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第二部 第五章 初めてのデート
初めてのデート2
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馬と一緒のシーンの撮影に入る。撮影のために連れてこられた葦毛の馬だ。
絵コンテでは佇む馬の横を、歌いながらジャニ西が通り過ぎていくシーンの予定だったが、
「この子の気性は穏やかなので乗っても大丈夫ですよ」という調教師の提案もあり、玄奘が乗馬することになった。
初めは少ししり込みした様子もあった玄奘だったが、「大丈夫ですよ、馬はよく相手を見てますから」という悟空の言葉に後押しされ、鞍に乗った。
乗馬した玄奘はこれが初めての経験だとは思えないほど、背筋の良さも際立って貫禄があり、皆が思わずおおとどよめいたほどであった。
すると急に、ジャーンッとエレキが大きな音を立てた。驚いた馬が前足を挙げて後ろ立ちになる。乗っていた玄奘がバランスを崩しそうになる。
落馬するかもしれない、と数名のスタッフが駆け寄るよりも先に、一番傍にいた悟空が手綱を掴み、「どうどう」と声を掛けた。
まだ脚をばたつかせている馬の鼻先を軽く叩いてやり、
「ごめんな、急に大きな音がしたから驚いたな。もう大丈夫だ」と穏やかに声を掛けた。
悟空は紅害嗣に
「馬の前で急に音を出すな。それも玄奘が乗ってるときに。もう二度とやるなよ」と凄む。
紅害嗣は悪気なかったため
「悪いな。アンプにつながったし指がうずいちまっただけだ」と素直に謝った。
馬の扱いに慣れている悟空の様子に玄奘を始め、誰もが一様に不思議な顔をしている。
「悟空、馬に乗ったことがあるのか?」
「いいえ、でも昔、馬の世話なら少し」
すぐに撮影が再開され、玄奘はそれ以上詳しく聞けなかった。
快晴に照らされまばゆい芝生の上を、悟空が手綱を引いて先導し、玄奘が馬に乗って威風高く歩いていく。
その横を踊るようにリズミカルに八戒が通りすぎていき、悟浄は最後尾をゆっくりと髪の毛をなびかせながらついていく。バックに流れるのはもちろんBite the Peachだ。
カットの声がかかっても、ジャニ西の面々はしばらく何も言わず歩き続けていた。
「なんだか懐かしい気がする」
玄奘が言った。悟空もすぐに同意する。
「おれも同じことを考えていました」
「このままみんなで何週しててもいいな。腹減っても売店すぐあるし」
「きっと……我らは何かに導かれている……」
八戒と悟浄も珍しく神妙な面持ちで言った。
「おいおい皆の者~。どこまで行かれる、念のためもう一度撮影じゃ。戻ってこ~い」
プロデューサー太上がメガホンでぼやいた。ジャニ西は皆で笑いながら歩き続けた。
一日がかりで撮影は終了した。本日ここでは競馬は開催されないが、投票所では別の競馬場で開催されているレースの馬券を買うことができる。日も暮れかけているため、もう残っているレースはほとんどない。プロデューサー太上が駄々をこねている。
「いやだいやだ、賭けるんだい。もう仕事は終わったんじゃから」
「いけません、プロデューサー。今日は遊びに来たのではないのです」
磁路が止めているが、
「人間に扮して生活していても、食べ物を食べる必要はなし、酒を飲んでも酔えぬ、この老体では美しい女人を抱くこともかなわず、何の楽しみがあろう。せめて刹那の興奮に浸りたいのだ」
「では天界に戻ったらよいではないですか」
「観世音菩薩様が人間に扮して社長をやっているのに、わしだけ帰れるかいな」
「競馬場くらいで息抜きになるならプライベートで遊びに来てください。それなら私も止めません」
「磁路、一緒に来てくれるかのう?」
「嫌ですよ、お一人でどうぞ」
「いいよな、磁路は。若くて美しい身体のままで。何百年も生きているくせに若作りしおって。その姿ならどこへ行っても引く手あまたであろう?」
「嫌味を言うなら一緒に来ませんよ」
「おお、一緒に来てくれるのか。約束忘れるなよ」
