★完結！★【転生はもう結構です！】崖から落とされ死んだ俺は生き返って復讐を誓うけど困ってるドラゴン助けたら女になって娘が出来ました。

第９３話：爆睡の館。

「馬鹿ネコが……なんだって？」

「あのユイシスという少女の事だけは何故か何も分からないのです」

　……どういう事だ？　ネコが頭ぱっぱらぱーだから読めなかったとでも？

「いや、それはおかしいだろ。ちゃんとネコも望んだ物を食べていたはずだ」

「それは貴女の娘……イルヴァリース様の娘様が望んだ物が貴女がたと共に食べた物だった為です。彼女の望んだ物は分からなかった為やむを得ずそのように致しました」

　イリスが望んだ物をネコにも出したらそれが結果的にネコの望んだ物だった……？
　それだけイリスとネコの大事にしている思い出が共通だったという事なので喜ばしい事なのだが、腑に落ちない。

「残念だがネコの件についてはまったくわからん。俺はその問の答えも持ってない」

「そうですか……仕方ありませんね。どちらにせよ望んだ物を提供できていたというのならそれで良しとしましょう」

　かむろがそう呟いた後、不自然に眉をしかめた。

「どうかしたか？」
「……どうやら招かれざる客が来ているようです」
「招かれざる客……？」
「はい。魔物の群れがこの館を取り囲んでいます」
「なんだって！？」

　しかしかむろは落ち着き払った様子で、「心配には及びません」と言い放った。

「この館は招いていない客人を中に入れたりはしませんから……っ！？」

　今度は露骨に慌て出す。想定外の何かがあったのだろう。

「そ、そんな……この館は外部からの干渉など……」

『ちょっと身体借りるわね』
　かむろに何か言うなら考えるだけでいいんじゃねぇのか？
『今この子そんな余裕ないでしょ？』
　……それもそうか。早めに返せよ。

「ねぇかむろちゃん。外部から干渉されないって言ってもそれはアルマの力よね？」
「イルヴァリース様！？　は、はい……その通りです」
「だったらそれを破る方法はあるのよ。例えばミナト君がやったみたいに空間魔法とか」

　そう言えばあの空間術師は簡単にここへ繋がる道を見つけてたな。

「他には……相手がアルマ以上の力を所有している場合ね。以前魔王と戦った時、アルマはそれで敗れたんだもの」

「しかし……アルマ様以上の力を持った相手など……」
「そう。私もかむろちゃんと同じ意見よ。アルマの力を打ち破れるほどの力の持ち主がそうそう居るわけないの」
「で、では……」
「ええ。恐らく相手の中に空間魔法の使い手がいると見て間違いないわ」

　でもここにはイルヴァリース、イリス、ゲオルが居る。相手がそれなりに強かった所で大した問題じゃないだろう。

「ギャハハ！　久しぶりに暴れられそうじゃねぇか！！」

「アホ。笑ってる場合じゃないわよ。かむろちゃん、きっと敵を倒すだけならなんとかなる。でも……」
「……既にここに侵入されているようです。きっとここはただでは済まないのでしょうね……」

　かむろは泣きそうな顔で俯いた。

「出来る限りの事はしてあげる。だからかむろちゃんもなりふり構わないでほしいの。いいかしら？」
「……はい。アルマ様を、ここを守る為ならばなんでも。私は何をしたらよろしいのですか？」

　ママドラはかむろの表情をしっかりと見据えて、覚悟を決めた事を見極めてから次の言葉を放つ。

「今この館にいる客全員この場に移動させなさい」
「この、神室にですか……！？」

　かむろは分かりやすく難色を示した。それはそうだろう。かむろにとって神に等しいアルマが眠る地であり、夢の種の生産地。俺の仲間達だけでなく村人たちもとなれば抵抗があって当然だ。

「そう、現状ここが一版安全だから。でも勘違いしないでかむろちゃん。私が言ってるのはこの場にって意味よ。この次元にとは言ってないわ」

「……そ、そうでした。ここへ人を招いたとしてもアルマ様とは違う次元であれば何も問題はありませんね……本来ならばそれも認める訳にはいかないところですが緊急事態ですので……やむを得ません」

「じゃあさっそくだけどやってもらえるかしら？」
「既に完了しております」

　はっや。この館の中の事なら自由に操作できるんだろうけれど、それにしても速い。

「各人の居る場所そのものを切り取りこちらの一人分の空間と入れ替えました」

　俺のカット＆ペーストみたいな物か？
　俺の場合は人間相手に試した事が無いからそんな危険な事出来ないが、かむろからしたらこの館は自分自身のようなものだと言っていたので心配はいらないだろう。

「皆様の同行者のお二人はこちらにお呼びしますか？」

「うーん、どうしようかしら……商人やネコちゃんは戦力じゃないから呼ぶ意味はあまりないのだけれど、アリアちゃんは優秀なのよね。説明もした方がいいでしょうしみんな呼んじゃってちょうだい」
「かしこまりました」

　かむろの行動は早い。腕をスッと右に移動させるだけで、この場の別次元に居たであろうおっちゃん、アリア、ネコが目の前に現れる。

「な、ななな何がどうなってるネ！？　あっ、オネーサン！　聞いてヨ急にこんな所ニ……！」
「ミナト殿！　良かった、気が付いたらミナト殿が居なくて心配していたのだ」

　おっちゃんとアリアは急に見知らぬ場所に移動させられた事や、その場に俺達が突然現れた事を驚いているようだがこっちからしたら現れたのはそっちなんだよなぁ。

　それと、よもやとは思ったのだが……こいつ、ある意味とんでもない大物だな。

「ずおっ！　ずがごぴーっ！！」

「あららネコちゃん寝てるみたいね……この子の神経どうなってるのかしら……」
　それは俺が聞きたい。

「まぁネコちゃんはこのまま寝かしておきましょうか。いっそその方が安全な気がするわ」

　確かに。起きて騒がれるよりはうるさくても寝ててくれた方がいいかもしれん。

「という訳だからかむろちゃん、ちょっといびきがうるさいけれどネコちゃんはここに寝かせておいてもらえる？」

「かしこまりました。それと、至急考えなければいけない事があります」
「……侵入者、よね？」

　かむろが口をへの字口にして小さく頷く。

　そのしかめっ面が、侵入者による物なのかやたらうるさいいびきのせいなのかは俺には分からなかった。