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第116話:What a day!!
しおりを挟む「さぁ、こちらへどうぞ」
ユミルに連れられ、入り口に入ると、まさかのエレベーターだった。
地中へと降りていく。この世界にこんな技術があるとは思えない。
『これは……イシュタルの遺跡ね。まだ機能を保っている場所があるなんて驚きだけれど』
古代文明イシュタル……ヴェッセルみたいなよく分からんものを作れる奴等ならエレベーターくらい作れてもおかしくはない……のか?
ほどなくして目的地に到着したらしく自動で扉が開かれる。
そこはまるでどこかのビルのような雰囲気で、廊下が続いており、その奥に大きな扉があった。
「そちらはまだ入れません。まずはこちらへ」
脇にある小さな扉を開けてユミルが俺達を促す。
「……ほう、人間とは珍しい。その背中に居るのは……ふむ、ハーフか。この国では禁忌とすらされている存在じゃが……」
俺達を見るなり品定めを始めたのはボサボサの白髪、こけた頬、鋭い眼光の爺さんだった。
「あんたがここの長かい?」
「うむ。いかにも儂がこのけもけもワールドの長、ナカジマカツオじゃ」
『変な名前ね』
ちょっと黙ってろ。ちょっと確かめる事がある。
「イソノ、野球しに行こうぜ」
「なっ、お、お主まさか……!!」
『えっ、なになに?』
「ミナトちゃん、やきゅうって……?」
「むにゃむにゃ……ごしゅじん、ここは?」
目が覚めたネコは置いといて、ジオタリスとママドラは俺の突然の発言に困惑したようだ。
だが、カツオは違うらしいぜ?
「ふふふ、長年生きてきたがこんな事は初めてじゃ……今日はなんと良き日か」
「なんて日だっ! ってか?」
「??」
「……いや、今のは忘れてくれ」
どうやら俺とは生まれた時代が違うらしい。
「では私はこれで、お話が済んだらまた呼んで下さい」
ユミルが俺達の様子を見てくすりと笑い、部屋から退室した。
「……で、あんたは元日本人か?」
「いや、儂の生まれはアメリカじゃよ。父がアメリカ人、母は日本人でな……両親が他界してからは日本に移り住んでおった」
「俺はミナト、元日本だよ。あっちの世界の事が分る奴がいて嬉しいよ」
地球の事を知ってるのなんて俺以外にはキララくらいしかいねぇと思ってたからな。
完全に目が覚めたネコは俺の背中から降り、同じく状況が飲み込めていないジオタリスと一緒にこちらを眺めながら首を傾げていた。
「爺さんは転生者なのか?」
「……儂は、この世界でごく普通の家庭に生まれてな、五十を過ぎた頃に唐突に昔の記憶を思い出すようになったんじゃ」
なるほど……だったら俺とはちょっと違うか。
「俺の場合は直々に神様に直談判してこの世界に転生したんだよ。まぁその後一度死んで、もう一回この世界でやり直させてもらう時にいろんな記憶を取り戻した感じかな」
爺さんはぽかーんと口を半開きにして、涎が垂れそうになってる事にも気付かない様子だった。
「神……GOD!? 君は神に会ったというのか!?」
「い、いや……まぁ。でもそんな大したもんじゃ無かったぞ神様。俺を騙そうとするような奴だったし」
「何という事だ! こんな所で、神に選ばれし存在と出会う事が出来るとは!! 本当に今日という日は、なんて日だっ!!」
知らない癖にその言葉が偶然出てきたのかすげぇな。
「大げさだよ。俺はそんないいもんじゃねぇって」
「しかしこの世に神との交渉で人生をやり直した者など存在しない!」
「それはみんな覚えて無いだけだろう」
「それを覚えているという事が特別な事なのじゃよ!」
ダメだこいつ何を言っても聞きゃしない。
俺を何か特別なもんだと勘違いしているようだ。
「どう考えてもごしゅじんは特別ですよぅ?」
「うるさい。ネコは黙ってろ話がややこしくなる」
話の流れも分ってない癖に突然話に混ざってくるなっての。
「いや、俺からしたらミナトちゃんもユイシスちゃんもどっちも特別だよ。六竜と同化した人間なんて……あっ」
「あっ、じゃねぇだろジオタリス! 頼むからお前らこれ以上話をややこしくするんじゃねぇよマジで……」
「……」
ほら爺さんがまた口半開きの銅像みたいになっちまったじゃないか……。
「今……六竜、と聞こえたんじゃが」
「気のせいだろ」
「いや、確かに……六竜と同化、と……」
はぁめんどくせぇ……。
別にバレてどうこうなるもんじゃないけどこの爺さんに知られたら余計持ち上げられるだけじゃんかよ……。
「ほ、本当に君達は……」
「だから気のせいだって。そこのジオタリスって奴は虚言癖があるんだ気にしないでくれ」
ジオタリスは「そんなぁ」と呟きながらしょんぼりしているが自業自得である。
「いいえ、このユイシスもそこのミナトも六竜の一人である事に変わりありません」
おいまためんどくせぇのが出て来たーっ!!
「ど、どういう事でしょうか……? 貴女は、いったい……」
そいつはユイシスの顔で満足げに微笑みながら、まるで相手を誘惑でもするかのような艶めかしいポーズをして言い放った。
「私はアルマ。六竜の一人アルマです。頭が高い、控えおろう!」
「は、ははーっ!!」
爺さんが座っていた椅子から飛び降りて地面に平伏したのを確認してから、ジオタリスの方へチラリと視線を送りほっぺたを膨らませる。
「はっ、ははーっ!」
一瞬遅れてジオタリスも頭を下げ、アルマは恍惚の表情を浮かべる。
「……俺はお前だけはまともな奴だと思ってたよ」
アルマは遠い目をしながら声のトーンを落としてこう言った。
「毎日毎日この子の思考にさらされてごらんなさい。いろいろ我慢するのが馬鹿らしくなるわ」
……そうでしょうね。
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