3 / 56
第1章:押し倒されて始まる異世界生活。
第3話:初めての魔法ちゃれんじ!
しおりを挟む「冗談なんかじゃないよ。だってこの世界でもいいんだよね? ならクラマがそれを克服したら一緒に居られるじゃん」
「それはそうかもしれんが……いや、ダメだ。俺はなんとしても元の世界に戻る方法を探すぞ」
「でも元の世界に戻って僕がこの姿のままだったらどうするの? 僕らだけの力で何とか出来る? それともクラマは僕の事捨てる?」
「うっ……そんな事は無い、無いのだが……」
そう言って彼が僕から目を逸らした。
そういう態度なんだってば……。
「ちゃんとこっち見て言って。僕は不安なんだよ……姿が変わったくらいでこんなに拒絶されてさ、クラマの気持ちなんてその程度だったのかなって」
「ち、違う! それは断じて違うぞ!」
「だったら早くこっち来て隣に座って」
「くっ……!!」
クラマがソファの隣まで歩いてきて、立ち止まる。
目を細めて「ぐぬぬ……」とか言ってるのが可愛いからこれくらいで許してあげよう。
「まぁいいよ。でもさ、何もしなきゃ事態は好転しないでしょ?」
「だからと言って俺達に何ができる?」
「そりゃー勿論修行でしょー♪」
「お、おいユキナ……まさか本気でこの世界を救うと?」
クラマが額に汗を浮かべた。この世界に来てから見た事のないクラマが沢山見れて嬉しい。
「な、何を笑っているんだ。笑い事じゃないだろう!?」
「姫、僕にも魔法の使い方ってのを教えてもらえないかな?」
「えっ、私は構いませんが……」
姫は僕とクラマのやり取りをソワソワしながら見つめていた時に急に声をかけられて吃驚したように上ずった声をあげる。
ここはファンタジーの世界だ。
僕達は勇者として異世界に召喚された。
そんなの自分の可能性試してみたくなるよね?
もともと僕は小さい頃から漫画もアニメもゲームだって好きだったし、ファンタジー小説なんて部屋が埋め尽くされる程読んできた。
自分が魔法使えるかもしれない状況にいるのに試さないのは男じゃ無いって!
……あ、今女だったわ。
「馬鹿な……俺達に魔法なんて使えるわけないだろう?」
「クラマは黙ってて」
僕に怒られたのがショックだったのか言葉を無くしてこちらをチラチラ見るだけの置物になってしまった。
「初歩の初歩からでいいから教えてよ。もしかしたら勇者としての力に目覚めるかもしれないよ?」
本当にそうなったらテンション上がるんだけどね。
姫はごくりと喉を鳴らして、一度深呼吸をしてから「分かりました」と深く頷く。
「まずは水を生み出す魔法にしましょう。魔法の才能がある子供に最初に教える魔法です」
掌から水を生み出す魔法らしい。
空気中の水分を凝縮して水を生み出すのかな? とか科学的な事考えてたら全然違うっぽい。
ファンタジー世界に常識は通用しないって事ね。
本当に初歩の魔法。ただ水が出るだけ。
でもそれを鍛えていけば強力な水魔法も使えるようになるらしい。
「なるほど……それが出来れば魔法の才能があるって事なんだね♪」
ちょっと楽しくなってきたぞ……!
「ふん、馬鹿馬鹿しい」
そんな事を言って横槍を入れてくるクラマを睨みつけて黙らせ、姫に続きを促した。
今いいとこなんだから黙っててよね。
「最初は掌で器を作る感じで……」
「こうかな?」
水を掌で掬うような形を作る。
「上手です。次は、その掌の中に水が入っていると強くイメージしてください。自分の身体の中から水が湧き出るイメージでも大丈夫です」
自分の身体から水が出てくるって発想がちょっと怖いんだけど……できるかな?
掌に意識を集中させて……。
僕の身体の中に未知の力、魔力が眠っていると仮定して、それを掌へと集めていくイメージ。
こんなの子供の頃よくやった気がする。
小さい頃は本気で魔法が使えるようになると思って必死に練習してたなぁ。
中学くらいになってもたまに部屋でやってたのは秘密。クラマにも教えてあげない。
んっ。
なんだか身体が熱い。これは、気のせいじゃ……ない。
これを掌に、集中……水、水……水が掌から湧き出るイメージ。
出来る。僕は魔法を使える……!
