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極上取材記(モブ百合成分含まれます)

極上取材記

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 スマホを掴んでアラームを止めた瞬間、がばりと起き上がる。今日こそGo-kuとGenjyoの交際確定ネタを掴んでやると心に決める。

「もう仕事?」

 猫のように体を丸めている実花が眠たそうな声で言う。

「夜討ち朝駆けは記者の本分だから」

「またおっさんみたいな喋り方してる。よく寝ないと身体壊すよ。」

「わかってるって。実花は今日何時に帰る?」

「うーん、遅番だから21時頃かな」

「じゃあ夕飯は私が帰りになんか買って帰るね。駅前のお好み焼きかカレーならどっちがいい?」

「どっちでも。私は真里以外の事に関してはあんまりこだわりないもーん」

 実花は猫みたいな気分屋で妙なポイントでデレてくる。

「じゃあ、お好み焼きにしよう」 

「もう……。そこは『うふふ、実花大好き』ってチューするところでしょお」

 時間に追われた私は「はいはい」と生返事をしながらスルーする。私が慌ただしく身支度を整えている間にまた実花は眠ったようだった。少し癖のある髪の毛をかき上げてやってから、実花の頬に軽くキスをする。

「行ってきます」

「……行ってら」

 私は急ぎ足で取材に向かった。






 Journey to the West、通称ジャニ西はGenjyo、Go-ku、chan-Buta、Gojoeの男性四人からなるアカペラボーカルグループである。デビューしたのは昨年で、お経とラップを組み合わせたお経ラップという代物でデビューしたこともあり、初めはイロモノ扱いされるグループであったのだが、最近はお経以外のテーマにも手を伸ばしてきたことと、「彼らの歌声を聴いたら極楽が見える」と著名人が発言したことをきっかけにじわじわと一般的にも人気が出つつあるところだ。


 彼らのファンはピルグリム(殉教者)と呼ばれている。ファンの世代は多岐にわたっているが、全員を推しているいわゆる箱推しファンと、特定のメンバーを推すファンと、特定の二人の組み合わせを推すファンとに分かれる。

 中でもGo-kuとGenjyoについては、二人の仲の良さ、絆の強さを感じさせるエピソードが多く、本当に付き合っているのではという噂がSNSで流れては消え、流れては消えを繰り返している。ちなみにピルグリム達は彼ら二人の組合せを「Gokujyo」と呼び、検索避けとして「極上」「御苦情」などの隠語表記されることも多い。

 現実の人間を勝手に妄想カップルとして扱うことはコンプライアンス違反であるので、表のアカウントでそれを騒ぐことは御法度だが、それでもテレビ番組の出演や配信ライブをするたびにタイムラインは「極上、また肩組んでる!まさに極上!」「今、目を合わせた!」「わざわざ隣に来た!」という萌えの叫びで埋め尽くされる。

 かくいう私もGokujyo推しのピルグリムである。彼らが本当に交際している証拠を掴みたい。雑誌記者としても、ピルグリムとしても、そして同性と交際中の仲間としても。






        ※※※
 事務所シャカシャカに勤める会社員A氏の取材 


 ええ、僕はジャニ西のグッズ担当なんです。この前はライブツアーに合わせたグッズの検討会議があってジャニ西メンバーとマネージャーの磁路さんも参加してたんです。

 Go-kuさんはグッズを売る事にあまり乗り気じゃないらしくてダメ出しばっかりしてくるんです。

 前にGenjoのサイン入り缶バッジを販売したことがあるんですけどね、そうです。不透明の袋に入っててレアバッジにだけ直筆サインが書いてあるんです。くじみたいなもんですね。それをなんとGo-kuさんが買い占めたんですよ!

