上 下
77 / 476

第72話:ミナトの歪んだ処世術。

しおりを挟む
「お久しぶりですミナトさん……それに皆さんも。お元気そうで何よりです」

「あぁ、レイラのおかげであの時は本当に助かったよ。感謝してる。いつか必ず礼をするから俺に出来る事があったら何でも言ってくれ」

 俺達はおっちゃんの馬車でシャンティアまで戻り、ノインが用意してくれていた俺の家に帰って来たところだ。

 さすがに俺達を見送りに来たアリアが泣きそうになってたのはびっくりしたが、また会おうと約束した。
 勿論ローラ達三人とも再会を約束し合った。

 しばらくはのんびり暮らそう。俺達に与えられた家で、ごく普通の家庭のように。

「お礼だなんてそんな……でも、何でも……ですか? えへへ」
「お姉ちゃんが悪い事を考えています。きっと何でも言う事を聞いてくれるならそれを理由に結婚を迫ろうとかそんな感じですよ」
「レイン! こ、こらっ! なんでそれを……じゃなくて、私がそんな無理矢理結婚を迫るなんてするわけないじゃないですかっ!」

『あらあらモテモテね?』
 これはそう思っていいのかねぇ? というか妹のレインが随分性格変わってないか?

『思春期の女の子は成長早いからね♪ でも相変わらずイリスとは仲良くしてくれてるみたいで嬉しいわ』

 そう、レインは成長したイリスを見てかなり驚いていたが、当時と変わらず接してくれている。二人で話している時はかなり楽しそうだ。
 親としては娘にいい友達が出来るのは本当に嬉しい。

「あ、あの……ミナトさん。レインの言った事は、その……」

「大丈夫、分ってるよ。きっと何かの間違いだろうからな。でも俺に出来る事があったら本当に遠慮なく言ってくれよな」

「えっ、えっと……いや、その……あ、はい。そうですね……いざという時にはお願いしようと思います」

『さいてー』
 何がだよ……。
『君からあんな風に言われちゃったら間違いじゃないなんて言える訳ないじゃない』
 分かってるよ。だからわざとああいう言い方したんだってば。実際求婚されても困るし、俺の勘違いだったらめっちゃ恥ずかしいし、何より万が一俺に対して本気になってたりしたら彼女が大変だからな。

『……君は、自分に関わる人が不幸になるとでも思ってるのかしら?』
 不幸かどうかはしらねぇけど人生歪むだろうなとは思ってるよ。
『本当にバカな人ね……』
 うるせぇ。

「お姉ちゃんの意気地なし。あんまりのんびりしてると私が取っちゃうからね?」

「なっ、えっ!?」

『ほんと、なんでこんなのがモテるのかしら?』
 マジレスするとこいつらはお嬢様で俺みたいな冒険者と接する機会が少ないから変わった物に興味が出るお年頃なのさ。

『……君さぁ』
 なんだよ。

『まぁいいわ。そういう事にしておいてあげる。でも一つだけ言わせてもらうわね。いつまでもそんな誤魔化しで逃げられると思わない事ね』
 なんだよそれ……脅しに聞こえるんだが。
『脅してんのよ』

 そう言ってママドラは笑った。
 どっちにしたって俺は当分恋愛の事なんか考える余裕ないっての。身体も女のままだしな。

 そう言えばママドラが帰ってきたら聞こうと思ってたんだが、俺はなんで女のままなんだ?

『それは単純な理由よ。私との同化がほぼ完了したって証拠ね。君は今男よりも女に傾いてしまってるの』
 まじかよ……。ずっとこのままって事か?

『意図的に男性の姿に戻る事は出来るわ。今の標準が女性に傾いてるってだけの話よ。でも別に男の姿じゃないと困る事ってそんなにないでしょう?』

 ……この先生きていく上で男じゃないと困る事。確かにあまりないのかもしれない。
 大衆浴場的な場所へ行く時は男じゃないと都合悪いかもしれないが……でもそれだといちいち男物の服に着替えて男として風呂に行く訳で、とてもめんどくさい。

『それに気を抜いたら女の子になっちゃうしね。一緒に浴場に居たおじさん達が欲情しちゃうわ』
 誰が上手い事言えと……。

『いいじゃないいっそ女湯入っちゃえば』
 いや、流石にそれはその……。倫理的に、なぁ?

『そこで迷う素振りを見せるあたりキショイのよね』
 キショイとかママドラも言うんだな……。

『話題をすり替えないの。でも男に戻れるってのが分かっただけでも有意義だったでしょう? ほら、可愛いネコちゃんといざって時には男に戻れるわけだし。別に女の子同士でもあの子は気にしなさそうだけど』
 ばっ、おまっ、何をっ。

「ごしゅじん? どうしたんですー? またママさんとお話中ですかぁ?」
「な、なんでもないこっち見んな!」
「えー、酷いですぅ……」
「まぱまぱ! 今のはひどいよ!」

 ネコがしょんぼりした【フリ】をして、俺はイリスに怒られてしまった。馬鹿ネコはいちいちそんな事気にしないってば……。

「にゃんにゃんに謝って!」
「う……ネコ、なんというか、その……すまん」
「うにゃ……べつに私は気にしませんけど、それよりどうして見ちゃダメだったんです?」

『言ってあげなさいよ。君とあんな事やこんな事するところ想像してたから気まずかったんだーって♪』
 このやろう……!!

「ごしゅじん……?」
「あ、あぁ……なんでもない。ほんとなんでもないからマジで」

「変なごしゅじんですぅ。でもなんだかこういうの久しぶりですね♪」

『……確かに、こういうのも悪くないわよね』

 ……まったくだな。

『でも私が出てこない間にネコちゃんに手を出しておかないなんて本当に奥手というか臆病というか甲斐性無しというかむっつりというか……』

 おおそうか、そんなに前言撤回してほしいか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...