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第244話:ミナトVSラム。
しおりを挟むラムがついていくと言い出した時、俺の答えは勿論ノーだった。
車椅子状態のラムをこれ以上危険な場所に連れていく気にはなれなかったし、正直に言うと戦力に数えるには荷が重いと思っていた。
だって機動力も以前に比べて大分落ちてしまっている訳だし、いくら魔法に長けていたとしても……。
それに彼女には街で平穏に暮らしてほしい。この街に居れば平和に暮らしていけるだろう。
でも、俺達の街で彼女を守ってやろうなんてのはとんだ思い上がりだったらしい。
「ミナトはまさか足が動かない程度で儂が役立たずになったとでもいうつもりじゃなかろうな?」
「えっ、いや……それは……」
「よかろう……ミナトがどれだけ儂を見くびっているか教えてやるのじゃっ! 表へでろーっ!」
ラムはニヤニヤ笑いながら玄関の方を指差す。
「お、おい……」
「なんじゃ? 儂が今どれだけできるか実際見せてやろうというんじゃ。もしそれで納得できないなら置いて行けばよかろう」
……この子は本当に前向きだな。
それともこんな状態にしてしまった俺を気遣って元気に振舞っているんだろうか?
だとしても、表へ出ろ、は言い過ぎだと思うが……。
「むぅ……表に出る気が無い、というのなら無理矢理にでも連れてってやるのじゃっ!」
ラムが俺に向かって掌を向けると、一瞬にして世界がぐるぐる回転した。
何事かと態勢を整え辺りを見渡すと、既に俺は家の外に居た。
対象のみを転移させる魔法!?
「さー皆の者、一緒に来るのじゃーっ!」
玄関からラムを先頭に皆がぞろぞろと出てくる。
既に皆は俺達の戦いを観戦する気満々らしく、ぐるりと円を描くように俺を取り囲んでいく。
「お、おいラムちゃん……さすがにこれは……」
「なんじゃなんじゃ今更儂に遠慮などいらんのじゃ。ちなみに六竜の力はさすがに使ったらダメじゃぞ? そんなの誰も勝てんからのう」
ラムは車椅子をキコキコと操りながら俺の前に出る。
どうやら本当にやるつもりらしい。
しかしどうしたもんか……いきなり切りかかる訳にはいかないし……いや、ラムなら俺のっ剣撃くらいは簡単に障壁魔法で防いでみせるだろうけれど。
分かっててもちょっとやりにくい。
そうなると……ラムの機動力の無さを分らせてやるのが一番だろうか。
「ほれほれ、かかってこんのならこっちからいくぞ?」
「……もう一度聞くけど、本当にこの街に残るつもりはないのか?」
「くどいのじゃ。もし儂を残らせたいのなら実力で示してみせよ」
再びラムがにっこりと笑う。
「そっちがそのつもりならいいよ、分らせてやる……!」
六竜の力を使わないにせよ、俺には記憶から引き出せるスキルが沢山ある。
まずは残像を幾つも作り出す。レナのようにすべてが実体なんて仕様ではないが、目くらましには十分だろう。
そして残像十二体で高速移動。ラムが攻撃対象を悩んでいるうちに俺は素早く後ろに回ってチェックメイトだ。
ラムもさすがに街の中で、しかもギャラリーが取り囲んでいる中でまとめて吹っ飛ばすような魔法は使えないだろうしこれが一番だろう。
「はぁ……ミナト、お主が儂を舐めておるという事だけはよぉーっく分かったのじゃ」
ラムがそんな事を言っている間にも俺は既に背後に回り込み、その頭をぽんぽんと叩いてやる。
……つもりだったのだが、俺の掌は見事に空を切った。
「あれっ? ……転移か!?」
慌てて周りを見渡すが、ギャラリーがくすくすと笑っている姿ばかりが目に入り、どこにもラムが見当たらない。
もしかして俺はからかわれたのか?
今頃離れた所に転移して笑っているのだろうか?
「おいミナト、お前本当にボスが足が動かなくなっただけで無力になるとでも思っているのか?」
そんな、笑うような馬鹿にするような声でヨーキスが言った。
……ラムは本気って言いたいのか?
「まさか上か!?」
上空を見ると、そこには車椅子のまま宙に浮いてくすくす笑っているラムが居た。
「やっぱりミナトは素直じゃのう。儂が既に種を撒いていた事に気付いておらんとは……ふふっ可愛いのう♪」
「なっ……」
俺は自分の足元を確認する。魔法による細工をしてあるという事なら少し集中すれば俺の目にも見えるはず……。
しかし、何もあるようには見えない。トラップの類を仕掛けているという趣旨の発言だと思ったんだが……。
「あはははっ♪ 何もしとりゃせんよ。すぐに騙されおってミナトもまだまだじゃのう!」
やっぱり俺はからかわれているのでは?
「おいたが過ぎるぞラム、そろそろ降りてこい」
「なんじゃつまらんのう。ではそろそろ降りるとするか」
ラムがそう言った途端、俺の頭上の車椅子が物凄い勢いで落下してきた。
避けるべきか受け止めるべきか一瞬悩んでしまったため反応が遅れる。
結局、心配の方が勝ってしまって車椅子を受け止める事にした。
がっちりとキャッチしたそこに、ラムの姿は無かった。
「……えっ?」
「この馬鹿者め」
突然俺の身体を何かが物凄い力で締め付ける。
魔法で出来たロープ? 大神殿でガングを締め上げたやつだ。
「儂はミナトが丈夫なのを知っておるからのう。手加減はせんぞ」
「ちょ、ちょっと待て……!」
「いや、待たん」
「いでーっ!」
俺の背中に電撃の槍が突き刺さるのを感じた。
身体が麻痺して力が入らない。
「儂を舐めた報いを受けるのじゃ」
地面に転がった俺の視界に入ってきたのは宙に浮かぶラムが、いくつもの炎の矢を生み出して一斉に俺に放つ姿だった。
「お、おぉっ!?」
ごろごろ転がりなんとか矢を交わし、気合で魔力の縄を引きちぎり、爆炎に紛れてラムに飛び掛かったが、彼女は悠々と空を自在に飛び回り俺をかわす。
「ほいっと♪」
俺の身体が泡のような物に包まれる。
「こんなものっ!」
内側から殴るも、びにょんと伸びるだけで割る事が出来ない。
こうなったら……俺も少しマジにならないといけないかもしれない。
「おっと、させんのじゃ」
再び俺の身体が魔力の縄に縛られる。
しかし先程も千切れたのだから恐れるほどでは……。
「ちなみに儂が魔力を込めれば込めるほど強度は増すのじゃ。さっきはあえて千切れると思わせる為に弱くしてやったんじゃぞ?」
「……マジかよ」
「んで、まだ終わらんぞ」
泡の中にどこからともなく水が大量に現れ、すぐに俺は水に飲み込まれる。
縛られた上で水攻め……!?
本気で縄を引きちぎろうとしたけれど今回はビクともしなかった。
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息を止めつつ試行錯誤するも、こんな状態では集中できずついに限界が来て大量に水を飲み込んでしまう。
「ぐごっ、ぐばばっ……」
ついに俺は腕を竜化させ、縄を千切り泡をぶち破る。
「ふっふっふー♪ ついに使ってしもうたのう? それで、まだやるのじゃ?」
「……参りました」
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