 おかげで物販始まってすぐGenjoの缶バッジだけ売り切れてしまって、Genjo推しからは大ブーイングですよ。

 平謝りしながら事情を説明したらGokujyoのカプ推し達は大興奮してましたけどね。でもやっぱりメンバー本人がグッズ買い占めとか困るんで、次回のライブに向けてメンバーを含めてグッズ会議をしたんです。

 そうです。Go-kuさんが買い占めるのも無理なくらいの数を発注してやろうっていう意図もあって。

 そうですね、例えばアクスタは基本のグッズなんですけど、はい、アクリル製のボードにメンバーの写真を張り付けたやつです。ピルグリム達は持ち歩いて一緒に写真を撮ったり、家に飾って祭壇を作ったりするんですよ。

 でもGo-kuさんは持ち運べるくらい小さいやつはだめだって、一メートルくらいの気軽に持ち運べない大きさにしろって言うんです。アクリルに印刷されたGenjyoであってもファンが持ち歩くのが嫌みたいです。一メートルのアクスタなんて特注になるから単価も上がりますし、そもそも買ったファンだって置き場所に困るじゃないですか。

 それならいっそのこと等身大アクスタにしましょうかって僕が言ったんだけど、それは添い寝したりする輩がいるからだめだって言うんです。あんな硬いものと一緒に寝たいと思ったりするファンがいますかね。それに別に添い寝しようと構わないじゃないですか。相手は本物のGenjyoじゃないんですよ。アクスタのGenjyoとの添い寝もダメとか意味わかんないですよね。

 Genjyoさんですか?静かに微笑んで合掌してました。僕、あの人が何考えてるのかわかんなくてちょっと怖いんですよね。

 ついでに添い寝の話が出たから、メンバーの全身像を印刷した抱き枕はどうかって話になったんですけど、それは反対するかと思いきや、試作品を作ってそれを全部Go-kuさんのところに持ってこいって言うんですよ。chan-ButaさんがGenjyoさんの抱き枕欲しいだけだろってGo-kuさんをからかったんですけど、Go-kuさんは
「おれは本物のGenjyoをいっつも抱いて寝てるっつーの。別に抱き枕が欲しいわけじゃねえっ」ってムキになってました。

 あの二人やっぱりデキてるんですかね。でも抱きしめて寝てるのが本当なら、抱き枕なんていらないですよね。付き合ってないけど抱きしめたいから抱き枕が欲しいんですかね。いやもうわかんないですよ。

 二人が本当に付き合っているかって?いや、知りません。ええ?怖くて聞けないですよ僕には。勘弁してください。
  




         ※※※ 
 Go-kuによる缶バッジ買い占めに出くわしたピルグリムの取材
 

 グッズ列待機してたんです。そう、私と友達が一番乗りでした。物販開始の三時間くらい前ですかね。

 そしたらサングラスの男が後ろに並んできて私に「缶バッジいくつ買うんですか」って聞いてくるんですよ。それがGo-kuだったんです。びっくりしました。なんでこんなところに来てんの?って。

「ライブ前の準備あるんじゃないですか」って聞いたんですけど、「それが終わってから来たから、お前らに先を越されたんだろ」ってちょっと怒ってるんですよ。物販始まるまでの間ずっとGo-kuはヘッドホンで何か聴いてました。

 缶バッジの購入は好きなメンバーは選べるけど中身はランダム売りなんです。それでSSRには直筆サインが書いてあるんです。いや、一個じゃなくて数個は入ってるって聞いてます。

 それでとりあえず私はGenjyo、友達はGo-kuの缶バッジを10連で3セット買ったんです。そしたら次に並んでたGo-kuは残りのGenjoの缶バッジ買い占めたんですよ。

 スタッフは止めてたけど「金払ってんだからいいだろ」って押し切って。鬼気迫った顔でした。結局私の買った中にはサイン入りはなかったんです。なので、Genjyoのサイン入り缶バッジは全部Go-kuが手に入れたんですよね。大量すぎてその場では、彼は中身を開けてなかったですけど。

 そこからが大変でした。Go-kuの後ろに並んでたGenjoファンが大ブーイングですよ。せっかく並んでたのに一個も買えなかったからまあ当然ですよね。

 そしたら突然「悟空」って諭すような声がするんです。振り向いたらGenjyoで本当もうびっくりしました。推しですもん。すっごい綺麗でほんとに人間なんだろうかと疑うくらいでした。すごく良い匂いもして。

 後ろにはchan-ButaとGojoeもついてきてました。それでGenjyoがGo-kuにファンのことを考えて行動しなくてはと叱ったんです。

 Go-kuですか?ふてくされてました。chan-Butaは「そんなにサイン欲しいなら本人にいくらでも書いてもらったらいいじゃないか」って言ってましたけど、Go-kuの言い分としては「おれは推しのサインが欲しいんだ。簡単に手に入る玄奘の日常のサインではダメなんだ」って。オタクとして気持ちがわかるような、わからないような複雑なところですよね。

 そしたらGenjyoが「日常の私には興味がないのか」って、ふと悲しそうな顔をしたんです。Go-kuは「そんなことないです」とすごく焦ったんでしょうね。「おれは玄奘が書いた買い物メモでも歌詞の走り書きでも全部綺麗にファイリングして取ってあるんです」ってすごい勢いで弁解してて。

 うふふ、そうなんです。そこにいる全員ドン引きですよ。ふふふ。

 缶バッジの件は結局Go-kuが後ろに並んでたファンに2、3個ずつ自分の買った缶バッジをタダで手渡ししたので、騒ぎはとりあえずおさまりました。Go-kuから直接もらった缶バッジなんてサインなくても嬉しいですもんね。そうなんです、Go-kuはちゃんとサイン入りのは自分でもらうように避けておいて、サインなしのバッジを選んでファンに渡してたんです。そういうところは流石だなと思いましたけど。

 私は自分で缶バッジ買えたのでGo-kuからはもらえないし、サイン入りも当たらなかったし、せっかく早く来て並んでたのに良いことないなってしょんぼりしてたんです。

 そしたら去り際にGo-kuが「内緒だぞ」って言いながら私の手の中に何か渡してきたんです。彼らがいなくなってから見てみたら、なんとGenjoのサイン入り缶バッジが1個あったんです。嬉しいというよりも先に、なんで私に?と思いました。私がしょんぼりしてたの見てたんですかね。

  あんだけGenjyo推しのGo-kuにサイン入り缶バッジ分けてもらったとか奇跡じゃないです?何なんですか、何でそんなことしてくるんですか。何で私にだけ優しくしてくれるんですか。

  好きになっちゃうじゃないですか。もうやだ……。はい、好きです。結局その件がきっかけでGenjyo推しだったんですけど、Go-kuのリアコになっちゃいました。

 Go-kuとGenjyoが付き合ってるかですって?ダメですよ。Go-kuは私と付き合うんです。ダメです。譲らないんですから。




        ※※※
 ジャニ西番組担当のテレビ局ディレクターの取材


 そうなんです。ADとして歌番組を担当してた時からジャニ西とは付き合いがあります。彼らの冠番組を作ろうって時に私が担当になって、ええ、こんな形で再会できるなんて嬉しかったです。

 番組の企画をメンバーと一緒に詰めてた時なんですけど、どの企画もなかなかGo-kuさんが通してくれないんですよね。寝起きドッキリには「おっさんの寝起きなんか見て誰が楽しいんだ」とか、空中アスレチック大会には「おっさんが高いところ怖がってるところなんて面白くもねえだろ。しかもおれは全然怖くねえ」とか言ってくるんですよねえ。

  Go-kuさん達はおっさんかもしれないけど、Genjyoさんはまだ二十歳そこそこですしね。Genjyoさんが寝起きでほわほわしているところとか、高所で足をすくませて怖がっているところとか絶対可愛いじゃないですか。それをお茶の間に放送して、ファンを増やそうって説得したんですけど、そんなことしなくてもGenjyoさんの魅力は歌えば伝わるからって譲らないんですよ。ただでさえ可愛いのに、これ以上可愛いところを世間に知られたら困るって。

 結局通った企画は三人がそれぞれ作った料理をGenjyoさんが食べて勝敗を決めるお料理対決とか、三人が陶芸してGenjyoさんにプレゼントする対決とかそんなんばっかでした。

