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第55話:新天地にて、新生活。
しおりを挟む俺達はあの後、レイラ、レイン、そしてノインに礼をいい、国境を越える旅に出た。
魔王であるキララを倒した事が関係しているのか、驚くほど魔物は大人しくなっていたので道中は比較的平和に進む事が出来た。
俺とネコは大罪人として顔が割れている為、苦労するかと思いきや、ダリル王国中にばら撒かれた手配書に転写されていたのはミナト・アオイではなく、ミナト・ブルーフェイズだった。
これがどうしても疑問だったのだが、ノインがその答えを知っていた。
どうやら情報の出所はデルドロらしい。
キララやアドルフと繋がっていたライアンが、俺が遺跡に向かっていたという情報を王都に売ったらしい。
確かライアンはデルドロのゴキの件で管理権限を失ったのでその腹いせだったのかもしれない。
俺は直接ライアンと会った事も無いからなんとも微妙な気分だが、恨む気にはなれなかった。
俺をミナト・ブルーフェイズとしてリークしてくれたおかげでミナト・アオイの顔は出回らなかったからだ。
そして、今の俺は訳あって女の姿のままなので、外見でバレる事はまずない。
訳、というのは……俺はあれから特別な力を使う事が出来なくなっていた。
キララとの闘いで無茶をしすぎた後遺症なのか、身体も元に戻らず女のまま。今回はこれに助けられた部分が大きいので複雑な気持ちである。
意識は男の状態を保てているし、ママドラの力を借りる事も無いので意識の女性化は現状ストップしていた。
そう、あの日からママドラの反応は消えたままだ。
俺はあの戦いでレベルが58にまで上がっていたので、目に見えて身体能力が強化され、余程の事がない限り魔物の対処に困る事は無かった。
キララ戦で一気にレベルが上がったのは、それだけあの経験が俺にとって分不相応だったという事だろう。
そしてその後生活の中で魔物を狩るうちに62まで上がっている。
ともかく、匿うのはネコだけで済んだ為比較的簡単に国境越えを達成できた。
おっちゃんが元々隣国のシュマル共和国と定期的に行き来していたおかげで、俺達は一緒にシュマルへと入国する事が出来た。
勿論国境には審査が必要なのだが、おっちゃんは長い事両国間で商売をしていたらしくほぼ顔パスだった。
念の為ネコは積み荷として箱の中に押し込んでおいたが、荷物を改められる事も無かった。
気に入らない事があるとすれば俺とイリスの事を聞かれた際おっちゃんが「妻と娘ヨ」なんて言いやがった事くらいか。
「こんな若くて綺麗な嫁さんゲットするなんてすごいなぁ。羨ましいなぁ。毎晩お楽しみなんだろうなぁ」
そんな無駄話が聞こえてきて鳥肌が立った。
そうしてシュマルに入国した俺達は、まず商業都市レイバンという街へやってきた。
そこは驚くほど大きな街で、人の出入りも多く賑やかな場所だった。ダリル王国に比べると資源なども潤沢なのか、王都ほどでは無いにせよシャンティアやデルドロよりも余程栄えている。
亜人達も人間と同じように受け入れられ、いろいろな種族が入り乱れる平和な街。
俺達はここがすぐに気に入った。
そしてあれからもう三年が経とうとしている。
ネコは相変わらず馬鹿だし能天気だし何も変わらないが、明らかにベタベタしてくる事が増えて俺をやきもきさせている。
女の体じゃなければ何か間違いが起きていたかもしれない。
もったいな……ではなくて、間違いがおきなくて良かった。うん、良かった。
……そう思わないと平静を保てない。俺だって精神は健全な男子なのだ。仕方がないんだよ。
……こういう時に頭の中で茶化してくる声が聞こえないというのが無性に寂しい。
「ぱぱ、グロウベアの解体が終わったからこれから街に行かない?」
「お、おう」
呪いによって五歳で止まっていたイリスの成長は著しかった。
たった三年弱で見た目は十二~十三歳程度にまでなった。
肉体的な年齢で言えば五歳で止まっていた時間が長かったせいでまだ八歳程度なのだが。
冒険者登録はしていないものの、恐るべき事にイリスは既にレベル97。ドラゴンとしてはこのくらい普通なのだろうが、人間からしたらアホみたいな数字だ。
俺なんかとは比べ物にならないが、相変わらずイリスは俺の事を慕ってくれている。
いつの間にか俺への呼び方が【ぱぱ】になった事が不安を煽ったが、それについては触れない事にした。
俺の中にもうママドラが、六竜のイルヴァリースが居ないと確定してしまったら俺はあの日を後悔し続ける事になる。
真実を知るのが怖かった。
まだ休んでいるだけだと信じていたかった。
……ただ傷付くのが怖いだけの臆病者だと分かってはいるが、それが俺だ。見たくない現実からは目を逸らしてしまう。
レベルが上がっても人間としての強度が上がる訳ではないといういい例だろう。
「ぱぱ? 聞いてるー? にゃんにゃんも連れて行こうよー。今夜の食材買うついでに買い物もしたいな♪」
そう言ってイリスはにっこりと笑う。
精神的にも中学生くらいな感じだろうか? 女の子としての自覚が出て来たのかお洒落なんかにも気を遣うようになってきた。
娘が育っていくのを見ているとなんとも言えない気持ちになる。
優しくて、可愛くて、強い。俺の自慢の娘だ。
「分かった。ちょっとネコ呼んでくるよ」
畑に向かい、ほっかむりをして野菜を引っこ抜いているネコに声をかける。
「イリスと出かけるんだが、ネコも一緒に街に行かないか?」
「あ、ごしゅじん♪ あー、そうですねぇ。今日はいいです。まだやっておきたい事ありますしたまには二人でのんびりしてきて下さい」
「……そっか。じゃあ留守を頼む。無理はするなよ?」
この国に来てから俺達はまずママドラの財宝を必要最低限だけ換金し、今の土地を買った。
贅沢をする気になれば出来るが、一応俺達は隣国では大罪人だ。できるだけ目立つ事は控えたかったのでママドラの宝にはあまり手を付けていない。
何もない土地に掘っ立て小屋が一つ。そんな場所を三人で開拓するのはとても苦労したが、楽しい日々だった。
失敗も多かったが今ではそれなりに野菜を育てる事もできるようになった。
管理は主にネコがしてくれている。思ったよりも器用で生活力があり、とても助けられた。
無理をさせていないか心配だが、彼女も今の生活を気に入ってくれているようなので俺も救われている。
たまには街でネコにプレゼントでも買って帰ろうか。
しかしあいつ何あげたら喜ぶんだ? 困った事に全く分からん。
――――――――――――――――――――――――――――
第二部スタート!
ここからは三人でのまったりのんびりスローライフがはじまるよ☆彡
(大嘘)
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