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362.5話:勇者の願い。(ティリスティア視点)
しおりを挟む私は気が付いたらこの世界に再び生を受けていた。
どうして今更、と思った。
一度生を全うし、馬鹿な死に方をして人生を終えた筈だった。
別に後悔は無かった。
勿論セティには申し訳なかったし、悪いと思っていたし、もう一度会いたいと思っていたけれど……それでも私は死人だ。
それなのに今更どうして?
そんな事ばかり考えていた。
だけど私だって死ぬのは怖い。
一度死を経験しているからこそもう一度死を経験するというのは恐怖でしかなかった。
私は魔物なんかに自分の命を握られ、道具として二度目の生を送る事になる。
しかしミナトに出会った。
彼女は、彼は、ミナトでセティだった。
運命だと思った。
間違いなく、私の心はこの人を求めていた。
私は今度こそセティの為に、ミナトの為に死のうと決めた。
それなのにミナトはそんな私を助けてくれた。
あのギリギリの状況で私を殺さずに、魔物の呪縛からも解き放ってくれた。
私はミナトの為ならどうなったって構わない。
ミナトが好き。
セティだから好きだというのもある。
だけど、それだけじゃない。私はミナトという個人にどうしようもなく惹かれてしまった。
ずっと一緒に居たいと願ってしまった。
死人の癖に。
だから罰が当たったんだと思う。
結局のところ、二度目の生を受けたその瞬間からこの命は魔物の、ギャルンの道具でしかなかったのだ。
ミナトの為に死ねるのならそれでよかった。
死ぬのは怖いけれど、それがミナトの為になるのなら別にいい。
そういう覚悟はできていた。
それなのに。
それなのに私は別の何かになろうとしていた。
この身体は、魔王の物。
セティがミナトであるように、私もまた魔王だった。
苦しい。
死ぬ事以上に、私のせいでミナトを苦しめるのが辛かった。
こんな事ならばもっと早くに死んでしまえばよかったんだ。
私の中に何かが居ると気付いたのはミナトとホタルを見た時。
あの時、私の中に私の知らない記憶が混ざった。
その時は不思議だなとしか思わなかったけれど、それが間違いなくミナトに執着している事に気付いてしまった。
そして、それと同時にミナトにとって害にしかならない存在だという事も。
それからは怯えて過ごす日々だ。
いつ自分が自分でなくなってしまうか。
いつミナトの敵になってしまうのか。
いつミナトを傷付けてしまうのか。
いつ……私が消えてしまうのか。
それでも、ああ、本当に愚かな事に少しでも長くミナトと一緒に居たいと願ってしまった。
死人の癖に。
欲張って幸せを求めてしまった。
ミナトに辛い顔をさせてしまった。
苦しめてしまった。
最期の最期になってまで、私は愚かで、ミナトを苦しめるような事を言ってしまった。
助けて。
自業自得なのに。
すぐにでも自害すべきだったのに。
それでもまだ隣に居たかった。
そのせいで、私のせいでミナトを苦しませた。
意識が薄れ、身体を魔王に乗っ取られながら最後に見たミナトの顔。
驚愕し、取り乱し、嘘だと繰り返すミナト。
私の為に苦しんで悲しんでくれたミナト。
ごめんなさい。
私にそんな資格無いのに。
そんなふうに思ってもらう資格なんてないのに。
隣りに居る資格なんて無かったのに。
愛してもらう資格なんて無かったのに。
幸せを願う権利なんて無かったのに。
欲張って、ごめんなさい。
一緒に居たいと思ってごめんなさい。
好きになってごめんなさい。
苦しめてごめんなさい。
それでも。
それでも私は、あなたに会えて嬉しかった。
僅かな時間だったけれど……。
幸せでした。
願わくば、もっと、ずっと、いつまでも。
一緒に居たかった。
愛してもらえなくてもいいから。
愛していたかった。
でももう私は死人で、魔王で、君の敵。
私の迷いが生んだ君を苦しめる存在。
そんな悲しそうな、苦しそうな顔をしないで。
これ以上君を苦しめたくないの。
だけど、きっと私の今の願いは君を更に苦しめてしまうかもしれない。
でもね、私は過去の亡霊。
君にとって必要のない存在なの。
だから、私の事なんか気にしないで。
忘れて。
これだけ苦しませて勝手だけれど……。
ミナトに初めて会った時と同じお願いをしてもいいかな?
私を、殺して下さい。
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