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第84話:温泉の館。
しおりを挟むかむろが用意してくれたのは普通の緑茶ではなく、宇治抹茶を茶せんでたてたようなしっかりしたお抹茶だった。
これが京都府産かどうかなんて俺に分かるはずもないのだが、間違いないのはこれが日本の抹茶だという事だ。
少なくともかむろには日本、そして抹茶という知識がある。
ならばこの子が着ているのは和服、着物で間違いないのだろう。
勢いで頼んでしまったものの、まさかこんな本格的な物が出てくるとは思わなかったので喉を潤すという意味ではあまり役に立たなかった。
勿論料理もしっかりと中華料理で、餃子は美味いし麻婆豆腐は絶品だった。
こんな日本で食ってたような料理が食べられるのなら頻繁に訪れたくなるくらいだ。
「ぷはぁ~っ♪ もうお腹いっぱいですよごしゅじ~ん。私とっても幸せですぅ」
「いやぁとても美味な料理だった。まさかこんな所で懐かしい料理達に出会えるとは思っていなかった」
「まぱまぱ~もうお腹いっぱいだよ」
……何かがおかしい。
かむろの事もそうだけど、アリアは今なんて言った?
懐かしい料理だって? この中華料理がか?
まさかアリアも日本からの転生者……? その頃の記憶が……?
いや、そんな素振りは今まで一切無かったし、今の言い方を見る限り隠しているような様子は無かった。
だとしたらこの世界に中華料理を出すような店があるとでも?
いや、そっちの方が辻褄が合うのかもしれない。
地球からの転生者が偶然俺のように過去の記憶を持ってこちらに生まれ、あっちの料理を再現して広めた……そう考える方が自然だろう。
だとしたら是非そいつと会って話がしてみたいところだ。存命とは限らないが……。
今度アリアに確認してみようか。
「お食事はおすみでしょうか? でしたら是非お風呂をご利用下さい。浴場まで案内致します」
俺達は再びかむろに案内されながら広い屋敷内を歩く。
やがて浴場に到着するとそこは見慣れた赤と青の垂れ幕。【男】【女】。まさに温泉の入り口のようだ。
ここまでくると偶然では片付ける事ができない。
「かむろ、お前……」
「男性は青い方へ、女性は赤い方へお入りください。……尊きお方、貴女はどちらになさいますか?」
その言葉に、俺は聞きたかった事が吹っ飛んでしまった。
どちらにする、とは? 俺が男だと気付いている……? 男っぽい喋り方してるからか?
「ごしゅじんはこっちでいいですよね?」
「まぱまぱも一緒がいいよ♪」
「えっ、えっ!? ミナト殿もこちらに? いや……そうか、女性の身体ならばそうするのが普通……いやしかし……」
ネコとイリスはともかくアリアからしたら受け入れにくいだろう。俺としても気まずいから男湯に入りたいところだが……それはそれで問題がある。
「ダメヨ! おねーさんが男湯に入ったらワタシ困ってしまうネ!」
だよなぁ。というか俺もやだし。
いくら本当は男だからといって今は完全に女の身体なわけで、男と一緒に風呂に入るとかマジできつい。
見られるのやだし。
『君、もう大分女の子になっちゃったわね』
誰のせいだと思ってんだよ……。
「そ、その……ミナト殿さえよければ、私は……か、構わない……が」
アリアは恥ずかしそうに顔を逸らしながら、耳まで真っ赤にしてそんな事を言う。
「……いろいろ問題があるのは間違いないからな。俺は出来る限り皆の方を見ないようにさっと身体洗って出るから。約束するよ」
「話が纏まったようですね。それではごゆっくり。……ちなみにお風呂からあがりましたらまたお迎えにあがります。くれぐれも屋敷内を勝手に歩き回ったりしないで下さいね」
かむろの問題をいろいろ考えなきゃいけないところなのだが俺はこれから風呂に入る事で頭がいっぱいになってそれどころじゃ無かった。
『前言撤回。やっぱり君は男の子だわ』
う、うるせぇ!
イリスは娘だから妙な気はおこらない自信がある。
ネコはあっちから積極的に近寄ってくるから困りはするものの、多少慣れた。
問題はアリアだ。
彼女と同じ風呂に入るというのは……やはりいろいろと問題が生じる訳で……。
『平静を装おうとしてるあたりが確信犯でキモい』
こっちだって必死なんだよ。露骨に嫌がったら傷つけるかもしれないし、かといってスケベ心を前面に出してたらそれはそれでダメだろ……!?
『はいはいもう勝手にしなさい私は眺めて楽しむ事にするわ』
……そうだ。良い事考えたぞ。
『……?』
「なぁみんな、俺はほら、一応男だろう? だから風呂に入るのはママドラ……じゃなかった、イルヴァリースに交代しようと思うんだけどどうだろう?」
「まま? 私久しぶりにままといろいろ話したいな♪」
「私はどっちでもいいですよぅ?」
「い、イルヴァリース様と!? 光栄です!!」
という訳で、ひとつ頼むわ。
『……いろいろ思考を放棄しているような気もするけれどまぁいいわ。じゃあ代わってあげる。でも私はちゃんと分ってるからね? 君としては一番オイシイ選択をしたんだって事』
な、なんの事だ……?
『ふぅん。とぼけるんだ? ま、それならそれでいいけれど』
ママドラに身体の主導権を渡したと同時に、彼女がニヤリと笑ったのがとても不安を煽った。
俺は今になって気付いた。ほんとだよ? 今初めて気付いたんだからね。
「このむっつり男め」
なんの事だか。
一緒に入るのがイルヴァリースという事もあり、アリアまで警戒心ゼロになってするすると服を脱いでいく。
「お、お背中流させて頂きたく!」
「あら、いいわよ。じゃあ宜しくお願いね♪ その後は私がしっかり洗ってあげるわ」
『うふふ、これがお望みでしょう?』
ママドラが脳内に直接囁く。
なんの事かね。俺はそんなつもり全くなかったんだけどなぁ? 偶然こんな事になってしまって本当に申し訳ないなぁ。
『……後悔しても知らないわよ♪』
半笑いのママドラボイスを聞いて、軽率な判断だったと既に後悔した。
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