深夜の常連客がまさかの推しだった

Atokobuta

文字の大きさ
上 下
41 / 62
第二部 第五章 初めてのデート

初めてのデート2

しおりを挟む
 馬と一緒のシーンの撮影に入る。撮影のために連れてこられた葦毛の馬だ。

 絵コンテでは佇む馬の横を、歌いながらジャニ西が通り過ぎていくシーンの予定だったが、
「この子の気性は穏やかなので乗っても大丈夫ですよ」という調教師の提案もあり、玄奘が乗馬することになった。

 初めは少ししり込みした様子もあった玄奘だったが、「大丈夫ですよ、馬はよく相手を見てますから」という悟空の言葉に後押しされ、鞍に乗った。

 乗馬した玄奘はこれが初めての経験だとは思えないほど、背筋の良さも際立って貫禄があり、皆が思わずおおとどよめいたほどであった。

 すると急に、ジャーンッとエレキが大きな音を立てた。驚いた馬が前足を挙げて後ろ立ちになる。乗っていた玄奘がバランスを崩しそうになる。

 落馬するかもしれない、と数名のスタッフが駆け寄るよりも先に、一番傍にいた悟空が手綱を掴み、「どうどう」と声を掛けた。

 まだ脚をばたつかせている馬の鼻先を軽く叩いてやり、
「ごめんな、急に大きな音がしたから驚いたな。もう大丈夫だ」と穏やかに声を掛けた。

 悟空は紅害嗣に
「馬の前で急に音を出すな。それも玄奘が乗ってるときに。もう二度とやるなよ」と凄む。

 紅害嗣は悪気なかったため
「悪いな。アンプにつながったし指がうずいちまっただけだ」と素直に謝った。

 馬の扱いに慣れている悟空の様子に玄奘を始め、誰もが一様に不思議な顔をしている。

「悟空、馬に乗ったことがあるのか?」

「いいえ、でも昔、馬の世話なら少し」

 すぐに撮影が再開され、玄奘はそれ以上詳しく聞けなかった。 

 快晴に照らされまばゆい芝生の上を、悟空が手綱を引いて先導し、玄奘が馬に乗って威風高く歩いていく。

 その横を踊るようにリズミカルに八戒が通りすぎていき、悟浄は最後尾をゆっくりと髪の毛をなびかせながらついていく。バックに流れるのはもちろんBite the Peachだ。

 カットの声がかかっても、ジャニ西の面々はしばらく何も言わず歩き続けていた。

「なんだか懐かしい気がする」

 玄奘が言った。悟空もすぐに同意する。

「おれも同じことを考えていました」  

「このままみんなで何週しててもいいな。腹減っても売店すぐあるし」

「きっと……我らは何かに導かれている……」

 八戒と悟浄も珍しく神妙な面持ちで言った。

「おいおい皆の者~。どこまで行かれる、念のためもう一度撮影じゃ。戻ってこ~い」

 プロデューサー太上がメガホンでぼやいた。ジャニ西は皆で笑いながら歩き続けた。






 一日がかりで撮影は終了した。本日ここでは競馬は開催されないが、投票所では別の競馬場で開催されているレースの馬券を買うことができる。日も暮れかけているため、もう残っているレースはほとんどない。プロデューサー太上が駄々をこねている。

「いやだいやだ、賭けるんだい。もう仕事は終わったんじゃから」 

「いけません、プロデューサー。今日は遊びに来たのではないのです」

 磁路が止めているが、
「人間に扮して生活していても、食べ物を食べる必要はなし、酒を飲んでも酔えぬ、この老体では美しい女人を抱くこともかなわず、何の楽しみがあろう。せめて刹那の興奮に浸りたいのだ」 

「では天界に戻ったらよいではないですか」

「観世音菩薩様が人間に扮して社長をやっているのに、わしだけ帰れるかいな」

「競馬場くらいで息抜きになるならプライベートで遊びに来てください。それなら私も止めません」 

「磁路、一緒に来てくれるかのう?」

「嫌ですよ、お一人でどうぞ」

「いいよな、磁路は。若くて美しい身体のままで。何百年も生きているくせに若作りしおって。その姿ならどこへ行っても引く手あまたであろう?」

「嫌味を言うなら一緒に来ませんよ」

「おお、一緒に来てくれるのか。約束忘れるなよ」

 悟空はその様子を仏頂面で見ている。どこかに行きたいのならあんな風にさりげなく誘えばいいのだ。断られてもめげずに。

  
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...