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第3章 アデレードの挑戦
第31話 ホテル計画始動
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次の日、アデレードとメグは改装に必要な事や物をリストアップすることにした。幸いにしてこの家の前の持ち主は家財道具のほとんどを置いていってくれていた。ただ、長い間放置されていたこともあって、傷んでいたり、腐っていたりするものもあった。今アデレード達が使っているのは、その残りである。
アデレードは必要なものを記録するため紙とペンを用意して、部屋の検分を始める。アデレードの家は猫の耳のように2つの切妻屋根が並ぶ、まるで2つの家が繋がっているような構造で、片方はアデレードとメグが使っている部屋で、もう片方はまったく使われていない。そこを客室にしようと考えていた。客室として使えるのは8室。
1階は2人用に使えそうな部屋が南北に4部屋、2階の部屋は所謂メゾネットタイプと呼ばれる3階まで吹き抜け構造になっている部屋が同じく4部屋。
「こう改めて見ると、部屋が多いですね」
がらんとした部屋を眺めながらメグがしみじみ呟く。
「そうね。村の人の話だと楽団やら友人やらを招いて賑やかに過ごしていたみたいだし、人の出入りは多かったかもしれないわね。まずは、宿としての体裁を整えないと」
「そうなると、家具類ですか?」
「えぇ。ベッドと机と椅子と、あとは化粧台もいるかしら……それに絨毯も必要ね」
「じゃぁ、家具職人に頼まないと、ですね」
「ここの前の持ち主も、きっとここの村の職人に頼んだわよね。まさか、家具を全部王都から持ち込んで来たとは思えないし」
「そうですねぇ。詳しいことは、村の人が覚えてるかもしれません。でも、お嬢さん、それが何か?」
メグが不思議そうに首を傾げる。
「いえね、今ある物となるべく違わないようにしたいのよ。やはり調度品全体の風合いが揃っているとそれだけで見栄えがするもの」
「そうなんですね」
「出来れば、この家の家具を作った人達にまたお願いしたいわ。冬の間も作業は出来るものかしら?」
「どうでしょうか……材料である木が余ってればやってもらえるかもしれませんけど」
「では、それも確認する必要がありますわね」
そう言って、アデレードはメモを取る。それをメグは興味津々で見ている。
「どうしたの?」
「あ、いえ、何て書いてあるのかなって……」
メグは恥ずかしそうに笑う。
「私、文字は読めませんから」
そう言えば、ここへ初めて来た時も、手紙は書かないと言っていたような。
「まぁ、そうだったの。言ってくれれば良かったのに。折角だもの覚えてみたら? 冬は長いのですもの、知っておいて悪いことはないし。私で良かったら教えるわ」
「本当ですかっ、ありがとうございます!」
「貴女には本当に助けてもらっているし、編み物も教えてもらっているもの、そのせめてものお礼」
その後、村人にも協力を仰ぎ、ホテル改装の準備を始めた。そんなある日、誰かがドンドンとアデレードの家のドアを叩く者がいた。ディマが吠え、談話室で色々と相談していたアデレードとメグが顔を上げる。
「あら、誰かしら?」
「私出てきますね」
メグが席を立ち、ドアを開けると小さな男の子が転がるように入って来た。
「姉ちゃん!」
「マルクじゃない、どうしたの?」
入ってきたのは、メグの弟の一人だった。アデレードもディマを連れて玄関までやってくる。
「母さんがっ……」
「お母さんがどうしたの?」
「怪我した!」
「えぇっ!?」
アデレードとメグは急いでマルクと一緒にメグの家に向かった。家では居間で、ラシッド医師に腕に包帯を巻かれているメグの母アルマが居た。
「やーねー、怪我なんて大したもんじゃないんだよ」
アルマが恥ずかしそうに言った。
「ちょっと転んじまっただけで、こんな大袈裟なことさ。お前もメグに言うんじゃないよ。仕事があるんだから」
アデレードが心配そうな顔でアルマに声を掛けた。
「でも、そんな状態じゃ家事だってままならないでしょう? メグはしばらく置いていくわ」
