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そのさん。ひとつ屋根の下。

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 だめじゃ……いくらなんでももう無理じゃ……。
 雑草をおかずに雑草を食う生活なんてもう耐えられん!!

 今までメイドに全てを任せていたわしがこんな何もない所で一人暮らしなどできる訳が無かった!!

 認めざるを得ない。
 あぁ、認めるとも! わしは一人では生きていくことさえ出来ぬ生活力皆無魔王じゃとな!

「……家出じゃ」

 こうなったらこの住処を捨て去り、外に生きる道を模索するしかないではないか。

 人間に変装するのは得意である。
 一度やっておるし、名前さえ名乗らなければ……偽名を使えばどうにでもなる。

 角と羽と尻尾を魔法でカモフラージュすればどう見ても人間であろう。覚えておいて良かったカモフラ魔法。

 人間の街に紛れ込み、なんとか仕事と住む場所を確保するのじゃ!!

 人間にこき使われるなど魔王のプライドがズタズタじゃが、そんな事を言っている場合ではないし村人A以外だったらある程度の無礼は許す!

 許してやる! いや、許してあげる。
 だからなんとか生きていかなくては……。

 本来なら街へ乗り込み略奪すれば楽に生きていけるがそのやり方だと長くもたない上にあのロリペド野郎に居場所を突き止められてしまう。

 それはダメじゃ。

 だからここは恥を忍んで人間に雇われよう。
 頑張って雇ってもらおう。

 ……おしごと、あるかなぁ……?

 正直不安じゃ。

 でもここで飢えて死ぬより、なんとか生きて、生きて生きて力を付け、そしてあのにっくきロリペド村人をぶち殺してからゆっくり世界を再び我が手中に収めるのだ!

 そうと決まればすぐ行動!


「変装良し! 非常食の雑草弁当良し! 後は転移ゲートがまだ動けば……」

 城の地下にある倉庫の奥に、確か父上の作ったゲートがあるはず。

 以前街に攻め込む際、偵察隊を送り込むのに使ったと言っていた気がする。

「これか……有ったが、無論動いてはおらんのう」

 これにわしの魔力を込めて、再起動してくれれば良し。
 動かなければ徒歩で何日も歩くしかない。

 わしまだ転移やら飛行やらの魔法は憶えとらんのじゃ……。

 カモフラ魔法だけはわしが街へ行ってみたくて無理に教えてもらったが、基本的に父上は破壊、殺戮至上主義者だったゆえ、転移や飛行などの魔法は後回しにされていたし、わしが攻撃魔法を一通り覚えたあたりで病でコロっと逝ってしもうたからのう……。


「父上、わしに力を! 強く生きてみせます!!」

 魔力をゲートに流し込むと淡い光が灯る。

「やった! いざゆかん、人の住む街へ!」

 光る魔法陣に飛び込むと、目の前が真っ白になりとてつもない吐き気に襲われたが、草しか食ってないせいで胃液と草しか出てこなかった。

「うげぇ……気持ち悪いぃ……」

 しかし、どうやらうまくいったようじゃ。
 今自分が立っているのは小高い丘の上。眼下には賑やかな人の街が見える。

「ふふ、ふははは! わし、第二の人生はじめます!!」

 高ぶる気持ちを推進力に変え街へと走る。
 久しぶりの人間の街は見るもの全てが奇妙であったが、これは慣れねばならん。

 とにもかくにも仕事じゃ!
 まずは適当に見つけた道具屋へ入り、雇って欲しいと伝えてみる。

「……お嬢ちゃんが、ここで? ご両親は?」

「居ないのじゃ」

 店のおっさんはいぶかしむようにこちらを眺めながら、「人手は足りてるんだごめんな」と言ってわしを追い出した。

 くそぅ。
 しかしまだ一軒目じゃ。まだまだこれからよ!

「無理」

「十年後にまた来な」

「戸籍は? 住民票持ってきて」

「おぱんちゅ見せてくれたらお小遣いあげるよ?」


「うがぁぁぁぁ!! なんじゃなんじゃこの街は!! 全く仕事にありつけんではないか!」

 そして、そしてじゃ。

「なぜ貴様がこんなとこにおるんじゃ!?」

「レフィアちゃんあるところ俺ありだよ」

「意味がわからん。どうやってわしの居場所を突き止めた……?」

「毎日会いに行ってるよね? 俺は既にレフィアちゃんの気配をこの世界の中から見つけ出す方法を会得している」

「ひっ、ストーカーを極めし者かっ!?」

「人聞き悪いなぁ。愛だよ愛。いつ何処にいても君を見つけられる」

 怖すぎる……。わしはどこへ逃げようとこやつからのがれられん運命なのか……。

「死のう」

「待って待って、なんでそうなるの?」

「……だって、どこ行ってもお主が追ってくるし食べ物も雑草しか無いしあの城に居たら餓死するし他に行く所なんか無いんじゃもん。うわぁぁぁん!!もうわしには、死ぬしか、死ぬしかないんじゃぁぁぁぁぁ!!」

 あまりに絶望して村人Aに全てをぶちまけたらやっと本当に泣く事が出来た。

「れ、レフィアちゃん泣かないで」

「泣きたくもなるわ! 一生貴様に追いかけ回され草を食って生きて行くなど無理じゃ! 死ぬしかない! 死んでやる!!」

「分かった分かった。俺が話つけてレフィアちゃんが住める家を用意してあげるから」

「……どうせそこにも毎日お主が会いに来るんじゃろう?」

「いや、会いに行く事は無いよ」

「なら頼む」

「即答なんだね」

 こやつが会いに来ない場所ならばどこでもいい。住める場所を確保して、次は食事じゃ。

「ちなみに三食食事と仕事付き」

「なんじゃと!? それに決めた! 今すぐ決めた! 早く話をつけてくるのじゃ!!」

 なんと渡りに船か!
 村人Aが会いに来ず、仕事と食事が手に入る!
 完璧じゃ。わしの第二の人生これで安泰じゃ!!

 その後村人Aに連れられてとある食堂に入る。
 凄まじく美味そうな匂いが立ち込めており、客もたくさん入っていて賑やかじゃった。

「おや、アリアじゃないか。何か食べてくかい? ……ん、その子は?」

「確かクレアおばさん従業員募集してたよね? 住み込みのやつ」

「ああ、もしかしてその子が? こっちとしては大歓迎だよ。可愛らしいし看板娘にちょうどいいやね」

 こやつアリアという名前じゃったか。村人Aはあながち間違ってなかったんじゃな。

「た、頼めるじゃろうか……?」

「あら可愛い。勿論だよ今日はいいから明日からお願いできるかい? 部屋は二階の一番奥を使っておくれ」

 どうやらこの食堂は宿屋も兼ねているらしく、その一部屋を貸してくれるらしい。

 わしが部屋に入り、ベッドにダイブしてはしゃいでいると、クレアという女将さんのご厚意で食事が運ばれてきた。

 久しぶりのまともな食事に涙がとまらんかった。
 美味い。美味すぎる。

 食後、食堂の様子を見に行こうと部屋を出ると村人A……アリアと遭遇してしまう。

「どこにでも現れるなお主……わしには会いに来ないのではなかったのか?」

「レフィアちゃんに会いに来たんじゃなくて俺は自分の部屋に戻ろうと思っただけだよ」

 ……は?

 アリアは平然とわしの部屋の扉を開ける。

「お、お主……まさかこの宿に泊まっておるのか?」

「いや、俺は今この部屋に住んでるんだ」

 ……え、泊まってるんじゃなくて、住んでる?
 こやつと同じ屋根の下、隣の部屋で過ごせと……?

「それと、ご飯美味しかった?」

「ああ……飯はとっても美味であった! 感動のあまり涙が止まらなかったぞ。クレアには感謝しなければな」

「どうして?」

「いや、食事を……まて、お主ここに住んで何をしておる」

「俺はここに住んで夕方から働いてるんだよ。今日ももうすぐ仕事」

 ほ、ほう……ここを拠点にして働きに出ているということか。なるほど。

「でも折れの手料理がレフィアちゃんの口に合って良かったよ。がんばって作ったかいがあった」

「……へ?」

「泣くほど感動してくれるなんてなぁ。これから毎日ご飯作ってあげるからね。あ、とりあえず今日はこのくらいで。じゃあまたね」

 にっこりと笑い、わしに手を振りながら部屋の中へ消えていった。

 わし、完全にアリアに騙された。
 会いに行かずとも毎日会えるからいいやって事じゃろ?

 わしの食事を毎食奴が用意?
 わしはそれを毎日食べて生きていくのか……?

 父上……わし、くじけてしまいそうじゃよ……。

「ぴえん」

 何故か、再び涙が枯渇した。





――――――――――――――――――――――――――
次回、最終話。
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