15 / 109
第2章 新しい人生
第16話 思いがけない提案 下
しおりを挟む
「いやー、ここにホテルがあれば僕の山仲間もここへ来て登山出来ますよ」
「君の他にもこんな酔狂な趣味を持つ者がいるのか……」
カールは内心頭を抱えた。
「はい! 大学で出会った同好の士達です」
嬉しそうにマックスが頷く。
「大学って一体どういうところですの?」
アデレードも呆れた声を出す。
「でも、私がホテルを開業したところで誰も来ないと思いますわ」
「どうしてです? ここは良いところですし、この家も素敵ですよ」
「それは先ほども申し上げた通り、私があの”アデレード”だからですわ」
マックスが首を傾げる。
「それの何が問題なんですか? 何か犯罪に手を染められていたとか、ですか?」
どうやら彼は本当にアデレードの起こした騒動を知らないらしい。
「社交界のことはどうやら、関心の埒外のようだな」
「はい! 全然興味ありません。あれ、何が楽しいんですか?」
「さてな。だが、君の勝手な都合に彼女を巻き込むのは止めたまえ」
「……そう、ですよね。すみません、フロイライン・アデレード。つい興奮してしまって」
「いえ。でも確かにこの家なら誰かを泊めるには十分な広さがありますわね」
アデレードは自分の家を改めて眺める。彼女の家は、木組みに白い壁の美しい、猫の耳のように切妻屋根が二つ並んだ特徴的な外観をしている。向かって左側のは玄関であり、1階は食堂や広いロビーがあって、2階の部屋の1つはアデレードが寝室として使っている。もう一方の屋根の方は、1階にはテラス、2階にはベランダの付いている客室になっていた。こちらは今まったく使われていない。
「フロイライン、何を……」
「使われていない部屋を使いたいというのならそれもありかと思って」
「そうですよ! フロイライン」
「いや、しかし君は……」
「ほんの少し、考えてみただけですわ、伯爵」
何か言いたげな伯爵を制し、アデレードが少し笑って見せた。
マックスはカールの回答に納得したのか、何度も夏には一緒に山頂まで登ろうと念を押してから再び散歩に戻っていった。
マックスの背中を見送りながらアデレードは口を開く。
「それで、結局一緒に山には登るんですの、伯爵?」
「……」
カールは苦虫を嚙み潰したような顔になったが、気を取り直して軽く咳払いをした
「フロイライン、先ほどのことは……」
「はい」
「別に君のすることを反対しようというものではない。ただ……」
「私に出来るわけがない、ということですか?」
口ごもる彼に代わりアデレードが答えた。カールは苦笑いにも似た表情を浮かべる。
「君が以前にどういう生活をしていたかは分からないが、今の様子を見る限り料理も掃除も苦手そうだし」
アデレードを上から下まで見てカールが言った。
「まぁっ、それは修行中ですわっ」
「それに本格的な冬を一人で乗り切るのはことだ。君を訪ねて来たら凍え死にしていたなんて、洒落にならんからな」
「もう何てことおっしゃるの! 私そこまで間抜けではありませんっ」
カールのおどけたような言い草にアデレードは顔を真っ赤にして反論した。
「いや、何をするにも一人では出来ん、ということだ。人を雇ってみてはどうだろうか」
「え?」
カールの意外な提案にアデレードが目を丸くする。
「そうしてもらえると私としても嬉しいが」
「どういうことですの?」
「この村では現金収入が得られる仕事は僅かしかない。働き口が出来ることは悪いことではないと思う」
「ですが……」
「あんなことがあったからと言って、たった一人、孤独に暮らす必要はないと思うが。君には誰か付いていた方が良い。フロイラインはどうやら暴走してしまう癖があるようだからな」
カールはそう言って笑う。
「まぁ、伯爵ったらっ!」
ぷりぷり怒るアデレードの代わりに、カールは彼女の抱いている愛犬のディマを撫でて帰っていった。
「君の他にもこんな酔狂な趣味を持つ者がいるのか……」
カールは内心頭を抱えた。
「はい! 大学で出会った同好の士達です」
嬉しそうにマックスが頷く。
「大学って一体どういうところですの?」
アデレードも呆れた声を出す。
「でも、私がホテルを開業したところで誰も来ないと思いますわ」
「どうしてです? ここは良いところですし、この家も素敵ですよ」
「それは先ほども申し上げた通り、私があの”アデレード”だからですわ」
マックスが首を傾げる。
「それの何が問題なんですか? 何か犯罪に手を染められていたとか、ですか?」
どうやら彼は本当にアデレードの起こした騒動を知らないらしい。
「社交界のことはどうやら、関心の埒外のようだな」
「はい! 全然興味ありません。あれ、何が楽しいんですか?」