悟空はその様子を仏頂面で見ている。どこかに行きたいのならあんな風にさりげなく誘えばいいのだ。断られてもめげずに。
絵コンテでは佇む馬の横を、歌いながらジャニ西が通り過ぎていくシーンの予定だったが、
「この子の気性は穏やかなので乗っても大丈夫ですよ」という調教師の提案もあり、玄奘が乗馬することになった。
初めは少ししり込みした様子もあった玄奘だったが、「大丈夫ですよ、馬はよく相手を見てますから」という悟空の言葉に後押しされ、鞍に乗った。
乗馬した玄奘はこれが初めての経験だとは思えないほど、背筋の良さも際立って貫禄があり、皆が思わずおおとどよめいたほどであった。
すると急に、ジャーンッとエレキが大きな音を立てた。驚いた馬が前足を挙げて後ろ立ちになる。乗っていた玄奘がバランスを崩しそうになる。
落馬するかもしれない、と数名のスタッフが駆け寄るよりも先に、一番傍にいた悟空が手綱を掴み、「どうどう」と声を掛けた。
まだ脚をばたつかせている馬の鼻先を軽く叩いてやり、
「ごめんな、急に大きな音がしたから驚いたな。もう大丈夫だ」と穏やかに声を掛けた。
悟空は紅害嗣に
「馬の前で急に音を出すな。それも玄奘が乗ってるときに。もう二度とやるなよ」と凄む。
紅害嗣は悪気なかったため
「悪いな。アンプにつながったし指がうずいちまっただけだ」と素直に謝った。
馬の扱いに慣れている悟空の様子に玄奘を始め、誰もが一様に不思議な顔をしている。
「悟空、馬に乗ったことがあるのか?」
「いいえ、でも昔、馬の世話なら少し」
すぐに撮影が再開され、玄奘はそれ以上詳しく聞けなかった。
快晴に照らされまばゆい芝生の上を、悟空が手綱を引いて先導し、玄奘が馬に乗って威風高く歩いていく。
その横を踊るようにリズミカルに八戒が通りすぎていき、悟浄は最後尾をゆっくりと髪の毛をなびかせながらついていく。バックに流れるのはもちろんBite the Peachだ。
カットの声がかかっても、ジャニ西の面々はしばらく何も言わず歩き続けていた。
「なんだか懐かしい気がする」
玄奘が言った。悟空もすぐに同意する。
「おれも同じことを考えていました」
「このままみんなで何週しててもいいな。腹減っても売店すぐあるし」
「きっと……我らは何かに導かれている……」
八戒と悟浄も珍しく神妙な面持ちで言った。
「おいおい皆の者~。どこまで行かれる、念のためもう一度撮影じゃ。戻ってこ~い」
プロデューサー太上がメガホンでぼやいた。ジャニ西は皆で笑いながら歩き続けた。
一日がかりで撮影は終了した。本日ここでは競馬は開催されないが、投票所では別の競馬場で開催されているレースの馬券を買うことができる。日も暮れかけているため、もう残っているレースはほとんどない。プロデューサー太上が駄々をこねている。
「いやだいやだ、賭けるんだい。もう仕事は終わったんじゃから」
「いけません、プロデューサー。今日は遊びに来たのではないのです」
磁路が止めているが、
「人間に扮して生活していても、食べ物を食べる必要はなし、酒を飲んでも酔えぬ、この老体では美しい女人を抱くこともかなわず、何の楽しみがあろう。せめて刹那の興奮に浸りたいのだ」
「では天界に戻ったらよいではないですか」
「観世音菩薩様が人間に扮して社長をやっているのに、わしだけ帰れるかいな」
「競馬場くらいで息抜きになるならプライベートで遊びに来てください。それなら私も止めません」
「磁路、一緒に来てくれるかのう?」
「嫌ですよ、お一人でどうぞ」
「いいよな、磁路は。若くて美しい身体のままで。何百年も生きているくせに若作りしおって。その姿ならどこへ行っても引く手あまたであろう?」
「嫌味を言うなら一緒に来ませんよ」
「おお、一緒に来てくれるのか。約束忘れるなよ」
悟空はその様子を仏頂面で見ている。どこかに行きたいのならあんな風にさりげなく誘えばいいのだ。断られてもめげずに。
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