。
「貴女がフロイライン・イザベルか?」
「は、はい、そうです。伯爵様」
「立ち聞きとは趣味が良いとは言えませんな」
「それは……」
「私は別に貴女と殿下をどうこうしようとは思っていないから安心しなさい。ただ一つだけ。フロイライン・アデレードは貴女に大変申し訳ないことをしたと言っていた。殿下と幸せになって欲しいとも」
カールの言葉にはっとイザベルは顔を上げて、すぐさま焦って頭を下げる。その一瞬の表情は泣きそうな雰囲気であった。思えば、彼女も微妙な立場である。
だが、それも彼女が自分で選んだのだ。 同情する気にはなれないな。
「では、ごきげんよう、フロイライン・イザベル」
そう言って、カールは屋敷を出た。
しかし、何故サウザー公爵がそんな嘘をついたのか? やはり、マイヤール家の影響力が増すのを阻止したかったからだろうか。マイヤール家が王家に入り込めば、今のように好き勝手出来なくなるだろうからな。
「……何であれ、面倒なことだ」
「いいえ、まさか、そんな。私も彼女のことは好ましいと思っていました。だたそれは、年下の従妹や親類に対するような、親愛の情だったというだけです。彼女の望む恋や愛では無かっただけで」
「……殿下、貴方にまだ少しでもフロイライン・アデレードに対する情がおありなら、どうぞこれを」
カールは懐から一通の封筒を取り出した。
「これは……?」
「フロイライン・アデレードから殿下とフロイライン・イザベルへ宛てた手紙です」
その言葉を聞いて、王子の目が大きく開かれる。
「彼女は貴方と恋人が幸せになることを望んでいます。読む読まないは、殿下にお任せします」
「リーフェンシュタール伯……」
「王子、貴方は2人の女性の人生を大きく変えてしまった。居るはずだった場所から遠く離して。そのことの責任は取らねばならないと存じます」
今の状態はあまりにも中途半端であった。王子の恋人は王宮に出入りを許されず、王子の私的なこの別宅に留め置かれてるが、それなら王族や貴族の愛人と何ら変わらない。
上流階級なら政略結婚が当たり前で、お互いに愛人を持っているのも珍しくないのだから、王子とて、その例に倣えば良い。わざわざ、婚約破棄しなくても良かったのは、と今では囁かれている。イザベル本人も、作法や言葉使い、品性についてあることないこと貴族から陰口を叩かれている始末。
それもこれも、王子が彼女の処遇をはっきりさせないからであった。では、何故そうしないのか。それはカールには分からない。王子に何か思うことでもあるのかもしれないが、それは2人の問題だ。
「もしや、こうなったことに罪悪感をお持ちですか?」
「それは……」
王子は言い淀んだ。カールの質問に同意すれば、自分のしたことを後悔している気がして。彼は目を閉じ、そして静かに呟く。
「誰かに、そうはっきりと言われたかったのかもしれません」
「殿下……」
王子の顔に色濃い疲れが見える。
思えばこの方も孤独だったのかもしれないな。
「手紙はお預かりします、伯爵」
王子は手紙を受け取り、カールは恭しく一礼した。
「殿下、色々と失礼な物言い、申し訳ございませんでした」
「今日はお時間を頂き、ありがとうございました。失礼致します」
「伯爵、私が言うのも変ですが、フロイライン・アデレードのこと……」
「私は彼女を見守るだけですよ。それでは」
彼が部屋を出ると、そこに心配そうな顔をした栗色の髪の小柄な女性が立っていた。カールに気付いて慌てて頭を下げる。
「貴女がフロイライン・イザベルか?」
「は、はい、そうです。伯爵様」
「立ち聞きとは趣味が良いとは言えませんな」
「それは……」
「私は別に貴女と殿下をどうこうしようとは思っていないから安心しなさい。ただ一つだけ。フロイライン・アデレードは貴女に大変申し訳ないことをしたと言っていた。殿下と幸せになって欲しいとも」
カールの言葉にはっとイザベルは顔を上げて、すぐさま焦って頭を下げる。その一瞬の表情は泣きそうな雰囲気であった。思えば、彼女も微妙な立場である。
だが、それも彼女が自分で選んだのだ。 同情する気にはなれないな。
「では、ごきげんよう、フロイライン・イザベル」
そう言って、カールは屋敷を出た。
しかし、何故サウザー公爵がそんな嘘をついたのか? やはり、マイヤール家の影響力が増すのを阻止したかったからだろうか。マイヤール家が王家に入り込めば、今のように好き勝手出来なくなるだろうからな。
「……何であれ、面倒なことだ」
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