そしてその日、僕の初めての魔法が成功した。
幼い頃夢見た魔法を、実際に使えた事がとても嬉しい。
間違いなく水が掌に溜まっている。
「ユキナ様、やはり貴女には魔法の才能が……!」
「なんだと!?」
驚く姫とクラマ。
「えへへ~♪ 見て見てクラマ! 僕魔法使えたよ!!」
「……本当に、水が出てるな……。こんな不可解な事が実際に起こる物なのか? いや、既にここは異世界で……くそ、頭が痛い」
「大丈夫? でも僕にも出来るんだからクラマだったきっともっともっと上手にできるよ♪」
はしゃぐ僕を見てクラマがふっと笑った。
この世界に来て初めて見る笑顔だった。
「そんな外見になってもユキナはユキナなんだな……」
「ど、どういう意味さ」
「正直まだその見た目には慣れん。こればかりは生理的な物で、嫌悪感すら感じる」
「……ひどすぎじゃない? 泣くよ?」
さすがにそこまで言われるとショックなんだけど……。
「しかしお前がユキナなのは間違いなさそうだ。明るくはしゃいでいるお前は……どんな姿だろうとやはり可愛いな」
「なっ……」
爆発した。
脳味噌も心臓も一瞬で爆発した。
掌から出てた水も爆発した。
突然掌から巨大な水柱が迸り、城の天井を貫通して大穴を開けた。
もう少しで自分の顔面を持っていかれる所だった。
「……ご、ごめんなさい」
僕の隣で腰を抜かしひっくり返って、恐怖に歪んだ表情の姫にかけてあげられる言葉はそれしかなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
改めまして、こんなニッチな作品をお読み頂きありがとうございます!
普段から作者の作品を読んで下さっている方、いつも感想など本当にありがとうございます! 今後ともよろしくお願い致しますm(__)m
0
お気に入りに追加
262
あなたにおすすめの小説
気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。
sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。
気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。
※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。
!直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。
※小説家になろうさんでも投稿しています。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
眠り姫な私は王女の地位を剥奪されました。実は眠りながらこの国を護っていたのですけれどね
たつき
ファンタジー
「おまえは王族に相応しくない!今日限りで追放する!」
「お父様!何故ですの!」
「分かり切ってるだろ!おまえがいつも寝ているからだ!」
「お兄様!それは!」
「もういい!今すぐ出て行け!王族の権威を傷つけるな!」
こうして私は王女の身分を剥奪されました。
眠りの世界でこの国を魔物とかから護っていただけですのに。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
エーリュシオンでお取りよせ?
ミスター愛妻
ファンタジー
ある男が寿命を迎え死んだ。
と、輪廻のまえに信心していた聖天様に呼び出された。
話とは、解脱できないので六道輪廻に入ることになるが、『名をはばかる方』の御指図で、異世界に転移できるというのだ。
TSと引き換えに不老不死、絶対不可侵の加護の上に、『お取り寄せ能力』という変な能力までいただいた主人公。
納得して転移した異世界は……
のんびりと憧れの『心静かな日々』を送るはずが……
気が付けば異世界で通販生活、まんざらでもない日々だが……『心静かな日々』はどうなるのか……こんなことでは聖天様に怒られそう……
本作は作者が別の表題で公開していた物を、追加修正させていただいたものです。その為に作品名もそぐわなくなり、今回『エーリュシオンでお取りよせ?』といたしました。
作者の前作である『惑星エラムシリーズ』を踏まえておりますので、かなり似たようなところがあります。
前作はストーリーを重視しておりますが、これについては単なる異世界漫遊記、主人公はのほほんと日々を送る予定? です。
なにも考えず、筆に任せて書いております上に、作者は文章力も皆無です、句読点さえ定かではありません、作者、とてもメンタルが弱いのでそのあたりのご批判はご勘弁くださいね。
本作は随所に意味の無い蘊蓄や説明があります。かなりのヒンシュクを受けましたが、そのあたりの部分は読み飛ばしていただければ幸いです。
表紙はゲルダ・ヴィークナー 手で刺繍したフリル付のカーバディーンドレス
パブリックドメインの物です。
天然人たらしが異世界転移してみたら。
織月せつな
ファンタジー
僕、夏見映(27)独身。
トラックに衝突されて死にかけたものの、どうにか腰痛が酷いくらいで仕事にも復帰出来た。
ある日、会社にやって来たおかしな男性に「お迎えに参りました」なんて言われてしまった。
まさかあの世ですか? やっぱり死んじゃうんですか? って動揺するのは仕方ないことだと思う。
けれど、死んじゃうと思ったのは勘違いだったようで、どうやら異世界に行くらしい。
まあ、それならいいか。と承諾してしまってから気付く。
異世界って何処?
温和な性格に中性的な顔立ちと体つきの綺麗なお兄さんである主人公。
男女問わず好意を持たれてしまうので、BL要素あり。
男性に「美人」と言うのは性転換してることになるそうですが(そう書き込まれました)男女問わず綺麗な人を美人と表記しています。他にも男性には使わない表現等出て来ると思いますが、主人公は男性であって、自分の性別も分からない白痴ではありませんので、ご了承下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる