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第288話:奇跡の功労者。

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「なんとか、なんとかならないのか!?」

 ラムの言葉を聞いていたシャイナがこちらに駆け寄ってくる。

「シャイナ、悪いが……諦めろ! この状況を見たら分かる……だろっ!」

 くそ、ジンバの攻撃に段々と無駄が無くなってきている。
 攻撃をいなしながらシャイナと会話するのはなかなかしんどいぞ。
 しかもシャイナの方へ攻撃が向かわないように気を使わなきゃならないしぶっちゃけ邪魔だから離れていてほしい。

「隊長! 正気に戻ってくれ! 今までの貴方の全てが嘘だったとはどうしても思えないんだ!」

「シャイナ! 無駄だ、下がれ!」

 ジンバはシャイナを視界に捕らえ、俺達の攻撃を防ごうともせずに一直線に突進した。

「馬鹿野郎早く逃げろ!」

「いいや、私は逃げない! 隊長! 私の目を見ろ! 私の声を聞け! お前は化け物か!? それともジンバ隊長か!?」

 ジンバが大きく振り上げた爪がシャイナ目掛けて振り下ろされる。

 シャイナは腕を広げ、それを正面から受けるつもりのようだった。

「馬鹿、野郎……」

 その言葉を発したのは俺ではなく、ジンバだった。

「……隊長?」

「私は……もう、隊長では、ない。死にたくなければ、消えろ」

 ……驚いた。
 完全に正気なんてどこかへ消え去ってしまったと思っていた。
 シャイナの声が届いた、なんて奇跡みたいな話があるとは思えないが、少なくとも今ジンバは確かに僅かな時間ながら理性を取り戻しシャイナへの攻撃をギリギリで止めた。自らの意思で。

「まったく……シャイナは殺さないと、なんて言ってたくせに」

「ふ、はは……もうどうでもよくなってしまったよ。あの種を飲み込んだ瞬間から頭の中が真っ黒に染まっていく感覚……何も分からなくなってしまった。そんな私にもう一度、光を届けてくれた彼女をどうして殺せようか」

「隊長……!」

 俺はシャイナを制し、一歩前へ出る。

「み、ミナト……? 何をする気だ!」

「下がってろ」

 シャイナが居ても邪魔になるだけだ。

「……よく、分かってるじゃないか。彼女は俺を殺してはくれないらしい。君に、頼むしかない……」

「隊長、まだそんな事を……おい、ミナト……嘘だよな? やめろ、待て、やめてくれ……!」

 背後から俺に掴みかかろうとしてくるシャイナをティアが羽交い絞めにして止めてくれた。

 損な役回りをさせちまって悪いな。

「ティア離せ! ミナト! 頼む、待ってくれ……!」

「俺は……望みを叶えてやりたいだけだ」

 それだけ呟き、ディーヴァをジンバへ向ける。

「ラムちゃん、こっちに来てくれ」

「……分かったのじゃ」

 俺はディーヴァにラムの魔法を纏わせる。

「……これでよいのじゃ」

 準備は整った。
 俺は視線で合図を送る。
 相手は一瞬戸惑いつつも、俺の言いたい事を理解してくれたのか深く頷いた。

「ジンバ、覚悟はいいか?」

「勿論だ。一思いにやってくれたまえ」

 そんな状態で理性を取り戻せたのがシャイナのおかげか、それともジンバの精神力のなせる業か、もしくは種の不具合、アドルフと同じように適応能力が高かった、などなど可能性はいくらでもあるが、今の俺に出来る事はこれしかない。

 どう転んでも恨むなよ。

 ディーヴァを構え、一気にジンバを貫く。

 その身体は硬質化しており、ラムに上乗せしてもらった魔力は表面を貫くのに全て使ってしまった。
 そして、魔力を纏わない状態のディーヴァがジンバを貫く。

「あり、がとう……」

「隊長……」

 ジンバがゆっくりと崩れ落ち、その身体が崩れていく。
 そして、残ったのは横たわった状態の人間の姿。

「隊長!」

「……はは、まだ私の事を隊長などと呼ぶのかい?」

「私にとって隊長は隊長です……」

「私の正体を知っても涙を流すなんて不思議な奴だな君は……」

 シャイナはジンバの手を取り、大粒の涙をいくつも落とした。

「やめてくれ。自分の生き方を……後悔、して……しまいそうに、なる……じゃ、ないか……」

 動かなくなったジンバは、優しい笑みを浮かべていた。


 ……はぁ。

「ちょっと、なんでいい話風に終わった雰囲気出してるんですかぁ?」

 本当にこいつは空気をぶち壊す女だな……。

 ネコがすたすたと前に出て、「むっふー!」とか言ってる。シャイナなんて怒っていいのかどうかすら分からなくなって目をかっぴらいてるけど、怒っていいぞ。

「えいっ!」

「……う、うぅん……私、は……?」

 倒れたジンバがゆっくりと目を開けた。どうやら俺の作戦は成功したらしい。

「な、なんだ……何をした? どうして私は生きて……」
「隊長! 良かった……隊長……!!」

「ミナト、何したの?」

 ティアが俺の脇腹あたりをちょん、と指でつついてきた。

「ラムちゃんに種の正確な位置を聞いてさ、魔力を纏わせた一撃で奴の身体を貫き、魔力が空になったディーヴァに種の魔力を吸わせたんだ」

 ティアは「あきれた……」と言って肩をすくめる。
 俺も成功するかどうかは分らなかったから、絶対に助けるなんて無責任な事は言えなかった。

『だから、望みを叶えたいだけだ、なんて言ったのね?』
 そうだよ。叶えたい望みはジンバの、じゃなくてシャイナのだけどな。

「でもあんなヤバそうな種の魔力吸ってディーヴァ大丈夫なの?」

「いや、怖いからそのままディーヴァを通して空気中に吐き出したよ」

 あんなもん吸ってディーヴァが使い物にならなくなったら困るからな。

「ごしゅじんごしゅじん! ……ん!」

 ん! ってなんだよ……と思いつつも、俺の前に突き出された頭をわしゃわしゃ撫でてやる。
 ネコがちゃんと俺の言いたい事を理解してジンバを治してくれたからこそこの結果が生まれたんだ。

 ラムが種の位置を正確に教えてくれた事、俺がピンポイントで種だけを貫けた事、残った魔力を吸い上げる事が出来るディーヴァを持っていた事、即死以外なら治療出来るネコがここに居てくれた事。

 その全てが重なって得られた結果だ。

「むーっ!」

 自分だけがこの結果に貢献できなかったとティアがほっぺたを膨らませた。

「やさぐれるなよ。お前がメインでジンバの攻撃を引き付けてくれてたから俺も考えを纏められたんだぜ?」

「……ほんとかなぁ」

 それは実際そうだ。
 この場に居る誰がかけていてもこんな奇跡は起こらなかった。
 そして、一番の功労者は……。

「隊長……よかった。本当に……ミナト、ありがとう……!」

 奇跡を呼び寄せた一番の功労者は……間違いなくシャイナだった。


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