   Go-kuさんは基本Genjyoさんに何かやらせると、玄奘の可愛さがバレるから嫌だって譲らないんですよね。いや可愛いのは知ってますけどね。でもGo-kuさんに言わせると、メンバーしか知らない素のGenjyoさんはわりと天然で不器用で、そのわりに素直ですごく可愛いらしいですよ。

 そうそう、企画と言えばメンバー同士でお互い本音を言う会も面白かったんです。敏腕マネージャーの指示で放送ではカットしちゃったんですけど。

   GenjyoさんがGo-kuさんに「日頃はなかなか言えないが、悟空いつもありがとう」って言って、頭を撫でたんですよ。そしたらGo-kuさん、嬉しそうにしながらも口もごもごさせて何にも言わないんです。それからぎゅっとしがみつくみたいにGenjyoさんの背に身体全体をくっつけてました。抱きしめながら身体をゆらゆらさせたりするGo-kuさんをGenjyoさんも自然に受け入れてて。可愛いかったですよ。

    一見ワルそうな人なのにあんな子どもみたいな甘え方するんだって思いました。すごく柔らかい雰囲気でした。放送したかったんですけどねー。Go-kuのイメージ戦略的にNGって言われちゃいました。

 そういや、これもお蔵入りにはなったんですけど、一応寝起きドッキリもしたんですよ。メンバーには知らせずに襲撃したからほんとのほんとにドッキリです。

   でもどんだけ音を立てずに部屋に入ってもドアを開けた時点でGo-kuさんがすぐに起きてきて、スタッフに部屋に入らせまいと通せんぼしてくるんです。そう、ホテル取っても二人は同室なんですよ。

   一回試しにシングル四部屋取ってみたけど、夜中にGenjyoさんがGo-kuさんの部屋に行ったらしくて結局一緒に寝てました。Go-kuさんの匂いが安心できるんですって。ベッドの中のGenjyoさんの寝顔撮りたかったんですけどねえ、Go-kuさんが絶対ダメだって許してくれないんです。

 といいつつ、スケジュールは詰め詰めなので彼らはわりと現場で寝てるんですよ。腕組んで寝てるGo-kuさんの肩にもたれかかってGenjyoさんが寝てるところとかはわりとざらに見れます。

   足元にchan-Butaさんが大豚みたいに寝転がってることもありますけど。うふふ。そういうワキが甘いところは可愛いですよね。

 二人は付き合ってるのかって?付き合ってればいいなと私は思ってますけど。実際のところはどうなのかって?そんなの無粋じゃないですか。二人が幸せならどんな関係だって良いじゃないですか。そんなの聞いたりしませんよ。
 




         ※※※
 予定よりも取材が長引き、いつものお好み焼き屋が閉店していたので、代わりにコンビニで買ったカレーを食べながら私は実花に愚痴る。

   実花は私よりも先に帰宅していたが先に入浴し、私との夕食を待ってくれていたらしい。実花の表情はいつもクールだけど、行動はわりと可愛いくてそういうところが好きだなと常に思う。

「結局、今日も二人が付き合ってるのかどうか、決定的な証言はつかめなかったんだよ」

「事務所が所有してるマンションで、同じ部屋に二人で住んでるんでしょ?」

「もう売れてるんだから望めば簡単に一人一室もらえると思うんだけどね、わざわざまだ一緒に住んでるってことは一緒にいたいんだよね。そう考えてもおかしくないよね」

「じゃあもう付き合ってるってことで良いんじゃないの」

 実花はジャニ西のファンでもないし、芸能人にも興味が薄いのであまり真剣味がない。この期間限定のスープカレー美味しいね、と言いながら、山盛りのスプーンを口に運ぶ。

「でも、部屋の中のことなんて他人にはわかんないじゃん。監視カメラ仕掛けるわけにもいかないし。男女なら同棲してた時点でもう性的な関係があるって完結するのに。同性だと一緒に住んでても、ただのルームメイトかもしれない、付き合ってるかどうかまだわからないって考えるのおかしいよね」

