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あいつにも彼女が!?
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真水の交際から一ヶ月が経ち、初夏の陽気が近づいていた。
土浦と真水が部に顔を出すことは、ほとんどなくなった。なくなったのだが、真水は顔を合わせば、毎日のように俺達の前で惚気ていた。交際は順風満帆に進んでいるらしい。
そんな中、ミラクルが再び部に訪れたのであった。
「夏樹に彼女ができたって!?!!」
朝宮が大声で叫んだ。
放課後になったばかりで、夏樹はまだ何も言っていなかった。
なのに、朝宮が教室に飛び込んできて早々、夏樹に詰め寄った。
もちろん、夏樹に彼女がいるなんて、友達であるはずの俺はこれっぽっちも知らない。初耳だ。
どうせ、朝宮の勘違いもしくは、誰かに騙されたのだろう、と思っていた。
しかし、事実は小説より奇なり、とは誰が言ったのか。
「今日、皆に言おうと思ってたんだけど、俺に彼女ができた」
朝宮の言葉を夏樹本人が、あっさりと認めたのだった。
「発表、先越されたな。夏樹」
尾藤が夏樹にそう言った。
「え?尾藤、もしかして夏樹に彼女できたこと知ってたのか?」
俺だけが何も聞かされていなかった様子に、俺は驚いた。
夏樹に彼女ができたことよりも、教えてもらえていなかったことのほうがショックだった。
「日高、黙ってて悪い。ちょっと仲良くなったやつがいて、尾藤にだけ相談してたんだ。ほら、尾藤って俺達より恋愛マスターって感じじゃん」
いつも冗談ばかり言う夏樹が、真面目になって謝る。
俺は心の中で沸き起こった感情をどう言い表せばよいのかわからなかった。自然と乾いた笑いが溢れた。
「ハハ、いいじゃん。おめでとう、夏樹」
だが、夏樹はちっとも嬉しくなさそうで、
「日高、怒ってるよな?」
と聞いてきた。
「怒る?なんでだよ?」
「だって……いや、何でもない」
夏樹は何かを言おうとして止めた。
「あ、せっかくだから、夏樹をお祝いして、マッツ食べに行かない?」
朝宮が空気を変えようと明るく提案したが、俺は行く気にならなかったので、「パスするわ」と一言言った。
その態度がますます空気を悪くさせ、誰もが居心地の悪さを感じていた。
でも、悪いのは俺ではないはずだ。
俺は、夏樹にちゃんと“おめでとう”と言ったのだから。
そもそも、驚かそうとでも思っていたのか知らないが、こそこそ黙って秘密にしていた夏樹に否があると思う。
尾藤だって、友達だったら教えてくれてもよかったのに。
一人で裏切られたような気持ちになる。
「俺、帰るわ」
俺は誰の顔も見ることができず、そう言うと、机の上の鞄を持って教室を足早に出た。
「ちょっと、日高!」
心配した朝宮の声が後ろからしたが、無視して下駄箱に続く廊下を歩いた。
土浦と真水が部に顔を出すことは、ほとんどなくなった。なくなったのだが、真水は顔を合わせば、毎日のように俺達の前で惚気ていた。交際は順風満帆に進んでいるらしい。
そんな中、ミラクルが再び部に訪れたのであった。
「夏樹に彼女ができたって!?!!」
朝宮が大声で叫んだ。
放課後になったばかりで、夏樹はまだ何も言っていなかった。
なのに、朝宮が教室に飛び込んできて早々、夏樹に詰め寄った。
もちろん、夏樹に彼女がいるなんて、友達であるはずの俺はこれっぽっちも知らない。初耳だ。
どうせ、朝宮の勘違いもしくは、誰かに騙されたのだろう、と思っていた。
しかし、事実は小説より奇なり、とは誰が言ったのか。
「今日、皆に言おうと思ってたんだけど、俺に彼女ができた」
朝宮の言葉を夏樹本人が、あっさりと認めたのだった。
「発表、先越されたな。夏樹」
尾藤が夏樹にそう言った。
「え?尾藤、もしかして夏樹に彼女できたこと知ってたのか?」
俺だけが何も聞かされていなかった様子に、俺は驚いた。
夏樹に彼女ができたことよりも、教えてもらえていなかったことのほうがショックだった。
「日高、黙ってて悪い。ちょっと仲良くなったやつがいて、尾藤にだけ相談してたんだ。ほら、尾藤って俺達より恋愛マスターって感じじゃん」
いつも冗談ばかり言う夏樹が、真面目になって謝る。
俺は心の中で沸き起こった感情をどう言い表せばよいのかわからなかった。自然と乾いた笑いが溢れた。
「ハハ、いいじゃん。おめでとう、夏樹」
だが、夏樹はちっとも嬉しくなさそうで、
「日高、怒ってるよな?」
と聞いてきた。
「怒る?なんでだよ?」
「だって……いや、何でもない」
夏樹は何かを言おうとして止めた。
「あ、せっかくだから、夏樹をお祝いして、マッツ食べに行かない?」
朝宮が空気を変えようと明るく提案したが、俺は行く気にならなかったので、「パスするわ」と一言言った。
その態度がますます空気を悪くさせ、誰もが居心地の悪さを感じていた。
でも、悪いのは俺ではないはずだ。
俺は、夏樹にちゃんと“おめでとう”と言ったのだから。
そもそも、驚かそうとでも思っていたのか知らないが、こそこそ黙って秘密にしていた夏樹に否があると思う。
尾藤だって、友達だったら教えてくれてもよかったのに。
一人で裏切られたような気持ちになる。
「俺、帰るわ」
俺は誰の顔も見ることができず、そう言うと、机の上の鞄を持って教室を足早に出た。
「ちょっと、日高!」
心配した朝宮の声が後ろからしたが、無視して下駄箱に続く廊下を歩いた。
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