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第330話:しゅごい。
しおりを挟む「じゃあその心当たりって場所まで案内してくれるか?」
「わかりました。まずは城の中へ」
マァナに案内され王城の中へ。
門番の影人間が居るがそいつらは微動だにしないので素通りだ。
リリィを護衛していた忍者軍団はジーナの命令で城の外に待機し、異変があればすぐにこちらに伝える、という事になっている。
つまりは警戒と監視。
王がリリィに付けた護衛はジーナを含めて二十名あまり……どう考えても過保護である。
城の中はごく一般的な造りだったが、装飾品などの形は結構独特で玉ねぎみたいな形をしている球体が多かった。
「ミナトさん……でしたね?」
「ああ。どうかしたか?」
マァナは足を緩める事無く城を進みつつ、俺にだけ聞こえる程度の声で話しかけてきた。
「貴女は……この国の人々はどうなってしまったと思いますか?」
「そういう話はうちのお嬢様にした方がいいと思うが……まぁいいだろう。俺の個人的な考えだから気を悪くするなよ?」
「……かまいません」
「そうか。……どう考えても、無事ではないだろうな」
マァナはその言葉を聞いて数秒間黙り込む。
「そう、ですよね……なんとなく私も分ってはいたんです。きっとお父様、お母様……そしてルルお姉様も……もう居ないんだと」
先を行くマァナの表情は見る事が出来なかったが、足元には小さな雫が一滴。
しばらく彼女の前に回り込むのはやめた方がよさそうだ。
彼女が迷いなく進む先は城の奥。ただひたすら隅へ隅へと進んでいた。
「マァナ、こんな所には何もないですよー? わらわは城の中を探検し尽くしてるんですよー? 間違い無いですー」
アホみたいな間延びした声でリリィが無意味だと断言したが、マァナはリリィの声など完全に無視して進む。
「ちょっとマァナ聞いてるんですかー!?」
「聞いている訳ないでしょう?」
「聞いてるじゃないですかーっ!」
「到着しました。ここです」
マァナが立ち止まった事で後ろにいた俺も立ち止まり、俺の背中にリリィが顔面から突っ込んできた。
「ぶぎゃっ! 急に止まらないで下さいーっ! このっ! このっ!」
リリィが俺の背中をぽかぽか叩いてくるが力が弱すぎてまるでマッサージされてる気分だ。
『孫が肩叩いてくれる的な?』
そうそう、そんな感じ。
『二十七歳の孫をもつなんて君も来るとこまで来ちゃったのね』
こんな孫が居たら意外と可愛いのかもしれんが……二十七歳の孫ってのが引っかかるけど。
『確かにこの子やかましいしイキリ散らしてるけれど自分を慕ってくれる孫ポジションだったら可愛いかも』
だよな。
ママドラも大分感化されてきている気がする。
俺も大概どうかしているが。
「ここからは迷いやすいのできちんとついて来て下さい。一度迷ったらもう合流は出来ないと思って下さって結構です」
「おいおいなんだそりゃ。こんな所に地下迷宮でも広がってるってのか?」
「……当たらずとも遠からずというやつですね」
おいおいマジかよ。
「マァナ、ここは本当に何も無いですよー? ぐるぐる不可解ドアがあるだけですー」
ぐるぐる不可解ドアってなんだよ。って思ったけれど、中に入るとその意味が理解出来た。
扉の向こうには三枚のドアが並んでおり、マァナがその一つを開けると同じような部屋が続いている。
「おい、なんだここは……」
「今話しかけないで下さい。手順を忘れてしまいます」
怒られてしまった……。
だが今の反応でここがどういう物なのか理解出来た。
おそらくラムの家に近い迷いの結界が張ってあるんだろう。
決まった手順で三枚の扉を選んで行かないと元居た場所に戻されてしまう。
「えっと……確か次は……」
マァナも記憶が曖昧らしく二度ほど失敗し、リリィに「ざーこざーこっ!」と煽られてはジーナに命令を飛ばしていた。
勿論リリィをぶっ叩けという命令だ。
「……困りました」
「おい、まさか分からなくなっちまったのか?」
「仕方ないじゃないですか。子供の頃になんとなく聞いた事があるだけなんです。むしろ一度聞いた事があるだけで七手順目まで覚えているのを褒めてほしいくらいですわ」
マァナはちょっと拗ねるようにほっぺたを膨らませた。
なんだかんだと年相応な部分はあるようで安心したけれど、よく考えたらリリィが二十七歳ってマァナは幾つなんだ……?
見た目はかなり若い感じがするが、下手をすると二十五~六くらいか?
『レディーの年齢を気にしちゃダメよ?』
あぁそうかいお前はいくつだよ。
『私ミナト君の事嫌い』
ママドラまで拗ねてしまった。
女ってのはどうしてこう年齢に敏感なのかねぇ……。
「んー、よしよし、だいたい分かったのじゃ。ここから先の道案内は儂に任せよ」
ラムが車椅子を押しながらマァナの前に出る。
「いや、ここの手順は……」
「王族しか知らない……とかじゃろ? 普通はそうじゃ。でも儂くらいになると幾つかサンプルさえあれば分かるようになるんじゃよ」
マァナが信じられないという目を俺に向けてくるが、まぁ……ラムが分かるって言うなら分かるんだろう。
「うちのお嬢様は天才だからな。このくらい出来ても不思議はないぜ?」
「へっへーん! どうじゃ儂すっごいじゃろー♪」
「しゅ、しゅごい……!」
ラムに誰よりも輝いた視線を向けていたのは、何故かリリィだった。
なんでだよ。
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