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親友が異世界召喚からのTS勇者で魔王倒して帰って来たけど体が女のままだから恋愛対象どっちにするか迷ってるらしいが知った事じゃねぇ!
しおりを挟む学校から帰ってくると俺の部屋に美少女が居た。
長い黒髪。日本では売ってなさそうな民族系の服。整っていて、少し幼さの残る愛らしい顔。すらりとした足。丈の短いワンピースからチラチラ見えるふともも。あとふともも。ふともも。
「あの……どちら様」
「秋彦ぉっ!!」
部屋に入るなりその美少女が俺に向かってダイブしてきた。のでかわす。
開けっ放しの扉を通り抜け廊下の壁に顔面から思い切り突っ込んでしまった美少女に俺はなんて声を掛けたらいいの?
「なんか、その……ごめん」
「なんで避けるかなぁっ!? 帰ってきたら俺の家違う人が住んでるしどういう事なの!?」
「ちょっと待て、君が何を言ってるのかわからん」
「だから俺だよ! 茜だよ!」
……俺の親友に中善寺 茜という男なら居たがこんな美少女は知らん。
「聞いてくれよ! 俺急に異世界に召喚されて、気が付いたら女の姿になってて! 勇者として魔王倒してくれっていうからめちゃくちゃ頑張って倒したんだよ! 旅の中でめちゃくちゃ可愛い女の子を沢山はべらしてハーレム状態になったのに体が女だからくっそぉぉぉっ!!」
「待て待て待て。落ち着いて話せ。何を言ってるか全くわからん」
「だからっ! 俺は女の子になって異世界で勇者やって魔王倒したんだよ! そしたら急にこっちの世界に帰ってきて……くそぉ……まだ手を出してない子だって居たのに!!」
どうやら頭が残念な子のようだ。
どうしよう。できれば関わりたくない。
「でな、帰ってきたから自分の家に帰ったら違う人が住んでんの! あれどうなってんの!? うちの親父とおふくろはどうしたのさ!?」
「……君の家ってどこよ」
「だから秋彦の隣のすぐそこの家だってば! お前まですっとぼけんのかよ!」
……そこは俺の親友だった茜の家だ。
「君……あかねちゃんだっけ? そこの家は俺の親友が住んでた家だ。それにもう二年行方不明で家族は実家に帰ったよ。んで今は違う家族が住んでる」
正直言うと、軽くムカついている。
俺だって茜が行方不明になって、探しても探しても見つからなくて……事件に巻き込まれたり殺されたりしたんじゃないかって本当につらい思いをした。
それをやっと、少し気持ちが落ち着いてきたと思ったらこんな闖入者がバカげた事を言って俺を攪乱してくる。殴ってやりたい。せめてすぐに出てってほしい。
「……俺行方不明って事になってんの……? 待って、ほんとに……? まじかよ……」
「分かったらさっさと出て行ってくれないか? 俺は宿題やらなきゃならん」
「待ってくれ秋彦! 俺は茜だ! 信じてくれよ……!」
まだそんな事言ってるのかこいつは。
「証拠を見せろ」
「証拠って……そうだ、俺達の合言葉を……」
「彼女いる奴」
「ぶっ殺す!」
「ハーレム王に」
「なりたいな!」
……どうした事だ。
確かに俺達の合言葉を完璧に言ってのける。
しかし、このくらいの事茜本人から聞いていた可能性だって……。
「なんだよまだ信じてくれないのかよ! だったら秋彦が前に雪ちゃんに送ったラブレターの内容でも読み上げてやろうか!?」
「……お前、なんでそんな事を……」
巽 雪という女の子が居る。
俺と茜と雪は三人幼馴染でよく一緒に遊んだ。確かに俺は雪の事が好きでラブレターの内容を茜に一緒に考えてもらった事がある。
小学生低学年の頃の話だが。
「拝啓、雪ちゃん。今日はいい天気ですね。まるで今の僕の心のように澄み渡っています。雪ちゃんはいつも可愛くて僕の心はいつだって君に夢中です」
「や、やめろ……!」
「そんな雪ちゃんに言いたい事があります。どうか、どうか僕と」
「やめろって言ってるだろ!!」
「セフレになってください☆」
言いやがった……。こいつ、俺の最大の黒歴史を……!!
「あの時はごめんな? この文章考えた俺にも責任があるよ。あの時はセフレってめっちゃ仲のいい友達の事だと思ってたからさ」
目の前の少女はちょっとだけ申し訳なさそうに言った。
「わ、分かった……お前が茜だっていうのは頑張ってかろうじて信じてやらんくも無い。しかし異世界召喚とか言われても……」
俺の言葉を聞いて、少女は俺のベッドから枕を取ると、窓を開けて思い切り外へ投げた。
「おい! お前何してんだ!!」
「ギバクロス!」
宙を舞う枕に彼女が掌を向け、そう叫ぶと一瞬にして枕は見えない力に切り裂かれ、中の羽毛がゆっくりと空に広がった。
「……う、嘘だろ……」
「信じてくれたか? これは俺が向こうの世界で手に入れた力だ。魔法はまだまだいくらでもあるぞ? なんならこの家を一瞬で消し炭にしてやろうか?」
冗談じゃない。こんなのは非常識すぎる。
だが、俺もそろそろ諦めるしかなさそうだ。
「本当に、茜なのか……?」
「おうよ。俺が二年前に行方不明になったって言ってたよな? だったらお前は今高校生なのか? 雪は?」
「雪も俺と同じ高校に通ってる……というか今は俺の彼女だ」
「マジかよ!? だって雪は……」
そう。幼馴染の雪は俺がそのラブレター事件の後にも何度も告白していたが、俺は毎回見事にフラれていた。
理由はいつだって同じ。
「ごめんなさい……私、茜君が好きなの……」
「てめぇ雪を寝取りやがったな!?」
「寝取ったとか言うな! お前が急に居なくなって、お互い辛い思いをしてたんだ。理解しあえるのは俺達二人だけだった」
「なるほど秋彦はそうやって雪の弱みに付け込んだってわけか」
「人聞きの悪い事言うんじゃねぇ!」
まぁ、確かに雪と付き合うには今しかないと思ったのは確かだ。
だから俺は茜に後ろめたい感情だってある。
だけど……だけど!
「お前今どう見たって女じゃねぇか!」
「ハッ!?」
なにその今気付きましたみたいな反応!
「確かにそうなると恋愛対象……いや、肉体関係対象をどちらにするかが大問題だぞ」
知るか。
「いや、俺はあっちで女の身体でも何人もの女を手籠めにしてきた……! 何も問題はないッ!」
「最低通り越して殺してやりたいわっ!」
こいつ、異世界召喚だかなんだか知らないがあっちで思い切り楽しんでたんじゃねぇかよ!
何人もの女を? 手籠め!?
うらやましぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!
「よし俺は決めた! 俺はこっちで元の身体を取り戻す! そしてハーレムを作るのだ!」
「待て待て。お前は元の身体を手に入れる方法分かってるのか?」
「勿論だぜ! 今までは出来なかったがこちらに帰ってこれたなら俺は元に戻れるぞ! その為にはお前に協力してもらう事になるからよろしくっ!」
こいつは……何を言ってるんだ。
元の身体に戻る方法が分かっているとして、何故俺がそれに強力しなきゃならない。
「雪を寝取ったんだからそれくらい許容しやがれ」
……それを言われると辛いが……しかし……。
「なぁ頼むよ。協力してくれたら乳くらい揉ませてやるからさぁ」
茜が長い黒髪をなびかせながら俺の腕に絡みつき、胸を押し当ててくる。
ぐっ! そんな誘惑には……屈しな……や、やわらか……いっ!
「ねぇ。居るんでしょ? 入るよー? 誰と話してるの?」
窓を開け放って茜と大騒ぎしていたから外に声が漏れていたのだ。
まずい。
今日は、雪が家に……!
「ねぇってば! ……秋君……その子……誰?」
ヤバいヤバいヤバい!
誰がどう見たって浮気現場じゃん!!
「お、おい雪……これには訳が、こいつはあか」
「茜君!?」
……へ?
これには茜本人も驚いたみたいだ。
「なんで俺が茜って分ったんだ?」
「分かるよ! そんなの、好きな人の事なんて姿が変わっててもすぐに分かるよ! だって女の子の姿をしててもその目と目の間隔、瞼から眉までの距離、驚いた時にネコの威嚇みたいになるその手の癖! 分かるに決まってるじゃん!!」
……死にたい。
雪はもう完全に茜しか見ていない。
俺の目の前でどうどうと、好きな人、と言い放ってるしストーカーじみた観察眼を披露している。
「という訳で秋君、別れてくださいっ!」
「ざけんなゴルァっ!!」
「おいおい。男の嫉妬は醜いぞ? こいつは俺の事をずっと好きでいてくれて、こんな姿になっても気付いてくれたんだ。どう考えたって結ばれる運命だろ?」
そうかもしれないけどっ! そうかもしれないけど俺の立場はどうなるんだっ!!
