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第350話:お耽美が歪むシルヴァ。

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「……終わり、ましたか?」

「すっご! みんな強いんですねー? どうです? わらわの部下になっちゃわない?」

 ……はぁ。
 緊迫した戦いが続いた後にリリィのハイテンションは結構辛い。

「ジーナ、頼むからそこのアホ姫様を黙らせてくれ……頭が痛くなる」

「アホ姫とはなんですかーっ! わらわは由緒正しきへぶぼっ!」

 迅速にジーナが対処してくれたおかげでリリィは「きゅう……」とか言って崩れ落ちた。

 相変わらず露骨な擬音を使う女だなぁ。

「その、先ほどの戦い、遠目にですが見させて頂きました」

 マァナが俺から少々距離を取った所から話しかけてくる。この距離感が、警戒心の表れなのだろう。

「事前に聞いていたとはいえ……本当に凄い方々なんですね。感服致しました」

「固い話はいい。それよりマァナに話がある。この国の事で、だ」

 俺はマァナに、ギャルンから聞いたこの国の状態を分かる限りで伝えた。

「よく分かりません。別次元……? 並列世界……?」

 そうなるよなぁ。本来ならそんな概念持ってる方がおかしいんだ。

「その辺の事は気にしたってしょうがねぇよ。大事なのは……」

「この国の人々は……もう、戻る事はない、という事ですね?」

 思ったよりも落ち着いている。おそらくその可能性が高い事は分かっていたし覚悟を既に決めてあったのだろう。

 俺はリリィが気を失っているものだと思って気にせず話してしまったが、ジーナに介抱されていたリリィが突然大泣きし始めてしまいとても気まずくなってしまった。

「わ、わらわが……旅行になんて、行ってたから……」

 別にお前が居ても何も変わらなかっただろうけどな。それどころか……。

「リリィ、一応言っておくが……お前の両親達はむしろこの場にリリィが居なくて良かったって思ってると思うぞ」

「わらわがそんなに役立たずだって言いたいんですかーっ!?」

 リリィが立ち上がって俺に掴みかかってきた。
 ジーナもそれを止めようとはしない。

「ちげぇよ、本当にアホだなお前は」

「な、なんですってー!? 冗談を言っていいタイミングとダメなタイミングって物が……」

 彼女は涙をボロボロ流しながら俺の胸をぼかぼかと叩いた。

「よく聞け。お前の両親は、ここにお前が居て巻き込まれたりしなくて良かったと思ってるはずだって言ってるんだよ」

「……えっ?」

「リリィ様、私もそう思います。王も、王妃も、きっとリリィ様が外出中で良かったと思っている筈ですよ」

 ジーナが俺に続いてリリィに優しく告げる。
 なんだかんだ言ってリリィの事が好きなのだろう。

 分からなくはないかなぁ。馬鹿でアホだけど憎めない感じ。

「だからお前は悲しむんじゃなくて家族の分までこれからがんばりゃいいんだよ」

「……あ、貴女、は……」

 リリィは俺の胸元に当てたままの手にぐっと力を入れる。

「もしかして、口説いてますー?」

「……」

 絶句。何も言えなかった。
 この状況でよくこんな事が言えるなこの女……。

「こんな見目麗しいわらわの泣いている姿を見てグッときちゃうのは分からないでもないですけどー? でも残念ながらご縁が無かったという事でー」

「ジーナ、頼む。こいつを殴ってくれ。俺がやると怒りのあまり殺してしまうかもしれん」

「かしこまりました」
「ちょっとジーべごばっ!」

「ふ、フラれた腹いせに暴力に訴えるとかサイテーっ!」

 こんな女の相手をするだけ無駄だった。
 ちょっとでも慰めてやろうと思う事自体が間違いだったんだ。

 その時、俺の脇腹をちょんちょんと突く者があった。

「……なんだ?」

 マァナが何か言いたそうに俺を見つめていた。

「あの、差し出がましいようでなんなのですが……リリィお姉様はアレでも感謝してるんです。なんというか……ふざけていないと鬱になって自分の殻に閉じこもってしまうタイプなので……どうか許してあげてください」

 マジかよ。あの女がねぇ……。

『あっ、ミナト君の中で好感度が上がっていく音が聞こえる』
 そんな音はせん。

 しかし、気丈に振舞う為に敢えてアホな事ばかり言ってるんだとしたら……そうだな、確かに多少は見直すべきところがあるかもしれない。

「ともかく、だ。お前らはどうする? 言っちゃ悪いがこの国に留まる意味は無いように思うが……」

「そう、ですね。出来ればそちらの保護下に置かせて頂けるとありがたいと思っています」

「そうか。それなら話が早い。ラムちゃん、落ち着いたらまた移動の方頼めるか?」

「勿論なのじゃ。来る時よりも移動する人数が相当増えてしもうたから時間はかかるがのう」

 そう、リリィとマァナだけならともかく、ジーナやリリィの護衛の奴等も一緒にとなると相当な人数になってしまう。

「さて……一応報告入れておくか」

「その必要は無いよミナト。詳しい話は直接聞こうじゃないか」

「うわっ! 急に現れるんじゃねぇよおどかしやがって……」

 突然俺の背後にシルヴァが現れた。

「なんだよ通信で十分じゃねぇのか? 本人が直接現れるなんて珍しい事もあるもんだな」

「今回は状況が状況で……む、ミナト。これはどういう事か説明してくれないか」

 突然現れた謎の男シルヴァに迷わず飛びついてその腕に絡みついた女が一人。ほんとなんも考えてねぇなこいつ……。

「やだイケメン! わらわリリィって言いますーっ♪」

「残念だけどこの国の姫だってさ」

「ぜひぜひー、わらわと仲良くしてほしいですー♪ ちゅっちゅっ♪」

 シルヴァは俺が見た事も無いほどにそのお耽美な表情を歪めていた。


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