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第247話:今更の冒険者ギルド。

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「おやじはどういう経緯でシュマルに?」

「最初はな、先代リリア王からの勅命ってやつでシュマルの実態調査をしに来たんだよ」

 ……そう言えばシュマルの先代と言えばかなり野心のある人物だったとかなんとか……。

「あちこち飛び回っていろいろ情報を集めてたんだがな、リリアから来たってのがバレそうになっちまってよ。そん時匿ってくれたのがかみさんさ。病気で早くに死んじまったが、あれはいい女だったよ」

 おやじは目を細め、今は無き妻を思い出していたのかうっすらと目を潤ませながらネコの用意したお茶をすする。

 勿論この家に置き去りになっていた年期の入ったお茶っ葉ではない。
 ネコがあらかじめ作って水筒に入れてきたものだ。
 器はどこから用意したのか知らん。持って来ていたのか、アルマの力で作ったのか。

 まぁそんな事はどうでもいいか。

「これ以上は危ねぇなってんで比較的安全そうな辺境のこの街に居ついて普通の暮らしをする事にしたのさ」

 おやじが語るには、一応形だけの報告はしばらく入れていたらしいが、ここからでは重要な情報などはまったく手に入れられず、先代のリリア王に見限られたのだそうだ。

 連絡手段はとても危険な物で、国境付近までわざわざ出向きリリアの使者と落ち合って、に口頭で伝えるという方法をとっていたらしい。
 おやじは戦いはある程度できたが、魔法の類はからっきしだったらしいのでそうするしかなかったのだそうだ。

 リリア王はもしかすると最初から、万が一の時は切り捨てるつもりで人員を選んでいたのかもしれない。

「派手に動けばこっちも手が後ろに回っちまうし、俺には既に家庭があった。そっからはリリアとは縁を切ってシュマル国民として生きてるって訳よ。リリア王も歯痒かっただろうぜ。俺が逆にリリアの情報を流したりしないか心配だろうがこんな所に追手を送った所で俺の居場所も分らねぇだろうからな」

 レイバンに住んでからは自分の所在地を一切連絡していなかったらしい。
 家族に迷惑をかけない為の措置が役に立ったと微笑む。

「大体の事情は分かったけどよ、なんで今更シルヴァと繋がってるんだ?」

「そりゃあっちから急に連絡がきたんだよ。突然頭の中にな。最初はとうとう俺も気が狂ったかと思ったぜ」

 ……シルヴァは過去の情報から個人を特定し、レイバンで隠居していたこいつの頭に直接問答無用で面倒な仕事を垂れ流したのか。
 最悪だなあいつ……。

「下手をすると今後シュマルとその他の国が戦争になるかもしれないってんで協力を頼まれたんだ。シュマルとリリア、なら分かるがシュマルとその他の連合軍となるとなぁ」

「よくあんな怪しい奴の言葉を信じる気になったな」

 俺だったらいきなり頭の中に知らん奴の声が流れてきても信じる気にはなれないが。
『私の声は信じてね♪』
 はいはい、いつだって頼りにしてるよ。

「……信じちゃいなかったさ。でも指定の場所がこの小屋だったもんだからよ、まさかと思って覗きに来たんだ」

 ……なるほど。シルヴァの奴は俺のストーカーみたいな真似をずっと続けていたらしいからな。この家の事も知っていたんだろう。
 だとしたら俺の事をこのおやじに話せば話が早かっただろうに、相変わらず陰湿な奴だ。

 どうせ今だってこの様子を見て笑ってるに違いない。
 本人はサプライズだと言ってごまかすだろうけどな。

 おやじが来なかったら俺が肉屋に行くよう仕向ければいいだけだしな。

「……大体分かった。で、俺はここに来て、話を聞けって言われてるだけなんだけどさ、おやじはシュマルの代表に近付く方法を知ってるのか?」

「……また無茶言いやがって」

 おやじは眉間に深く皺を寄せてお茶を啜った。

「ここに来てあんたから話を聞け、ってシルヴァがそう言ったんだ。つまりおやじは何かしらの方法を知っているって事だろ?」

「随分そいつの事を信頼してるじゃないか」

 やめてくれよ。信頼とか気持ち悪い。

「信頼なんかじゃねぇよ。あいつは抜け目のない奴だからそれくらいの根回しはしてるだろうって分かるんだよ。奴の性格の悪さを知ってるからな」

「くくく、なるほどな。ある意味ただの友情なんかよりもよっぽど信用できる情報源だぜそりゃ」

「違いねぇ」

 俺とおやじは顔を合わせて笑った。
 ひとしきり落ち着いたところで、親父が真面目な顔になる。

「方法が無い訳じゃないが、ちと面倒だぞ」

「構わないさ。聞かせてくれ」

「……お前さんレベルはいくつだ?」

 レベルだと……? それが何か関係あるんだろうか?

 俺は自分のレベルを確認する為にステータスを呼び出す。
 どうやら教祖との闘いでレベルが上がっていたらしい。
 システム音みたいなお知らせは頭の中になっていたんだろうけどあの時はそれどころじゃなかったからな。

「今はレベル85だな」

「……は? もう一度言ってくれるか……?」

「だから、85だよ」

「ばっ、なっ、え? 冗談だろ? そんな高レベル冒険者だったのか!?」

 おやじがドタバタと暴れるもんだから大分痛んでいた椅子が限界を迎えて崩壊し、おやじはどすんと地面に尻を打ち付ける。

「……俺だっていろいろあったんだよ」

「そ、そのレベルが本当だってんなら話は早いぞ!」

 確かに普通に考えたらレベル85、なんて歴史上に数人いるかどうかってレベルだからな。驚くのも無理は無いが……。

「お前さん達、シュマルのギルドに登録しろ!」

 おやじは興奮気味に立ち上がり、身を乗り出してテーブルに手をつき、テーブルまでギシギシと軋ませた。

「おい落ち着け、テーブルまで壊すんじゃねぇぞ!? ……って、ギルドだぁ??」

 まさかこんな所に来て今更ギルドに関わる事になるとは思わなかった。


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