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第454話:素顔。

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「えー、まず事の始まりはヴァル様が神域に嫌気がさして飛び出した事が始まりなんだけど。少々長くなるけどご了承願いますよ?」

 リュカっちはこちらにジト目を向けながら溜め息をつき、嫌そうに語り出した。

「ヴァル様は神域最高神として長く君臨してたんだけどね、ある日突然何もかもが嫌になって飛び出したんだよ」

「最高神……!? ヴァルゴノヴァは、イシュタリアの神ではなく神域の中でも最高神だったというのですか!?」

「そう、その通り。まったく迷惑な事だけどね、この無責任なヴァル様は突然全てを放り出してイシュタリアを創造し、自分をわざわざ七つに分離したわけさ」

 そこでギャルンがすかさず聞き返す。まぁそこはおかしいと思う所だよな。

「七つ……? 六つではなく、ですか?」

「そう、正確には八つなんだけどね。まぁアレは戻らなくて正解でしょう」

 そのもう一つってのは勿論イヴリンだ。イヴリンに関しては切り離したい部分でもあったから別にいい。ちょっと可哀想ではあるけれど。

「ヴァル様は自分を魔、力、硬、智、見、癒の六つ、そして精の七つに分割したんだよね。六つまでは君も知っての通りの六竜って奴になった。もう一つの精……つまりヴァルゴノヴァの精神は勝手に新たな命として生まれて、死んで生まれ変わって、死んでまた生まれ変わって……ってのを延々と繰り返してきたんだよ」

「なんと……まさか、それでは……」

「そのまさかってやつさ。君の言うミナトってのはそのものズバリ、ヴァル様の精神が転生した物だったわけだ」

 これにはギャルンも驚いたらしい。自分のミスに気が付いたんだろう。突然笑い出した。

「く、くくく、ふははははは! なんという事でしょうか……私は何故人間如きの精神がヴァルゴノヴァの身体を支配できたのか不思議で仕方ありませんでした。仮説としてイルヴァリースやカオスリーヴァと同化した事で魂も六竜の欠片として認識されたのかと思っていましたが……いやはや元々ヴァルゴノヴァの精神そのものだったとは……ミナト氏も人が悪い」

「んな事言われたって俺だって知らなかったんだからしょうがねぇだろうが。俺の身体をベースにヴァルゴノヴァ復活させる! なんてなった時は焦りまくったもんだぞ。あの時の俺の絶望感をどうしてくれるんだ」

 本当にあの時は終わったと思った。
 ヴァルゴノヴァとして蘇ってもなかなか実感が湧かなくて自分が何者なのか思い出すのに時間がかかってしまったけれど、これが本来の俺の姿だ。

「ともかく、私達が必死に仕事をしているというのに勝手に逃げ出して余計な力は分割し、魂だけは普通の人間として生まれ変わって楽しんでるヴァル様にとてつもなく腹が立ってね、私は一計を案じたってわけ」

「危うく騙されて殺される所だったぜ」

「殺しはしませんよ。どうせ殺したって死にはしないんだから。だから上手く言いくるめて次死んだらその魂を回収して神域のエネルギー源として使ってやろうと思ったんだけど……」

「お前さぁ、俺が六竜の一人イルヴァリースと同化したからって焦りすぎだろ。キララを送りこむのはマジやりすぎだから。しかもめちゃくちゃに能力盛りやがって……俺がどれだけ苦労した事か」

 リュカっちは俺が完全復活するのを恐れてさっさと殺し、魂を回収しようとしたんだ。ほんとに腹立つ奴だぜ。

「それは自業自得でしょ? 一人で遊び惚けてたんだからそれくらいいいでしょうが。それに復活するなんてヴァル様だって望んでなかったでしょ」

「そりゃそうだけどよ、あんな陰湿なやり方で俺を追い込もうとしたのはちょっと許せねぇよなぁ」

「ご、ごめんて」

「ごめんで済ますんじゃねぇよ……まぁいいさ。とにかくそういう訳だから」

 これでギャルンにもある程度の事情が把握できただろう。

「なるほど……大体の事は理解しました。元々私はとんでもない相手に喧嘩を売っていたんですね」

「しかもよくよく考えりゃお前も俺の一部なんだぜ? ママドラ……イルヴァリースに言われたよ。君にちょっと似てるわねってさ」

「私が……ミナト氏に、ですか?」

「ああ、その時は一緒にすんなって言い返したけど、確かによくよく考えりゃお前も俺の一部だわ。気に入らねぇけどそれは認めるよ」

「私が……ミナト氏の……ヴァルゴノヴァの一部……」

 ギャルンは何故か俯き、黙り込んでしまった。

「なんだよ。俺の一部じゃ不満か? だったら言い直してやるよ。お前は神竜ヴァルゴノヴァの一部だ。もしお前が望むのなら……」

「再び一つに、ですか?」

 俺が言おうとした事を察したのかギャルンが首を横に振る。

「やめておきます。私が神域の最高神の一部だった……その事実だけで満足ですよ。後は煮るなり焼くなり好きにして下さい」

 なんだよこいつやけに諦めがいいな。
 というかその満足げな感じがマジで腹立つんだけど。

「しかし……そう考えると私達はずっと自分を相手に小競り合いを続けていた事になりますね。なんと愚かで、滑稽な事でしょうか」

「確かにお前はムカつくし今まで散々酷い目に合わされたしぶっ殺してやりたいと思った事は何度もあるけどよ……お前が俺の中に入って来た時に分っちまったんだよ」

 ギャルンは俺の顔を見上げ、「やめて下さい」と呟いた。
 それはお願い、というよりも懇願だった。

 でも俺はこいつの事が嫌いだからやめてやらない。

「お前の本当の望みってやつがな」

「……」

「お前も人並みに悩む事があるんだな? なんだかちょっとだけ親近感が湧いたよ」

「だったらなんだというんですか。叶わぬ望みなど持っていても辛いだけです」

「でもお前は諦めきれずにいる。そうだろ?」

「なんでもお見通し、というのはやりにくい上に腹が立ちますね……」

 ギャルンが諦めたように俺の掌に座り込んだ。

「そう、ミナト氏の言う通りです。これで満足ですか? 今まで貴方を苦しめた私を追い込む事が出来て良かったですね」

「なに拗ねてんだよ。可愛いとこあるじゃねぇか」

「それはミナト氏がっ……はぁ、もういいです。好きにして下さい」

「おう、じゃあ好きにすっからよく聞けよ?」

「はぁ」

「お前は最高神ヴァルゴノヴァの一部であると同時に力のカオスリーヴァの分体だ。その中身が空虚なわけねぇだろ。敵としても最高にめんどくせぇ奴だったし大したもんだぜ。この俺ミナトが、数々の人生を送ってきた俺達が、そして最高神ヴァルゴノヴァが認めてやる。お前はすげぇよ。だからもう自分が空っぽだなんて言うな」

「……はは、ミナト氏にそんな事を言われた所で嬉しくもなんとも……」

「じゃあなんで泣いてんだよ」

 ギャルンの仮面はもう無い。漆黒の頭部には、カオスリーヴァとも少し違う整った顔が現れていた。

「な、泣いてなど……み、見ないで下さい!」

「照れんなって。お前の今の顔がその証拠だ。お前は空っぽなんかでも虚ろでもなんでもない。立派なギャルンっていう気に入らねぇ野郎だよ」

「バカですか貴方は……そんな事言われて、誰が喜ぶんです……?」

 そんな風に悪態をついたギャルンは、妙に端正で腹の立つ顔で、涙を隠すように顔を背けながらも……笑っていた。

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