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第104話:似た者同士。
しおりを挟む「あ、アルマ様……まだでしょうか?」
かむろが痺れを切らしたらしくアルマにお伺いを立てるものの、ジロリと人睨みされただけでしゅんと肩を落とし項垂れる。
この二人は完全なる主従関係なんだろうな。
「なぁ、その時の魔王ってイヴリンじゃなかったのか?」
『あ、私の話信じてないの?』
いや、アルマから聞いた方が間違いないかなと……。
『ぷんぷん!』
「私は……またイヴリンが器を手に入れたのだと、そう思っていました。でも実際戦った魔王からはイヴリンの気配は全く感じませんでした……あの魔王はまだ健在でしょうから対策はしておかないと。それにカオスリーヴァがあちらに付く可能性も考慮しないといけませんわ」
俺は「ちょっといいか?」と手を上げてアルマを制する。
「俺達は既にデュスノミアで魔王と戦って、倒してるんだが……」
「なんですって!? あの魔王を!? 貴女とイルヴァリースだけでですか!?」
「あ、いや……俺達が倒した魔王はさ、アルマが言ってる奴とは違ったぜ? ママドラ……えっと、イルヴァリースも知らないって言ってたし代替わりがあったらしいぞ」
アルマは顎に手を当てて黙り込んでしまった。
無言タイムの間に、イリスはどうしてるかなとか、聞き耳立ててるのかなとか気になって様子をうかがうと、どうやらアリアとあっち向いてホイで白熱していた。
きっとアリアが気を利かせて俺達の話を邪魔しないようにしてくれてるんだろう。
「……正直、私達が戦ったあの魔王が、イルヴァリース達だけで倒せる相手に負けるとは思えないのですが……」
『むかつくー!』
でもそれは本当だろうよ。むしろあの時遭遇した魔王がキララで良かったんだな……。
俺としてはトラウマ抉られたけど。
まだ力が馴染んでないとか言ってた気もするのでキララも全力では無かったにせよ、俺達だけで対処できた時点でアルマが言ってる魔王とは別だろう。
「まぁそれは考えても答えはでませんね。何らかの理由があって魔王が代替わりしているというのは分かりました。だとしたら現状私達が警戒すべきはカオスリーヴァの動向かもしれませんね」
「もう一ついいか? 六竜が足りて無いよな? アルマ、イルヴァリース、ゲオル、カオスリーヴァ、マリウス……あと一人は? 魔王との戦いの時には居なかったのか?」
俺の質問を聞いたアルマはとっても嫌そうな顔をした。
ネコの顔なのでちょっと面白い。
「あー、私からシヴァルドの話するのはかなり抵抗があるのですが……イルヴァリースからは聞いていないのですか?」
『しーらないっ♪』
「しーらないっ♪ だそうだが……」
「はぁ、イルヴァリースは昔からそういう面倒そうな事は全部人任せにするところがありますからね……いいでしょう。シヴァルドは何考えているのか分からない神出鬼没の変態です。以上」
「……え、それだけ?」
「それだけです。他にあの人について語る言葉がありません。付け加えるとしたら、魔王との闘いにも出て来ませんでした。きっとどこかで高みの見物をしていたに違いありません」
アルマの口調はとても静かではあったものの、その中に怒りが込められているのは充分感じる事ができた。
「そ、そっか……六竜ってみんな変わり者なんだな」
「そうなんです! 分かってくれますか? 私がどれだけ苦労してきたか!」
……俺はアルマも含めてそう思ってたんだけどそんな事言える雰囲気じゃない。
「貴女もイルヴァリースやゲオルと共に行動しているのなら分かるでしょう私の苦労が……本当にあの人達ときたら……ブツブツブツブツ……」
あ、俺もしかして妙な仲間意識を持たれてしまったのだろうか……。
『ほんっとアルマって思い込みが激しいっていうか面倒臭いのよねぇ。復活出来た事は喜ばしいけれど……って、ネコちゃんはどうなっちゃうのかしら?』
あ、それ忘れてた。
「なぁ、最後にこれだけ聞かせてくれ。その身体は俺の仲間のもんだけど、これからってどうなっちまうんだ?」
「そうですね、どうにもなりませんよ。私は彼女という器の中でしか存在できませんからここに居座る事になるでしょうね」
「お、おいそれって……」
動揺する俺の様子を見てアルマは俺の唇に人差し指をちょんとあてがい「心配はいりませんよ」と笑った。
なんだかネコの事で必死になってしまったのが気恥しくて顔が熱くなる。
「貴女にとって大事な人なのでしょう? 私は彼女の人生まで奪ったりしません。せいぜい貴女とイルヴァリースのような関係になるくらいでしょうね」
「あぁ、それなら良かった……って……良かったのか? それは本当に良いのか? ネコが? 六竜の力を……?」
笑えないぞそれは……。
『もしかしたらごしゅじん! って力尽くで襲われちゃうかもしれないわね♪』
わ、笑えないってマジで……!
「私はまだこのユイシスという少女の事を良く知りませんから、これから同居する以上うまくやっていけるように努力しますわよ」
「言っておくがネコはアホだ。盛りのついた色ボケネコだ。そいつが暴走しそうになったら頼むから止めてくれよ……」
俺はアルマにそれを必死にお願いする事しか出来ない。
「え、そんなに……? ちょっと怖くなってきましたわ……」
ネコの身体に入って同居しなきゃいけないと考えたら……その苦労は相当だろう。
ずっとネコと行動を共にしてきた俺が言うんだから間違いない。
さっきのアルマの気持ちが痛いほどよく分かった。
「アルマ、これから俺の苦労を知る事になるぞ……俺達、似た者同士だな」
「そ、そう……ですわね」
もう逃げられないぞ。
同じ苦労を分かってくれる奴が増えるなら大歓迎だ。
逃がすものか。
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