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電車おしがま

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『ポイント故障のため、ただいま運転を見合わせて————』

このアナウンスが列車内に流れ始めてから、かれこれ3時間。換気の概念などいつの間にか忘れ去られ、密閉され切ったこの空間で空調が生きているのは不幸中の幸いか。それでも淀んだ空気が漂う車内には、苛立ちや不安を隠せないといった様子の乗客たちがまばらに佇んでいる。決して座席がすべて埋まっているわけではないが、この状況でわざわざ数少ない空席に座るのも憚られるくらいの乗車率だ。

そんな鬱屈とした閉鎖空間のなか、ひとり所在なさげに視線を彷徨わせる青年がいた。

「はぁ……」

ドアにもたれかかり、溜息をつく。遠くのビルを眺めるフリをしながら、太腿のあたりを手の平でさりげなく摩る青年。3時間前から変わらない景色など何の面白みもなく、彼はもう一度深い溜息をついた。

(……っ、トイレしたい……)

10分ほど前から生れていた、腹の奥がむずむずと疼く感覚。
彼が苛まれているのはそう、————尿意である。

(そりゃそーだろ、もうずっとトイレ行ってないんだから……)

閉じ込められてから既に3時間も経っているのだから、人間である以上、いつか生理現象が湧き上がってくるのは当然のことである。きっと他の乗客だって、同様の欲求を覚えている者はいるはず。一体皆はどうやってやり過ごしているのだろうか。トイレに行きたくならないのだろうか。そんなことに思いを馳せたところで青年の尿意が和らぐはずもなく、また太腿の表面に手の平が彷徨った。

(クッソ……、これいつになったら解放されるんだよ?)

繰り返し放送されるアナウンスでは、「運転再開の見込みなし」の文言が強調される。この車両にトイレはついていない。つまり、彼が欲求を解放できる見込みも立っていないということだ。

(どーしよ、結構ヤバいって……)

最初に尿意を覚え始めてから10分、青年の排泄欲はみるみるうちに膨張している。意識した途端そればかりに気を取られるから、というのもあるかもしれないが、今この瞬間にも彼の体内では粛々と尿が生成されているから、という方が正しいだろう。実際、彼の引き締まった薄い腹は、数分前よりも幾分かぽってりと膨らみを見せている。
まるでモデルのようにすらっと伸びた脚が、無意識に擦り合わせられる。ぎこちなく虚空を移ろう視線はさらに激しさを増し、焦りの色が露骨に表面化する。一滴一滴、彼の腎臓が尿を濾していく。きゅんきゅんと切なく疼く膀胱の感覚に、彼の下半身はすっかり落ち着きをなくしてしまった。

(トイレ、トイレ、……っ、あークソ、そんなに水分取ってねえだろ!)
(あーもうっ、トイレしたい……!せめていつ頃出られるかだけでも知りたい……!)

そわそわと重心を左右に揺らす青年の姿は、傍から見たらいつまでも動かない電車に苛立っているだけのように思われる。しかし彼の中ではもっとより深刻な、社会的な死に向けたカウントダウンが刻みだされていた。





それから20分。

上半身がほんの少し前屈みになり、尻をわずかに突き出した姿勢。程よく効いた空調が肌を冷やし、ますます尿意を加速させる。既に青年の排泄欲求は、取り返しのつかないところにまで達していた。

(マジ、やばいってこれ!早くトイレ、トイレ行きたい!)
(もー我慢できない、っ、トイレしたいトイレしたいっ、早く動けよ!)
(どーしよ、ガチで我慢きつい……!トイレ、トイレ、我慢できないぃ……!)

たん、たん、と床が鳴らされる。もじもじと小さく揺れる尻。精一杯抑えつけられた身動きに反し、腹の奥ではしっかりと尿意が存在を主張している。

(うぅ、じっとしてらんない……ッ、トイレしたい……!!)