「そんなっ」
「お嬢さん……」
メグとアルマが驚いた顔を見せた後、不安げな表情になった。
「なーに? 私のことなら心配しないで。これでも家事だって少しは出来るようになってるもの」
安心させるようにアデレードは笑ってみせた。
アデレードは必要なものを記録するため紙とペンを用意して、部屋の検分を始める。アデレードの家は猫の耳のように2つの切妻屋根が並ぶ、まるで2つの家が繋がっているような構造で、片方はアデレードとメグが使っている部屋で、もう片方はまったく使われていない。そこを客室にしようと考えていた。客室として使えるのは8室。
1階は2人用に使えそうな部屋が南北に4部屋、2階の部屋は所謂メゾネットタイプと呼ばれる3階まで吹き抜け構造になっている部屋が同じく4部屋。
「こう改めて見ると、部屋が多いですね」
がらんとした部屋を眺めながらメグがしみじみ呟く。
「そうね。村の人の話だと楽団やら友人やらを招いて賑やかに過ごしていたみたいだし、人の出入りは多かったかもしれないわね。まずは、宿としての体裁を整えないと」
「そうなると、家具類ですか?」
「えぇ。ベッドと机と椅子と、あとは化粧台もいるかしら……それに絨毯も必要ね」
「じゃぁ、家具職人に頼まないと、ですね」
「ここの前の持ち主も、きっとここの村の職人に頼んだわよね。まさか、家具を全部王都から持ち込んで来たとは思えないし」
「そうですねぇ。詳しいことは、村の人が覚えてるかもしれません。でも、お嬢さん、それが何か?」
メグが不思議そうに首を傾げる。
「いえね、今ある物となるべく違わないようにしたいのよ。やはり調度品全体の風合いが揃っているとそれだけで見栄えがするもの」
「そうなんですね」
「出来れば、この家の家具を作った人達にまたお願いしたいわ。冬の間も作業は出来るものかしら?」
「どうでしょうか……材料である木が余ってればやってもらえるかもしれませんけど」
「では、それも確認する必要がありますわね」
そう言って、アデレードはメモを取る。それをメグは興味津々で見ている。
「どうしたの?」
「あ、いえ、何て書いてあるのかなって……」
メグは恥ずかしそうに笑う。
「私、文字は読めませんから」
そう言えば、ここへ初めて来た時も、手紙は書かないと言っていたような。
「まぁ、そうだったの。言ってくれれば良かったのに。折角だもの覚えてみたら? 冬は長いのですもの、知っておいて悪いことはないし。私で良かったら教えるわ」
「本当ですかっ、ありがとうございます!」
「貴女には本当に助けてもらっているし、編み物も教えてもらっているもの、そのせめてものお礼」
その後、村人にも協力を仰ぎ、ホテル改装の準備を始めた。そんなある日、誰かがドンドンとアデレードの家のドアを叩く者がいた。ディマが吠え、談話室で色々と相談していたアデレードとメグが顔を上げる。
「あら、誰かしら?」
「私出てきますね」
メグが席を立ち、ドアを開けると小さな男の子が転がるように入って来た。
「姉ちゃん!」
「マルクじゃない、どうしたの?」
入ってきたのは、メグの弟の一人だった。アデレードもディマを連れて玄関までやってくる。
「母さんがっ……」
「お母さんがどうしたの?」
「怪我した!」
「えぇっ!?」
アデレードとメグは急いでマルクと一緒にメグの家に向かった。家では居間で、ラシッド医師に腕に包帯を巻かれているメグの母アルマが居た。
「やーねー、怪我なんて大したもんじゃないんだよ」
アルマが恥ずかしそうに言った。
「ちょっと転んじまっただけで、こんな大袈裟なことさ。お前もメグに言うんじゃないよ。仕事があるんだから」
アデレードが心配そうな顔でアルマに声を掛けた。
「でも、そんな状態じゃ家事だってままならないでしょう? メグはしばらく置いていくわ」
「そんなっ」
「お嬢さん……」
メグとアルマが驚いた顔を見せた後、不安げな表情になった。
「なーに? 私のことなら心配しないで。これでも家事だって少しは出来るようになってるもの」
安心させるようにアデレードは笑ってみせた。
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