「ねぇ茜君、どうしてそんな姿に? 今までどこに行ってたの? 元の姿には戻れる?」
ダメだ。雪は俺の事なんか既に眼中にない。
俺の気持ちとかどうでもよくて、茜に夢中なのだ。
そりゃそうだろう。そこまで好きと思い続けた相手が帰って来たんだから。
……いや、ちょっと待て。
「でもそいつ今女だぞ?」
「戻れるんでしょ?」
俺の方とチラリとも見ずに雪は茜に問いかける。抱き着きながら。
「あぁ、勿論元に戻れるさ。……でもな、一つだけ分かってほしい事がある」
「なぁに?」
「俺は元の身体を手に入れたらハーレムを作る! 雪はそれでもいいか? 勿論誰よりも愛する事を約束するぞ」
いいわけねぇだろ馬鹿なのかこいつ。
「いいよ♪」
「うっそぉぉぉぉ!?」
「なんかさっきから元彼がうるさいんですけどぉ?」
一瞬で元カレ扱い。しかも態度冷たすぎんか?
泣くぞ?
「雪、そんな事言うな。こいつは俺の親友だし、何より……」
「な、なんだよ。」
茜は雪の腰に手を回しながら俺を見つめる。
「こいつも俺のハーレムの一員なんだからな」
「うっそぉぉぉぉぉぉぉ!?」
なんでそうなるの!? バカなの!?
「俺男じゃん!!」
「お前は今の俺の外見どう思う?」
……どう思うって……そりゃ……。
「めっちゃ可愛いけど……」
「だったら大丈夫だ。キスしようぜ」
なんでそうなるの!? バカなの!?
「えー? 雪としようよ?」
「雪とするのはこいつの後だ。可愛がってやるから……な、協力してくれよ」
「うん♪」
うん♪ じゃねぇだろうが!!
「ハッ!?」
取り乱している間に雪がドアの前に立ち退路を塞ぐ。
「ねぇ……あ・き・く・ん♪」
なんだかいつもより色気が何倍も増した目で俺に迫ってくる。
雪が、俺に……っ!
「……えっ?」
「今よ茜君! やっちゃって!」
俺は雪に羽交い絞めにされていた。
抵抗しようとしたが、思いのほか力が強い。
「さぁ、覚悟しろ。美少女とキスできるんだありがたく思えよ」
「や、やめろ……!」
「実はな、俺がこの体になったのは呪いのせいなんだ。……本当に信頼している相手とのキスでそれは解除される。これは本当の話だ。信じてくれ。そして俺を男にしてくれ!」
し、信じてやってもいいがその「男にしてくれ」っていうのやめて! 怖い!!
で、でも……中身が糞野郎な茜だったとしても!
今はどうみたって美少女!
だからキスくらい……キスくらいなら……!
いや、ちょっと待て。
呪いが解けたらキスした状態で男に戻るって事だよな!?
「や、やっぱりいや……」
俺の言葉はそれ以上紡ぎ出す事ができなかった。
茜が俺の顔を両手で掴み、少し背伸びをしながら俺にキスをした。
父さん、母さん……ごめんなさい。
雪ともまだした事なかったのに……。
パァっと茜の身体が光に包まれ、俺のよく知っている姿になった。
「ぷはぁっ……ほ、本当に……呪いが解けたのか?」
「茜君おかえりなさいっ♪」
そして二人は俺の目の前で濃厚なキスをぶちかましやがった。
うらやましぃぃぃぃぃぃっ!!
うらめしぃぃぃぃぃぃぃっ!!
「……も、もう用はないだろう? さっさとどっかいけよ! もう俺の前に姿みせんな馬鹿野郎!!」
俺はめちゃくちゃ惨めな気持ちだった。
こいつらが居るともう自分を保てそうにない。
「何言ってんだよ。言っただろ? お前も俺のハーレムの一員だってな」
「何を馬鹿な事を言っ……て……?」
ふと、自室の鏡が目に入る。
そこに映っている一人の男と二人の女。
男は茜。
女は雪。
……と、誰か。
「……は?」
「さっき少しだけ嘘をついた。俺にかけられた呪いは、本当に信頼している相手に女体化を押し付ける事で解除される」
「はぁぁぁぁあぁぁっぁぁぁぁぁぁっ!?」
「秋君……ううん、もう秋ちゃん、かな? 可愛いよ♪ 私、秋ちゃんとなら仲良くなれるかも……♪」
そう言って雪が俺の手を握った。
「すっごく可愛い。秋ちゃんとなら……いろんな事してみたいな……♪」
……マジで?
え。いいの?
そういうのアリなの?
だったらこれはこれでいいかも……。
「おお、雪も秋彦……秋ちゃんの事を気に入ったみたいで良かったぜ! じゃあ今からさっそく……」
……ん?
ちょっと待って。
待て待て待て。
いや、それは違うだろ。
嘘だと言ってくれ。
「今から三人で楽しもうかっ!!」
「いやだぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっ!!」
ちなみに、心から信じている相手とのキスで解除されるのは俺も同じらしい。
だが、俺には当分人を信じる事ができそうになかった。
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