ぴたりとくっ付けられた内股、徐々に膝が落ちていく。尿意のさざ波に合わせるかの如く、かく、かく、と無意識に腰が振れる。時折片足を地から少し浮かせ、ゆっくり足踏みをするように下半身を揺らす。
じん、と性器の先端が熱を帯び、危うく緩みそうになった瞬間、情けなくぐっとへっぴり腰になってしまった。このままでは周囲に「おしっこを我慢している」と宣言しているようなもの————そんな痴態、まさか公衆の面前で晒す訳にはいかない。なんせ彼は、自他共に認める圧倒的カースト上位の男だ。顔良し、スタイル良し、ファッションセンス良し。もちろんそれだけでなく漢気ある性格、抜群のコミュ力、何でもこなせる運動神経……全てにおいて人より一歩も二歩も秀でてきた。一目見ただけで彼が勝ち組の人生を歩んできたことなど容易に想像できるほど、彼の洗練された美貌は異彩を放っている。そんな彼が「おしっこ我慢」の姿勢を見せるなんて、プライドが許せるはずなかった。彼は即座に上半身を起こし、真っ直ぐの体勢に戻る。膀胱がぴんと伸び、全身に鳥肌が立った。

(も、我慢むり……っ)

先ほどから何分経ったのだろう————そう思いスマホの画面をぱっとつける。目に入るのはいつものホーム画面……と思いきや、一瞬読み込みの円環がくるくると表示されたのも束の間、そのまま画面がふっと暗くなった。ホームボタンを押すも、びくともしない。
充電切れ。つまり、青年が時間を確認する手段は断たれた。

(詰んだ……)

ただでさえ、いつまで強いられるかわからない我慢。にもかかわらず、時間の経過を辿る事すら許されない。
もしこのままずっと閉じ込められていたら?もしもっと尿意が膨らんでいったら?もしこのまま我慢ができなくなってしまったら……?最悪の事態が頭をよぎり、彼はかぶりを振る。そんなことあってはならない。自分を鼓舞するかのように、両の手で太腿をぎゅっと握り締めた。

(我慢、我慢我慢我慢っ!大丈夫、もうすぐ動くって!だからガマンしろ……っ!)
(すぐって、いつだよ……。もしまだ1時間以上かかるとしたら……)

先の見えない我慢に、思わず血の気がサッと引いていく。だが青年の下腹部に渦巻く排泄欲求は悠長に待ってはくれない。彼のスタイリッシュな健康体は、今もなお黄色い透明水を生産し続けている。もうこれ以上新たな尿を溜め置く隙間など1ミリもないというのに。
その時だった。どくん、と膀胱が脈打つ感覚。直後、性器の先端がぶるりとわななく。ゆっくりと水門が開き、その隙を狙うかの如く熱水が尿道にどっとなだれ込みそうになる。刹那、青年は咄嗟に前をぎゅううと抑えつけた。—————俗に言う、おしっこの波というやつだ。

(あっ、あっ、あっ、あっ、やばい、おしっこ、おしっこしたい!)
(おしっこおしっこおしっこ、駄目だ我慢しろ!我慢!)
(~~~~~~~ッ!!!!まって、おしっこしたいおしっこしたいおしっこしたいぃ……ッ!)

せっかく頑張って直立姿勢を保っていたのに、強烈な尿意を前にそんな矜持は簡単に崩れた。尿道をみっちりと手で抑え込んで、物理的に放尿を防いでいる状態。くね、くね、と尻を横に揺らし、華奢な下半身をもじつかせる。ぎゅううと尿道を潰し、ぐにぐにと先端を捏ね繰り回し、また竿全体を握る。しかし微妙に股上の浅いタイトジーンズでは十分に股間を掴むことが出来ず、満足に刺激を与えられない。おしっこを出したくて堪らない先端がむずむずと震えるのがもどかしくて、内股になった脚をさらに高速で擦り合わせた。

(あああ、やばいって、おしっこ、おしっこおしっこおしっこ!!!)
(我慢しろ、我慢、がまん……ッ!耐えろって!)

そわそわと忙しなく動く両脚。軽くその場で足踏みしているような仕草を誰も不審に思わないのは、長時間この空間に閉じ込められて疲弊しているからこそである。もう一秒たりともじっとしていられない。右に左に体重をかけ、もじもじと足踏みを繰り返す。それでもなかなか波は引いていかず、むしろ腹の中で濁流が渦巻いて暴れているようであった。へっぴり腰になるのを抑えられない。思わず脚をクロスさせ、膨れた膀胱を庇うように大きく前屈みになった。

(お願い、おしっこ落ち着け、もうおさまって……!)

懇願するように、ボトムスの前をぐぐぐっと握る。固いタイトジーンズを抉らんばかりに力を込めて握った結果、願いが通じたのか、暴れ狂うようなきつい欲求は一旦平静を取り戻した。

「はー、ッ、はあ、はぁぁ……っ」

恐る恐る股間から手を離し、内腿を上下に摩る。激しい我慢を経た全身は汗びっしょりで、このまま尿も汗で蒸発してくれないか、などと夢見てしまうほど青年の思考力は鈍っていた。心なしかジーンズがじっとり湿っていて気持ち悪さを覚えるが、空調によってすぐに冷えた布が下半身から熱を奪っていく。たっぷりの小水を抱えた膀胱にとって、収縮を促す冷えは最大の敵だった。

(な、なんとか、とりあえずは……)

「ねえ、おにーさん大丈夫?」
「!」

おそらく自分を呼んでいるであろう声。はっとして、いつの間にか地に伏せていた視線を上げると、そこに立っていたのは一人の若い男性だった。
青年よりかはいくらか歳上であろう、爽やかな男性。青年の記憶だと、この人はここから近くの座席で本を読んで過ごしていたはず。先ほどまで本に向けられていた眼差しが、何故か今は青年の方に注目していることに、彼は動揺を隠せなかった。

「さっきから落ち着かないみたいだけど。体調悪くなっちゃった?座る?」
「い、や、あの、違くて」

男性が声を掛けてきたのは、どうやら純粋な優しさと心配からであったようだ。青年のただならぬ気配を無視できなくなったらしい。普段なら機転を利かせた返しができるのに、今の彼にはそんな余裕などあるはずもなく、しどろもどろに「あ、えっと、あの」と言葉にならない声を漏らすことしかできない。男性は青年の返答を不思議そうに待つ。

「だっ、大丈夫なんで!ほんと!」

咄嗟に平気を装い男性を遠ざけようとする。まるで何かに迫られているような険しい表情でそう訴える青年に不信感を覚えながら、「そう?なら良いんだけど……」と、そう言って男性が青年のもとから離れようとした、まさにその時。一瞬気を逸らしたことが悪かったのか。腹の奥で大人しくナリを潜めていた尿が、再びぐつぐつと湧き上がる感覚。膀胱がきゅううん!と大きく収縮したのち、青年の下半身に再び猛烈な尿意が降りかかった。

「うぅぅ……っ!」

男性がまだ目の前にいるというのに、青年は反射的に股間に両手をやってしまった。両脚をぎゅっとくっつけて、小刻みに擦り合わせる。腰がわずかに沈んで、尻を突き出しているような格好になってしまうのを止められなかった。止めなきゃ、止めなきゃと思っていても、今ここで直立姿勢をとってしまったらいよいよ冷静になんていられない。気が狂いそうなほどの排泄欲求。息を荒げてもじもじと身体を揺する青年を見つめる男性は、ひとつ考えが浮かんだように「もしかしてなんだけど」と声を上げた。

「トイレ行きたい?」

……青年にとって、最も屈辱的な展開。途端、ぶわぁぁと顔が紅潮する。
どうしよう、ばれた、おしっこ我慢してるところ知らない人に見られた……。は、は、と浅い息を繰り返しながら、何と言えば良いかわからなくて次の言葉を必死に探す。しかしもう既に頭の中がおしっこのことでいっぱいの彼に、上手い言い訳など浮かぶはずもない。あまりにも屈辱的ではあったものの、目をぎゅっと瞑り、こくりと小さく頷いた。
苦しみを他人に打ち明けてしまった途端、気が緩んだせいか、はたまた現実に改めて直面したせいか、欲求がまた一段と威力を増した。

(~~~~~~~~~~っ!?やだやだやだ、も、こんな……っ!)
(あ、あっ、あ、っ、おしっこおしっこおしっこおしっこ!!もう無理だって!!!)

