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第157話:ティリスティアという女。

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 ぶっ倒れたクイーンと、瀕死のラピルタは二人とも即座に医務室に運び込まれた。
 なかなか優秀な回復術師がいるらしくラピルタはすぐに復活したが、何かトラウマになってしまったようで女子が目に入るだけでガタガタと震えだすようになってしまった。

 クイーンの方は、かなり身体の内部に問題が生じているらしくしばらくの間療養が必要と言われたのだが、意識は戻ったし普通に生活する分には問題ないそうなのでこのまま試合の観戦を続ける事に。

 俺の回復魔法でも完全には治す事が出来なかったのが悔やまれる。

 とかやっていた時の事だ。

「やっと中に入れてもらえましたよぅ……ごしゅじーん♪」

「あっ、まぱまぱ、にゃんにゃんがいるよー? にゃんにゃーん! こっちだよーっ」

 観客達の合間を縫って現れたのは……ネコ、アリア、そしてゲオル。

「お前ら……どうやってここに来たんだ?」

「えへへ~♪ 一度帝都前まで連れてきてもらったでしょう?」
「ああ、確かに来たけど……」
「アルマさんがごしゅじんの真似っこしたんですよぅ」

 ……あぁ、だから一度帝都前に連れてこいと言ってたのか。
 てかそんな簡単に真似されちゃうと俺の威厳というかなんというか……。

『昔からアルマは器用だったからねぇ。きっと魔法の発動式みたいなのを見てこっそり練習してたんでしょうね』

 ……発動式ってなに?
『呆れた……魔法には発動させるために頭の中で組み上げる式があるのよ。君はいろんな記憶の影響で無意識にやってるんでしょうけど、本来は必要なの。アルマはそれを視覚情報として見る事が出来るのよ』

 すげぇな。魔法のコピーができるのか。
 俺のコピー&ペーストみたいな感じで。

『あのね、アレは特殊。普通は一目見てすぐにコピーなんてできる訳ないでしょう? 君の場合はあのグリゴーレとかいう空間術師が優秀過ぎるのよ』

 なるほどなぁ。

「でもそれなら一緒にくれば良かったじゃねぇか。ジオタリスもお前らが連れてきたんだろ?」

「そうなんですけどぉ、アルマさんがごしゅじんを驚かすなら後からこっそり行った方がいいって」

 ……アルマの奴どんどんネコに感化されて妙な動きをし始めてるなぁ。

「それはそうと丁度良かった。お前らもこっちの関係者席に来い。それとクイーンを診てやってくれ」

「クイーンちゃんがどうかしたんですかぁ?」

 ネコは観客席の塀をよじ登ってこちら側へ突然ダイブしてきたので慌てて受け止める。

 警備の人が集まってきたがエクスが「余の関係者だ」と言っただけで散っていった。
 本当に便利な男だよこいつは……。

「すまない。不名誉の負傷というやつだ」

 クイーンはネコに「よろしく頼む」と礼儀正しく頭を下げた。
 その様子は観客も見ている。十二英傑のクイーンが獣人に頭を下げる所が。

 文句を言う輩もいるようだが、おおむねの意見は「さすがクイーン。獣人にも分け隔てなく接してくれる」だった。

 元々ガルパラがそういう場所なので噂では知っていたが本当だったのか、となったらしい。

「これは……随分無茶をしたのね。魔力回路がボロボロになってるわ」

 ネコの姿をしたアルマがクイーンの身体をぺたぺた触り、「はい、もういいわよ」と一言。
 状態を確認しているだけかと思ったら、同時に治療も進行中だったようだ。

「えっ、もう治った……のか? 次の戦いも出られるだろうか?」
「問題無いわ。すぐにでも全力で戦えるわよ」

 相変わらずアルマの回復性能は物凄いな……俺も真似ようと思ったら出来るんだろうか?
『多分無理ね。ここまでの力は元のアルマですら持ってなかったもの。きっとイヴリンの器と……ネコちゃんとの相性による物も大きいんじゃないかしら?』

 ……そう言えばこいつなんだかんだで神職だったもんな。元々回復方面に強かったのかもしれない。

「さすがアルマ様ですわ♪」

 なんだか知らんがぽんぽこもご満悦である。
 しかしこいつも本来の姿を現したらこの前のゲオルのようにバカでかい竜になるんだろうなぁと考えると恐ろしい。

『それは君もなんだけどね』

 だから恐ろしいんだよ。俺があんなのになるってのは全く想像つかんが。

「ぐぬぬ……私も出たかった……」
「あたしもー」

 ロリナが悔しそうに呻き、何故かイリスも戦いたがっている。激しい戦闘を見て血がうずいてしまったのだろうか?

 ロリナはともかくイリス、お前はダメだ。戦った相手間違いなく死ぬぞ。

「一回戦第四試合はついに特別参加枠登場だぁぁ!! ジャンダーク対ティリスティア!! その実力やいかに!!」

「ふむ……そろそろあの女の試合が始まるぞ。あいつには何かある。よく見ておくのだな」

 エクスがそこまで言うのだからやっぱりあのティリスティアって奴は相当なもんだろう。

 ……結果的にティリスティアの勝利に終わった。
 先程の試合と同様、実況者、観客、そして試合参加者……その全てが絶句した。

 ジャンダークというのは英傑の中でも相当な実力を持っているらしく、エクス、ディグレに続く強さだとジオタリスが言っていた。

 そのジャンダークが、あっさりと負けてしまった。
 開始から五分も経っていなかっただろう。
 何もせずに負けたという訳ではない。
 ただ、何をやってもティリスティアには通用しなかった。

 剣撃はあくびをしながら全て指でつままれ、数回目で英傑武器がへし折られた。
 魔法による攻撃に関しては特殊な障壁を身体の周りに展開しているらしく一切効果が無かった。
 ジャンダークという男はおそらくティリスティアを殺すつもりで全力を出した……筈だった。

 しかし、どんな攻撃もどんな魔法も全く通用せず、それを受けた当人はとにかく退屈そうで……。

「ねぇ、もういい?」

 肩で息をするジャンダークに向かって発した言葉はその一言だけだった。

 次の瞬間、ティリスティアが何かした。
 舞台の上に、というより結界内に凄まじい突風が吹き荒れ、何も見えなくなった。
 ただ風の刃と飛び散る血液だけ。

 風がやんだ時にはジャンダークがズタボロになって転がっていた。

 そして、ティリスティアはやっぱり、あくびをしていた。

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