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第五話

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 私は、高橋ゆかり。
今は傷付けだだろう相手、本田創を追って、ここまで来ている。
傷付けた理由はあの人の喋り方とか動きとかが合わなくて……。

 もう手が届きそうなくらい、目の前なのに差は縮まるどころか広がっている様にも感じてくる。

 ん? 本田さんが止まった。流石に疲れたのだろうか。
私は本田さんが止まったのを見て、ゆっくりと歩く。

 少し様子を見ているとヤシの木の影に座り込んだ。この人ヤシの木、大好きなのかしら。ここで初めて見たのもヤシの木の所だった様な……。
顔を覆っているという事は泣いているんだろう。
私は本田さんの方へとゆっくりと歩いて行く。

「グスン、グスン」と、如何にも私泣いてる感を出している。
どうしよう。
いや、謝ったら一件落着だろう。世衣加も心配だしちゃちゃっと終わらせちゃおう。

「本田さん」
私は泣いている本田さんの顔を覗き込む。

「ゆかりちゃん……」
私の声に反応して本田さんは目を少し出して、私の方を見る。

 その目は腫れていて、大粒の涙が今にも零れ落ちそうな位沢山だ。
だけど「何?」と言いたげな雰囲気もする。

「私、貴方に言わないといけない事があると思うの……その」
と、謝りかけると本田さんの今まで聞いた事の無いような強い声が聞こえた。

「謝るとかいいから、一人にさせてよ!」
その声には、色々な感情が籠もっている気がする。怒り、悲しみなど。 

「じゃあ、一言だけ言ってから戻るわね」
私はそう言ってから一歩手前に足を引く。

「ごめんね。私、本田さんの事も考えないでヘラヘラしててバカみたいとか言って……。人にはそれぞれ個性があるって分かってたのに」
そう言うと私の目からも、何故だか涙が溢れてきた。

 本田さんからは私の顔が逆行でよく見えていなかっただろう。きっと夕日の色に染まった海が光っているだけで。
だけど、私が考えて居る事が伝わると嬉しい。

「ゆかりちゃん、私の事、そんなに考えてくれてたなんて、知らなかった。私もちょっと素直になれたのかも知れない。ごめん」

 暫くの間、私達は話す事も無く、唯々立ち止まっていた。
私は涙を手で拭うと本田さんの顔をキリッと見る。

「じゃあ、私は戻るわね、いつでも戻ってきて頂戴」
そう言って本田さんを背にすると私の手が誰かに引っ張られた。
首を少し回すと、その光景が見えた。

 私の腕を掴んでいたのは、他でもない本田創だった。
「私、ゆかりちゃんの後に絶対追い掛けるから」
「じゃあね」と後ろから言って来る声が聞こえる。

 私は世衣加の居る方へ走っていく。


 誰かぁ。
私、今、一人になってます。
もともと六人だったのがグループ分けして三人になったらすぐにグループ割れして私一人に……。悲しい。

 もう十分くらいベンチに座って足をブラブラしているだけ。
はぁ……誰か戻ってこないのかな。
皆色々大変何だろうけどさぁ、こんな夕暮れ時に一人で無人島に居るのって普通の中学一年生には厳しいよ~。

「世衣加ちゃん~」
ん、この声は創ちゃん!?

「創ちゃん! 心細かったから良かったよ~!」
私は即座にベンチから立ち上がり創ちゃんの方へ向かう。

「ゆかりちゃんと仲直り出来た?」
私が聞くと創ちゃんは嬉しそうに言う。

「うん~! これからも仲良く出来そう~! 嬉しいわぁ~」
創ちゃん、本当に嬉しそう。

 あれ? だけどゆかりちゃんの顔が見えない。
「――創ちゃん、ゆかりちゃん、どこ?」

 私、テッキリ二人一緒かゆかりちゃんが先に帰ってくると思ってたんだけど……。

「ゆかりちゃん? 先に帰ったと思うんだけどどこに行ったんだろう? 私も知らないよ~」
う~ん、ゆかりちゃんはどこに行ったんだ? 

 私と創ちゃんがゆかりちゃんの行方について話していると元気な声が聞こえてくる。
「拠点、見つかったぞ!」
蒼太くんだ!

「皆お疲れ様。女子グループは何かあったの? ゆかりさんの姿が見えないけれど」
蒼太くんの後についていた司くんはどうかしたのかと首を傾げた。
流石司くん、ゆかりちゃんみたいに観察力や洞察力が鋭い。

「うん、それが見当たらないのよぉ」

「実は創ちゃんとゆかりちゃん、ちょっと揉めちゃったんだよね。で、創ちゃんが居なくなったの。だからゆかりちゃんが探しに行った。そこからは創ちゃんの方が詳しそう」
私は創ちゃんにバトンを渡す。

「私、ヤシの木の下で蹲ってたんだけどぉ、ゆかりちゃんが来てくれてぇ、帰った行ったんだよねぇ。ゆかりちゃんの後を追っていったからゆかりちゃんが先に戻って来ると思ってたんだけどぉ」
私はその場面を想像しながら聞く。

「本田はゆかりの姿、本当に見なかったのか?」
陽太くんは明らかに創ちゃんが怪しいと言わんばかりの様だ。それに何か不自然な気がする。

 そうか、今まで創ちゃんのこと、本田って言ってなかったんだ。
何かあるのかな?

「成程、大変だったんだね。今から皆で手分けして探そうか」
司くんの指示で暫くの間、ゆかりちゃんを探す事になった。
 
 まだ夕日が出てて良かった。
それにしてもここ、中々夜にならないなぁ。ま、便利だから良いんだけどね。


 多分もう、一時間は経ったよね。
私達はゆかりちゃんの捜索をしたけど、全く見つかる様子は無かった。
島の隅々まで探したのに……。

「はぁ、全然見つからないじゃないのぉ」
創ちゃんはお疲れ気味の様子。

「もしかしてこの島にはもう居ないんじゃないのか!?」
蒼太くんは汗を手で拭く。

「そうかも知れないわねぇ、だってこんなに探しているなんてぇ……」
うーん、本当にそうなのだろうか。

「よく分かんないよね、この島って」
陽太くんはこの島に対してか呆れ果てた模様。

「ちょっとお腹も空いてきたし、そろそろ夜ご飯にしないかしらぁ~?」
創ちゃんはポンポンとお腹を叩く。

「えぇ、創ちゃん、もうお腹空いたの。あんなに食べてたのに!」
私は有り得ないと思うが実際、よく考えてみたら私だってお腹が空いている。
どうしてだろうか。

「お腹いっぱいになったと思ったんだけどねぇ……」

「もしかしてこの島の食べ物、食べても食べても腹に溜まる事は無いんじゃないか?」
陽太くんがまた新しいきのみを手に取りながら言う。

 この人、本当に無限に食べ続けてる気がする。
あんなにあった山がもう最後……。
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