前屈みになって全身を淫らにくねらせる。全身を捩り、もじもじそわそわと絶え間なく脚を揺らし、前後左右に腰を振り。身体の中心には痛々しく手が添えられ。いかにもおしっこが限界だというようなポーズ。中途半端に残った理性が羞恥を訴える。しかし人前であるとわかっていながらコントロールができないほど、彼の尿意は切迫していた。

(も、漏れる……)

その時だった。
青年の視界にふっと影が落ちる。
見上げると、先ほどの男性が、青年のごく至近距離に立っている。青年は思わず「え」と声を上げた。

「あ、あの……」
「俺ここにいるから、体勢楽にしてな」

男性の身体で遮られた視界。隙間から周囲を見渡すと、どうやら男性の身体と車両のドアに挟まれることによって青年の姿は丁度良く隠され、周囲からは死角になっているらしかった。
少し高いところに位置する男性の瞳を、潤んだ目で見つめる。せめてお礼を。そう思った時には、男性の肩に額が当たるように身体が引き寄せられていた。

「え、っと、その」
「ごめん、こんなことしか出来なくて」
「そんな、っ、うぅ……ッ!」

突如訪れる、一際大きな波。
これまでの比ではない。ここにきて今日最大の尿意だ。

「っ!!~~~~~ッ、はぁ、はあぁっ、はー……っ!」

(漏れる漏れる漏れる漏れる漏れる漏れる……ッ!)
(こんなんもう出るって!やだやだやだ……っ、もう、おしっこ出る!!!)
(もう無理、もう無理ぃ……っ!)

どくん!どくん!と膀胱が鼓動を打ち、その中をたっぷりと満たす熱水がじゃぼじゃぼと暴れ狂う。尿道口がひくひくと震え、今にも放水を始めようと収縮しだす。
どくんっ、どくんっ、きゅん、きゅううん♡♡♡ 膀胱の不規則な疼きが堪らない。これ以上余計な刺激が来ようものなら、待っているのはもう「崩壊」の道だけだった。

(もう、限界……)

一瞬、最悪の事態が頭をよぎる。その場面を想像した途端、全身がぶるりと戦慄した。
そして一気に押し寄せる濁流。

(ま、って、待って待って待って)
(ち、ちびる、ちびる、~~~~~~~~~~~ッ!!!!!!)

むぎゅうう、とズボンの前を必死に握り締める。しかしその甲斐も虚しく、固い生地を通じては行き渡らなかった圧力をすり抜けて、熱水がぴゅうう!!と飛び出した。

「く、っ、~~~~~~~ッ!!はぁっ、はああッ!!」

じわりと下着に広がる湿り気。不快感を覚える暇もなく、猛烈な尿意が怒涛の如く訪れる。今のおちびりが完全に「緩み」となってしまった。青年が必死に揉みしだく手の中で、性器がドクドクと脈打つ。

(やだ、また出る、おしっこ、っっっ、あああッ!!!)
(どーしよ、とまんな、……ッ、また、~~~~~~っ!!!)
(でる、ちびる、ちびる!!!!!ああぁ……ッッッ)

じゅうう、じゅううう、と断続的に溢れ出す小便。もみくちゃに性器を捏ね繰り回し、両脚を擦り合わせ、その場でみっともなく地団駄を踏もうとも、生き場を失ったおしっこが絶えず噴き出る。ズボンの前がじっとりと重くなったことを悟った青年は、半ばパニックになりながら男性の胸に寄り掛かる。

「おれ、もう……っ」
「頑張れ、大丈夫だから」

男性の激励が今は頼みの綱だった。既に青年の前がぐっしょり濡れていることにも気が付いていた男性は、何か打開策がないか必死に頭を回転させるも、ペットボトルはおろかビニール袋も所持しておらず、かといって他に何か小便を受け止められるようなものもなく、ただひたすら彼を励まし続けることしかできなかった。
だが、いよいよ青年の身体に限界が訪れる。へこへこ、かくかくと不格好に腰を前後に振り出し、脚を咄嗟にクロスさせ内股になる。ほぼ反射的な反応だった。
もう『失禁』は目の前。男性がぐっと唾を飲み込んだ、その瞬間。

