21 / 476
第18話:襲撃者。
しおりを挟む「ずぴぴー……ずぎゅごごごっ!」
眠れねぇ……ネコのいびきが凄すぎて全く眠れねぇ……。
部屋は一部屋しか取ってなかったがその代わりベッドが二つある部屋だった。
特にネコも気にしていなかったので俺も何も言わなかったのだが、別の部屋にすべきだった。
俺の手を握りながら眠っているイリスはまったく気にすることなく眠りこけている。
「あぁ……本当にイリスは俺の天使だよ」
『そうでしょー? イリスは私にとっても天使よ♪ 貴方のおかげで助けられて……本当に感謝してるわ』
頭の中に突然ママドラの声が響いてちょっと驚いたが、早くこの環境にも慣れないとな。
今後俺の人生は全てこいつに監視される事になるわけだし。万が一彼女でも出来たらどうするんだよこいつ全部見てる気なのか?
『そんな日が来るとは思えないけれど……でもユイニャンがいい事してくれるかもしれないわよね。さすがにそういう時は大人しくしてるから安心してちょうだい♪』
こいつの言動を間に受けるんじゃねぇよ! それとこいつの事ユイニャンって呼ぶな。なんか腹立つ!
「ずずごがっ! …………ぴゅーぎゅぎゅずるるー」
うるせぇ……。これじゃほんとに寝られねぇぞ、どうしたものか……。
『ん……? どうやら眠る必要は無さそうだわ』
なんだそれ? どういう……。
キィィィィ……。
静かな空間に微かな高音が響く。
『まだ動かない方がいいわ。視線だけ動かして窓を見て』
言われた通りに視線を移動させると、先ほどの音の原因が分かった。
外から、何者かが窓を特殊な道具で破ろうとしている。手慣れた動きを見る限り、こういう事を普段からやっている奴等なんだろう。
ママドラ、この場合何がいい?
『難しいけれど……じゃあこちらも気配を消す方向で。入って来たところを返り討ちにして情報を得ましょう』
ママドラ経由で俺の中にスキルと、最低限の記憶が流れ込んでくる。
俺としてはもっと過去の記憶を知りたいと思うが、ママドラがスキルの使用法などに関連する物しか流してくれない。
脳が爆発するよりはマシだけど気になる物は気になる。
……暗殺者か。確かに気配を殺すのにはちょうどいい。
俺はイリスの手をそっと離して、外からの侵入者に気付かれる事なく隠密スキルで闇に溶ける。
音をたてずに黒い影が部屋へ侵入してくる。
俺だけならともかくイリスが寝てる寝室に押し掛けてくるとは万死に値する。
その影はゆっくりと部屋の中を見渡し、俺達の荷物が置いてある方へと向かう。
……物取りが目的か?
そう言えば商人のおっちゃんがシャンティア近辺で物取りが出るとか言ってたっけ。
でも俺は野党とかそういうのだと思ってたんだが……こいつらは完全に盗賊の類だ。
「ぎゅごっ!」
ネコのいびきに一瞬ビクっとしたのを見逃さず、背後を取り首元に短剣を突き付ける。
「動くな。少しでも動けば命は無い物と思え」
影はゆっくりと両手を上げ、降参のポーズ。
「お、俺は頼まれただけなんだ……」
「黙れ。事情を聴くのはもう一人始末してからだ」
俺の言葉に、黒い影は大きくビクンと身体を震わせ、「来るな! バレてるぞ!」と叫ぶ。
「動くから刺さっちまったじゃねぇか。まぁいいやとりあえず死ぬなよ。まだ聞きたい事がある」
俺は一旦そいつの首筋に手刀を入れて昏倒させ、窓から外へ飛び出す。
それと同時に外に人の姿が無い事を確認し、相手は上だとあたりを付けて壁に手足を張り付けよじ登る。
屋根の上に行くともう一人がまさに違う建物の屋根へ飛び移ろうとしているところだった。
その軸足へ短剣を投げ、阻止する。
男は足を抱えて屋根を転げ回っていたので屋根から落ちる前に襟首をひっつかんで、相手の足から短剣を引き抜く。
「うがぁっ! たた、頼む! 命だけは……!」
「定番の命乞いか。死ぬ覚悟が無いなら悪事などしない事だ」
そいつにも手刀を入れて意識を奪い、部屋へと戻ると、まだ最初の奴が目覚めてなかったので二人背中合わせに縄でぐるぐる巻きにした。
「おい、もう起きていいぞ」
数度そいつらの顔をビンタして起こし、今度こそ必要な情報を聞き出す。
「大きな声を出せば殺す。お前らの声で俺の可愛い娘が目を覚ましてしまったとしても殺す。よく考えて口を開けよ? 誰に頼まれた?」
「お、俺達は……雇われただけなんだ」
「誰に頼まれたかを聞いたつもりだが?」
答えにならない言葉を吐いた男の太ももにゆっくりと短剣の刃先を這わせる。
「ひぃっ!」
「娘が起きたら殺すからな」
「~~っ!!」
恐怖に顔を引きつらせながらも悲鳴をかみ殺したのは褒めてやらないとな。
「で? 誰に頼まれたんだ? 次はないからな」
「……この街の、西にあるスラムを牛耳ってるギュータファミリーに、頼まれた」
ギュータファミリー? マフィアみたいなもんだろうか。
「じゃあ次は目的だ。荷物を漁ろうとしていたみたいだが何が目的だ?」
次はもう一人の方が答える。
「あんたらが持ってるっていう貴重な宝石類を盗んでこいって……」
何故そのギュータファミリーとかいう奴らがママドラの財宝を知ってる?
……っ!
俺は一つの可能性に気付いてしまった。
「おい、そこには小太りの商人が掴まってるんじゃないか?」
「誰が掴まってるかまでは知らねぇよ……俺達は盗み専門だ」
「いや、商人かどうかは分からないが変な喋り方の太った男なら昼間に連れてこられてるのを見た」
片方だけでもそれを見ていて助かった。
やっぱりおっちゃんはそいつらに掴まっている。そしてあの宝石を奪われ、出元を吐かされたんだろう。
早く助けてやらないとまずいな。情報が正しいと分かれば生かしておく必要が無くなってしまう。
つまり、こいつらを帰らせる訳にはいかない。
「……悪いな」
「ど、どういう意味だよ……」
「話したんだから命は……」
二人を始末するにしてもここは良くない。
目を覚ましたイリスが驚いてしまうからな。
「ねーまぱまぱ」
イリスの声に二人がビクっと跳ねる。
「残念だな。娘が目を覚ましたからお前らは殺す」
「た、たすけ……」
「頼む! なんでもするから……!」
もう決めた事だ。
暗殺者の記憶の断片のせいか、今の俺は非常に頭の中がスッキリしていて人を殺す事に躊躇いの欠片も感じない。
問題はどこで殺すか。……俺の仕業と分からなければその辺の裏路地あたりで十分か。
「まぱまぱ、その人たち悪い人じゃないと思うよー」
「そっかー♪ じゃあ殺すのやめるね?」
思わず即答してしまった。娘おそるべし。
いやいや、生かしておいてもいい事ないだろ。負けるな俺。
「あのね、こいつらは泥棒なんだ。悪い奴等なんだよ」
「でも、心が汚くないよ?」
心……?
『私達には相手の心の闇の深さが見えるのよ。君は最初会った時酷いもんだったけど、こいつらは確かにそこまで汚れてはいないわ。そのうち君にも見えるようになると思うわよ?』
……そんなの聞いたら殺せねぇじゃねぇかよ。
「まぱまぱー、殺しちゃうの? やめようよ」
「殺すのやめるね♪」
0
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。
幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』
電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。
龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。
そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。
盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。
当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。
今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。
ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ
「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる