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第296話:このヘンタイっ!
しおりを挟む「ルーク、浮かれる気持ちは分らないでもないが私と君の命がかかっている問題だ。少しは自重したまえ」
「はっ、そ、そうですね……申し訳ありません」
リザインは難しい顔をしてルークをたしなめる。
ルークは肩を落としつつも、なんだかまだニヤケているように見えた。
「あのなぁ、この国の王政が滅んだのなんて大昔だろ? それ考えたら隻眼の鷹とかいう奴等はどう考えても名を語る奴等だろ」
「……そうでしたね。万が一隻眼の鷹の名を語る不届き者が居るのならばキツイ制裁を与えてやらねばなりますまい!」
ルークは急に拳を振り上げ、怒りに満ちた表情で天井を睨む。
単純な野郎だな……。
「とにかく、だ。こいつが帰って来ない時点で返り討ちにあった事は相手にも筒抜けだろう。次はもっと大掛かりな暗殺計画を練ってくるかもしれない」
例えば暗殺者を十人くらい纏めて投入するとかな。
さすがにこのくらいの力量ある奴が十人も纏めてかかってきたら殺さない自信は無い。
でも俺の目的はその中の一人でも生きて捕らえて親玉の情報を吐かせる事だから多少死んだっていいか。
『君もなかなか発想が物騒になって来たわね……』
どこの誰とも分らんヤバい奴等なんていくら死んだって俺の人生に影響ないからな。
『自分さえよければいいという現代社会にはびこった過ちね』
お前俺の記憶の中から何を見たんだよ……。
どんどん妙な知識や言い回しを覚えやがって。
『ニホンで生きていた頃の記憶なら大体閲覧は終わったわ。なので今は君が読んだ本とかの記憶をサルベージして読んでるところね』
……俺が読んだ本? 例えばどんな?
『ああっ、やめてっ! 中にだけは』
やめろやめろやめろ!!
お前は人の頭の中からなんちゅうものを拾い上げてんだ!
『なかなかに面白いわ。君の性癖も知れて一石二鳥ってやつかしら。でも君ってやっぱり幅広いわよね~。十代の頃にここまで歪んでいるとは六竜もびっくり』
やかましい!
ママドラに隠し事が出来ないのはもう諦めていたけれど過去に見たいかがわしい物まで拾い上げられるなんて恥ずかしいどころの騒ぎじゃないぞ……。
『大丈夫。誰にも言わないから……ね? おにぃちゃん♪』
うぅ……頭痛い。
「どうかされましたか? 具合が悪そうですが」
俺が頭を抱えて蹲ってしまったのを見てルークがとても心配している。
「ああ、大丈夫。ちょっといろいろ問題が発生したけれど気にしないでくれ」
ルークは「無理しないで下さいよ?」くらいで納得してくれたが、リザインはこちらを見て目を細めて何か考えている。
なかなか観察眼が鋭い。
「ミナト……君はいったい……」
「ストップ」
俺は掌をリザインの前に出してその続きを言わせないようにした。ルークは何が起きたのかとそわそわしている。
「俺の事はいい。全部終わったらどっちみち話してやるし、聞いたら後戻りはできないからな。ただし、お前やこの国に敵意も害意も無いとだけ断言しておくよ」
「……そうか。あれから私もルークにいろいろ聞いたのだがね、どう考えても君は普通ではない。是非ともこの件を早く片付けて君の話を聞きたい所だ」
「前向きなのは助かるよ。……さて、とにかくあと数日は様子見だな。また来るようなら次は必ず生け捕りにする」
早く解決しないとシルヴァの奴もうるさいしな……。
代表のスケジュール調整にだって時間がかかるだろうし、サクっと終わらせてしまいたい。
「しかし……五日後の講演会はさすがに出ない訳にはいかないぞ。二か月前から決まっているスケジュールだからな」
「……それまでにかたが付けばそれでよし、無理なら全力で護衛するまでだ」
「ふふ、頼もしい限りだね。期待しているよ」
それから数日、リザインとルークを直接目的地へ送り届け、張り付いて護衛、という日々を繰り返す。
勿論夜はストレージ内に避難してもらい俺が家で待機。
しかしあの暗殺者以降誰一人侵入者は来なかった。
「……明日は代表の演説がある。お前らにも力を貸してもらう事になるだろうから頼むぞ」
「もちろんなのじゃっ♪」
「待ちくたびれちゃったゾ。最近ミナト全然かまってくれないんだもん」
「うっ、うっ……ごしゅじんが男の家に外泊を続ける日々を耐えるのはつらかったですぅ」
三者三様、とはこの事だろう。
リザインとルークをストレージ内に避難させてから防衛隊の宿舎へ行き、皆に状況を説明したところだ。
ちなみにシャイナは残念ながらドタバタと忙しくしているらしいので説明は後回し。
ラムは純粋に俺の力になろうとしてくれている。
ティアは拗ねて口を尖らせ、ネコは嘘泣き。
「とにかく、だ。俺はまたリザインの家に戻るから明日の昼前にはリザインの家に集まってくれ」
「現地集合でもいいんだゾ?」
「いや、恐らくここ数日襲撃が無かったという事は講演会を狙ってくる可能性が高いからな……早い時間から監視の目が動いてるかもしれない。現地で目立つのはダメだ」
そこで警戒されて行動を見送られてしまうと次はいつ尻尾を掴めるか分らないからな。
「では明日リザイン宅に行くのも儂の転移で行った方がよさそうじゃのう?」
「さすがラムちゃんは理解が早い」
頭を撫でてやるとくすぐったそうにしていたが、手が耳にちょんと触れた瞬間急に顔を真っ赤にして物凄い速さで後ろに飛びのいた。
車椅子なのに器用なもんである。
「こ、こっ、このヘンタイっ!」
……いや、ここでその罵倒は予想してなかったわ。
『もしかしたらネコちゃんと同じでエルフも耳がアレなのかもしれないわね』
アレってお前……。
『耳を触られたからにはお嫁に行くしかないのじゃぁぁぁ~っ』
お前ほんとに俺の頭の中で何読んだんだよ……。
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