『大変お待たせいたしました。復旧の目途が立ったため、約5分後に運転再開を予定して——』

安堵の声でざわつく車内。汗で額がびっしょりの青年は、思わず男性の顔を見上げた。

「え、……っ」
「……やったじゃん、あと5分だって」

あと5分。あと5分我慢すれば、思いっ切りおしっこを出せる。思いがけず差し込んだ一筋の光だった。
あと5分、しかし彼の体内に潜む欲求はそう悠長に待ってはくれない。安堵したのが災いか、じょおおぉ、と長めにおちびりをしてしまい「ああぁ……ッ!」と嬌声をあげてしまった。

「大丈夫。あとちょっと」
「ん、んっ」

こくこくと頷いてはみたものの、もう『大丈夫』なんかじゃない。
あと4分30秒。
あと4分。破裂寸前。尿道におしっこがなだれ込む。へこへこと腰が振れる。

「あ、あ、ッ、ああ……っ」
「落ち着いて。もうすぐで動くから」

あと3分30秒。3分。むずむずと強烈に性器が疼く。竿を揉んでも揉んでもむずむずは散らない。尿道口がカッと熱くなる。水門が開き始める。そこを目掛けて押し寄せるおしっこ。浅い呼吸で必死に尿意を逃がそうとしても、もう、どこにも逃げ場がない。
あと2分。全身が大きく震える。

放尿寸前の感覚。さっきからずっと、トイレの目の前に立っているあの時と同じ感覚が続いている。小便器に向かって腰を前に突き出し、鈴口がぐわっと開く直前の、あの瞬間。直接握り込みたい。直接先端を握りつぶせば、ギリギリ耐えられるかもしれない。でも、もう。

(も、だめ、我慢できな……)

あと1分、……そして。

『お待たせいたしました。ただいま発車いたします———』
「!」

きっかり5分後。電車は最寄りの駅に向かってゆっくりと動き始めた。
普段は30秒くらいで辿り着くはずの線路をのろのろ走り、たっぷり2分ほどかけてやっと見慣れたホームに滑り込む車両。

「は、あぁ、はあ……ッ」
「ほら、着いた。降りよう」

そこからは成すがままだった。男性に引きずられるようにしてホームに降り、連れて行かれる。電車が動き始めてからここまで、最早青年の意識は朦朧としていた。しかし目指している場所がどこかは分かる。だから青年がそのシンボルである『あのマーク』を見つけた瞬間、顔が引き攣った。

入口からずらりと続く、長蛇の列。

「うそ、……っ」
「……」

長時間のダイヤ乱れの影響はただものではなかった。回転率の良い男性トイレにすら、ざっと見積もっても十何名ほどが列を連ねている。中にいくつ小便器があるかはわからない。もうおしっこができる……そう思い込んでいた身体は、勝手に発射の準備を始めてしまっている。ぞくぞくと背中に鳥肌が立ち、また前を湿らせる。

「どーしよ、俺、……っ」

爆発寸前の尿意を抱えた彼に、もうこんなに我慢できるはずがなかった。

「こっち」

そう言うと男性が青年の身体を無理やり引き寄せ、歩かせ始める。傍から見れば具合の悪くなった青年と、介抱している真摯な男にしか見えないその光景。改札を抜け、駅を出て、……どこに向かっているのか分からないが、男性が歩く方向に合わせて歩みを進めるしかなかった。ある場所でぴたりと止まった時、男性が青年に目配せをする。

「いーよ、ここでしちゃいな」

ここ、———つまり、人気のない駅舎の裏側。この壁に向かって立ちションしろ、と言うのである。

「で、でもっ」
「もう我慢できないでしょ?」

確かにそれは正論で、もうここから別のトイレを目指すことなど絶対に不可能だ。だけどなけなしの理性がそれを拒んで。そしてまた、きゅううん♡と膀胱が収縮し、切ない尿意が下半身全体に行き渡る。