「まあね。例えば私と真里は一緒に住んでるけど、周りにはただのルームメイトと思われてるかもしれないってことだね。職場の人にはなんて説明してんの?」

「……ルームメイト」 

「もう!いつになったら私のことパートナーだって公言してくれんの?」

 実花は眉をしかめた。この話題が出たのはもう何度目かわからない。いつも言い合いになる。

「公言って……。それがそんなに大事なことかな。私は実花のことが好きで、大事にしてて一緒に住んでる。それで良くない?なんで他の人に言わなきゃいけないの?」

「……真里さあ、それをGo-kuとGenjyoにやらせようと思ってるんでしょ。自分のできないことを人にはやらせるの?」

 実花の言葉は私の胸に鋭い矢じりのように刺さった。

「別に……そんなつもりじゃ……」

「女性と付き合ってるってことを周りに言わないのは、私と別れてから『普通の生活』に戻れるようにじゃないの?私は女の人としか付き合ったことないけど、真里はそうじゃないでしょ。やっぱり相手は男が良いとか子どもが欲しいとかで、いつか別れを切り出される日がくるのかもっていう恐怖は常にあるよ。いくら私が大事にしてても、私にはあげられないものを真里が欲しがるんじゃないかって」

 私は手を止めて、目の前にある食べ散らかったカレー皿を見つめた。口の中にはカレーがあるのに、何の味もしない。

「ごめん、もう寝るわ」

 実花はそそくさと自分の分のプラ皿をゴミ箱に捨てると、席を立った。

 しんとする室内と対照的に正面のテレビ画面の中は賑やかだ。生放送の音楽番組にジャニ西が登場している。

 実花のことばを真剣に受け止めるべきだと頭ではわかっていても何も考えられない。私は惰性でスマホを取りタイムラインをぼんやり眺める。ピルグリムたちのツイートがどんどん流れていく。

「GenjyoがずっとGo-kuの太腿に手を置いてるんだけど、どういうこと?」

「極上、いつもながら距離近すぎる!」 

「新曲披露待ちきれない」

 ずんと沈んだ心のまま、スマホを手に持ちながら、テレビ画面をぼーっと見る。少しだけ熱を帯びてくるスマホを持っていると安心する。小さい生き物を抱えているような気分になるからかもしれない。

 今すぐに腰を上げて、ベッドの中の実花を抱きしめて、わだかまりを快楽に溶かしてしまえば明日にはきっと仲直りできているだろう。でも、なぜかそうしたくはなかった。

 ジャニ西の新曲はテンポの良いチアアップソングだった。

 Gojoeの低音から始まり、そこに重ねてGenjyoが軽やかな主旋律を歌いだす。レゲエのリズムをGo-kuが刻み始めたら自然に身体が動き出す。chan-Butaが張りのあるコーラスというよりも腹に響く合いの手を挟み、サビに向かって盛り上げる。サビではGenjyoの声はさらに伸びやかになり、Go-kuのリズムもより軽快になっていく。波乗りみたいに身体をうねらせて、ジャニ西のメンバーは声を合わせていく。

「すごい……」

 いつしか胸のつかえは少し軽くなっていた。最後は再びGojoeの低音で幕が引かれる。歌い終わった直後に新曲テレビ初披露で感極まったのか、Genjyoが隣にいたGojoeを抱きしめた。Go-kuは抱き合う二人を真顔で凝視し、chan-ButaはGo-kuを見てにやついている。

「ヤバ……」

 タイムラインは案の定、「Go-kuが嫉妬してる」「ヤバいコワいよあの顔、放送事故」「極上破局案件じゃん」とGokujyoオタク達がざわついている。新曲は良かったものの、Gokujyoの様子がきわどすぎて私は何のツイートもすることができないでいる。結局その番組が終わるまでGo-kuは機嫌が悪そうで、Genjyoと目を合わせることはなかった。

 Go-kuとGenjyoの仲が良いのはわかる。でも仲の良い友人同士であれば、Genjyoが他のメンバーと抱き合っただけで嫉妬するとかありえるだろうか。そこまで嫉妬深いのはやはり付き合っているからではないのだろうか。chan-ButaがGo-kuの怒りを面白がっていたのも、二人の交際を知っているからの反応ではないのだろうか。

