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第2章 新しい人生
第18話 メイドのメグ
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数日後、メグが荷物を持ってアデレードの家へやってきた。荷物と言っても服や身の回りの物が入っている鞄一つだが。アルマやメグと話し合った結果、メグは住み込みで働くことになったのだ。
「うわぁ、こんな素敵な部屋一人で使って良いんですか?」
アデレードがメグを建物の最上階である3階の一室に案内する。その部屋には簡素なベッドが一つと物を置く用の棚があるだけの殺風景なもので、とても素敵とは言い難い。
「何もなくてごめんなさいね。文机くらい用意しておきたかったのだけど……」
「そんな、とんでもないです! 私、手紙なんて書きませんし」
アデレードが申し訳なさそうに言うとメグは大げさに首を振った。
「うち兄弟がいっぱいいるから、一人部屋なんて持ったことなくて。だから、自分の部屋があるってだけで嬉しいんです」
「何か必要なものがあれば言って頂戴ね」
「お嬢さん……ありがとうございます!」
メグは目を潤ませながら頭を下げる。
「それとこれを」
そう言ってアデレードは持っていた服をメグに手渡す。
「これは……?」
「一応制服、ということになるのかしら?」
メグを雇うと決めたとき、アデレードはかつて住んでいた屋敷で見たメイド達の姿を思い出していた。黒いシンプルなドレスに白いエプロンを付けていた。
ああいう服が必要ね。でも、この辺りにそういう物が手に入るところがあるかしら?
考えあぐねてアデレードが村人に尋ねると、それが何故か伯爵(カール)のところにまで話がいき、後日カール本人がわざわざ服を持ってきてくれたのだ。様子を見るついでと言って。
アデレードはそこでマックスがとりあえず帰って行ったことを知った。
「大変でしたね、伯爵」
「……まぁな。それでメイド用の服を探していると聞いたが」
「はい、そうですけど……よくご存じで」
アデレードが目を丸くするとカールが苦笑した。
「ここでは何でも筒抜けだ」
「まぁ」
「その話を聞いてな。これを」
カールはそう言って布に包まれた服をアデレードに渡す。アデレードが布をめくると、黒いドレスとエプロンが入っていた。
「伯爵、これ……」
「あぁ。うちで余っているものだ。良かったら使ってくれ」
「ありがとうございます。あ、代金は……」
「気にするな」
代金を受け取るのを固辞し、カールは帰って行った。彼の気遣いに感謝して、アデレードは貰った服をありがたく使わせてもらうことにした。
「さっそく着替えて良いですか?」
メグはその服に、くりくりとした瞳を輝かせている。
「えぇ」
アデレードは部屋から出て待っていると、真新しいメイド服に着替えたメグが出てきた。
「お嬢さん、感動です。服まで用意して下さって本当にありがとうございます!」
メグが感動してアデレードに抱きつく。
「い、いえ、良いのよ。そんなに喜んでもらうものでもない気がしますけど」
驚き戸惑いつつもアデレードが答える。そこでメグははっとして慌てて体を離す。どうやら彼女は感情表現が豊からしい。
「あぁっすみません。でも嬉しいんです。まるで伯爵様のお屋敷に上がったみたいで」
「伯爵のお屋敷?」
「そうです。やっぱり領民にとって伯爵様のお屋敷に奉公に上がるのことは憧れですから」
行儀見習いとして礼儀作法を身に付けられ、給金も出る。それにそこそこ良い縁談も持ち込まれたりと若い娘には理想的な働き口なのである。
「うちではそんな恩恵(ステイタス)は望めないけれど、良かったかしら?」
「制服着られるだけで嬉しいんです。それに今伯爵様のお屋敷では欠員がありませんし」
「そう。とりあえず今日からよろしくね」
アデレードが優しく微笑むとメグが顔を赤くした。
