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第二部 第六章 告白

告白 R18

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 磁路の懇々とした説教はそれなりに悟空の胸を締めつけ、仕事を終え帰宅の途に着く頃には、玄奘との関係をはっきりさせねばという決意を形作ってはいた。

 帰ったら話し合う、帰ったら話し合う、と呪文のように心の中で繰り返しながら、扉を開ける。 

「玄奘?いますか?ただいま帰りました」

「んっ……悟空……」

 かすかにリビングから声がする。いつもと違う。

 悟空がリビングの扉を開けるとあられもない光景が広がっていた。

 床に四つ這いで膝をついた玄奘は下半身だけを脱いだまま、ぽろぽろと涙を流していた。上はまだ悟空のニットを着ているせいで、裾の短いワンピースのようにも見える。半勃ちになったままの己の屹立を握りしめている。

「どうしました?」

「うまくイけない。悟空にやってもらったみたいに出したいのに」

 悟空は眩暈を感じた。先程まで唱えていた「帰ったら話し合う」という呪文ははるか遠くにふっとんだ。

 昨夜から何度も抜いているというのにこの男はまだ足りないのだろうか。これまで精を貯めてきた男の勢いはとどまることを知らないらしい。

 若いって怖い、と悟空は思った。

 そんな思いは毛程も出さず、悟空は玄奘の隣に腰を下ろし、肩を抱き寄せた。玄奘の耳元で優しくささやく。

「一人でいたのに、抜きたくなっちゃったんですか?」

「……昨日の悟空との、……思い出していたら……じんじんしてきて」

「ここ、自分で触ったんですか?」

 悟空は玄奘のそれにふれる。待ち望んだ接触に対し、玄奘の身体は敏感に震える。

「ああ……んっ、やっぱり、悟空だと気持ち良い……自分では、んぁっ……気持ち良くできなくて……」

「自分でどんな風に触ってたんです?」 

「んぁあっ、んっ、……こう、……」 

 玄奘は悟空の手を持って自分に擦りつけるように動かす。 

「あぁあっ……ンッ……」

「ちゃんと気持ち良くできてるじゃないですか」

「ちがっ、んっ、ごく、悟空の手だから……」

 玄奘は片手を悟空の首に回し、顔を近づけた。二人は唇を合わせる。

「くぁん……」

 舌を絡めるキスで、手の動きがおざなりになっていく。玄奘の身体は敏感なのでキスをされると、力が抜けてしまってうまく手を動かすことができなくなる。 

「手が止まってるけど、いいんですか?」

 悟空は玄奘のそれを握ったまま、自分では動かそうとしない。

「んぁっ……いじわる」

 泣いたせいで目の端を朱く染めながら至近距離で睨む玄奘の顔を見ていると、悟空はすべてのものがどうでも良くなりそうだった。この顔に勝るものはこの世にない。

「玄奘、どうしてほしいです?」 

「イかせて……」

 玄奘はもう自分でするのは諦めたようで悟空の手から自分の手を離した。両腕を悟空の身体に巻き付ける。身体すべてを悟空に預ける体勢だ。

 存分な色香を放ちながら、玄奘は自分から再びキスをした。 

「んっ、……イきたい……、なぁ、悟空」

 悟空は玄奘の背を支えながら、左手でそれを一心不乱にすり始めた。一人でしていたときにも、何度かイきかけてはいたのだろう。もう完全に勃っているそれは張り詰めており、限界は近そうだ。