 私がGokujyoの交際にこだわる理由は、自分と実花との交際に自信がないからなんだろう。気付きたくなかった。





                              
                     ※※※
 Journey to the WestのメンバーGo-kuへの取材

 はぁ、何だよ。こんなところで待ってんのかよ。事務所通さねえと何にも話せねえっつの。昨日の放送で嫉妬?別に嫉妬なんかしてねーし。

   ああ?一緒の部屋に帰ったよ。一緒に寝たか?なんでそんなことお前に話さなきゃならねえんだよ、ほっとけ。ああ、まあ今回はおれだから良かったけど、Genjyoには待ち伏せ取材とかするんじゃねえぞ。あの人は無垢で世間知らずなんだから、言わなくていいこととかなんでもぺらぺらしゃべっちまうんだ。俗世間の人間とは違うんだよ。

    お前、絶対約束守れよ。ほんとかよ?しばらくGenjyoがどこ行くのにもおれが付きそうからな、嘘ついたらすぐわかるからな。わかったか。

 え?お前が恋人とうまくいくかどうかなんて、おれとGenjyoが付き合ってようが何の関係もないだろう?知らねえよ。

    はぁ。うん。そうなのか。……でも、それはお前がはっきりしねえ態度をとってるからじゃねえの?何が怖えんだよ。周りの目か?周りにいる他人と、お前の大事な人とどっちを優先するべきなのかはわかるだろ。

    確かに周りに交際宣言しても交際が長続きする保証はねえけど、一生のパートナーだと互いに思っているならそれ相応の態度ってものがあるんじゃねえの。いや、まあ、おれも適当に言ってるだけだから、あんま本気にすんじゃねえぞ。もう、なんなんだ。おい、真君、後は頼んだぞ。おれは帰る。うん。玄奘を拾って帰るわ。



 
                  
                    ※※※
 Journey to the Westのマネージャー磁路真への取材


 そなたは恋人との関係に悩み、Gokujyoが本当に交際していれば励まされると思ったのであるな。

    ふふふ、いじらしい乙女心である。二人の真の関係を知っておるのはこの私だけだ。Go-kuとGenjyoの部屋の中を撮影したビデオを持っておる。ふっふっふ。羨ましいだろう。非売品だぞ。雑誌記者であるそなたには話すことはできん。

    ただし、雑誌記者でなくただのジャニ西ファンとしてのそなたにであれば、少しヒントを話してやっても良い。聞くか?ふはは。

 果たして恋人とは何を意味するのだろうな。性的な関係によるのか、精神的なつながりによるのか、悩ましい。性的な関係があってもセフレということもあるし、接吻しかしていなくても恋人である場合もあるな。どこで線を引くのかでGo-kuとGenjyoの関係は呼び方が異なってくるのだ。

 二人が交際していてもいなくても、Go-kuとGenjyoのそれぞれ一番大切な存在は互いであることには変わりがない。互いにとって唯一無二の存在であるのだ。

 そなたの恋人はそなたにとってどのような存在であるか。もう一度よく考えてみよ。ではな。気を付けて帰られい。


                
                    ※※※

 その後の私は、まっすぐ家に帰ると実花の好きなチキン南蛮を作って帰りを待ち、仲直りをした。仲直りの詳しい内容は二人だけの秘密だが、会社の人にはパートナーと同居していることを打ち明けることにした。

 Gokujyoはといえば、あの番組の翌々日に二人ともちょっと時間ずらして海岸で撮ったインスタを上げていた。お互いに秒でファボを送っていたから、おそらく二人で行って仲直りしたんだと思う。タイムラインでは「絶対一緒にいるだろ」「いっそのことツーショットでも上げてくれ。もう生殺しはいやだ」と安堵のうめき声が流れていた。

 Gokujyoは付き合っているのかもしれないし、そうではないのかもしれない。それでいいのだ。私は隣ですやすや眠る実花の髪を撫でる。可愛い。これでいいのだ。





 
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