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第287話:知らない方が良かった情報。

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「ウ……ウォ……ウボァァァァァッ!!」

 巨大な六本腕の獅子になったジンバが虚ろな目をぎょろぎょろと不自然に動かしながら暴れ出した。

 ただ目の前に居る対象を破壊する、殲滅するためだけに暴れているという感じだった。

 それにしてもこいつの姿、どこかで見た事あるんだよなぁ。
 大きくて、六本腕で、ライオンで……。

 あぁ、昔やったゲームにこんな姿の敵がいたっけな。

 名前は忘れてしまったが、確か美人姉妹が父親をそいつに殺されて……とかだっけ?

 実際あの姉妹はこんな化け物を相手によく復讐しようなんて思ったな。
 そいつが今のジンバほどの巨大さだったかは分からないけれど。

「うわ、こいつ固いゾ! ミナト気をつけて!」

 ティアが振り下ろした剣がジンバの腕を捉えるが、少しめり込んだけで振り払われてしまった。

「分かった。ネコ、お前は下がって怪我人が出たらすぐに治療を。ラムは後方から支援と攻撃魔法を頼む。ティアは俺と一緒に畳みかけるぞ!」

「うにゃっ!」
「おうなのじゃっ!」
「おっけーいっくゾーっ!」

 急に体が軽くなって力が湧いてきたのでラムがやってくれたのかと思ってチラリと後方を見ると、ネコが胸の前で掌を組み、祈りを捧げるようなポーズを取っていた。

 なかなか面白い事やるじゃないか。これもアルマの支援力なのかもしれない。

「ティア、一点集中で行くぞ!」

 俺はディーヴァに魔力を込め、音の属性を持たせる。
 それを暴れ回るジンバの腕に振り下ろすと、中ほどまでめり込んだ。

 その状態で音波による超振動を発生させ、なおかつ……。

「どっせーいっ!」

 ティアが俺のディーヴァの上からダンテヴィエルを叩き込む。

「グゴァァァァッ!!」

 よし、腕一本いただきっ!
 ジンバの六本のうちの一本が肘から切り離されぐるぐると宙を舞う。

「この調子でガンガン行くぞ!」

 ジンバは腕が一本無くなった事など一切気にしてない様子で暴れ続けた。

 その突進力もさることながら、鋭い爪は地面をどんどん抉り取っていく。
 あの種はここまでの力を秘めているってのか?

 ……待てよ?
 この感覚、ランガム教の教祖と戦った時は俺にも全く余裕がなくって全然気付かなかったけれど、なんだか覚えがあるような気がする。

『……もう気付いてるんでしょ?』

 あぁ、その反応って事は俺の考えは当たってんのか……。

 アドルフ。
 奴との最後の戦いで感じた違和感。
 あの時奴はキキララと同質の魔力を纏っていた。

 何がどうなってそうなってたのかは分からないけれど、あれがこの種のせいだったのなら頷ける。

 ただし、もしアドルフがあの種を使っていたんだとしたら……適正能力高すぎだろ。
 あの馬鹿は自我を保っていたし、自由に力を使いこなしていた。

 ……いや、待てよ?

『ミナト君も気付いた? もしあのアドルフって男がこの種を使いこなしていたなら、あの程度な訳ないのよ』

 そうだ。ランガム教祖も、ジンバも、これだけ力が増幅されている。

 もし同じ種を使っていたのだとしたら、逆にアドルフはその力を活かしきれていなかったのか?

 逆に自我が暴走する程の力が発生していなかった……?

『なんだか後になってボロクソ言われる彼が少し気の毒な気もするわね』

 いいんだよあんな奴。

「ミナト! ぼーっとしちゃダメだゾ!」

「うおっ……と! 悪い!」

 考え事に集中しすぎてあわや鋭い爪の一撃を喰らいそうになってしまった。

 というか完全に喰らう軌道だったんだけど、なんで大丈夫だったかと言えば、ジンバが失われた腕で俺を攻撃したから。

 なんで当たらなかったのか不思議そうにジンバは自分の腕を見つめ、やっと理解したらしい。

 直後に腕がボコボコ泡立って新たな腕が生える。

「うえっ、気持ち悪っ!!」

 ティアがもう一度、復活したばかりの腕を切りつけるが今度は先ほどよりも強度が高くなっているらしく完全に弾かれてしまった。

「うわっ、これ長期戦になると面倒かも!」
「分かってる! 腕を攻撃するのはあまり意味が無いな」

 本当は腕を全部無力化してやろうと思ってたんだが、再生するし以前より強力になるし、では話にならない。

「ウゴォォァアァァァァァッ!」

 耳を劈くような咆哮に頭がクラクラする。
 ネコは特にその影響を受けたようで頭を抱えて蹲ってしまった。

「シャイナ! ネコを頼む!」

「わ、分かった……! ジンバ隊長を、ジンバ隊長を頼む……!」

 クソが。
 そんなふうに言われちまったらいろいろ考えちまうだろ……。

「ミナト、速攻で始末しちゃわないと面倒になっちゃうゾ!?」

 ティアの言う通りだ。
 本来余計な事を考えずに殺してしまうのが一番いいのは分かってる。
 だけど……。

「ミナト! ジンバの身体の中で一部よからぬ魔力を垂れ流している部分があるのじゃっ!」

「なんだって……? ぐわっ!」

 ラムの言った言葉を頭の中で整理してる間にジンバにぶん殴られてゴロゴロと吹き飛ばされる。

 いってて……。
 幸いにも深刻なダメージではなかったので、戦線復帰しつつ考える。
 俺が何か考え事をしていると気付いたのかティアが奴の攻撃を一手に引き受けてくれた。

「ラムちゃん! その魔力が溢れている場所は分かるか!?」

「無論しっかり分かるのじゃが……」

 ラムはそこで一瞬言葉を詰まらせる。
 まるで、余計な事を言わなきゃよかったと後悔しているようだった。

「心臓のすぐ近くじゃ。恐らく心臓に根を張っているじゃろう……」

 ……万が一、ジンバの体内で種が魔力を垂れ流しているのが原因だったとしたら、種だけ貫けば元の姿に戻るのでは?
 そんなふうに考えたのだが、心臓と繋がっている時点でダメだ。

 心臓は既に種の魔力に汚染されているだろう。
 種を潰すという事は、魔力の供給が無くなるという事で。
 逆に言えばその魔力を管理する器官が無くなるのだから生きていられるとは思えない。。

 確かに、それは知らない方が良かった情報かもしれねぇな。

 再び発せられたジンバの咆哮は、なんだか少し物悲しい声に聞こえた。


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