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第66話:もう遅い。
しおりを挟む「……おい、お前がミナトだって言うのは本当なのか?」
アドルフが眉間に皺を寄せながら静かに問う。
やっとアホな発言を悔いたか?
「お前キララから聞いてないのか? 俺は正真正銘ミナト・ブルーフェイズだった」
「く、くふふはははは!」
アドルフはうっすら涙が浮かぶほどに大げさに掌を顔に当て、大笑いした。
「いよいよ運がいい! どいつもこいつもミナトミナトミナトミナト! 嫌気がさしてたところだ! お前をこの手できっちり殺せるなんて最高じゃないか。こんな機会はもう無いと思っていた……いや、ただ殺すだけでは気が済まん。やっぱりお前は俺の子を孕んで絶望しながら死ね!」
キモ過ぎる……!
なんで俺って分かった上でその発想になるのかが理解できない。
勢いで俺もイルヴァリースの事を話してしまったな……まぁいいか。アドルフをここで始末すればそれで済む。
王とこの騎士についてはきっちり口止めする必要があるが……。
「まさかお前がミナトだったとはな……知らない間に随分と強くなったじゃないか。あの時の力も六竜の物か?」
「まぁな、でも安心しろよイルヴァリースは今眠っている」
「ふん、どっちでもいいさ。俺をこの前の俺と思わない事だ!」
アドルフは長剣を思い切り振りかぶり、こちらに振り下ろしてきた。
そんな大振りが当たるかよ!
ギリギリでかわして一撃入れようとした所で、アドルフが剣から片手を離し短剣で俺の肩を突き刺そうとしてきた。
初撃の大振りは囮か!?
かわし切れずに奴の短剣は俺の二の腕を軽く裂いた。
怯まずに即切りつけたが、アドルフは長剣を軽々と振り回し、俺の剣を受け流していく。
確かに、あの時よりもはるかに強い……!
「どうしたミナト! 所詮その程度か? やっぱりお前は役立たずのミナトだな!」
前回戦った時こいつのレベルは50台だったはず……今の俺ならば互角以上に戦えるはずなのだが……。
「アドルフ……お前今レベルいくつだ?」
「ふふ、聞いて絶望するがいい。83だ!」
マジかよ。どうやってそんなに……?
「俺には成長加速スキルがあるからな! あの女がいない今がチャンスなんだ。俺が誰よりも強くなり、魔王に成り代わる!」
成長加速スキル……? そんな便利なもんもってやがったのかよ……!
しかしキララがいない? あいつはどうなったんだ? 死んだと思っていいのか……?
「まずはこの国を手に入れ俺の、俺による俺の為の国を作るのだ! そしてミナトォ! 貴様は俺を悦ばせる玩具になれ!!」
キララが生きてようが死んでいようが、この先の人生俺に関わらなければそれでいい。
俺達はただ、残りの人生を幸せに、平和に、のんびりと暮らしたいだけなんだ。
今の俺はこの世界よりも、他人よりも娘が大事なんだ。今の俺にはイリスが全てで……。
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ああ、いいさ。認めよう。
今の俺にはイリスとネコが全てなんだ。
俺達の平和の為に、なんとしてもここで!
「アドルフ……! 俺は貴様を殺すぞ! 謝ってももう遅いからな……!」
「ふははは!」
『ふははははっ♪』
……っ!?
『君は相変わらず面白いわねぇ』
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「ミナト程度が俺を殺すだって? 謝ってももう遅い? 笑わせるなよ。お前こそ謝っても俺の性奴隷なのは変わらんぞ! あまりに具合がよければ長く使ってやるからな!」
『……ちょっと、こいつって君が殺したかった相手よね? 気持ち悪すぎじゃない?』
「あははは……まったくだ。気が合うじゃないか」
ママドラが帰って来てくれたなら俺はもう負ける要素なんて何もない。
『じゃーいっちょぶっ殺しましょうか♪』
おう、と言いたいところだが……やっぱりこいつは俺だけの力で殺すよ。
『あらどうして?』
アドルフを殺すのが俺だからだ。
『説明になってないわ。それによく見て見なさい。今の君になら見えるわ』
なんの事だか分からないが、意識を集中し、ニヤニヤしているアドルフを睨む。
体の中を黒い何かが渦巻いていた。
なんだあれは……。
『あれはあの女の力よ。分け与えられたのか、奪い取ったのかは分からないけれど……すくなくともこいつだけの力ではないわね』
なんだ。こいつもズルしてたのかよ。
だったらなんにも問題ねぇな。
「なぁアドルフ、お前それ魔王の力使ってるよな?」
「よく気付いたな。ふふ……まさかそれを卑怯だなんて言わないよな?」
アドルフがニヤリと笑うと、その身体がボコボコと変質していく。
そう言えばあの時最後に見たこいつは腕も足も一本失っていた筈だ。
五体満足なのは強力な回復魔法でも使ったのかとも思ったが……よく見るとこいつの中の黒い力が失った腕と足に集中しているように思う。
みるみるうちにアドルフの腕と足がワーウルフのような太くてシルバーの毛並みを持つ物に変わった。
それだけでも相当力が強そうに見えるが、問題なのは長く鋭い爪の方か。
「アドルフ、俺はお前のその力を卑怯とは思わない。目指す未来の為に使える力の全てを使って相手を倒すのは当然の事だ」
「ふふ……もの分かりが良いじゃないか」
「だから」
『さぁ、君の力を見せてあげなさい』
「だから、俺も遠慮はしない」
ママドラ!
ぐぎゃり。
俺の腕が破裂した。
~っ!?
何が起きた? アドルフの攻撃か!?
『落ち着きなさい。痛くないでしょう?』
……あ、ほんとだ。
気が付けば俺の右腕は、アドルフの腕と同じように変異を遂げていた。
巨大になって、深い青紫。そしてその腕は硬い鱗でびっしりと覆われていた。
うっわキモっ!
『……くすん。少し、傷付いたわ』
――――――――――――――――――――――――――
ミナト&ママドラコンビ復活!
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