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第1章:押し倒されて始まる異世界生活。
第2話:なんだか早速うまくいかないよ?
しおりを挟む「つまり、今他の街とはまったく連絡が取れないんだ?」
「はい。現在このシュバルツ城がある王都ジャバルは見えない壁のような物に覆われ隔離されている状態なのです」
完全に閉じ込められちゃってるのか……。
……僕達はこの世界を救う勇者として召喚されたらしい。
まだ夢かなって疑いたくなるけど、自分の身体がこんな事になってるのは間違いないし、何度ほっぺたをつねっても痛いだけだった。
どうして僕の姿が女の子になっちゃったのはこの人達にも分からないみたい。
ちなみにこのドレスの女の人はここのお姫様だった。王様はずっと前に亡くなって、今は姫が代わりに国を統治しているんだってさ。
「私共の国はそれぞれの街で最低限自給自足が出来るようになっておりますのでここジャバルも食糧難などにはなっておりませんが……」
この街の人達を外に出さないようにする事が目的なのかな? それとも誰かをここに入れないようにする為?
どちらにしても魔物達にとって隔離していた方が都合がいいって事なんだろう。
魔物っていうと人間を食べたりするのかなって思ってたから閉じ込めるだけっていうのは不思議だった。
「数年前新たな魔王が誕生した、という情報だけは入っているのですが、それからというもの魔物達がおかしな動きをするようになったのです」
「おかしな動き?」
「はい。街を封鎖し始めたんです。ここジャバルと同じように二つ程街が隔離されているのを確認しております。ここが隔離されてからは他の街の事は分からないのですが……おそらく他の街も同じではないかと」
なるほどなぁ。でもちょっと待って。それだと困った事になっちゃうよね?
「もし僕達が本当に勇者だったとしてさ、ここから出られないんじゃ意味なくない?」
「……それについては調査をしてみないとなんとも言えないのです。勇者様なら出られるのでは、という楽観的な事をいう者もおりますし、不可能であれば何か方法を考えなければいけませんし」
僕としてはファンタジーな世界を冒険してみたいって気持ちは結構ある。
だけどそれって実力が伴ってなかったら死にに行くような物だよね。
少なくとも今の僕が魔物なんかと戦ったらすぐに殺されちゃう気がする。
「とんだ見切り発車だな。出られなかったら俺達は一生ここに閉じ込められたままになるのか? 勇者なら出られる? お前たちは俺等に何を期待しているんだ。別の世界で暮らしていただけの一般人だぞ?」
意識を失ったクラマを客室に運び込み、そこで姫と話をしていたクラマが目を覚まし、ベッドから起き上がって部屋の隅で文句言ってる。
距離取りすぎじゃない?
「クラマ、とりあえずこっち来て座りなよ」
「断る」
せっかく二人掛けのソファがあるのに。
まさかクラマが気絶するほど女性がダメだったとは思わなかった。むしろ今までよく生きてこられたよね。
……はぁ、せっかく女の子になれたのになぁ。
クラマを見ていると彼もこちらをチラっと見て、目が合うとすぐに逸らす。
なんなんだよ……。
「その、お二人は本当に特別な力などは……」
「無いと思うよ」
「無いな」
僕達の答えに姫が肩を落とした。なんだか申し訳ない気持ちになったけれどこればっかりはどうしようもない。
「その、ちなみに魔法などはまったく……?」
「えっ、この世界は魔法があるの!?」
凄い! 本当にファンタジーの世界だ。
そう言えばそもそも異世界から召喚されて来たんだし、街が隔離されてるのもそうだし、魔法があってもおかしくないよね。
「……という事は魔法も使えないのですね。困りましたわ……」
「ふざけるな。困っているのはこっちだぞ? 姫だか異世界だか知らんが俺達を早く元の世界に戻し、こいつの姿を元通りにしろ!」
クラマはこっちに来てからずっとイライラしてる。こんなに感情的な彼は本当に見た事がないなぁ。
僕が中学の頃少し虐められた時ですら冷静にクラスメイト達を理路整然と罵倒して結局いじめを無くしちゃったし。
乱暴ないじめっ子がクラマにつっかかって来た時も一発顎にスパンっと掌底入れてノックダウンだったし。
彼にとってはきっとそれらは焦るほどの事でも無かったんだろう。
「……元の世界に戻る方法に関する記述を見つけるには見つけたのですが……」
「なんだと? なぜそれを早く言わない。あとはユキナの身体だけだな」
「いえ、それが……古文書によりますと召喚された勇者は魔王を倒し世界に平和をもたらすと光と共にあるべき場所へ帰った、と」
クラマが「糞がッ!」と吐き捨てて壁を叩く。
「ねぇクラマ。元の世界にそんなに未練があるの?」
正直言うと僕にはあまりなかった。
両親も既に他界しているし、ファンタジーな世界で生きていくのも悪くないと思い始めている。
なにより、今までのような柵が無い世界なのが大きい。勿論危険な世界なのは問題だけれど……。
クラマにとっては将来を約束された環境もあるし家族もご顕在だから僕と違って当然だけどね。
「勘違いするな。未練などは無いさ。しかし戻らなければユキナがずっとそのままだろう? それでは困る」
まっすぐな瞳が僕に向けられているのを知って軽く感動した。真剣に僕の事を考えてくれてるんだ。
「あの、その事なんですが……」
姫がクラマの顔色を窺いながら控えめに手をあげる。
「なんだ?」
「おそらくなのですがユキナ様の姿が変わったというのは召喚とは無関係のように思います。どちらかというとユキナ様が聞いたという声の方に問題があるのではと」
僕はクラマが気を失っている間にあの女性の声の事を相談していた。
「……声?」
「えっと、僕があの時……いっそ女の子なら良かったのにって思っちゃったんだよね」
「何を馬鹿な事を……まぁいい。それで?」
「そしたら、その願い叶えてあげますとかいう声が聞こえてきて……」
クラマが額に手を当てて呻く。
「じゃあ何か? お前がそう望んだから神か何かがそんな姿にしたと?」
「神様かは分からないけど、その可能性が高いんじゃないかなって」
「……はぁ。この世界を救わなければ元の世界には戻れず、神だか知らんがそいつをどうにかしないとユキナは元に戻らない、だと……?」
クラマはその場にしゃがみ込んで頭を抱えてしまう。
こんなふうに苦悩している姿を僕は見た事が無い。
「あのさ、いっそクラマが女の子嫌いを克服する方が現実的じゃない?」
「……じ、冗談はよせ。早まるな」
さっきまでとは一変してクラマの顔が真っ青になったのを見て、複雑な感情が湧き上がる。
そんなに嫌なの?
っていう苛立ちもそうだけど、
こいつ可愛いな。
って感情の方が上回ってしまった僕は多分どうかしている。
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