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第420.5話:人生何が起こるか分からない。(タチバナ視点)
しおりを挟む俺はこの世界に生まれた時から、赤ん坊の時から既に前世の記憶を持っていた。
何の変哲もない家庭の普通の子供としてこの世界イシュタリアに転生した。
胸が高鳴った。
まだおぎゃあとか、あー、うー、しか言えない幼い身体が未知への期待と希望に包まれていた。
しかし俺が生まれた村は本当に何もない場所だった。
剣も魔法も必要としない連中がひっそりと生きているだけ。
クワを持って毎日畑を耕すだけの日々。
何の為に俺は前世の記憶なんて持って生まれてしまったんだろう。
これなら何も知らずにこの環境で生まれた方が父や母、家族、集落自体を好きになれたかもしれないのに。
俺にとっては何もかもが不便で不自由で……まるで篭に放り込まれた虫けらのような気持ちだった。
異世界なんてこんなものかと諦め始めた頃、俺が暇つぶしに作った玩具……今思えばただのガラクタだが、それが周りで評判になった。
出来の悪いけん玉のような物だった気がする。
それからはいろんな物を作った。
細工箱だったり、ルービックキューブなんかを組み上げた時はさすがに達成感を感じられた思い出がある。
この世界に有る物だけで、この集落で得られる物だけで。
そんなちっぽけな物でも何かを生み出す達成感というのは俺の心を震わせた。
俺はこの世界に来る前、建築技師なんかじゃなく科学者だった。
それなりに名は通っていたし、新たな理論を組み上げればそれが実現可能な機械を組み上げる。
それらを一人でやり続けた結果、多くの賛同者を得る事が出来たしスポンサーだってついた。
大きな研究所を持つまでになったが志半ばであっさりと死んだ。
だから飛行機なんて嫌いなんだ。
人の作った物には不備が出る。完璧なんて存在しない。
人が作り出した物はいつかほころびが出る。
俺は運悪くそのほころびに巻き込まれてしまったらしい。
この世界に来てから文明レベルには呆れかえったが、魔法なんて物が存在すると知って胸が高鳴った。
でも生まれた場所が悪かった。
結局魔法なんてものに触れる機会もないまま俺は育ち、ガラクタを作る事で小さな自尊心を満たしていた。
俺が何歳の時だったが……近くの湖に魚を釣りに出かけて、珍しく大漁で……皆を驚かせてやろうと集落に帰った時だ。
俺が珍しくそんな下らない事を楽しみだと感じてしまったせいなのか、単なる偶然か知らないが、集落は滅んでいた。
魔物の群れが住処の移動でもしたのだろうか?
通り道だったらしく集落は滅茶苦茶に荒らされ、父も母も友人も嫌いな奴もみんな食い散らかされていた。
その時、俺は一切悲しいなんて思わなかった。
むしろその時初めて、この世界に生まれた事に感謝した。
だってそうだろう?
日本に生きていたら魔物の群れに襲われて食い殺されるなんて経験は出来ない。
野生の熊なんかが人里に降りてくる事くらいはあるかもしれないがせいぜい被害者は数人だ。
生と死が常に隣り合わせの環境に生きていたんだと初めて実感する事ができた。
俺はその時初めて自由を感じる事が出来た。
その日のうちに瓦礫をひっくり返して荷物を纏め、すぐに旅に出た。
どこかの街で剣を学ぶもよし、魔法の修行をするのもいいだろう。
そう思うと胸の高鳴りが止まらなかった。
しかし現実というのは厳しい物で、俺に魔法の才能は一切なかったし剣技も最低限扱える程度までしか伸びなかった。
だが、リザインと出会う。
彼とは大衆向けの酒場で知り合った。当時は代表などではなく、代表を目指しているその辺のおっさんだった。
酔った勢いで語った俺の与太話に興味を持ってくれたのは彼だけだった。
今思えばリザインが代表になる事を本気で信じられればあんな甘言には惑わされなかったのかもしれない。
しかし、あの時の俺は自分の知識を理解し求めてくれる相手ならば誰でも良かったのだ。
仮にそれがその辺のおっさんだろうと、魔物だろうと、魔王軍幹部だろうと。
ただあのギャルンという魔物は俺の知識に魔法の概念を加える事で俺の想像を超える物を作れるという。
リザインに協力する傍ら、俺はギャルンに手を貸し始めた。
しかし俺の知識と魔法、魔道具のハイブリッド化が成果を出すにつれ俺はそちらにどんどん傾倒していった。
俺はこの世界で、自分の力を発揮できる場所ならどこでも良かった。
俺が作り出した物で国が亡ぼうが人が魔物になろうが知った事じゃなかった。
それなのに……。
どうして俺の前に現れたんだ?
ミナトと出会わなければこんな思いをしなくて済んだのに。
ミナトと出会ってからは悔しい事に毎日が楽しかった。
六竜の知り合いまで出来て毎日慌ただしい日々を送る事になり、俺知識も活用する事が出来た。
でも、もう遅いんだ。
後には引けないところまで来てしまっている。
ミナトの差し出した手を取る訳にはいかない。
俺はミナトに精一杯の強がりを見せるしかなかった。
「……やーなこった」
だってそうだろう?
俺がやって来た全ては俺が興味と好奇心で自ら楽しんでやってきた事だ。
だからさ……もう俺は突っ走るしかねぇんだよ。
開き直ってミナトの敵に回るしか、道なんて残ってないんだ。
だったらよ、楽しまなきゃ損だよなぁ?
俺っち、弱いけどミナトっちを困らせて困らせてせいぜい世界中を引っ掻き回してやるぜ。
屋上から飛び降りたのは勿論死ぬ為じゃない。
ギャルンとの共同開発で完成した転移装置であの場を逃れただけだ。
「ギャルン、ギャルン居るか?」
現在魔王軍本部になっている場所に移動したはいいもののギャルンの姿は見えない。
もうミナトやリザインさんの元には戻れない。
寂しさはあるが別にいい。
そんな事より迷いを断ち切るために何かを作っていたい。
世界が、ミナトが、震えあがるような何かを。
次はどんな物を作ろう。
どんな風に世界を引っ掻き回してやろう。
ああ楽しい。楽しいさ。……楽しいだろ?
なぁ、楽しいよな?
俺っちよぉ、どうしちまったんだよ……。
なんで、くそっ、後悔なんて……。
ミナトの手を取らなかった事がそんなに辛かったのかよ……。
その時、何かがもぞもぞと動く気配を感じ、ギャルンが帰ってきたのかと振り向くとそこには魔王の姿があった。
しかもかなりフラついている。
ミナトとやりあったらしいがそこで深手を負ったのだろう。しばらく休養中だって話だったのにこんなとこで何をしてるんだ。
「おいおい大丈夫かよ……っ!?」
「う、うぅぅ……」
苦しんでいるようなその声を聴いたのが、最後になった。
何をされたのかもなんでそうなったのかも分からない。
唐突な終わり。
いつもそうだ。人生何が起きるか分からない。
突然死んだり、突然異世界に転生したり、そしてまた突然死んだり。
……こんなつまらない終わり方をするのがいかにも俺らしい。
悔しいなぁ。
あの手、とりゃあ良かった。
あぁ、やっぱり俺はもっと早くミナトっちに出会いたかったよ。
そうすりゃあさ。
きっと、きっと。
もっと、もっと、もっと。
楽しい人生になったんだろうなぁ。
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