「ぁアっ、んっ、はぁああっ、んっ……んっ、あぁんっ……」

 完全にタイミングを読んでいた悟空がティッシュを準備した瞬間に、玄奘は達した。




 悟空は玄奘のそれをきれいに拭いた。ちゅ、ちゅ、ちゅ、と余韻のキスを重ねる玄奘に応えながらも、内心は複雑である。

 玄奘はかわいい。かわいすぎる。玄奘に誘われれば悟空は断れない。このままずるずると関係を続けてよいものか、磁路の言う通り一旦落ち着いて考えるべきなのだろう。

「また悟空に助けてもらったな」

 悟空は玄奘に下着を履かせてやりながら言った。

「これからは……自分でできるようになった方が良いですね」 

「……もう悟空は助けてくれないのか?」

 悟空は何も言えなかった。悟空の固まった顔を見て、玄奘は青ざめて尋ねる。

「やはり昨日のデートは恋人ごっこを終了する最後の思い出作りだったのか?」

「違いますよ。昨日はおれが玄奘とデートしたかったからです。でも、キスとかそういうのは……、もうこれ以上しない方がいいと思います」

「どうして?」

「だって……こんなことしてたら、おれ……玄奘のこと、好きになっちまいます」

 悟空はぽつぽつと言った。

 普段の玄奘も驚くほどかわいいが、二人でそういう行為をするときの玄奘は色っぽくて誰にも見せたくなくなってしまう。近付けば近づくほど、離れられなくなってしまう。

 悟空は玄奘が自分の言葉をどう受け取るのかが怖くて、顔を見ることができず俯いている。

 玄奘は不思議そうに言った。

「だめなのか?」

「だめじゃないんですか?」

 このわからずやめ、と眉間に皺を寄せた悟空が顔を上げると、そこには柔らかい笑顔の玄奘がいた。ごく当たり前のように玄奘はその言葉を口にした。

「私はもう、とっくに好きだよ」

 悟空にとっては思ってもいない言葉だった。

 好きだよ、好きだよ、好きだよ、と悟空の頭の中で玄奘の声が何度もリフレインして聞こえる。

 今、しゃららん、と天空の琴が鳴った気がする。きらめく音符が舞い降りてきてはいまいか。

 何も考えられない。ただ、ぽかんと口を開けている。

 いや、本当は望んでいた。玄奘から好きと言われることを。 

 しかし、果たしてこれは現実なのだろうか。

「えっ……と」

 悟空がぱちぱちと瞬きをすると、玄奘は安心したように破顔した。

「やっと言えた。昨日デートしているときからずっと、好きだと言おう、言おうと思っていたのだ。だが、いざとなると緊張して……。気負わずに普通のタイミングで言えば良いのだな。よくわかった」

「好きって……その……あの」

「私は今まで誰かに恋愛感情を抱いたことがなかったから、なかなかわからなかった。しかし、もうわかる。私は悟空が好きだ。そばにいたいのも、キスをしたくなるのも悟空のことが好きだからだ」

「あの……その……それって、おれとつきあうってことですか?」

 玄奘は爽やかに頷いた。 

「もし、悟空が同意してくれるなら。恋人ごっこではなく、本当の恋人に」

「えっと……、ちょっと待ってください。おれと玄奘が本当の恋人に?そ、……れはちょっと、畏れおおいというか……、本気ですか?だって、玄奘はおれにとってはカミサマみたいな存在だったというか……そんな人とつきあう、とか」

 悟空はまだ理解が追いついていない。

「いいのだ、悟空。悟空の決心がつくまで私は待っている」

 待っている?あの玄奘がおれの決心がつくのを待っているだって?

「玄奘のことは大切です。でも、大切すぎて、……その、つきあえるとかそういう存在だと思ってなくて……」

「……私はフラれる、ということだろうか?」

 しゅん、と捨てられた犬のように肩を落とす玄奘を悟空は見ていられない。 

「そんなわけないじゃないですか!」

「でもすぐにはつきあえないのだろう?わかっている。悟空の気持ちが固まるまで私は待つ」

 穏やかな顔で合掌する玄奘を、信じられないものを見る顔で悟空は見た。この人は菩薩か釈迦如来か。

 意味がわからなくなった悟空は半ばすてばちになって言った。

「おれの返事を待っている間、一時の気の迷いだったとわかったら遠慮なく言ってください」

「心変わりなどするもんか。前世からずっと好きだったのに」

「前世のことなど覚えているわけないでしょう?」

 焦ったような悟空の問いに、玄奘は何も言わずに、ふふふと意味深に笑った。


 
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