上 下
43 / 109
第3章 アデレードの挑戦

第44話 不快な会見

しおりを挟む
 一方、リーフェンシュタール家のの屋敷にも黒ずくめ格好をした男が2人現れ、尊大な態度と甘い匂いを漂わせていた。面会に応じたカールだったが、直ぐに不快な気持ちになった。

「犯罪者を探している? そんな余所者が、この領内に入って来たという報告は受けていないが」

 厳しい声でカールが、男達に告げた。

「えぇ。ですから、探させて下さいと申し上げているのですよ。伯爵」

 相対する男達が意地が悪そうに口を曲げる。

「見つかれば、我々もすぐ退散しますよ。こんな辛気臭いところからはね」
「伯爵にはご迷惑をお掛けしませんから」
「……その割にはお仲間が勝手に家に入り込もうとしたと、領民から苦情が来ているが?」
「お優しくて無知な農民の誰かが匿っているんじゃないかと思いましてね」

 言葉使いこそ一応取り繕っているが、言葉の端々から、この田舎もん共が、という感情が男達から透けて見えた。

「重ねて言うが、そんな者がこの領内に入ったという情報はない。早々に去りたまえ」
「山にでも隠れているかもしれませんぞ」
「本当にそうなら、その者は助からんだろう。何の準備もなく山に入ったら死ぬだけだ」

 カールが脅すように続ける。

「朝晩はまだまだ冷える。それに危険な熊や狼もその辺をうろついている。いや、もっと得体の知れない生き物もいるかもしれんな。それでも良ければ探しに行くが良い。死ぬかもしれんが、止めはせん」
「……我々をサウザー家の使いと知っての態度かそれは?」

 男がイライラしながら問うが、カールは眉一つ動かさない。

「誰であろうと、ここは私の領地だ。他の誰にも好きにさせるつもりはない」

 カールが不快さを隠そうとせず険のある表情を見せる。顔の傷と相まって恐がらせるには十分だ。こういう時に、顔の傷が役に立つ。男達は、一瞬怯んだ様子を見せる。

「こ、後悔するぞ!」
「ふん、所詮は田舎の山賊よ」

 捨て台詞を吐き、男達は乱暴にドアを開けると、わざと足音を立てて出て行った。

「仮にも名門貴族の使いがあんな粗野な連中ですか?」

 彼らが出て行った代わりに、執事が部屋に入ってきて不満気に呟く。

「臣下の質は主人の質に直結すると言いますが、あれでは……」
「サウザー公爵家の評判が芳しくないのは知っていたが、あんな連中を雇い入れているとはな」

 最早、家の品格も教育も何もない。ただのチンピラではないか。

 サウザー家はこの国でも名門として名高く、現国王の妹はサウザー家に嫁いでいるくらいだ。だが、その息子はすこぶる素行が悪い。特に父である先代のサウザー公が病気で隠居してから歯止めが効かなくなっているようだ。

「しかし、たかが犯罪者一人をこんな北の端の山奥まで追ってくるとは何事だ?」

 リーフェンシュタール領はサウザー領とは隣接していないし、王都からも遠い。犯罪者を追うにしても執拗過ぎないだろうか、という疑念が湧く。

「一体何の咎めを受けているのでしょうね、その人は……探してみますか?」
「そうだな。あとあの連中から目を離さないようにしてくれ」
「かしこまりました」

 他所の揉め事に巻き込まれるのは、勘弁して欲しいが……。

「出ていく前に、窓を全部開けてくれ。この甘い匂い、耐えられん」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

舞台装置は壊れました。

ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。 婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。 『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』 全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り─── ※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます 2020/10/30 お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o))) 2020/11/08 舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。

王太子は婚約破棄騒動の末に追放される。しかしヒロインにとっては真実の愛も仕事に過ぎない

福留しゅん
恋愛
公爵令嬢エリザベスは学園卒業を祝う場にて王太子ヘンリーから婚約破棄を言い渡される。代わりに男爵令嬢パトリシアと婚約すると主張する王太子だが、その根拠にエリザベスは首をかしげるばかり。王太子は遅れてやってきた国王や王弟にもヘンリーは堂々と説明するが、国王と王弟からの反応は……。 ヘンリーは一つ勘違いしていた。エリザベスはヘンリーを愛している、と。実際は……。 そしてヘンリーは知らなかった。この断罪劇は初めからある人物に仕組まれたものだ、とは。 ※別タイトルで小説家になろう様にも投稿してます。そちらに合わせて改題しました。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

婚約破棄された悪役令嬢は辺境で幸せに暮らす~辺境領主となった元悪役令嬢の楽しい日々~

六角
恋愛
公爵令嬢のエリザベスは、婚約者である王太子レオンから突然の婚約破棄を言い渡される。理由は王太子が聖女と恋に落ちたからだという。エリザベスは自分が前世で読んだ乙女ゲームの悪役令嬢だと気づくが、もう遅かった。王太子から追放されたエリザベスは、自分の領地である辺境の地へと向かう。そこで彼女は自分の才能や趣味を生かして領民や家臣たちと共に楽しく暮らし始める。しかし、王太子や聖女が放った陰謀がエリザベスに迫ってきて……。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

悪役令嬢は婚約破棄され、転生ヒロインは逆ハーを狙って断罪されました。

まなま
恋愛
悪役令嬢は婚約破棄され、転生ヒロインは逆ハーを狙って断罪されました。 様々な思惑に巻き込まれた可哀想な皇太子に胸を痛めるモブの公爵令嬢。 少しでも心が休まれば、とそっと彼に話し掛ける。 果たして彼は本当に落ち込んでいたのか? それとも、銀のうさぎが罠にかかるのを待っていたのか……?

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

処理中です...