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#10.グッバイ運命-2-
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ふたりは、悠透が大学生の頃に住んでいた家に来ていた。
「あれ、来てない割には綺麗だな」
「あーうん、半年に一回は掃除しに来てたし、つい最近も来たから。リュウは五年以上振り?」
「だな、懐かしい。家具もそのままだよな」
「そう。引越しで運ぶの面倒くさくて全部新調したから」
「贅沢な奴だな~」
「でも役に立ってよかったよ」
悠透が言った通り、琉志がこの家に来たのは約五年ぶり。大学四年生の時に来たのが最後だ。
家に入るなり、その学生の頃のように、ふたりは笑いながら会話をする。
「もうご飯作る?」
「作ってもいい時間だな」
「材料買ってきたけど、食器とかフライパンとかそういうのあんの??」
「うわ、忘れてた。あるのはあるけど…カビてないかな」
「洗うのはある?」
「うん」
「じゃあ、洗お。今日は腹壊しても関係ないし、大丈夫だ」
「そうするかー」
時刻は十七時を回っており、ここに来る前に買ってきた材料を使って料理し始めることにする。
琉志はまず食器と調理器具を洗い、悠透は材料を切る係に分担された。
「いたっ」
「おい大丈夫かよ。栄養足りてなくてボーッとしてる?俺が切るよ」
順調に進めていたが、悠透は人参の皮を包丁で剥いている途中で、指を少し切ってしまったようだ。
親指からわずかに血が滲み、琉志が変わろうと提案する。
「だめ、リュウが怪我したら困る」
「過保護か」
相変わらずの悠透の過保護っぷりに、琉志はまた笑みを溢す。
「リュウは綺麗だから、傷増やしたくない。そもそも傷つけたのだって許してない」
「優しいな。ほら、手」
本当は絆創膏があれば良かったと思うが、生憎持ち合わせていない。
応急処置として、琉志は血が出ている悠透の親指にティッシュを当て、若干力を入れて抑える。
「ほらっ、血止まった」
「可愛い」
一分ほど抑えた後ティッシュを離すと、血はもう出て来なかった。
得意げに悠透の方へ顔を向けると、悠透は柔らかく微笑んでそう言う。
その表情も、言葉も、久しぶりに向けられるとなんだか恥ずかしくなってしまって、思わず顔を逸らした。
「…何だよ急に。切り終わったらスープの方作れよ?俺が肉こねるから」
「うん」
その後は何事もなく一緒に作り進め、美味しそうに出来上がった料理がテーブルに並べられた。
湯気が立つほどほかほかの白米と、デミグラスソースがかけられた、悠透のこぶし一個分ほどのハンバーグ二つに、付け合わせのブロッコリーとマッシュポテト、具材が大きくゴロゴロと入ったポトフ。
全て綺麗に器に盛り付けられ、おかわり用のポトフが鍋ごと中央に置かれている。
「「いただきます」」
「うーーーまっ。どう?どう?」
「美味しい。久しぶりに飯が美味しく感じた」
ふたり同時に手を合わせて挨拶をすると、琉志はすぐにハンバーグを頬張った。
その味に感動し、悠透に感想を催促する。
悠透も美味しそうに食べていて、余計に美味しさが増した気がした。
「よかった。レンチンご飯じゃなければ完璧だったな~」
「そう?今幸せすぎて超美味い」
「ははっ。米ついてるよ。おまえがそんな幸せそうに食べるの初めて見たわ」
「まじで美味い」
「それはよかった」
炊飯器で炊いた白米の方が美味しいのではないかと思ったが、悠透の言葉のせいか、今まで食べた白米の中で、このレトルト米が一番美味しいかもしれないと思った。
初めて見せる悠透が飯を頬張る姿に胸が温かくなり、今この時の空間が、琉志が求めていた幸せそのものだと感じる。
「うわ~、やっぱり綺麗に見える!」
「おい、風呂上がりなんだから、ちゃんと体あっためて」
「だって見ろよ。やっぱり綺麗…」
「うん。ほら毛布」
「さんきゅ」
夕飯を食べてくつろいだ後、ふたりは一緒に風呂に入った。
風呂を出てすぐに琉志は悠透の腕を引っ張って二階の寝室へ行き、我先にとベランダに出た。
ふたりが初めて一緒に帰り、ふたご座流星群を見た、思い出の場所だ。
変わらず鮮明に見える星空に琉志は感動して無邪気にはしゃいだ。琉志にとって一番見たかった景色が目の前に広がっているのだから、興奮を抑えられなくて当然である。
悠透はいうことを聞かない子供の面倒を見るかのように、少し呆れた表情を浮かべながら毛布をかけてくれた。
そしてあの頃と同じように、一枚の毛布をふたりで羽織る。
しかしあの頃と比べると純粋な気持ちはおそらく減ってしまって、ここには歪な愛情が生まれているようにも思う。
「首、痛くない?」
「うん」
「よかった。流星群何時がピーク?」
「十時ごろから多いらしい」
「じゃあもう見つけられそうだな」
「楽しみ」
「あの時以来か、こうやって星見るの」
「うん」
「見たいなら言ってくれればよかったのに」
「星が大好きってわけでもなかったから」
「そっか」
「ただ、もう一回。最高に綺麗な景色を見たかっただけ」
「…そっか。流れ星流れたらさ、何お願いする?」
「ふは、懐かしいなー。結局昔は願い事できなかったよな」
「話した後、一個も見つけられないまま部屋戻ったからね」
「リベンジだなっ。願い事はもう決まってるけど、今回は内緒」
「ケチ」
「まあでも今回は、ユウトのことってより、自己中な事かも」
「そっか」
「ユウトは?」
「俺も秘密」
「いつか、教えろよ。俺も教えるから」
「うん」
「あれ、来てない割には綺麗だな」
「あーうん、半年に一回は掃除しに来てたし、つい最近も来たから。リュウは五年以上振り?」
「だな、懐かしい。家具もそのままだよな」
「そう。引越しで運ぶの面倒くさくて全部新調したから」
「贅沢な奴だな~」
「でも役に立ってよかったよ」
悠透が言った通り、琉志がこの家に来たのは約五年ぶり。大学四年生の時に来たのが最後だ。
家に入るなり、その学生の頃のように、ふたりは笑いながら会話をする。
「もうご飯作る?」
「作ってもいい時間だな」
「材料買ってきたけど、食器とかフライパンとかそういうのあんの??」
「うわ、忘れてた。あるのはあるけど…カビてないかな」
「洗うのはある?」
「うん」
「じゃあ、洗お。今日は腹壊しても関係ないし、大丈夫だ」
「そうするかー」
時刻は十七時を回っており、ここに来る前に買ってきた材料を使って料理し始めることにする。
琉志はまず食器と調理器具を洗い、悠透は材料を切る係に分担された。
「いたっ」
「おい大丈夫かよ。栄養足りてなくてボーッとしてる?俺が切るよ」
順調に進めていたが、悠透は人参の皮を包丁で剥いている途中で、指を少し切ってしまったようだ。
親指からわずかに血が滲み、琉志が変わろうと提案する。
「だめ、リュウが怪我したら困る」
「過保護か」
相変わらずの悠透の過保護っぷりに、琉志はまた笑みを溢す。
「リュウは綺麗だから、傷増やしたくない。そもそも傷つけたのだって許してない」
「優しいな。ほら、手」
本当は絆創膏があれば良かったと思うが、生憎持ち合わせていない。
応急処置として、琉志は血が出ている悠透の親指にティッシュを当て、若干力を入れて抑える。
「ほらっ、血止まった」
「可愛い」
一分ほど抑えた後ティッシュを離すと、血はもう出て来なかった。
得意げに悠透の方へ顔を向けると、悠透は柔らかく微笑んでそう言う。
その表情も、言葉も、久しぶりに向けられるとなんだか恥ずかしくなってしまって、思わず顔を逸らした。
「…何だよ急に。切り終わったらスープの方作れよ?俺が肉こねるから」
「うん」
その後は何事もなく一緒に作り進め、美味しそうに出来上がった料理がテーブルに並べられた。
湯気が立つほどほかほかの白米と、デミグラスソースがかけられた、悠透のこぶし一個分ほどのハンバーグ二つに、付け合わせのブロッコリーとマッシュポテト、具材が大きくゴロゴロと入ったポトフ。
全て綺麗に器に盛り付けられ、おかわり用のポトフが鍋ごと中央に置かれている。
「「いただきます」」
「うーーーまっ。どう?どう?」
「美味しい。久しぶりに飯が美味しく感じた」
ふたり同時に手を合わせて挨拶をすると、琉志はすぐにハンバーグを頬張った。
その味に感動し、悠透に感想を催促する。
悠透も美味しそうに食べていて、余計に美味しさが増した気がした。
「よかった。レンチンご飯じゃなければ完璧だったな~」
「そう?今幸せすぎて超美味い」
「ははっ。米ついてるよ。おまえがそんな幸せそうに食べるの初めて見たわ」
「まじで美味い」
「それはよかった」
炊飯器で炊いた白米の方が美味しいのではないかと思ったが、悠透の言葉のせいか、今まで食べた白米の中で、このレトルト米が一番美味しいかもしれないと思った。
初めて見せる悠透が飯を頬張る姿に胸が温かくなり、今この時の空間が、琉志が求めていた幸せそのものだと感じる。
「うわ~、やっぱり綺麗に見える!」
「おい、風呂上がりなんだから、ちゃんと体あっためて」
「だって見ろよ。やっぱり綺麗…」
「うん。ほら毛布」
「さんきゅ」
夕飯を食べてくつろいだ後、ふたりは一緒に風呂に入った。
風呂を出てすぐに琉志は悠透の腕を引っ張って二階の寝室へ行き、我先にとベランダに出た。
ふたりが初めて一緒に帰り、ふたご座流星群を見た、思い出の場所だ。
変わらず鮮明に見える星空に琉志は感動して無邪気にはしゃいだ。琉志にとって一番見たかった景色が目の前に広がっているのだから、興奮を抑えられなくて当然である。
悠透はいうことを聞かない子供の面倒を見るかのように、少し呆れた表情を浮かべながら毛布をかけてくれた。
そしてあの頃と同じように、一枚の毛布をふたりで羽織る。
しかしあの頃と比べると純粋な気持ちはおそらく減ってしまって、ここには歪な愛情が生まれているようにも思う。
「首、痛くない?」
「うん」
「よかった。流星群何時がピーク?」
「十時ごろから多いらしい」
「じゃあもう見つけられそうだな」
「楽しみ」
「あの時以来か、こうやって星見るの」
「うん」
「見たいなら言ってくれればよかったのに」
「星が大好きってわけでもなかったから」
「そっか」
「ただ、もう一回。最高に綺麗な景色を見たかっただけ」
「…そっか。流れ星流れたらさ、何お願いする?」
「ふは、懐かしいなー。結局昔は願い事できなかったよな」
「話した後、一個も見つけられないまま部屋戻ったからね」
「リベンジだなっ。願い事はもう決まってるけど、今回は内緒」
「ケチ」
「まあでも今回は、ユウトのことってより、自己中な事かも」
「そっか」
「ユウトは?」
「俺も秘密」
「いつか、教えろよ。俺も教えるから」
「うん」
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