「さてな。だが、君の勝手な都合に彼女を巻き込むのは止めたまえ」
「……そう、ですよね。すみません、フロイライン・アデレード。つい興奮してしまって」
「いえ。でも確かにこの家なら誰かを泊めるには十分な広さがありますわね」
アデレードは自分の家を改めて眺める。彼女の家は、木組みに白い壁の美しい、猫の耳のように切妻屋根が二つ並んだ特徴的な外観をしている。向かって左側のは玄関であり、1階は食堂や広いロビーがあって、2階の部屋の1つはアデレードが寝室として使っている。もう一方の屋根の方は、1階にはテラス、2階にはベランダの付いている客室になっていた。こちらは今まったく使われていない。
「フロイライン、何を……」
「使われていない部屋を使いたいというのならそれもありかと思って」
「そうですよ! フロイライン」
「いや、しかし君は……」
「ほんの少し、考えてみただけですわ、伯爵」
何か言いたげな伯爵を制し、アデレードが少し笑って見せた。
マックスはカールの回答に納得したのか、何度も夏には一緒に山頂まで登ろうと念を押してから再び散歩に戻っていった。
マックスの背中を見送りながらアデレードは口を開く。
「それで、結局一緒に山には登るんですの、伯爵?」
「……」
カールは苦虫を嚙み潰したような顔になったが、気を取り直して軽く咳払いをした
「フロイライン、先ほどのことは……」
「はい」
「別に君のすることを反対しようというものではない。ただ……」
「私に出来るわけがない、ということですか?」
口ごもる彼に代わりアデレードが答えた。カールは苦笑いにも似た表情を浮かべる。
「君が以前にどういう生活をしていたかは分からないが、今の様子を見る限り料理も掃除も苦手そうだし」
アデレードを上から下まで見てカールが言った。
「まぁっ、それは修行中ですわっ」
「それに本格的な冬を一人で乗り切るのはことだ。君を訪ねて来たら凍え死にしていたなんて、洒落にならんからな」
「もう何てことおっしゃるの! 私そこまで間抜けではありませんっ」
カールのおどけたような言い草にアデレードは顔を真っ赤にして反論した。
「いや、何をするにも一人では出来ん、ということだ。人を雇ってみてはどうだろうか」
「え?」
カールの意外な提案にアデレードが目を丸くする。
「そうしてもらえると私としても嬉しいが」
「どういうことですの?」
「この村では現金収入が得られる仕事は僅かしかない。働き口が出来ることは悪いことではないと思う」
「ですが……」
「あんなことがあったからと言って、たった一人、孤独に暮らす必要はないと思うが。君には誰か付いていた方が良い。フロイラインはどうやら暴走してしまう癖があるようだからな」
カールはそう言って笑う。
「まぁ、伯爵ったらっ!」
ぷりぷり怒るアデレードの代わりに、カールは彼女の抱いている愛犬のディマを撫でて帰っていった。
1
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた
せいめ
恋愛
伯爵令嬢のフローラは、夜会で婚約者のレイモンドと義妹のリリアンが抱き合う姿を見てしまった。
大好きだったレイモンドの裏切りを知りショックを受けるフローラ。
三ヶ月後には結婚式なのに、このままあの方と結婚していいの?
深く傷付いたフローラは散々悩んだ挙句、その場に偶然居合わせた公爵令息や親友の力を借り、ざまぁして逃げ出すことにしたのであった。
ご都合主義です。
誤字脱字、申し訳ありません。
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
正妃として教育された私が「側妃にする」と言われたので。
水垣するめ
恋愛
主人公、ソフィア・ウィリアムズ公爵令嬢は生まれてからずっと正妃として迎え入れられるべく教育されてきた。
王子の補佐が出来るように、遊ぶ暇もなく教育されて自由がなかった。
しかしある日王子は突然平民の女性を連れてきて「彼女を正妃にする!」と宣言した。
ソフィアは「私はどうなるのですか?」と問うと、「お前は側妃だ」と言ってきて……。
今まで費やされた時間や努力のことを訴えるが王子は「お前は自分のことばかりだな!」と逆に怒った。
ソフィアは王子に愛想を尽かし、婚約破棄をすることにする。
焦った王子は何とか引き留めようとするがソフィアは聞く耳を持たずに王子の元を去る。
それから間もなく、ソフィアへの仕打ちを知った周囲からライアンは非難されることとなる。
※小説になろうでも投稿しています。
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる