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全自動シャンプーおしがま
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「全自動シャンプー?」
初めて聞く単語に、俺は思わず首を傾げた。美容師は俺の荷物をロッカーにしまいながら相槌を打つ。
「そうそう。今日導入したばっかなんだけどね」
「自動ってどういうことですか?機械が髪洗ってくれるんですか?」
「うん。シャンプーもトリートメントもオートでやってくれるんだよ。ちょうど今日来てくれるって言うからさ、一番に使ってほしくて」
「おれ実験台すか」
「あはは、まあまあ」
どうやら美容師の話によると、髪を濡らすのもシャンプーを泡立てるのも洗い流すのも、最初にボタンをひとつ押すだけで機械が全部やってくれるのだと言う。流石に髪を乾かす機能はついていないので、ドライヤーは普通に手動でやらなければならない。とはいえ、シャンプーの工程を丸々機械に任せられるのだから、人件費の削減と効率化にもってこいの代物だそうだ。
よく世話になっている行きつけの美容院。確かに昔から通っているだけあって信頼の置ける仲ではあるが、「全自動」という怪しさ満点のフレーズに不安を覚える。そんな俺の不安を察知してか、美容師はけらけら笑いながら言葉を続ける。
「俺も一回試したけど、結構使い心地良かったよ?洗い残しもないし」
「はあ」
「ま、一回やってみて合わなかったらやめれば良いから。とりあえず今日はカラーとカットだよね」
美容師はそう言うと、いつも通り俺を席に案内した。
なんかうまく丸め込まれた気がする。でもまあ、この人が「良い」って言うなら、大丈夫か。なんて適当に考えながら、俺は今日のお目当てであるカラーの相談に入った。
*
「はい、じゃあ髪洗おっか」
気付けば数十分の置き時間も過ぎ、ついにシャンプーの時間がやって来た。忘れかけていた怪しい「全自動シャンプー」の存在を思い出し、急に心臓がドキンと脈打つ。内心落ち着かないまま立ち上がった俺は、いつものシャンプー台とは別の個室に連れて行かれた。
案内されたブースに置かれているのは、普通のリクライニングチェアと、頭をすっぽり覆えるであろう大きいカプセル。宇宙服?ヘルメット?何とも形容しがたいそれは、無駄に仰々しい佇まいで鎮座している。
椅子に座り、リクライニングを倒される。そして顔にタオルを被せられ、視界が遮られる。腰から下に膝掛けをかけられる。ここまではいつもと同じだ。違うのは、頭の上に怪しい機械が待っているということだけ。
「じゃ、始めるね」
美容師がそう言うと同時に、俺の頭にかぽりとカプセルが嵌められた。タオル越しにほんのり明るかった視界がほとんど真っ暗になり、思わず身体をぐっと固くしてしまう。
「頭きついところない?」
「は、はい、なんかこれすごいっすね」
「ビビってる?大丈夫だよ」
緊張する俺とは裏腹に、美容師は呑気にへらへら笑う。そして何の前触れもなく、開始ボタンをピ、と軽く押した。
すると突如、ヴーーーーン、と低く唸るような音が俺の耳を包み込んだ。
「ぅわっ!」
「あはは、これからが本番だよ」
脳に直接響くような鈍い機械音。カプセルで頭囲をがっつりホールドされているため、音が耳の中で籠って余計に脳を揺さぶる。
(こ、こわ……)
得体の知れない何かが襲ってきそうな感覚に、俺はこっそり身震いを起こす。その時、遠くの方で電話のベルが甲高く鳴り響いた。
「あ、ごめん。ちょっと電話出てくるね。シャンプー終わった頃にまた来るから」
「えっ、あ、え」
俺が返事するよりも前に、美容師がその場を離れる足音がばたばたと聞こえる。そして、電話の鳴り鈴が止んだと同時に美容師の話し声が始まる。
「え、ええ……」
変な機械に突っ込まれたまま、ひとり残された俺。
いや、当たり前と言えば当たり前だ。もともと人件費削減と効率化のために取り入れられたものだから、放置されるのは当たり前。だけどさぁ……。
(試運転なのに放置かよ……)
心細さを感じていると、そんなことお構いなしの機械は、がこん!という音と共にとうとう稼働し出した。
ここからが本番、美容師の言葉が頭をよぎる。
……まさしくここからが本番、否、「試練」の始まりだった。
稼働音が止む。
その数秒後。いくつもの細い水流がぴゅうう、と鉄砲のように飛び出し、あらゆる方向から頭にクリティカルヒットする。
ぞわぞわぁ……っ♡♡
「っ!?」
(は!?な、に、これ……っ!!)
頭を突き刺す、ごくごく細かい水流。それがどういう訳か、頭の頂点から背中にかけてぞわぞわ♡とした感覚をもたらすのだった。
「ん、っ……、ふ、うぅ……っ」
(なに、これ、めっちゃぞわぞわって……!!くすぐったい!!)
頭の皮膚がびりびりと痺れ、首から肩に渡って一気にぞわぁ……♡と鳥肌が立つ。飛び出る水流の勢いが強いため、何か細くて固い棒のようなものでこしょこしょと弄ばれているような感覚なのだ。
(やだ、まって、やばいってコレ!無理だ、たすけ……っ!)
これはやばいやつ、直感でそう感じた。
だが助けを呼ぼうにも、美容師は受付で電話している。半個室みたいなところだから周囲には誰もいないし、第一いたとしても他の美容師は知り合いじゃないから、な、なんかハズい。
(と、とりあえず、我慢……)
何はともあれ、たった数分の洗髪。こんなのすぐに慣れる。大丈夫だろう。
気合を入れるためにぐっと奥歯を噛み締めた、その時だった。
とくん、下腹部が疼く。
これは、まさか。
(と、といれ、行きたい……)
嘘だろ、よりにもよってこのタイミング。俺はなんと、尿意を催してしまった。
実のところ、置き時間の途中でほんのり感じていた尿意。ただ、その時は本当に本当に微かな尿意だった。だからとっくに忘れていたのだ。
ここに来て今更思い出すとは、何の悪い因果か。
(うう……!何で今なんだよ!く、っ、やば、あたまぞわぞわする……っ)
ご丁寧に水流が俺の頭を満遍なくこしょこしょと攻撃した後、今度は普通のシャワーのような水しぶきがカプセルの中を飛び交う。ただのシャワーのはずなのに、ぐりんぐりんと頭皮を優しくマッサージするかのごとく作動する。これがまた、予測の出来ない動きで。
(くぅ……、っ!ちから、抜ける……!)
俺の肩は、洗髪が始まったその瞬間からびくびくと震えっぱなしだった。
(くっそ、といれしたい……!くすぐってぇ……!!声出る……!)
抑えたいのに、くひ、くふ、というキモい吐息が止まらない。頑張って食いしばっていても、新しいぞわぞわがやって来るとつい口元が緩んでしまうのだ。機械と水音がうるさいおかげで、多分個室の外には聞こえていない。しかし自分にははっきりと聞こえてくるので、あまりにも間抜けな声を漏らしてしまうのがひどく情けなかった。
事情はよく分からないけれど、カラー剤をしっかりと落とさないといけないからか、激し目にシャワーが当てられている。……気がする。何度も同じところを、ぐりん、ぐりんと抉っている。同じところを触られているのに一向に慣れてくれない俺の肌は、いちいち水流の刺激に背中をぞくぞくと戦慄させた。
(ううう~~~~~、水の音やだ!!!といれしたいぃ……!!!)
じゃあじゃあと至近距離で響く、水の音。カプセルに閉じ込められているからこそ、水の音だけが耳元で強く響いて、脳内を支配する。これが俺の尿意を一気に加速させる。
ちがう、パブロフの犬的な、そういうアレじゃない!風呂でおしっこするとか、そんな行儀悪いことほとんどしない。た、たまに、2週間に1回くらい、しちゃう日もあるけど!
じゃああ、じょおお、と豪快に放たれるシャワーは、俺の膀胱を見事にいじめにかかる。案の定誘われてしまった膀胱は、きゅん♡と切なく収縮し始めた。
(ま、って、なんか、急に……!)
思わず脚をぎゅっと閉じる。両の足首を咄嗟に絡ませた。
(やばい、めっちゃ……、っ、おしっこしたい!)
水の音が脳内を占めるせいで、俺の頭の中は「おしっこがしたい」であっという間に埋め尽くされてしまった。排泄欲を誤魔化すため、足首を右に、左に、と転がしてみるも、機械が調子づいてますます水の勢いを強くするので、そんな誤魔化しもすぐに尿意に塗り替えられてしまう。
そして、水の音だけではない。頭を執拗に捏ねてくる、マッサージのような手つき。そういえばさっき「使い心地良い」とか何とか美容師が言っていたのは、こういうことだったのか。確かに人の手で洗い流されているようではあるけれど、でもなんか、それ以上にくすぐったい!
(お、おしっこしたい、やば、どーしよ、おしっこおしっこ……!)
(くすぐったいなんて聞いてねえよ!う、マジでやばい、おしっこしたい!!)
耳を塞ぎたくても、塞げない。それどころか、囁くように水音がすぐ傍で響いている。最悪だ、逃げ場がどこにもない。別のことを考えようとしても、すぐ傍で鳴るせせらぎがそれを許しちゃくれない。何なら、自分がじょぼじょぼと用を足す場面ばかりが瞼の裏に浮かんでくるようで、余計にトイレのことばかり想像を膨らませてしまう。
トイレに駆け込む自分の姿。ちんこを取り出し、豪快におしっこをぶっ放す姿。尿道をおしっこが駆け抜けていく快感。どぼどぼと水面を打つ激しいおしっこ。腰を前に突き出して、目いっぱいおしっこを前に飛ばす姿……。
(くそ、駄目だ駄目だ!!!おしっこのこと考えるな!!!)
はっとして、脳内からトイレシーンを排除する。しかし考えないようにすればするほど鮮明に脳裏に浮かんでしまうもの。俺はしばらくの間、こしょこしょと頭上を蠢く水流と、しゃあしゃあと轟く水音と、自然と浮かび上がるトイレの妄想に悶々としながら、この責め苦に苛まされ続けた。
すると急に、お湯の放出がぴたりと止んだ。終わりか?と一瞬思ったものの、まだ頭を濡らされただけ。これが序章に過ぎないことは自分でもよく分かっていて。
ぴゅう、と今度は何か液体が降り注ぐ。ほのかにフローラルの香りが漂い、これがシャンプーだと気が付いた直後、再び強い水流が頭を包み込む。どうやらこの機械、水圧で頭皮を洗っていく仕組みらしい。温かいお湯に包まれた俺は全身の力が緩みそうになり、慌てて下半身の筋肉をきつく締めた。
首の根元から、耳の裏、頭の頂点にかけて、前後に移動する水流。
「くぅ、っ!」
特に首元に差し掛かったとき、全身の肌がぞわわぁっ!と粟立ち、かく、と腰が軽く引ける。
(こ、こんなん、無理!!!こしょばい!!)
(みみ、耳弱いからぁ……っ!!)
(まっ、て、マジでおしっこ出そう、駄目だって!!!やばい!!!)
人目がないのを良いことに、もぞもぞと脚を擦り合わせてしまう。膝を閉じ、互いを重ねるように擦り合わせる。尻にきゅっと力を込めれば内腿が固く締め上がって、なんとかおしっこを体内に留められるような気がした。膝掛けがごそごそと音を立てるけれど、もじつくのを抑えられない。
なのに、俺の努力は一瞬で水の泡。急に水流の動きが変わったのだ。
「ふっ、ふひ、ッ!?」
強弱をつけながら、ぶしゅうぅ、ぶしゅううぅ!と頭を刺激する。しかもランダムな位置から噴射されるから、ぶしゅう!というリズムに合わせて俺は身震いを起こす。結構な水圧と、柔らかタッチの水圧。これが意外とくすぐったい。いや、どういう作業なんだよこれ。
これを5回くらい繰り返した後、今度はまた別の動き。左右の側頭部から頭頂部にかけて登っていったと思えば、また耳の裏まで帰っていく。脳天がびりびりと痺れる。やばい、頭の頂点から全身にぞわぞわが走る!
「ふひ、ッ!ふぅ、く、ぅううッ!」
(も~~~~、おしっこおしっこおしっこ!!)
(やめて、やだ、くすぐったい!!!ちからぬけちゃうって!!!)
ぞくぞくっ!と背中が戦慄する度、膀胱がきゅうう♡と甘く疼いて、おしっこがその中で暴れ狂う。するとおしっこが尿道をめがけ、どばどばと一気に集中して流れ込む感覚に見舞われた。俺は慌てて脚を締め、腰を左右に揺らした。にもかかわらず、こういう時に限って訪れる別の動き。さっきみたいな細かいシャワーだ。突然頭全体を程よい飛沫が包み込み、また肩を震わせる羽目になる。
(やばいって、今それは……ッ!!)
尿道口が、ひくひく!と開閉する。直後、ちんこの先っぽがふるりと大きくわなないた。
(っ、~~~~~~~~~~!!!!)
反射的に腰を捩る。膝がぎゅっと曲がる。
(やだ、やだやだやだ……ッ!!!)
「くひぃっ、く、ふぅ、ぅうッ!!」
絶え間なく近くで響く水の音が、膨らんだ尿意を更に責め立てる。
しょわあああ、じょぼぼぼぼ、じゃあああああ…………
(音、むり、むりだってばぁっ!)
(もじもじすんの止まんねえ……っ、くそ、ちんこ揉みたい!!)
人目も無いし、膝掛けがあるから、きっと股間に手をやったところで誰にもバレないだろう。だけど、そんなみっともない、ガキみたいな仕草をすることにどうしても抵抗がある。情けなく腰をふりふり♡とするしか、この尿意に抗う方法は無かった。
しょわあああ、じょじょじょじょっ!!!
「!!!!」
頭を蠢く、ジェットみたいな水流。
突如、腹の奥がきゅうううん♡と強烈に疼く。
(ち、ちびるっ、~~~~~~~~!!!!!!!!)
俺はズボンを握り締め、ぐいい!と上に引き上げた。
でも、そんな付け焼刃の抵抗が、機械の容赦ない攻撃に対抗できるはずもなく。
びくびくっ、びく、びくっ、きゅうううぅん……♡
(ちんこ、ふるえて……!だめだ!!耐えろ!!出るな、出るなぁ……っ!!)
(ちんこ揉みたい、もみもみしたいぃ……!!むずむずする、おしっこ出るって!!)
(だめ、だめだ、誰か見てるかも、でも、ちんこ揉まないと、あ、あ、あっ、でる、でるでるでる、~~~~~~~~ッ!!!!)
じょぼぼぼ!と水流が首の根元を貫いた瞬間。ぞわぞわが背骨を伝って、腰に、尻に、そして、ちんこに。先っぽが激しくむずむず!と震え、ついに。
(あ、あっ、あ、ちびる、ちびる、ちびるッッッッ!!!!!!!!!!)
しょろろ……♡
「~~~~~~~~っ!!!!!」
むずむずに耐え切れず股間に手を伸ばすよりも前に、俺のホースからほんの1秒、おしっこが飛び出てしまった。
全力で腰をくねらせ、なんとかそれ以上の侵入を食い止めることには成功した。だが、相変わらず頭のマッサージを止めてくれない機械によって、シャワーを巧みに操る揉み洗いはどんどんエスカレートしていく。
(これマジでいつ終わるの……っ!?もうずっとやってるじゃん!!!)
体感ではもう10分くらいここに突っ込まれている気がする。が、そんなはずは無いだろう。だって、シャンプーなんていつもせいぜい5分くらいで終わるのだから。
いつ終わるか分からない恐怖と、何が行われているのか分からない恐怖。激しい尿意の中、頼りになるものは何一つなかった。とにかく、終わるまではこの地獄に耐えるしかない。
また新たな液体が投入された感覚から、これからトリートメントが始まる予感がした。つまり、まだまだ終わる気配がないということ。
「ふ、ぅう、くっ、ううう、くひぃッ!!ううう~~~~っ!!!」
そして機械は先ほどと同じように、何パターンものリズムを以て俺の頭皮を弄ぶ。
(どうしよ、これっ、も、漏れる……っ!?)
(冗談じゃねえ、この歳でおもらしなんてっ!!)
(あああ……ッ、でもマジでやばい、おしっこおしっこおしっこ!!!!)
リクライニングチェアが、ぎ、ぎ、と音を鳴らす。それほど俺の下半身はもじもじ♡もぞもぞ♡としていないと尿意に一瞬で負けそうだった。
辛うじて股間を避けた両手は、一生懸命ズボンをぐいぐい上へ引き上げる。擦り合わせすぎて熱くなった内腿。ますます内股になって、脚をきつくきつくクロスさせる。
なのに、尿意の高まりは止まることを知らない。しょわああ、という軽快な水音と共に、膀胱の中のおしっこは出口を求めて大暴れする。
(だめだ、またおしっこ来てる、だめ、もれる、もれるぅ……ッ!!)
もうすぐそこまでおしっこが降りてきている。尿道口の一歩手前までおしっこが迫ってきている。一瞬でも気を抜いたら、もう一度下着を湿らせることに……!
……そう自覚していても、機械の動きは俺の心を汲み取ってなんかくれないわけで。
無慈悲にも、頭全体に再びシャワーが浴びせられる。
ぞわぞわぞわぁ……♡
ぞぞぞぞ…………♡♡
「く、ううううぅっ!!!!」
(あ、あ、あ、あ、……ッ!!!)
じゅじゅっ、じゅうう!!!
(いやだ、ちびる、ちびる、…………漏れるッッッ!!!!!!!)
じゅうううっ、ちょろろろ………♡♡
(もうむり、といれ、トイレ行きたい!!!!漏れる!!!!)
(我慢、我慢、我慢ッッッ!!!!耐えろ!!!!)
(あああ~~~~~~っ、おしっこおしっこおしっこ、漏れるッッ!!!!)
下着がじわあ……♡と水気を帯びていく。尻にこれでもかというくらい力を入れ、くねくね♡くねくね♡と身体を揺らす。がくがくと膝を揺らす。ピストン運動みたいに腰を前後に振りたくり、ちんこを前に後ろに揺らす「フリ」をする。それでも尿道口はひゅう、ひゅう♡と甘美な疼きに見舞われ、今にもおしっこを噴出しそうな体制だ。ズボンを握り締めた手の平は熱く、じっとりとしている。
ここまで全力を尽くしてもなお、機械は俺を嘲笑うかの如く様々な水流を繰り出す。もはや、俺の尿意を高めるためだけに動いているのではないか、とさえ思える。
そして。
首元、耳の裏、そして側頭部、頭のてっぺん。全てを丁寧に、ぐりん、ぐりんと円を描いて揉みしだかれれば、もう駄目だった。
「くひ、ふうぅぅ………ッ!!!」
(これ以上は、ほんとに……!)
限界だ。
今まで何ともなかった尿意が、こんなものの数分で限界になるなんて。信じられないけど、これが現実だ。先にトイレを済ませなかった俺も悪いとは思う。けど、こんなのおかしい……!!
(も、げんか……)
そう思った、その時。
ぴーっ、ぴーっ、ぴーっ……
「え……?」
かちゃり、と何かが外れる音。すると、ばたばたとこちらに向かってくる足音が耳に入った。
「はーい、終わったよ。機械外してくね」
「あ……」
おわった、らしい。
かぽり、と美容師に頭のカプセルを外され、タオルで髪の毛の水気を拭き取られていく。限界まで張りつめていた尿意だったが、水の音や予測不能なマッサージがなくなったおかげで、一旦は平静を取り戻した。
リクライニングを上げられ、座った体勢になる。それと同時に目元を覆っていたタオルも器用に取り除かれ、視界がぱっと明るくなる。
「お疲れ~、どうだった?」
「あ、あはは……」
どうだ、とでも言いたげに自慢気な顔をしている美容師。俺の苦労も知らないくせに、そう思うと無性に腹が立ったが、世話になっている恩もあるのでその言葉は飲み込んだ。こんなクソ機械、二度とごめんだ。
カットのために、またすぐに鏡台まで案内される。立ち上がった瞬間、ほんの少し腰が後ろに引ける。う、と思った俺は、先を行く美容師にそっと声を掛けた。
「すんません、先トイレ借りていいすか……」
「? いいよ」
その返事をほぼ半分も聞かないうちに、俺は軽く会釈をしてそそくさとトイレに向かった。
ドアを閉めた瞬間、大きく身体をくの字に折り曲げてドタバタと足踏みをしてしまったのは言うまでもない。
おわり
初めて聞く単語に、俺は思わず首を傾げた。美容師は俺の荷物をロッカーにしまいながら相槌を打つ。
「そうそう。今日導入したばっかなんだけどね」
「自動ってどういうことですか?機械が髪洗ってくれるんですか?」
「うん。シャンプーもトリートメントもオートでやってくれるんだよ。ちょうど今日来てくれるって言うからさ、一番に使ってほしくて」
「おれ実験台すか」
「あはは、まあまあ」
どうやら美容師の話によると、髪を濡らすのもシャンプーを泡立てるのも洗い流すのも、最初にボタンをひとつ押すだけで機械が全部やってくれるのだと言う。流石に髪を乾かす機能はついていないので、ドライヤーは普通に手動でやらなければならない。とはいえ、シャンプーの工程を丸々機械に任せられるのだから、人件費の削減と効率化にもってこいの代物だそうだ。
よく世話になっている行きつけの美容院。確かに昔から通っているだけあって信頼の置ける仲ではあるが、「全自動」という怪しさ満点のフレーズに不安を覚える。そんな俺の不安を察知してか、美容師はけらけら笑いながら言葉を続ける。
「俺も一回試したけど、結構使い心地良かったよ?洗い残しもないし」
「はあ」
「ま、一回やってみて合わなかったらやめれば良いから。とりあえず今日はカラーとカットだよね」
美容師はそう言うと、いつも通り俺を席に案内した。
なんかうまく丸め込まれた気がする。でもまあ、この人が「良い」って言うなら、大丈夫か。なんて適当に考えながら、俺は今日のお目当てであるカラーの相談に入った。
*
「はい、じゃあ髪洗おっか」
気付けば数十分の置き時間も過ぎ、ついにシャンプーの時間がやって来た。忘れかけていた怪しい「全自動シャンプー」の存在を思い出し、急に心臓がドキンと脈打つ。内心落ち着かないまま立ち上がった俺は、いつものシャンプー台とは別の個室に連れて行かれた。
案内されたブースに置かれているのは、普通のリクライニングチェアと、頭をすっぽり覆えるであろう大きいカプセル。宇宙服?ヘルメット?何とも形容しがたいそれは、無駄に仰々しい佇まいで鎮座している。
椅子に座り、リクライニングを倒される。そして顔にタオルを被せられ、視界が遮られる。腰から下に膝掛けをかけられる。ここまではいつもと同じだ。違うのは、頭の上に怪しい機械が待っているということだけ。
「じゃ、始めるね」
美容師がそう言うと同時に、俺の頭にかぽりとカプセルが嵌められた。タオル越しにほんのり明るかった視界がほとんど真っ暗になり、思わず身体をぐっと固くしてしまう。
「頭きついところない?」
「は、はい、なんかこれすごいっすね」
「ビビってる?大丈夫だよ」
緊張する俺とは裏腹に、美容師は呑気にへらへら笑う。そして何の前触れもなく、開始ボタンをピ、と軽く押した。
すると突如、ヴーーーーン、と低く唸るような音が俺の耳を包み込んだ。
「ぅわっ!」
「あはは、これからが本番だよ」
脳に直接響くような鈍い機械音。カプセルで頭囲をがっつりホールドされているため、音が耳の中で籠って余計に脳を揺さぶる。
(こ、こわ……)
得体の知れない何かが襲ってきそうな感覚に、俺はこっそり身震いを起こす。その時、遠くの方で電話のベルが甲高く鳴り響いた。
「あ、ごめん。ちょっと電話出てくるね。シャンプー終わった頃にまた来るから」
「えっ、あ、え」
俺が返事するよりも前に、美容師がその場を離れる足音がばたばたと聞こえる。そして、電話の鳴り鈴が止んだと同時に美容師の話し声が始まる。
「え、ええ……」
変な機械に突っ込まれたまま、ひとり残された俺。
いや、当たり前と言えば当たり前だ。もともと人件費削減と効率化のために取り入れられたものだから、放置されるのは当たり前。だけどさぁ……。
(試運転なのに放置かよ……)
心細さを感じていると、そんなことお構いなしの機械は、がこん!という音と共にとうとう稼働し出した。
ここからが本番、美容師の言葉が頭をよぎる。
……まさしくここからが本番、否、「試練」の始まりだった。
稼働音が止む。
その数秒後。いくつもの細い水流がぴゅうう、と鉄砲のように飛び出し、あらゆる方向から頭にクリティカルヒットする。
ぞわぞわぁ……っ♡♡
「っ!?」
(は!?な、に、これ……っ!!)
頭を突き刺す、ごくごく細かい水流。それがどういう訳か、頭の頂点から背中にかけてぞわぞわ♡とした感覚をもたらすのだった。
「ん、っ……、ふ、うぅ……っ」
(なに、これ、めっちゃぞわぞわって……!!くすぐったい!!)
頭の皮膚がびりびりと痺れ、首から肩に渡って一気にぞわぁ……♡と鳥肌が立つ。飛び出る水流の勢いが強いため、何か細くて固い棒のようなものでこしょこしょと弄ばれているような感覚なのだ。
(やだ、まって、やばいってコレ!無理だ、たすけ……っ!)
これはやばいやつ、直感でそう感じた。
だが助けを呼ぼうにも、美容師は受付で電話している。半個室みたいなところだから周囲には誰もいないし、第一いたとしても他の美容師は知り合いじゃないから、な、なんかハズい。
(と、とりあえず、我慢……)
何はともあれ、たった数分の洗髪。こんなのすぐに慣れる。大丈夫だろう。
気合を入れるためにぐっと奥歯を噛み締めた、その時だった。
とくん、下腹部が疼く。
これは、まさか。
(と、といれ、行きたい……)
嘘だろ、よりにもよってこのタイミング。俺はなんと、尿意を催してしまった。
実のところ、置き時間の途中でほんのり感じていた尿意。ただ、その時は本当に本当に微かな尿意だった。だからとっくに忘れていたのだ。
ここに来て今更思い出すとは、何の悪い因果か。
(うう……!何で今なんだよ!く、っ、やば、あたまぞわぞわする……っ)
ご丁寧に水流が俺の頭を満遍なくこしょこしょと攻撃した後、今度は普通のシャワーのような水しぶきがカプセルの中を飛び交う。ただのシャワーのはずなのに、ぐりんぐりんと頭皮を優しくマッサージするかのごとく作動する。これがまた、予測の出来ない動きで。
(くぅ……、っ!ちから、抜ける……!)
俺の肩は、洗髪が始まったその瞬間からびくびくと震えっぱなしだった。
(くっそ、といれしたい……!くすぐってぇ……!!声出る……!)
抑えたいのに、くひ、くふ、というキモい吐息が止まらない。頑張って食いしばっていても、新しいぞわぞわがやって来るとつい口元が緩んでしまうのだ。機械と水音がうるさいおかげで、多分個室の外には聞こえていない。しかし自分にははっきりと聞こえてくるので、あまりにも間抜けな声を漏らしてしまうのがひどく情けなかった。
事情はよく分からないけれど、カラー剤をしっかりと落とさないといけないからか、激し目にシャワーが当てられている。……気がする。何度も同じところを、ぐりん、ぐりんと抉っている。同じところを触られているのに一向に慣れてくれない俺の肌は、いちいち水流の刺激に背中をぞくぞくと戦慄させた。
(ううう~~~~~、水の音やだ!!!といれしたいぃ……!!!)
じゃあじゃあと至近距離で響く、水の音。カプセルに閉じ込められているからこそ、水の音だけが耳元で強く響いて、脳内を支配する。これが俺の尿意を一気に加速させる。
ちがう、パブロフの犬的な、そういうアレじゃない!風呂でおしっこするとか、そんな行儀悪いことほとんどしない。た、たまに、2週間に1回くらい、しちゃう日もあるけど!
じゃああ、じょおお、と豪快に放たれるシャワーは、俺の膀胱を見事にいじめにかかる。案の定誘われてしまった膀胱は、きゅん♡と切なく収縮し始めた。
(ま、って、なんか、急に……!)
思わず脚をぎゅっと閉じる。両の足首を咄嗟に絡ませた。
(やばい、めっちゃ……、っ、おしっこしたい!)
水の音が脳内を占めるせいで、俺の頭の中は「おしっこがしたい」であっという間に埋め尽くされてしまった。排泄欲を誤魔化すため、足首を右に、左に、と転がしてみるも、機械が調子づいてますます水の勢いを強くするので、そんな誤魔化しもすぐに尿意に塗り替えられてしまう。
そして、水の音だけではない。頭を執拗に捏ねてくる、マッサージのような手つき。そういえばさっき「使い心地良い」とか何とか美容師が言っていたのは、こういうことだったのか。確かに人の手で洗い流されているようではあるけれど、でもなんか、それ以上にくすぐったい!
(お、おしっこしたい、やば、どーしよ、おしっこおしっこ……!)
(くすぐったいなんて聞いてねえよ!う、マジでやばい、おしっこしたい!!)
耳を塞ぎたくても、塞げない。それどころか、囁くように水音がすぐ傍で響いている。最悪だ、逃げ場がどこにもない。別のことを考えようとしても、すぐ傍で鳴るせせらぎがそれを許しちゃくれない。何なら、自分がじょぼじょぼと用を足す場面ばかりが瞼の裏に浮かんでくるようで、余計にトイレのことばかり想像を膨らませてしまう。
トイレに駆け込む自分の姿。ちんこを取り出し、豪快におしっこをぶっ放す姿。尿道をおしっこが駆け抜けていく快感。どぼどぼと水面を打つ激しいおしっこ。腰を前に突き出して、目いっぱいおしっこを前に飛ばす姿……。
(くそ、駄目だ駄目だ!!!おしっこのこと考えるな!!!)
はっとして、脳内からトイレシーンを排除する。しかし考えないようにすればするほど鮮明に脳裏に浮かんでしまうもの。俺はしばらくの間、こしょこしょと頭上を蠢く水流と、しゃあしゃあと轟く水音と、自然と浮かび上がるトイレの妄想に悶々としながら、この責め苦に苛まされ続けた。
すると急に、お湯の放出がぴたりと止んだ。終わりか?と一瞬思ったものの、まだ頭を濡らされただけ。これが序章に過ぎないことは自分でもよく分かっていて。
ぴゅう、と今度は何か液体が降り注ぐ。ほのかにフローラルの香りが漂い、これがシャンプーだと気が付いた直後、再び強い水流が頭を包み込む。どうやらこの機械、水圧で頭皮を洗っていく仕組みらしい。温かいお湯に包まれた俺は全身の力が緩みそうになり、慌てて下半身の筋肉をきつく締めた。
首の根元から、耳の裏、頭の頂点にかけて、前後に移動する水流。
「くぅ、っ!」
特に首元に差し掛かったとき、全身の肌がぞわわぁっ!と粟立ち、かく、と腰が軽く引ける。
(こ、こんなん、無理!!!こしょばい!!)
(みみ、耳弱いからぁ……っ!!)
(まっ、て、マジでおしっこ出そう、駄目だって!!!やばい!!!)
人目がないのを良いことに、もぞもぞと脚を擦り合わせてしまう。膝を閉じ、互いを重ねるように擦り合わせる。尻にきゅっと力を込めれば内腿が固く締め上がって、なんとかおしっこを体内に留められるような気がした。膝掛けがごそごそと音を立てるけれど、もじつくのを抑えられない。
なのに、俺の努力は一瞬で水の泡。急に水流の動きが変わったのだ。
「ふっ、ふひ、ッ!?」
強弱をつけながら、ぶしゅうぅ、ぶしゅううぅ!と頭を刺激する。しかもランダムな位置から噴射されるから、ぶしゅう!というリズムに合わせて俺は身震いを起こす。結構な水圧と、柔らかタッチの水圧。これが意外とくすぐったい。いや、どういう作業なんだよこれ。
これを5回くらい繰り返した後、今度はまた別の動き。左右の側頭部から頭頂部にかけて登っていったと思えば、また耳の裏まで帰っていく。脳天がびりびりと痺れる。やばい、頭の頂点から全身にぞわぞわが走る!
「ふひ、ッ!ふぅ、く、ぅううッ!」
(も~~~~、おしっこおしっこおしっこ!!)
(やめて、やだ、くすぐったい!!!ちからぬけちゃうって!!!)
ぞくぞくっ!と背中が戦慄する度、膀胱がきゅうう♡と甘く疼いて、おしっこがその中で暴れ狂う。するとおしっこが尿道をめがけ、どばどばと一気に集中して流れ込む感覚に見舞われた。俺は慌てて脚を締め、腰を左右に揺らした。にもかかわらず、こういう時に限って訪れる別の動き。さっきみたいな細かいシャワーだ。突然頭全体を程よい飛沫が包み込み、また肩を震わせる羽目になる。
(やばいって、今それは……ッ!!)
尿道口が、ひくひく!と開閉する。直後、ちんこの先っぽがふるりと大きくわなないた。
(っ、~~~~~~~~~~!!!!)
反射的に腰を捩る。膝がぎゅっと曲がる。
(やだ、やだやだやだ……ッ!!!)
「くひぃっ、く、ふぅ、ぅうッ!!」
絶え間なく近くで響く水の音が、膨らんだ尿意を更に責め立てる。
しょわあああ、じょぼぼぼぼ、じゃあああああ…………
(音、むり、むりだってばぁっ!)
(もじもじすんの止まんねえ……っ、くそ、ちんこ揉みたい!!)
人目も無いし、膝掛けがあるから、きっと股間に手をやったところで誰にもバレないだろう。だけど、そんなみっともない、ガキみたいな仕草をすることにどうしても抵抗がある。情けなく腰をふりふり♡とするしか、この尿意に抗う方法は無かった。
しょわあああ、じょじょじょじょっ!!!
「!!!!」
頭を蠢く、ジェットみたいな水流。
突如、腹の奥がきゅうううん♡と強烈に疼く。
(ち、ちびるっ、~~~~~~~~!!!!!!!!)
俺はズボンを握り締め、ぐいい!と上に引き上げた。
でも、そんな付け焼刃の抵抗が、機械の容赦ない攻撃に対抗できるはずもなく。
びくびくっ、びく、びくっ、きゅうううぅん……♡
(ちんこ、ふるえて……!だめだ!!耐えろ!!出るな、出るなぁ……っ!!)
(ちんこ揉みたい、もみもみしたいぃ……!!むずむずする、おしっこ出るって!!)
(だめ、だめだ、誰か見てるかも、でも、ちんこ揉まないと、あ、あ、あっ、でる、でるでるでる、~~~~~~~~ッ!!!!)
じょぼぼぼ!と水流が首の根元を貫いた瞬間。ぞわぞわが背骨を伝って、腰に、尻に、そして、ちんこに。先っぽが激しくむずむず!と震え、ついに。
(あ、あっ、あ、ちびる、ちびる、ちびるッッッッ!!!!!!!!!!)
しょろろ……♡
「~~~~~~~~っ!!!!!」
むずむずに耐え切れず股間に手を伸ばすよりも前に、俺のホースからほんの1秒、おしっこが飛び出てしまった。
全力で腰をくねらせ、なんとかそれ以上の侵入を食い止めることには成功した。だが、相変わらず頭のマッサージを止めてくれない機械によって、シャワーを巧みに操る揉み洗いはどんどんエスカレートしていく。
(これマジでいつ終わるの……っ!?もうずっとやってるじゃん!!!)
体感ではもう10分くらいここに突っ込まれている気がする。が、そんなはずは無いだろう。だって、シャンプーなんていつもせいぜい5分くらいで終わるのだから。
いつ終わるか分からない恐怖と、何が行われているのか分からない恐怖。激しい尿意の中、頼りになるものは何一つなかった。とにかく、終わるまではこの地獄に耐えるしかない。
また新たな液体が投入された感覚から、これからトリートメントが始まる予感がした。つまり、まだまだ終わる気配がないということ。
「ふ、ぅう、くっ、ううう、くひぃッ!!ううう~~~~っ!!!」
そして機械は先ほどと同じように、何パターンものリズムを以て俺の頭皮を弄ぶ。
(どうしよ、これっ、も、漏れる……っ!?)
(冗談じゃねえ、この歳でおもらしなんてっ!!)
(あああ……ッ、でもマジでやばい、おしっこおしっこおしっこ!!!!)
リクライニングチェアが、ぎ、ぎ、と音を鳴らす。それほど俺の下半身はもじもじ♡もぞもぞ♡としていないと尿意に一瞬で負けそうだった。
辛うじて股間を避けた両手は、一生懸命ズボンをぐいぐい上へ引き上げる。擦り合わせすぎて熱くなった内腿。ますます内股になって、脚をきつくきつくクロスさせる。
なのに、尿意の高まりは止まることを知らない。しょわああ、という軽快な水音と共に、膀胱の中のおしっこは出口を求めて大暴れする。
(だめだ、またおしっこ来てる、だめ、もれる、もれるぅ……ッ!!)
もうすぐそこまでおしっこが降りてきている。尿道口の一歩手前までおしっこが迫ってきている。一瞬でも気を抜いたら、もう一度下着を湿らせることに……!
……そう自覚していても、機械の動きは俺の心を汲み取ってなんかくれないわけで。
無慈悲にも、頭全体に再びシャワーが浴びせられる。
ぞわぞわぞわぁ……♡
ぞぞぞぞ…………♡♡
「く、ううううぅっ!!!!」
(あ、あ、あ、あ、……ッ!!!)
じゅじゅっ、じゅうう!!!
(いやだ、ちびる、ちびる、…………漏れるッッッ!!!!!!!)
じゅうううっ、ちょろろろ………♡♡
(もうむり、といれ、トイレ行きたい!!!!漏れる!!!!)
(我慢、我慢、我慢ッッッ!!!!耐えろ!!!!)
(あああ~~~~~~っ、おしっこおしっこおしっこ、漏れるッッ!!!!)
下着がじわあ……♡と水気を帯びていく。尻にこれでもかというくらい力を入れ、くねくね♡くねくね♡と身体を揺らす。がくがくと膝を揺らす。ピストン運動みたいに腰を前後に振りたくり、ちんこを前に後ろに揺らす「フリ」をする。それでも尿道口はひゅう、ひゅう♡と甘美な疼きに見舞われ、今にもおしっこを噴出しそうな体制だ。ズボンを握り締めた手の平は熱く、じっとりとしている。
ここまで全力を尽くしてもなお、機械は俺を嘲笑うかの如く様々な水流を繰り出す。もはや、俺の尿意を高めるためだけに動いているのではないか、とさえ思える。
そして。
首元、耳の裏、そして側頭部、頭のてっぺん。全てを丁寧に、ぐりん、ぐりんと円を描いて揉みしだかれれば、もう駄目だった。
「くひ、ふうぅぅ………ッ!!!」
(これ以上は、ほんとに……!)
限界だ。
今まで何ともなかった尿意が、こんなものの数分で限界になるなんて。信じられないけど、これが現実だ。先にトイレを済ませなかった俺も悪いとは思う。けど、こんなのおかしい……!!
(も、げんか……)
そう思った、その時。
ぴーっ、ぴーっ、ぴーっ……
「え……?」
かちゃり、と何かが外れる音。すると、ばたばたとこちらに向かってくる足音が耳に入った。
「はーい、終わったよ。機械外してくね」
「あ……」
おわった、らしい。
かぽり、と美容師に頭のカプセルを外され、タオルで髪の毛の水気を拭き取られていく。限界まで張りつめていた尿意だったが、水の音や予測不能なマッサージがなくなったおかげで、一旦は平静を取り戻した。
リクライニングを上げられ、座った体勢になる。それと同時に目元を覆っていたタオルも器用に取り除かれ、視界がぱっと明るくなる。
「お疲れ~、どうだった?」
「あ、あはは……」
どうだ、とでも言いたげに自慢気な顔をしている美容師。俺の苦労も知らないくせに、そう思うと無性に腹が立ったが、世話になっている恩もあるのでその言葉は飲み込んだ。こんなクソ機械、二度とごめんだ。
カットのために、またすぐに鏡台まで案内される。立ち上がった瞬間、ほんの少し腰が後ろに引ける。う、と思った俺は、先を行く美容師にそっと声を掛けた。
「すんません、先トイレ借りていいすか……」
「? いいよ」
その返事をほぼ半分も聞かないうちに、俺は軽く会釈をしてそそくさとトイレに向かった。
ドアを閉めた瞬間、大きく身体をくの字に折り曲げてドタバタと足踏みをしてしまったのは言うまでもない。
おわり
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