「はい! まずは何からやったら良いでしょうか? 掃除ですか、それとも昼食の準備ですか?」
「そうね。まずは昼食からお願いしようかしら」
その言葉にメグが嬉しそうに頷いた。
「うわぁ、こんな素敵な部屋一人で使って良いんですか?」
アデレードがメグを建物の最上階である3階の一室に案内する。その部屋には簡素なベッドが一つと物を置く用の棚があるだけの殺風景なもので、とても素敵とは言い難い。
「何もなくてごめんなさいね。文机くらい用意しておきたかったのだけど……」
「そんな、とんでもないです! 私、手紙なんて書きませんし」
アデレードが申し訳なさそうに言うとメグは大げさに首を振った。
「うち兄弟がいっぱいいるから、一人部屋なんて持ったことなくて。だから、自分の部屋があるってだけで嬉しいんです」
「何か必要なものがあれば言って頂戴ね」
「お嬢さん……ありがとうございます!」
メグは目を潤ませながら頭を下げる。
「それとこれを」
そう言ってアデレードは持っていた服をメグに手渡す。
「これは……?」
「一応制服、ということになるのかしら?」
メグを雇うと決めたとき、アデレードはかつて住んでいた屋敷で見たメイド達の姿を思い出していた。黒いシンプルなドレスに白いエプロンを付けていた。
ああいう服が必要ね。でも、この辺りにそういう物が手に入るところがあるかしら?
考えあぐねてアデレードが村人に尋ねると、それが何故か伯爵(カール)のところにまで話がいき、後日カール本人がわざわざ服を持ってきてくれたのだ。様子を見るついでと言って。
アデレードはそこでマックスがとりあえず帰って行ったことを知った。
「大変でしたね、伯爵」
「……まぁな。それでメイド用の服を探していると聞いたが」
「はい、そうですけど……よくご存じで」
アデレードが目を丸くするとカールが苦笑した。
「ここでは何でも筒抜けだ」
「まぁ」
「その話を聞いてな。これを」
カールはそう言って布に包まれた服をアデレードに渡す。アデレードが布をめくると、黒いドレスとエプロンが入っていた。
「伯爵、これ……」
「あぁ。うちで余っているものだ。良かったら使ってくれ」
「ありがとうございます。あ、代金は……」
「気にするな」
代金を受け取るのを固辞し、カールは帰って行った。彼の気遣いに感謝して、アデレードは貰った服をありがたく使わせてもらうことにした。
「さっそく着替えて良いですか?」
メグはその服に、くりくりとした瞳を輝かせている。
「えぇ」
アデレードは部屋から出て待っていると、真新しいメイド服に着替えたメグが出てきた。
「お嬢さん、感動です。服まで用意して下さって本当にありがとうございます!」
メグが感動してアデレードに抱きつく。
「い、いえ、良いのよ。そんなに喜んでもらうものでもない気がしますけど」
驚き戸惑いつつもアデレードが答える。そこでメグははっとして慌てて体を離す。どうやら彼女は感情表現が豊からしい。
「あぁっすみません。でも嬉しいんです。まるで伯爵様のお屋敷に上がったみたいで」
「伯爵のお屋敷?」
「そうです。やっぱり領民にとって伯爵様のお屋敷に奉公に上がるのことは憧れですから」
行儀見習いとして礼儀作法を身に付けられ、給金も出る。それにそこそこ良い縁談も持ち込まれたりと若い娘には理想的な働き口なのである。
「うちではそんな恩恵(ステイタス)は望めないけれど、良かったかしら?」
「制服着られるだけで嬉しいんです。それに今伯爵様のお屋敷では欠員がありませんし」
「そう。とりあえず今日からよろしくね」
アデレードが優しく微笑むとメグが顔を赤くした。
「はい! まずは何からやったら良いでしょうか? 掃除ですか、それとも昼食の準備ですか?」
「そうね。まずは昼食からお願いしようかしら」
その言葉にメグが嬉しそうに頷いた。
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