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第二部 第二章 秘薬安駝駝
秘薬安駝駝6 R15
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磁路が運転するワゴン車でジャニ西のメンバーと玉竜は帰路に着いた。紅害嗣は納多がしっかりと回収して帰っていった。
「しっかし秘薬安駝駝も拍子抜けだったな。水に濡れたらすぐ離れちまってさ。あれ実はただの糊だったんじゃねえの?」と八戒がぼやけば、玉竜は笑った。
「帰り際、絶対逃げられないようにって、納多が安駝駝塗って紅害嗣と手つないでたよ」
「マジかよ、納多って可愛い顔して結構やること大胆だよな。俺わりと好みだな」
「八戒は顔が良ければ誰でもいいんでしょ、不潔だなあ」
一方の悟空と悟浄は玄奘に取り付けたGPS発信機の話をしている。悟空は磁路が持参した乾いた服に着替え、その膝には玄奘が頭を乗せて寝息を立てている。
「どこに付けてたんだよ」
「靴の中だ」
「たまたま発信機が入ってる靴を玄奘が履いてて助かったってことか」
「いや玄奘の持つ全ての靴の中に発信機は仕込んである」
「相変わらずやることがえげつねえな」
「それでも衣装の靴に着替えてしまうと追えないのが難点であるゆえ、本当は下着に縫いつけたいところなのだが……」
「悟浄お前、やるなよ、それ」
「玄奘の貞操を守るため、下着に隆起センサーもつけられるが」
「絶対やるな」
運転席から磁路がバックミラー越しに、玄奘の寝姿を見てくつくつ笑った。
「酔った玄奘の噂は聞いていたが、まさかあんなに積極的になるとはの」
悟浄と玉竜がそれぞれに同意した。
「酒が入ると理性が緩む。それだけ普段は自分の欲望を抑えているのやもしれぬな」
「そうだね、僕も行ったことはないけど実家も大層な名家らしいし、厳しく躾けられてたのかもねー」
「名家と言っても寺ではねえんだろ?なんであんなに仏教に帰依してんのか謎だよなあ」という八戒の言葉に悟空は目を剥いた。
学友の玉竜は良いとして、なぜ今までほとんど話題に上ったことのない玄奘の実家の情報を八戒が知っているのか。
「なんだ兄貴、知らないのか?玄奘は寺の跡継ぎなんかなと思って聞いたら教えてくれたぞ」
「お前はすぐ人のプライバシーにずんずん踏み込みやがって」
「兄貴が臆病すぎんだよ。まったくもう、あんだけ迫られてんのにまだ手だって出してないんだろ?要するに拒否されるのが怖いんだ。意外とヘタレの奥手なんだからなあ」
八戒のからかいに、悟空はぶんむくれて窓を見た。
「……玄奘の同意も得られないままに手なんか出せるかよ」
「さっきは玄奘も同意してるように見えたけど?」
玉竜がいらぬ一言を言った。
「うるせー、酔ってる時のは無効なんだよっ。酔いが覚めた時に後悔されたらどうすんだよ……」
悟空の声はだんだんと尻すぼみになって最後はぼそぼそとした呟きにしかならなかった。
(やはり……ヘタレ)
その場にいた全員は思った。
玄奘が目を覚まして最初に見たのは悟空の寝顔だった。いつものベッドである。
悟空の腕は玄奘の頭の下と腰の上に回っている。玄奘よりもかなり年上ではあるが、寝ている時には眉間の皺がとれて悟空も少し幼く見えるのがかわいい。
玄奘がふふっと笑うとそのほんの少しの身じろぎで悟空が起きた。悟空は眠りの浅い性質である。
「おはようございます」
「おはよう……」
頭を起こそうとした玄奘は胃もたれと軽い頭痛を感じる。少し眉をしかめると、悟空はすぐに察した。
「玄奘、二日酔いになってます?気持ち悪いですか?」
悟空にじっと見つめられ、玄奘は胸がどきんと大きくなるのを感じた。昨日この男は嵐にも構わず玄奘のために駆けつけ、助けてくれた。そして、昨日の自分は……この凛々しい男ととんでもないキスを……。
玄奘は掛布を引き上げ、赤くなった頰を隠した。
「玄奘、吐きそうですか?」
悟空が覗き込んでくる。
「大丈夫だ」
「今、水を持ってきますからね」
玄奘は、キッチンに向かおうとした悟空の袖をきゅっと引っ張った。
「どうしました?」
「おはようの挨拶は……しないのか?」
悟空は少し照れたように笑ってから、玄奘の傍に膝をついて顔を寄せてきた。が、悟空の顔が近付ついた途端、昨日のキスが頭をよぎった玄奘は顔を隠した。
「やっぱり恥ずかしいから、しなくてよい……」
これまでの悟空ならここで引いていただろう。しかし今の悟空は簡単にはあきらめなかった。キスをしてしまいそうな至近距離で、悟空は鼻先をすりあわせてからかうように言った。
「どうしました?毎日してるのに突然、恥ずかしくなったんですか?」
「昨日の……キスを思い出して……」
真っ赤になって言う玄奘に、悟空は目を丸くした。
「昨日のキス、覚えてるんですか?」
玄奘はこくこくと小さく頷いた。二人きりしかいないのに誰かに聞かれることを恐れるように、悟空はほんの小さな声で聞いた。
「……いやじゃなかったですか」
玄奘は再びこくこくと頷いてから、言った。
「約束も……覚えている」
悟空も赤くなった。
「今……しても?」
「……うん」
心臓が飛び出しそうな勢いで鳴っている。この鼓動は悟空のものか、玄奘のものかわからないほど、二人は近づきあった。
悟空は玄奘の上に覆いかぶさるようにして、ゆっくりと顔を近づけた。ちゅ、と静かな音をたてて、唇が重なった。まるで甘い果実をかじるように。悟空の唇は何度も玄奘の唇の上を跳ねまわった。
「ぅん……」
既にキスの快感を知った玄奘の唇から甘い声が出始める。その隙間を狙って悟空は自分の舌を差し込んだ。そっと、怖がらせないように優しく玄奘の唇の裏側を舐めた。
「んぁあ……ん……」
思わず玄奘が頭を浮かせると悟空の手のひらがその後頭部を支え、より深く舌が交わるようになった。玄奘の舌はまだほとんど動かないでいる。
「舌を出してください」
悟空に言われ、玄奘が恥ずかしそうに舌を出すと、悟空がそれを吸い込むようにして自身の唇で刺激した。
「ぁあん……んぁはぁ……ん……」
玄奘の嬌声が悟空の興奮をさらに高める。自然と二人の足は絡まっている。
「んんっ、んぁ……、あぁん…………」
ピロピロピロピロと乾いた電子音がして、はっとした二人は唇を離した。悟空のスマホが鳴っている。通知を見れば悟浄からだった。
『下着にとりつけた玄奘の隆起センサー(試作品)が反応した。貞操の危機に注意しろ』
「うるっせえな」
悟空はスマホを壁に投げつけた。
「しっかし秘薬安駝駝も拍子抜けだったな。水に濡れたらすぐ離れちまってさ。あれ実はただの糊だったんじゃねえの?」と八戒がぼやけば、玉竜は笑った。
「帰り際、絶対逃げられないようにって、納多が安駝駝塗って紅害嗣と手つないでたよ」
「マジかよ、納多って可愛い顔して結構やること大胆だよな。俺わりと好みだな」
「八戒は顔が良ければ誰でもいいんでしょ、不潔だなあ」
一方の悟空と悟浄は玄奘に取り付けたGPS発信機の話をしている。悟空は磁路が持参した乾いた服に着替え、その膝には玄奘が頭を乗せて寝息を立てている。
「どこに付けてたんだよ」
「靴の中だ」
「たまたま発信機が入ってる靴を玄奘が履いてて助かったってことか」
「いや玄奘の持つ全ての靴の中に発信機は仕込んである」
「相変わらずやることがえげつねえな」
「それでも衣装の靴に着替えてしまうと追えないのが難点であるゆえ、本当は下着に縫いつけたいところなのだが……」
「悟浄お前、やるなよ、それ」
「玄奘の貞操を守るため、下着に隆起センサーもつけられるが」
「絶対やるな」
運転席から磁路がバックミラー越しに、玄奘の寝姿を見てくつくつ笑った。
「酔った玄奘の噂は聞いていたが、まさかあんなに積極的になるとはの」
悟浄と玉竜がそれぞれに同意した。
「酒が入ると理性が緩む。それだけ普段は自分の欲望を抑えているのやもしれぬな」
「そうだね、僕も行ったことはないけど実家も大層な名家らしいし、厳しく躾けられてたのかもねー」
「名家と言っても寺ではねえんだろ?なんであんなに仏教に帰依してんのか謎だよなあ」という八戒の言葉に悟空は目を剥いた。
学友の玉竜は良いとして、なぜ今までほとんど話題に上ったことのない玄奘の実家の情報を八戒が知っているのか。
「なんだ兄貴、知らないのか?玄奘は寺の跡継ぎなんかなと思って聞いたら教えてくれたぞ」
「お前はすぐ人のプライバシーにずんずん踏み込みやがって」
「兄貴が臆病すぎんだよ。まったくもう、あんだけ迫られてんのにまだ手だって出してないんだろ?要するに拒否されるのが怖いんだ。意外とヘタレの奥手なんだからなあ」
八戒のからかいに、悟空はぶんむくれて窓を見た。
「……玄奘の同意も得られないままに手なんか出せるかよ」
「さっきは玄奘も同意してるように見えたけど?」
玉竜がいらぬ一言を言った。
「うるせー、酔ってる時のは無効なんだよっ。酔いが覚めた時に後悔されたらどうすんだよ……」
悟空の声はだんだんと尻すぼみになって最後はぼそぼそとした呟きにしかならなかった。
(やはり……ヘタレ)
その場にいた全員は思った。
玄奘が目を覚まして最初に見たのは悟空の寝顔だった。いつものベッドである。
悟空の腕は玄奘の頭の下と腰の上に回っている。玄奘よりもかなり年上ではあるが、寝ている時には眉間の皺がとれて悟空も少し幼く見えるのがかわいい。
玄奘がふふっと笑うとそのほんの少しの身じろぎで悟空が起きた。悟空は眠りの浅い性質である。
「おはようございます」
「おはよう……」
頭を起こそうとした玄奘は胃もたれと軽い頭痛を感じる。少し眉をしかめると、悟空はすぐに察した。
「玄奘、二日酔いになってます?気持ち悪いですか?」
悟空にじっと見つめられ、玄奘は胸がどきんと大きくなるのを感じた。昨日この男は嵐にも構わず玄奘のために駆けつけ、助けてくれた。そして、昨日の自分は……この凛々しい男ととんでもないキスを……。
玄奘は掛布を引き上げ、赤くなった頰を隠した。
「玄奘、吐きそうですか?」
悟空が覗き込んでくる。
「大丈夫だ」
「今、水を持ってきますからね」
玄奘は、キッチンに向かおうとした悟空の袖をきゅっと引っ張った。
「どうしました?」
「おはようの挨拶は……しないのか?」
悟空は少し照れたように笑ってから、玄奘の傍に膝をついて顔を寄せてきた。が、悟空の顔が近付ついた途端、昨日のキスが頭をよぎった玄奘は顔を隠した。
「やっぱり恥ずかしいから、しなくてよい……」
これまでの悟空ならここで引いていただろう。しかし今の悟空は簡単にはあきらめなかった。キスをしてしまいそうな至近距離で、悟空は鼻先をすりあわせてからかうように言った。
「どうしました?毎日してるのに突然、恥ずかしくなったんですか?」
「昨日の……キスを思い出して……」
真っ赤になって言う玄奘に、悟空は目を丸くした。
「昨日のキス、覚えてるんですか?」
玄奘はこくこくと小さく頷いた。二人きりしかいないのに誰かに聞かれることを恐れるように、悟空はほんの小さな声で聞いた。
「……いやじゃなかったですか」
玄奘は再びこくこくと頷いてから、言った。
「約束も……覚えている」
悟空も赤くなった。
「今……しても?」
「……うん」
心臓が飛び出しそうな勢いで鳴っている。この鼓動は悟空のものか、玄奘のものかわからないほど、二人は近づきあった。
悟空は玄奘の上に覆いかぶさるようにして、ゆっくりと顔を近づけた。ちゅ、と静かな音をたてて、唇が重なった。まるで甘い果実をかじるように。悟空の唇は何度も玄奘の唇の上を跳ねまわった。
「ぅん……」
既にキスの快感を知った玄奘の唇から甘い声が出始める。その隙間を狙って悟空は自分の舌を差し込んだ。そっと、怖がらせないように優しく玄奘の唇の裏側を舐めた。
「んぁあ……ん……」
思わず玄奘が頭を浮かせると悟空の手のひらがその後頭部を支え、より深く舌が交わるようになった。玄奘の舌はまだほとんど動かないでいる。
「舌を出してください」
悟空に言われ、玄奘が恥ずかしそうに舌を出すと、悟空がそれを吸い込むようにして自身の唇で刺激した。
「ぁあん……んぁはぁ……ん……」
玄奘の嬌声が悟空の興奮をさらに高める。自然と二人の足は絡まっている。
「んんっ、んぁ……、あぁん…………」
ピロピロピロピロと乾いた電子音がして、はっとした二人は唇を離した。悟空のスマホが鳴っている。通知を見れば悟浄からだった。
『下着にとりつけた玄奘の隆起センサー(試作品)が反応した。貞操の危機に注意しろ』
「うるっせえな」
悟空はスマホを壁に投げつけた。
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