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第1章:押し倒されて始まる異世界生活。
第16話:魔王出陣!(魔王視点)
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「進捗は?」
「はっ、先程最後の隔離が終わりまして御座います」
「ふむ、ご苦労。しかし大分予定より遅れてしまったな」
「申し訳ありませんラシュカル様」
「いやいい。とにかくこれで一段落だ。しばらくは羽根が伸ばせるという物よ」
どっしりと椅子に座りなおし、薄暗い城内を見渡す。
配下の魔物達は今城にはあまりいない。
特に幹部達には特別な仕事にあたって貰っている為城がやたらと静かだ。
「ラシュカル様もさぞやお疲れでしょう。たまにはゆっくりされては如何ですかな?」
そう言って長い顎髭を撫でまわしているのは私が幼い頃より面倒を見てくれた世話役のじいや。
戦闘能力があるようには見えないが、これでも先々代、私の祖父が魔王をやっていた頃は幹部を束ねる存在だったのだとか。
できるだけ怒らせるのはやめようと心に誓っている。
とはいえじいやが怒った所など見た事は無いが。
「ゆっくり、か……ふむ、考えておこう。私はしばし部屋で休む。何かあったら連絡を寄越せ」
「ははっ」
じいやも昔はもっと砕けた話し方をしてくれていたものだが、私が魔王に就任するなり堅苦しい言葉遣いになった。
示しがつかないから、というがこちらとしては少々寂しいものがある。
自室に戻り、ベッドに転がりながら枕元に置いてある本を手に取った。
「そう言えばこれはまだ途中だったな……」
人間の考える物語りというのはなかなかどうして面白いと感じる。
勿論気に入らない事もあるが……。
大抵の場合悪い魔王を勇者が打ち滅ぼす物語なのだ。
なぜ毎回魔王がやられねばならぬ?
なぜ常に魔王が悪なのだ?
人間に王が居るのと同じで魔物に王がいる、ただそれだけの事なのに。
まぁ人間側の視点で考えられた物語なのだから当然ではあるのだが。
それにしても展開がチープな物が多いのはなぜか?
話しとしては面白いのだがもう少し展開を捻ってもよかろうに。
なぜ多くの物語で魔王は人間の姫をさらうのだろう?
人間側の権力の象徴を奪う事に意味があるのだろうか?
それとも勇者が旅に出る動機付け?
だとしたらそんな事の為に毎度さらわれる姫も災難である。
そもそも、だ。
姫が美しいと誰が決めた?
美しくない姫もいるだろう。
美しさを強要される姫のなんと哀れな事か。
それとも姫というのは必ず美しいものなのか?
……ふむ、確認してみるか。
身支度をして部屋を出ると、じいやがお茶を持って廊下を歩いていた。
「おや、ラシュカル様。どこかへお出になられるので?」
「うむ、少々人間の姫の面でも拝みに行こうかと思ってな」
「おやおや……人間程度、と侮るなかれですぞ。お気をつけて」
じいやは気を付けろ、というだけで止めようとはしない。
万が一何かトラブルが起きても私ならなんら問題がないと信じてくれているからだ。
今来た道を戻ろうとしているじいやに声をかける。
「待て」
「……はて、何か?」
「せっかく入れてくれた茶が勿体なかろうが」
私はじいやからティーカップを奪ってぐいっと一気飲み。
「ほっほっほ……本当に優しくお育ちになられましたな」
「照れ臭い事を言うな。ただ喉が渇いていただけだ。では行ってくる」
「ただ、紅茶はそのように立ったまま一気飲みするような飲み物ではありませぬぞ?」
「う、す……すまん」
じいやは俺からティーカップを受け取り、笑った。
「ほっほっほ……お帰りになられましたら改めてもう一度入れて差し上げましょう。それでは行ってらっしゃいませ」
「うむ」
しかし熱かった……。舌を火傷したかもしれない。
私は空間転移術を発動させ、念の為に姿も魔族とは分からぬようにする。
自在に姿を変えられるとはいえ自分の顔は気に入っているのでそのまま。
人間の姫がいるというシュバルツ城上空に転移し、城へ降り立つ。
侵入する事のなんと容易き事か。危機感が足りなすぎるのではないか?
人間の女共は私を見かけても色めき立つばかりで何処の誰かなど全く気にしない。
愚か。本当に人間とは愚かな生き物である。
どこぞの騎士とでも思っているのだろうか? 馬鹿め。
女中の一人を捕まえて姫の部屋を聞くとあっさり情報を漏らす。余程平和呆けしているのか、単にこの女中が馬鹿なのか……。どちらにせよ姫の部屋には簡単に辿り着く事が出来た。
扉には鍵がかかっていたので魔法で開錠し中へ入ると、私は名乗りを上げた。
「ふははは! 我が名は魔王ラシュカル。人間の姫よ、私がわざわざ会いに来てやったぞ」
「……みず、みずが……」
姫はこちらに一瞬視線をちらりと向けたものの、何かぶつぶつと呟き始めた。
どういう事だ? 侵入者よりも喉の渇きを潤す事を優先するとは余程の大物か、或いは阿呆か……。
「水が欲しいのならくれてやる」
魔法で器を作り出し、そこに水を生み出して姫に差し出す。
無視されたのが気に入らなかった。水でもなんでも飲んでこちらを向け。
「さぁ、魔王が直々に用意してやった水だ。喜ぶがいい」
「ヒィィィィッ!! みず、みずぅぅぅっ!!」
姫は突然絶叫し、気を失ってしまった。
「な、なんなのだ……?」
気を失った姫の顔を覗き込むと、確かに美しい事には美しいのだが……こんなものか?
人間と魔物では美的感覚が違うのかもしれんが、この程度ならば魔物の中にも美しい者はいる。
大抵が作られた美しさだが。
まぁいい。権力の象徴であり民の憧れであろう姫をさらえば人間共は私の恐ろしさを知る事だろう。こんな女でも私の役には立つ。
気を失った姫を抱き上げ、大きな窓を開け放ち城の上空へ移動する。
……魔王領に比べれば小さな街だ。
城はそれなりに大きいが城下町はそこまで広くはない。
こんな所にいるような危機感の無い人間共が脅威になるとは思えんが、それでも数が増えれば低級な魔物は人間に狩られるだろう。
やはり人間など隔離しておくに限るな。
「……ん、なんだあいつは?」
街をぐるりと取り囲んでいる隔離障壁の向こう側に人間の姿が見えた。
そこで、私はあの聖女と出会ってしまった。
「またいずれどこかで会おうぞ」
勇者と聖女の元を後にし、魔王城へと帰還する。
ふふふ、聖女と勇者。まさに人間共が考えた物語の通りではないか。しかし私は物語りのように甘くはないぞ。
しかし……あの聖女はなんだったのだ?
あんな人間は初めてだ。何を言っているかまるで分らん。
黙っていればあんなにも美しいというのに……。
『本当に魔王が好きなの』
『僕の好きな魔王はそんなんじゃないぞ』
……好き?
魔王を、人間が……?
馬鹿馬鹿しい。
「ラシュカル様。お早いお帰りですね。先程からずっとぐるぐると同じ場所を回られて……いったいどうされたのです?」
「じ、じいやか……」
どうやら聖女の事を考えこんでうろうろしているのを見られてしまったらしい。
「少々お顔が赤いようですがどこか具合でも?」
「ばっ、馬鹿をいうな! 私がこんな事で赤面する筈がないだろう!?」
「ど、どうされました……? やはりどこかお加減が?」
「そ、そうではない! 気にするな! 私はもう寝る! 茶はまた後で頂こう!」
ラシュカル様、と呼ぶじいやの声を振り切って自室に戻りベッドへダイブ。
くそ、なんで私がこんな辱めを受けなければならないのだ。
全部あの聖女のせいではないか。
……しかし、美しかった。
『やればできんじゃん♪』
……い、いや、私ともあろう者がそんな筈は……!
そう言えば……あの聖女、名はなんというのだろう?
くそ、眠れん……。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
お読み頂きありがとうございます!
ここで第1章終了です♪
魔王ラシュカルは結構お気に入りキャラなので気に入ってもらえたら嬉しいなぁと。
「はっ、先程最後の隔離が終わりまして御座います」
「ふむ、ご苦労。しかし大分予定より遅れてしまったな」
「申し訳ありませんラシュカル様」
「いやいい。とにかくこれで一段落だ。しばらくは羽根が伸ばせるという物よ」
どっしりと椅子に座りなおし、薄暗い城内を見渡す。
配下の魔物達は今城にはあまりいない。
特に幹部達には特別な仕事にあたって貰っている為城がやたらと静かだ。
「ラシュカル様もさぞやお疲れでしょう。たまにはゆっくりされては如何ですかな?」
そう言って長い顎髭を撫でまわしているのは私が幼い頃より面倒を見てくれた世話役のじいや。
戦闘能力があるようには見えないが、これでも先々代、私の祖父が魔王をやっていた頃は幹部を束ねる存在だったのだとか。
できるだけ怒らせるのはやめようと心に誓っている。
とはいえじいやが怒った所など見た事は無いが。
「ゆっくり、か……ふむ、考えておこう。私はしばし部屋で休む。何かあったら連絡を寄越せ」
「ははっ」
じいやも昔はもっと砕けた話し方をしてくれていたものだが、私が魔王に就任するなり堅苦しい言葉遣いになった。
示しがつかないから、というがこちらとしては少々寂しいものがある。
自室に戻り、ベッドに転がりながら枕元に置いてある本を手に取った。
「そう言えばこれはまだ途中だったな……」
人間の考える物語りというのはなかなかどうして面白いと感じる。
勿論気に入らない事もあるが……。
大抵の場合悪い魔王を勇者が打ち滅ぼす物語なのだ。
なぜ毎回魔王がやられねばならぬ?
なぜ常に魔王が悪なのだ?
人間に王が居るのと同じで魔物に王がいる、ただそれだけの事なのに。
まぁ人間側の視点で考えられた物語なのだから当然ではあるのだが。
それにしても展開がチープな物が多いのはなぜか?
話しとしては面白いのだがもう少し展開を捻ってもよかろうに。
なぜ多くの物語で魔王は人間の姫をさらうのだろう?
人間側の権力の象徴を奪う事に意味があるのだろうか?
それとも勇者が旅に出る動機付け?
だとしたらそんな事の為に毎度さらわれる姫も災難である。
そもそも、だ。
姫が美しいと誰が決めた?
美しくない姫もいるだろう。
美しさを強要される姫のなんと哀れな事か。
それとも姫というのは必ず美しいものなのか?
……ふむ、確認してみるか。
身支度をして部屋を出ると、じいやがお茶を持って廊下を歩いていた。
「おや、ラシュカル様。どこかへお出になられるので?」
「うむ、少々人間の姫の面でも拝みに行こうかと思ってな」
「おやおや……人間程度、と侮るなかれですぞ。お気をつけて」
じいやは気を付けろ、というだけで止めようとはしない。
万が一何かトラブルが起きても私ならなんら問題がないと信じてくれているからだ。
今来た道を戻ろうとしているじいやに声をかける。
「待て」
「……はて、何か?」
「せっかく入れてくれた茶が勿体なかろうが」
私はじいやからティーカップを奪ってぐいっと一気飲み。
「ほっほっほ……本当に優しくお育ちになられましたな」
「照れ臭い事を言うな。ただ喉が渇いていただけだ。では行ってくる」
「ただ、紅茶はそのように立ったまま一気飲みするような飲み物ではありませぬぞ?」
「う、す……すまん」
じいやは俺からティーカップを受け取り、笑った。
「ほっほっほ……お帰りになられましたら改めてもう一度入れて差し上げましょう。それでは行ってらっしゃいませ」
「うむ」
しかし熱かった……。舌を火傷したかもしれない。
私は空間転移術を発動させ、念の為に姿も魔族とは分からぬようにする。
自在に姿を変えられるとはいえ自分の顔は気に入っているのでそのまま。
人間の姫がいるというシュバルツ城上空に転移し、城へ降り立つ。
侵入する事のなんと容易き事か。危機感が足りなすぎるのではないか?
人間の女共は私を見かけても色めき立つばかりで何処の誰かなど全く気にしない。
愚か。本当に人間とは愚かな生き物である。
どこぞの騎士とでも思っているのだろうか? 馬鹿め。
女中の一人を捕まえて姫の部屋を聞くとあっさり情報を漏らす。余程平和呆けしているのか、単にこの女中が馬鹿なのか……。どちらにせよ姫の部屋には簡単に辿り着く事が出来た。
扉には鍵がかかっていたので魔法で開錠し中へ入ると、私は名乗りを上げた。
「ふははは! 我が名は魔王ラシュカル。人間の姫よ、私がわざわざ会いに来てやったぞ」
「……みず、みずが……」
姫はこちらに一瞬視線をちらりと向けたものの、何かぶつぶつと呟き始めた。
どういう事だ? 侵入者よりも喉の渇きを潤す事を優先するとは余程の大物か、或いは阿呆か……。
「水が欲しいのならくれてやる」
魔法で器を作り出し、そこに水を生み出して姫に差し出す。
無視されたのが気に入らなかった。水でもなんでも飲んでこちらを向け。
「さぁ、魔王が直々に用意してやった水だ。喜ぶがいい」
「ヒィィィィッ!! みず、みずぅぅぅっ!!」
姫は突然絶叫し、気を失ってしまった。
「な、なんなのだ……?」
気を失った姫の顔を覗き込むと、確かに美しい事には美しいのだが……こんなものか?
人間と魔物では美的感覚が違うのかもしれんが、この程度ならば魔物の中にも美しい者はいる。
大抵が作られた美しさだが。
まぁいい。権力の象徴であり民の憧れであろう姫をさらえば人間共は私の恐ろしさを知る事だろう。こんな女でも私の役には立つ。
気を失った姫を抱き上げ、大きな窓を開け放ち城の上空へ移動する。
……魔王領に比べれば小さな街だ。
城はそれなりに大きいが城下町はそこまで広くはない。
こんな所にいるような危機感の無い人間共が脅威になるとは思えんが、それでも数が増えれば低級な魔物は人間に狩られるだろう。
やはり人間など隔離しておくに限るな。
「……ん、なんだあいつは?」
街をぐるりと取り囲んでいる隔離障壁の向こう側に人間の姿が見えた。
そこで、私はあの聖女と出会ってしまった。
「またいずれどこかで会おうぞ」
勇者と聖女の元を後にし、魔王城へと帰還する。
ふふふ、聖女と勇者。まさに人間共が考えた物語の通りではないか。しかし私は物語りのように甘くはないぞ。
しかし……あの聖女はなんだったのだ?
あんな人間は初めてだ。何を言っているかまるで分らん。
黙っていればあんなにも美しいというのに……。
『本当に魔王が好きなの』
『僕の好きな魔王はそんなんじゃないぞ』
……好き?
魔王を、人間が……?
馬鹿馬鹿しい。
「ラシュカル様。お早いお帰りですね。先程からずっとぐるぐると同じ場所を回られて……いったいどうされたのです?」
「じ、じいやか……」
どうやら聖女の事を考えこんでうろうろしているのを見られてしまったらしい。
「少々お顔が赤いようですがどこか具合でも?」
「ばっ、馬鹿をいうな! 私がこんな事で赤面する筈がないだろう!?」
「ど、どうされました……? やはりどこかお加減が?」
「そ、そうではない! 気にするな! 私はもう寝る! 茶はまた後で頂こう!」
ラシュカル様、と呼ぶじいやの声を振り切って自室に戻りベッドへダイブ。
くそ、なんで私がこんな辱めを受けなければならないのだ。
全部あの聖女のせいではないか。
……しかし、美しかった。
『やればできんじゃん♪』
……い、いや、私ともあろう者がそんな筈は……!
そう言えば……あの聖女、名はなんというのだろう?
くそ、眠れん……。
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魔王ラシュカルは結構お気に入りキャラなので気に入ってもらえたら嬉しいなぁと。
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