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第一部 第四章 Journey to the West結成

Journey to the West結成4

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 無遠慮にチャイムを鳴らされ、どかどかっとなだれ込むように誰かが入ってきた。もう朝らしい。

 寝起きの良いおれはすぐに覚醒して警戒するが、八戒、悟浄、玉竜だったので全身の力を抜いた。腕の中の玄奘を見るとまだ寝息を立てている。

 この世の重荷をごそっと手放して眠っているようなその顔が愛おしくてもう少し寝かせてやりたい。そっと腕を抜いて上半身だけ起き上がる。

「おい、鍵かけといたんだが」

 玉竜たちはおれ達が同じベッドで寝ているのを見て奇声を上げた。

「わ!一緒に寝てる!玄奘、見損なったよ。こんなのが好みだったの?」

「やるじゃん兄貴。うまくできたのか心配だなあ。早打ちしなかった?」

「悟空っ。信じておったのに。推しを抱くなど言語道断!オタクは分をわきまえよっ」

 口々に騒ぐメンツに声を抑えるよう、おれは睨みつけながら言った。

「何もしてねえよ。隙間風が多くて寒いから一緒に寝てただけだ。オメーらこそ不法侵入だぞ」

 悟浄は得意気にウェーブの髪を撫でつけた後、小さな鍵をポケットから出して当然のように言った。

「四六時中推しとそのガチ恋オタクが二人きりというのも危険だ。玄奘のためにすぐに助けにいけるよう作っておいた」

「その鍵、寄こせ」

 悟浄は素直に合鍵をおれに渡したが「合鍵などいくらでも作れる……」とじゃらじゃら鳴る鍵の束をポケットから見せた。おれはため息をついて目を逸らす。

 八戒は冷蔵庫を勝手に開けて中にあった牛乳を一リットルのパックごと飲んでから言った。

「仕事引き留められちまって辞められなくてよぉ、デビューまでは仕事続けてもいい?」

 玉竜が八戒の尻を文字通り叩いた。

「何言ってんの、働いてる時間なんてないよ。今日から猛レッスンだよ。睡眠時間は一日二時間まで。ほらほら二人も今からスタジオ行くから早く着替えて」

 もう少し寝かせてやりたかったが、玄奘の肩を少し揺すって声をかける。

「玄奘、起きてください。玉竜が来てます。今からレッスンだそうです」

 玄奘が目を開けた。

「おはよう……」

 起きた瞬間からこんなに麗しい存在がいていいんだろうか。

「おはようございます」 

 玄奘は無防備に目をこすった。

「……抱きしめられ……悟空の匂いに包まれて……おかげでよく眠れた」

「あー、やっぱり抱いたんだ」

「このっオタクの風上にも置けぬ奴っ」

 訳知り顔で頷く八戒と、目を逆立てる悟浄の二人の頭を掴んで、ごちんとぶつけてやる。

「玄奘、乱暴されなかった?痛いところない?」

 本気で心配している様子の玉竜に玄奘ははにかんで答えた。

「悟空は優しく抱いてくれた……」

 ヒューッと歓声と怒声の混じった奇声が再び上がる。おれは玄奘の両肩を抑えた。

「いやっ、玄奘っ、それは誤解を招く表現ですからっ。おれは『抱きしめて眠った』だけであって決して『抱いて』はないですからねっ」

「『抱く』とは『抱きしめる』以外の意味を含むのか?」

 きょとんとした玄奘の発言におれは両肩を落とす。性には疎いのだろうと思ってはいたが、まずそこからか……。

「まあ、それはおいおい、兄貴が教えてくれますよ」

「いや、玄奘の純粋さはこのまま守り育てるべき尊さであるっ。汚してはならぬ」

 ニヤニヤする八戒と、合掌する悟浄におれはぽきぽき指を鳴らしながら近寄る。

「テメーら、もう一度頭ぶつけてほしいみたいだな」 

「悟空、暴力はだめだぞ」

 と玄奘がおれの額に人差し指をあててきた。可愛い。こっちを叱ってくる時まで可愛い。

「みんな急いでっ、レッスンに遅れるよっ」

 張りきる玉竜が声を掛けた。

「皆、これからよろしく頼むな」

 玄奘が合掌した。みんな頷く。おれ達の西への旅はまだ始まったばかりだ。 
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