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第168話:魂は確かに君を求めていた。
しおりを挟む「くらえ、聖光翔凰乱舞!!」
ディーヴァに光属性の魔力を込め、超高速の十六連撃を繰り出す。
「早っ……!」
ティアはそう焦りながらも、その斬撃全てをかわしきった。
「初見でアレを全てかわすか……!」
「私もびっくりしてるわ。やられるかと思ったものっ!!」
すかさずティアがダンテヴィエルを振り下ろす。それをギリギリ紙一重でかわし、がら空きになった側面へジュディアが切りかかる。
「貴女の攻撃は大振りすぎるっ!」
「それでも、セティよりは強いわよっ!!」
ジュディアが先ほどかわしたダンテヴィエルが地面に触れた瞬間、まばゆい光と共に大爆発が起きた。
「ぐわっ!!」
逆にジュディアが側面からの爆発を受け舞台上を転がる。
「ほらどうしたの? それで終わりじゃあないでしょう?」
とはいえ、ティアも額に汗を浮かべている。
実力差は確かにある。だが、ジュディアも俺の身体を使っているのだ。六竜であるイルヴァリースの身体を。
ならば、届く!
「ティア、貴女は当時の私しかしらない。だから私がこんな事が出来るなんて、知りもしないでしょう!?」
ジュディアが横薙ぎに腕を振るう。
イルヴァリースの魔力を刃に変えて放っただけだが、その威力はすさまじい。
「何よそれっ!」
ティアはダンテヴィエルを盾にしてその刃を受け流そうとするが、威力に負けて剣を弾かれてしまう。
今だ! 全力のをぶちかましてやれ!
「ティア、貴女に……勝つ! 天楼斬魔……」
その時、視界からティアが消えた。
そして耳元から彼女の声がする。
「出来ればジュディアはこんな所じゃなくてベッドの上で可愛がってあげたかったわ」
「なっ、なななな何を馬鹿な事をっ!!」
おい馬鹿油断するな!
顔を真っ赤にして狼狽するジュディアにティアは魔力を込めた拳を叩き込む。
肘から魔力を噴射し加速させた拳を。ヒットした瞬間に凄まじい魔力がこちらへ突き抜けてくる。
クイーンにアドバイスしていた方法を実践してみせたティアは、その攻撃を止めなかった。
ひたすらとんでもない火力の拳を受け続けるジュディア。
意識が飛びそうになりながらも、なんとか飛びのいて距離を取る。
「あらら……随分頑丈なのね……?」
「げほっ……私、個人ならば、息絶えているほどの攻撃でした……しかし、私は私であると同時にミナトでもあるのです!」
「他人の力に頼って情けない……」
「残念ながらミナトは私にとって他人ではない」
そこで一瞬、ティアの眉間に皺が寄った。
「……どういう事? まさか君達そういう関係?」
「ば、ばば馬鹿な事を言わないで下さい! 私がこの身を捧げるのはティア様だけですっ!」
いや、お前らがそういう関係かよ。
「じゃあどういう……」
「言ったではありませんか。私は私であり、ミナトでもあるのです。私の魂は何度も生まれ変わり、そしてやがてミナトになった。それだけの事です」
ティアは目を大きく見開き、全て合点がいったように微笑んだ。
「……そう、なんだ? じゃあミナトはセティって事? そりゃ初めて会った気がしないわけだわ。だって、大好きな人の生まれ変わりなんだもの……なんて、皮肉かしら」
「だからこそ、だからこそです。私は貴女に打ち勝つ。貴女を終わらせるのは私でなくてはならない……!」
ティアは死ぬつもりであり、ジュディアはその役目をかって出た。
二人の関係性があったからこそ皮肉であり、悲劇であり、そして、救いである。
「いろいろ腑に落ちた。どうして私の心をこんなにもミナトが揺さぶるのか。どうして会ったばかりなのにこんなにも恋焦がれてしまったのか……」
それは初耳だよもっと早く言え!
『君って奴は……』
「私が愛したのはセティ、君だけだった。それはずっと変わらないつもりだった。なのに会ったばかりの相手にここまで心を揺さぶられて恋焦がれて……なんて汚い女なんだって自分の事を嫌いになりそうだった」
そこでティアはぎゅっと目を瞑り、まるで涙をこらえるようなそぶりを見せたが、すぐに明るい笑顔を取り戻す。
「でも、ようやく分かったよ……本当に、よかった。あの頃も、今も……私の魂は確かに君を求めていた」
「……っ、貴女が……そこまで私の事を想ってくれていた事、感謝いたします。私もずっと同じ気持ちですよ。そして、私はミナト、ミナトは私です。貴女が気持ちを抑える必要はありません」
「そう、そっか……分かった。ありがとう」
そう呟き、ティアは再びダンテヴィエルを構える。
そして、今まで感じた事のない程の魔力がその刀身に漲っていくのを感じた。
「私も再びこの世に生を受けてね、何故か当時よりも強い力を手に入れたんだ。私の全てを、受け止めてくれる?」
「無論です! 今の貴方と、私の本気の一撃……どちらが勝るのか、楽しみですよ」
「じゃあこの先どうなっても恨みっこ無しでお願いね?」
ティアが優しく笑いかける。
その笑顔はとても美しく、儚く、そして……。
「ティア様に私の全てをぶつけます。私の全てとミナトの力を」
「ミナトの全て、とは言わないのね」
「私はミナトの中にいる僅かな魂の欠片。ミナトが本気を出せば私など足元にも及ばないでしょう」
「……うっひゃー、マジかぁそれは怖いな」
「恐れる事は有りません。今この戦いは、私と貴女の戦いなのですから……!」
勿論ジュディアが負けるような展開になるようなら俺が気合入れるしかなくなってしまう。
でもこの大役、任せられるのはジュディアしかいないとそう思えた。
「しかしながらミナトは訳あって今強大な力を手にしています。私が今ここに居られるのもミナトのおかげです。だからこそ、私も私個人だけの力という訳にはいきません」
「それは構わないよ。だってそれも貴女なんでしょう? それに……少しミナトの力借りなきゃ私に勝てないでしょう?」
ティアが笑う。
「悔しいですがその通りです。しかし、私は必ず……どんな結果になろうと、貴女に勝つ。貴女を超えるのは私だ!」
「いいわ。かかって来なさい。全力で相手してあげるから」
ダンテヴィエルが怪しく輝いた。
何かとんでもない事をする気だぞ。
きっとティアの奴はまだまだ本気を出していない。気を付けろよ。
「分かっている。しかし、ティア様は正面から打ち合うつもりだ。避ける気がないのなら勝機はある!」
「試してみなさい!」
ジュディアがティアに向け一直線に突撃。小細工は抜きだ。お互い最高の一撃をぶつけ合う。
その筈だったのに。
直前でティアはダンテヴィエルを手放した。
「な、にを……」
「強くなったわねジュディア……そして、ありがとう」
ひゅごっ!!
ティアに向けて振り下ろされたディーヴァが光を放ち、舞台全てを巻き込んでも足りない程の光の柱が立ち上る。
舞台に張り巡らされた障壁では耐え切れない程の一撃。
それは、観客たちも全て巻き込んでしまうかとヒヤヒヤしたものの、先に障壁の天井がぶち抜けたおかげで力の流れは横ではなく縦に、はるか上空へ向けて流れた。
轟音と共に粉々になった舞台が砂煙として上空へ吹き上がる。
やがて、視界が晴れた時……。
ティアの身体はそこに、欠片も残っていなかった。
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