上 下
114 / 476

第109話:大体ゲオルが悪い。

しおりを挟む

「くっ、君は凄いな……」
「言いたい事はそれだけか?」

「いや、他にもあるさ。結婚してくれないか」

『こいつゲオルに似てるわね……』
 こんなのに求婚されても嬉しくねぇなぁ。せめて性別を変えてから出直してほしいもんだ。

「俺がお前に聞きたいのはこの国の現状と、大体の地理だ」
「……それを知ってどうする?」
「どうもしねぇよ。俺は人の少なそうな地域を見つけてひっそり暮らしたいだけだからな」

 ジオタリスは静かに目を閉じ、少し考え込んでから「いいだろう」と呟いた。

「君がこの国に対して脅威とならないのであれば俺は協力してやってもいい」
「してやってもいい、じゃなくて協力させて下さい、だろ?」
「気の強い女だ……ますます気に入った。じゃあ訂正しよう。君の人生を少しでも素晴らしい物にする為に俺に協力させてくれ」

 うわぁ……言い方が気に入らねぇ……いかつい顔の癖に、顎が割れてる癖にいい男風な事言いやがって……。

『顎が割れてるのは関係無いと思うけれど』

「よし、じゃあ協力してもらおうか。っと……その前に、約束してほしい事があるんだが」
「なんだい? 俺は敗者、君の言う事には従おう」
「俺の仲間に獣人が居るが、少しでも不敬な態度を取ってみろ、その場でその首捻り落としてやるからな」

 ジオタリスはゆっくりと視線をネコに向け、苦虫を噛み潰したような顔で、「分かった」と呟いた。

 そんなに嫌がる程獣人が嫌いか?
 こいつが特別なのかこの国の奴等はみんなこんな物なのか……。

「だったら一つ忠告をしておく。君等をこれから俺の街へ一度案内するが、その獣人には変装させる事をお勧めするよ。俺の知人だと言った所で過激な奴等は居るからな」

 ……お国柄、の方らしい。

「この国ではそんなに獣人が嫌われてるのか?」

「ああ。獣人はリリアではただの奴隷だからな。大昔この国は獣人が治める西地区と、人間が治める東地区に分かれていたんだ。大きな戦争が何度も起きてね……」
「それで人間は獣人を嫌ってると?」
「そうさ。戦争は人間の勝利に終わり、獣人は全て人間の奴隷となった。勿論人権などは無い。ここはそういう国なんだ」

 クソったれな国もあったもんだ。
『戦争で負けた側が虐げられるなんて普通の事よ。今までの歴史の中で何度も繰り返されて来た事だもの』
 あんまり世界の闇の部分は知りたくねぇもんだな。

「この国で獣人が虐げられてるのは分かった。だったらこれならどうだ? おいネコ、耳隠せ」

「え~、あれ疲れるんですよぅ?」
「いいから」

 ネコはぶつぶつ言いながらも器用に、手も使わずに耳をぺこんと倒して髪の毛に埋もれさせた。

「なんと……獣人というのはあんな事が出来る物なのか? それに、普通の耳もついてるじゃないか」
「あいつはハーフなんだよ。だから耳さえ隠せば普通の人間と変わらん。それでも抵抗あるか?」

 ジオタリスはにかっと笑い、「なんだ人間の血が半分も流れているのであれば最早同士といっても過言ではないではないか!」などとのたまう。

「お前……現金な奴だな」
「ふっ、褒め言葉として受け取っておこう。しかしそうしていると本当に人間だ……しかも美しい」

「き、聞きました? ごしゅじん! 今このケツアゴ私の事美しいって!」

「け、ケツアゴ……? 俺のこの美しい顎のラインをそんな下品な言葉で表現するとは……」

 ネコの言葉に品なんかないのは知っていたが初対面の相手をケツアゴ呼ばわりするとは思わなかった。
『君だって顎が割れてる癖にとか言ってたじゃない』
 俺は言葉には出してない。

「しかし美しい人から発せられる言葉ならばそれもまた悪くないな」

 ジオタリスはなにやら一人で納得して何度も頷いている。馬鹿だ。
 俺の周りには馬鹿とアホしか集まらんのか……。

「よし、じゃあお前の街まで案内してくれよ。とりあえず拘束は解くが変な真似をしたら即殺すからな」
「いいだろう。俺の命は君次第という事だな。スリリングでたまらないぞ」

 ジオタリスのたわごとは放っておいて、ひとまず俺達は自分らの事を一通り説明した。
 訳あってダリルから出て来た事、人のいない地域でひっそり暮らしたい事、そして俺達の簡単な自己紹介。
 そこで一つ事件が起きる。馬鹿が馬鹿な事を言ってしまったのだ。

「おう、よろしくな。俺は六竜のゲオルってんだ」

「……?」

 ジオタリスがゆっくりと視線を俺に向け、こいつは何を言ってるんだと無言で訴えてくる。

 俺は慌てて首を横に何度も振ったのだが……。

「この方はゲオル殿と言って正真正銘六竜の一人なのだ!」

 アリアが追い打ちをかける。

「……冗談、だよな?」
「当たり前だろ! 冗談に決まってるじゃないか!!」

 必死にフォローを入れてるっていうのに、だ。

「えへへ~ちなみに私の中には六竜のアルマさん、ごしゅじんの中にはイルヴァリースさんが居るんですよぅ♪」

 アホがアホな追い打ちをかけた事でジオタリスが更に混乱した。

「ろ、くりゅう……? 六竜が、三人? そんな馬鹿な。ミナトちゃんの強さは確かに凄いけど……そこの獣人ハーフのお嬢ちゃんまで六竜……? いや、いやいやいやさすがにそれは無いだろ」

「愚か者めっ! 我が主アルマ様を侮辱するとはこの不届きケツアゴ! 断罪してくれるっ!!」

 激昂したかむろがジオタリスの顔面に飛びつき狐の爪で何度も引っ掻いた。

「うわっ、喋る狐!? や、やめろーっ!! 信じる、信じるからっ!!」

 ……いや、信じなくて良かったんだけどなぁ。
 めんどくせえ事になった。

『大体ゲオルが悪い』

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...