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01:星野宵子
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まず、驚いたのは、部屋の広さだ。10畳はある。
オマケに、寮だというのに、個人用の風呂、トイレまでついており、キッチン、冷蔵庫、洗濯機まで完備。
エアコン、テレビ、電子レンジなど、必要なものは一通り揃っている。
寮で食事が出るはずなのだが、一体何のためにキッチンがあるのか⋯⋯。
まずクローゼットに、一式5万円もする春秋用の制服を納め、教科書、体操着、ジャージ、その他諸々が詰め込まれた段ボールを開け、途方に暮れた。
(カラーボックス⋯⋯いや、本棚が必要だな)
金ならある。
1年分のお小遣いとして、ポンと渡された通帳には、なんと300万円が振り込まれていた。年収か!
(確か通販は自由なんだっけ。取り敢えずネットで──)
宵子さんが、現代人の必需品・スマートフォンを手に取った瞬間。
トントン、と控えめに扉を叩く音がした。
「はい!!」
弾かれた様に応え、入り口駆け寄った。一応警戒しつつ、ゆっくり扉を開けると、黒髪をハーフアップにした、清楚な女の子が、胸に手を当てて立っていた。
「あの⋯⋯急にごめんなさい! お隣にどんな方が来ているのか知りたくて⋯⋯。私、清水美紗子と申します」
「あー⋯⋯私は、星野宵子です。外部入試で来たので、分からない事ばかりなので、色々教えていただけると嬉しいのですが」
宵子さんは、精一杯丁寧に喋った。そのせいで、かなりぶっきらぼうになってしまったが。
美紗子さんは、口元に手を当てて、上品に微笑んだ。
「ええ、勿論です! 同じAクラスの同志として、貢献していきましょうね?」
「貢献? 何か奉仕作業的なものがあるんですか?」
宵子さんは、すっかり失念していたが、セラフィム学園は、カトリック系の学校で、敷地内に教会もある。
(まさかお祈りとかするわけ? 勘弁してくれい!)
「ええっと⋯⋯。この学校は、縦割りのチームみたいな物に別れていて⋯⋯その⋯⋯上手く伝わるかしら⋯⋯」
美紗子さんは、始終おどおどと言葉を探す。
「1年生から、3年生まで、AクラスはAチームで、良い行いをすれば、得点が貰えるし、悪い行いをすれば、得点を引かれてしまうんです」
「あー⋯⋯なるほど」
(なんだ、その某魔法学校みたいなシステム)
宵子さんは心の中で突っ込んだ。実のところ、こういう得点システムは、海外の名門校に良くあるのだが、庶民の彼女は知らない。
「そうだったんですね。私なんかが、お役に立てれば良いのですが」
「成績も評価ポイントなんです。星野さんは、秀才だとか⋯⋯。私なんかは、奉仕作業でしか、皆様のお役に立てませんから、羨ましいですわ」
どうやら美紗子さんは、かなり控え目な性格らしい。良く漫画に登場する、高飛車なお嬢様とは違う。
宵子さんは、安堵した。なんとか、新学期前に友達を作れて、ボッチを回避出来そうだ、と。
「いえいえ! 私なんて、皆様の足元にも及びませんよ!! 本当に分からないことだらけで⋯⋯。あの⋯⋯どうして、私室にキッチンがあるんですかね? 確か食堂があると聞いたのですが」
「そ、そのことで相談が!!」
美紗子さんは、胸の前でパチンと手を合わせて、目を輝かせた。
「実は高等部から、寮では日曜日だけ、自炊なのです! 生活力を身につける為の実践訓練ということで! は⋯⋯恥ずかしながら、私、料理をした事が殆どなくて⋯⋯。お手伝いいただけたら、嬉しいと⋯⋯」
宵子さんは、ニンマリ笑った。これは、仲良くなる、絶好のチャンス!
「ええっと⋯⋯それじゃあ、色々買いに行かないと行けませんね」
部屋には、コンロや冷蔵庫などは用意されていたが、ザルや鍋などの小物は無いし、勿論食材も。
「そうだ! それじゃあ、これから、一緒に出掛けませんか? 近くのスーパーとか、ホームセンターとか、教えて貰えると、私も助かります。本棚とか、ピンチハンガーとかも欲しいですし」
加えて言えば、最新式のゲーム機に、漫画に、ライトノベル。パソコンもあれば便利。
(なんってったって、300万円もあるんだもんね)
金は使えば無くなるんだぞ。宵子さんは少し調子に乗っているが、止める者はいない。
対する美紗子さんは、お上品に笑って、ふわりと踵を返した。
「それでは、私、出掛ける準備をして参りますわね! すぐに戻ります!」
心なしかいい匂いを残して、退場。
「うはー」
宵子さんは仰向けに倒れ、息を吐いた。これは、想像していたのとは、逆の方向に神経を使う羽目になりそうだ。
(お金持ち学園って、ギスギスした雰囲気かと思ったけど、みんなあんなにお上品で、ホワホワしてるのかなー)
寮母さんも、清掃をしているシスターも優しそうな人だった。
(私も、ああならないと駄目?! ネコ⋯⋯被るしか無いのか⋯⋯)
まだ一学期も始まっていないのに、既に挫折気味。⋯⋯先は長いぞ。
オマケに、寮だというのに、個人用の風呂、トイレまでついており、キッチン、冷蔵庫、洗濯機まで完備。
エアコン、テレビ、電子レンジなど、必要なものは一通り揃っている。
寮で食事が出るはずなのだが、一体何のためにキッチンがあるのか⋯⋯。
まずクローゼットに、一式5万円もする春秋用の制服を納め、教科書、体操着、ジャージ、その他諸々が詰め込まれた段ボールを開け、途方に暮れた。
(カラーボックス⋯⋯いや、本棚が必要だな)
金ならある。
1年分のお小遣いとして、ポンと渡された通帳には、なんと300万円が振り込まれていた。年収か!
(確か通販は自由なんだっけ。取り敢えずネットで──)
宵子さんが、現代人の必需品・スマートフォンを手に取った瞬間。
トントン、と控えめに扉を叩く音がした。
「はい!!」
弾かれた様に応え、入り口駆け寄った。一応警戒しつつ、ゆっくり扉を開けると、黒髪をハーフアップにした、清楚な女の子が、胸に手を当てて立っていた。
「あの⋯⋯急にごめんなさい! お隣にどんな方が来ているのか知りたくて⋯⋯。私、清水美紗子と申します」
「あー⋯⋯私は、星野宵子です。外部入試で来たので、分からない事ばかりなので、色々教えていただけると嬉しいのですが」
宵子さんは、精一杯丁寧に喋った。そのせいで、かなりぶっきらぼうになってしまったが。
美紗子さんは、口元に手を当てて、上品に微笑んだ。
「ええ、勿論です! 同じAクラスの同志として、貢献していきましょうね?」
「貢献? 何か奉仕作業的なものがあるんですか?」
宵子さんは、すっかり失念していたが、セラフィム学園は、カトリック系の学校で、敷地内に教会もある。
(まさかお祈りとかするわけ? 勘弁してくれい!)
「ええっと⋯⋯。この学校は、縦割りのチームみたいな物に別れていて⋯⋯その⋯⋯上手く伝わるかしら⋯⋯」
美紗子さんは、始終おどおどと言葉を探す。
「1年生から、3年生まで、AクラスはAチームで、良い行いをすれば、得点が貰えるし、悪い行いをすれば、得点を引かれてしまうんです」
「あー⋯⋯なるほど」
(なんだ、その某魔法学校みたいなシステム)
宵子さんは心の中で突っ込んだ。実のところ、こういう得点システムは、海外の名門校に良くあるのだが、庶民の彼女は知らない。
「そうだったんですね。私なんかが、お役に立てれば良いのですが」
「成績も評価ポイントなんです。星野さんは、秀才だとか⋯⋯。私なんかは、奉仕作業でしか、皆様のお役に立てませんから、羨ましいですわ」
どうやら美紗子さんは、かなり控え目な性格らしい。良く漫画に登場する、高飛車なお嬢様とは違う。
宵子さんは、安堵した。なんとか、新学期前に友達を作れて、ボッチを回避出来そうだ、と。
「いえいえ! 私なんて、皆様の足元にも及びませんよ!! 本当に分からないことだらけで⋯⋯。あの⋯⋯どうして、私室にキッチンがあるんですかね? 確か食堂があると聞いたのですが」
「そ、そのことで相談が!!」
美紗子さんは、胸の前でパチンと手を合わせて、目を輝かせた。
「実は高等部から、寮では日曜日だけ、自炊なのです! 生活力を身につける為の実践訓練ということで! は⋯⋯恥ずかしながら、私、料理をした事が殆どなくて⋯⋯。お手伝いいただけたら、嬉しいと⋯⋯」
宵子さんは、ニンマリ笑った。これは、仲良くなる、絶好のチャンス!
「ええっと⋯⋯それじゃあ、色々買いに行かないと行けませんね」
部屋には、コンロや冷蔵庫などは用意されていたが、ザルや鍋などの小物は無いし、勿論食材も。
「そうだ! それじゃあ、これから、一緒に出掛けませんか? 近くのスーパーとか、ホームセンターとか、教えて貰えると、私も助かります。本棚とか、ピンチハンガーとかも欲しいですし」
加えて言えば、最新式のゲーム機に、漫画に、ライトノベル。パソコンもあれば便利。
(なんってったって、300万円もあるんだもんね)
金は使えば無くなるんだぞ。宵子さんは少し調子に乗っているが、止める者はいない。
対する美紗子さんは、お上品に笑って、ふわりと踵を返した。
「それでは、私、出掛ける準備をして参りますわね! すぐに戻ります!」
心なしかいい匂いを残して、退場。
「うはー」
宵子さんは仰向けに倒れ、息を吐いた。これは、想像していたのとは、逆の方向に神経を使う羽目になりそうだ。
(お金持ち学園って、ギスギスした雰囲気かと思ったけど、みんなあんなにお上品で、ホワホワしてるのかなー)
寮母さんも、清掃をしているシスターも優しそうな人だった。
(私も、ああならないと駄目?! ネコ⋯⋯被るしか無いのか⋯⋯)
まだ一学期も始まっていないのに、既に挫折気味。⋯⋯先は長いぞ。
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