「~~~~~~~~~っあああッ!!!」

……最後の理性は、とうとうここで振り切られた。

意を決して性器から手を離すと、抑えを失ってくぱぁと開いた鈴口から、フライングでおしっこが迸る。

「まって、まって、まだ、まって、~~~~~~~~~ッ!!!!」

もたつく手先で洒落たベルトを緩め、湿った前をくつろげ、びしょびしょの下着から、すでにか細い水流を垂れ流しているホースを引っ張り出し、そして。

————じょばあああああああああああああああああああじょおおおおおおおおおおおおおおじょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおじょおおおおおおおおおおおおおどぼどぼどぼどぼどぼどぼッッッ!!!!!!

「はあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…………ッッッッッ!!!!」

時間にして3時間と45分。不運によって彼の体内に溜めに溜められ続け、ぐつぐつと煮えたぎった小便が、しぶきをあげて一気に噴き上がった。

「あああぁぁぁ……♡♡♡」

(おしっこ、だせたぁ……っ♡♡)

ガニ股におっ広げ、精一杯腰をぐっと前に突き出し、立派なペニスから太い水流を壁に打ち付ける。夢にまで見た全力の放尿。青年の端正な顔立ち蕩け、放尿の快感に酔いしれる。

————じょぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼじょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおじょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおじゃああああああああああああああああああああ!!!!!!!
————じょおおおおおおおおおおおおおおじょわああああああああああああああああああああああああああじょぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ………………

「は、っ、はああ、はああ……♡♡」

(やばい、見られてるのに、おしっこきもちい……♡♡止まんない……♡♡)

半分ほど出し切ったところで多少の冷静さが舞い戻ってきた青年は、顔を赤面させた。ここまで連れて来てくれた男性の存在を思い出したからだ。さりげない風を装ってちらりと横を見やると、男性がしっかりとこちらを見ているのが視界に入り、青年はますます顔を赤らめた。『あっちを向いていてほしい』と伝えようと思ったけれど、全身がおしっこを出すことに集中していて、弛緩した身体では放尿以外の何かをすることはもはや不可能だった。なぜ男性が自分を凝視しているのかは分からないが、とにかく止まらないものは止まらない。ひたすら情けなく小便を垂れさせるほかなかった。

————しょおおおおおおおおおおおおお、しゅううううううううう、しょわわわわわわわわ…………

(ああ、そろそろ……)

最初からあまりの勢いで放出させたばかりに、徐々に水流の太さは当初の半分程度にまで落ち着いていた。それから数秒すればその半分、そのまた半分へと減っていき、最後はじょろろろ、じょろろろ、と数回歯切れ悪く零れ落ちたところで、限界の大放尿は終焉を迎えた。

薄汚れた駅舎の壁に大きく広がる立ちション跡。コンクリートの地面に吸い込まれなかった小便が、彼を中心に水溜まりを形成している。その一角だけまるで土砂降りの雨が降ったかのような大洪水の跡に、青年は股間を出したまましばらくわなわなと震えていた。
どこか遠くから人の声が微かに聞こえ我に返った青年は、ペニスの水気を切って再び中にしまう。冷え切った下着がまとわりついて不快感を覚えるけれど、そんなことよりも。

「あ、あの……」

最初から最後まで全てを見届けた男性に、青年はおそるおそる声を掛けた。

「その……、あ、ありがとう、ございました……」
「んーん。間に合って良かった」

これは間に合った、と言えるのだろうか。下着どころかジーンズもびしょびしょ、トイレまで我慢できず野外で立ちション。一応全部は漏らしていないとはいえ、間に合った判定に含まれるのか。青年がぐるぐるとそんなことを考えているうちに、男性は片手をあげて颯爽と去っていった。

急にぽつりと残された青年。助けてくれた男性に満足にお礼も言えず、行った先を慌てて追いかけたがその姿はどこにも見当たらなかった。

「名前、何て言うんだろう……」

せめて連絡先が分かれば。その願いは儚く、青年も今日はこのまま家に帰ることにした。



数日後、同じ車両で彼らが再会するのはまた別の話である。



おわり
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