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第1章:押し倒されて始まる異世界生活。

第6話:エルフの耳は敏感らしい。

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「ウォーターボール!」

 僕の掌からサッカーボール大の水球が生まれ、それが弾丸のように勢いよく狙った場所へ飛んでいく。

 あれから城の裏庭に特設で練習場を作ってもらい、毎日ここで魔法の修行をしている。

 僕も魔法を幾つか覚えて、今放ったのはその中でなんとか実用出来そうなやつ。
 制御が難しくてすぐ暴発しちゃうんだよね。
 失敗するとすぐあの水柱みたいなのになっちゃうので注意が必要。
 最初の頃あまりに水柱を頻発していた為、聖女の噴水とかいう名前を付けられてしまった。そんな名前の魔法はありません!

 でも今回はうまく行った気がする!

 用意された的に向かって魔法を放ったんだけど、今日は見事に命中して大爆発を起こした。

「やった♪」

「……相変わらず聖女様の魔法は凄いですね。命中率に少々難ありですが威力に関しては通常の五倍はあろうかと思われます。通常のウォーターボールでこれですから聖女の噴水の直撃を喰らったらひとたまりもありませんね」

「その聖女の噴水ってのやめて!」

 僕に魔法を教えてくれているのはジャバル魔法兵団の団長さんで、名前をリィルという。
 ザ・魔法使いって感じの黒いマントに大きな帽子を被って、大きな宝石のような物がついた杖を持っている。
 顔はかなりいい。声もいい。そして耳が尖ってる。髪の毛は淡いグリーン。

「前から気になってたんだけどリィルさんってエルフなの?」

「……確か聖女様は別の世界から来たのですよね? エルフをご存知なんですか?」

「僕らの居た世界にエルフは居ないけど、物語には良く登場するから。そのエルフとリィルさんの特徴があまりに似てたんでエルフなのかなって」

 リィルさんは「ふむ……」と顎に手を当て、何かを考え込む。

「どうしました?」

「いえ、確かに私はエルフですが……エルフが存在しない世界にエルフの情報だけがあるというのが不思議でしてね」

 確かにそれはそうだよね。
 僕らの世界で勝手に作られた架空の種族が実際に居るっていうのは不自然だと思う。

「もしかしたら古文書に乗っている勇者も貴女と同じ世界から召喚されたのかもしれませんね。これは興味深い」

 ……? 僕らと同じ世界からって……ああ、大昔の勇者が地球人だとしたら、世界に平和を取り戻して元の世界に戻り、エルフの伝承を広めたっていう推論になるのかな?

 確かにそれなら納得がいくけど……それならもっと他にも知ってる情報があるかもしれない。

 いろいろ質問してみたら、案の定共通点が結構あって、この世界にはユニコーンとかペガサスもいるんだってさ。

「僕らの世界にはペガサスも空想上の動物としていたりするんだよね。勿論実際にはいないけれど」

「聖女様はペガサスもご存知なんですか」

 リィルが少し驚く。

「ペガサスは希少種ですからなかなか遭遇する事はありません。……それはそうと、聖女様の居た世界との共通点は非常に興味深い。ますます気になってしまいますね。もっといろいろお話を聞かせてもらってもよろしいですか?」

 あまりにリィルさんが食いついてくるのでその日は修行を一旦中止してお互いの情報交換をした。

 結論から言うと、ファンタジー作品なんかで出てくるような架空の生物、モンスターなんかは大体この世界、ラディベルに存在する。

 とっても珍しいけどドラゴンなんかも居るらしい。

 僕が「ドラゴン! すごいなー見てみたいな♪」なんて言ったら笑われた。

「人はドラゴンを恐れるものですよ? 聖女様は本当に面白い方だ」

 そう言って綺麗なエルフに笑われたのがとても恥ずかしくなってしまった。

「ぼ、僕にとっては全て憧れた空想世界の物だから……興味を持って当然でしょ?」

「ふふふ……すいません。確かにそれはそうですね。でもその言い方ですと……聖女様はエルフにも興味がおありですか?」

「……えっ?」

 ぐいっとリィルさんの顔が近くなる。
 うわ瞳の色まで綺麗なグリーンだ。
 耳の形すっご。なんでエルフって耳尖ってるんだろう?

「うん、とっても興味あるよ」

 僕はあまりに気になってしまってその耳を触った。

「ふぁっ!?」

「え、何!?」

 リィルさんは急に妙な声をあげて後ろに倒れ込んでしまった。

「き、急にエルフの耳を触るなんて……な、何を考えているのですかっ!」

「えっ、ダメだった?」

「ダメに決まってます! エルフの耳は、その……び、敏感なので」

 リィルさんが顔を真っ赤にして目を逸らす。
 うわー横顔も絵になるなぁ。

「ご、ごめんね?」

 よく考えたらエルフがどうとか以前に急に耳触る奴やべぇじゃん。気を付けないと変人認定されてしまう。

「まったく……少しからかってみるつもりがとんだカウンターパンチですよ……」

「え、パンチなんかしてないってば」

「……今のは忘れて下さい。お気になさらず」

 リィルさんがちょっとだけむすっとしてた気がするのは気のせいだろうか?
 何か気に障る事をしたのなら謝りたいけれど、彼はすぐに笑顔になって「本当に、貴女は面白い」とか言ってたので大丈夫だろう。

 面白いってのが褒め言葉かどうかは分からないけれど。

「今日はこのくらいにしておきましょうか。ついつい話し込んでしまい中途半端になってしまって申し訳ありません」

「ううん。僕もリィルさんと話すの楽しかったしまたいろいろ聞きたいな♪」

 この世界の事を知れば知るほど僕の知ってるファンタジー物に近い要素が多くてわくわくする。

「では……また今度エルフの事をたっぷりと教えてさしあげましょうか?」

「うん♪ お願いね!」

 エルフにはとっても興味がある。魔力が高いのかとか、弓が得意なのかとか、いろいろ。

「貴女という人は……ほんとうに、かないませんねえ」

 リィルさんは「やれやれ」と呟きながら帽子を深く被りなおす。

「では本日はこれで」

 そう言って城内に帰ろうと踵を返す。

「ねぇ、帽子そんなに深く被ったら顔見えなくなっちゃうよ? せっかく綺麗な瞳なんだからもっとよく見えるようにしなきゃ♪」

「……」

 一瞬彼がこちらに振り向いたけど何も言わず急ぎ足で城へ帰っていった。

 心なしか少し顔が赤かった気がするけど褒められて照れたのかな?
 肌がとっても白いから赤面するとすごく分かりやすい。

「さーってと、クラマの様子でも見に行こうかなっ♪」


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