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極上 クリスマス編「欲しいものはきっと」
17 ろ
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ろうそくの光のようにまたたきながら落ちてくる雪に急かされるように、玄奘と悟空は二人の家に帰った。
玄奘が帰り際に悟浄から照れくさそうに渡された包みを開けると「株投資入門」と書かれた本であった。玄奘は思わずくすっと笑う。
「なんで悟浄はこんなのくれたんですかね?」
「悟浄は私に自分の得意なことを教えてくれるんだよ。かわいいね」
「かわいいですかね、株ですよ?」
悟空は眉をしかめる。
そのとき、玄奘のスマホの通知音が鳴った。通知を開いて、再び玄奘が微笑む。
「見て、悟空」
スマホには、
「プレゼント当選のお知らせ。厳正なる抽選の結果、あなた様がchan-Butaのパジャマ当選者となりました。おめでとうございます!!」というメッセージと、八戒のドヤ顔自撮りが表示されていた。
玄奘はくすくす笑っているが、悟空は怒りと呆れのため息をつく。
「まったくあいつはっ。抽選もしてねえくせにただの詐欺になっちまうだろうが。殉教者へのプレゼントじゃねえのかよ、まったく」
「まあ、クリスマスだからってきちんと説明すれば、殉教者たちはわかってくださるよ。八戒の気持ちも受け取ってあげなきゃ」
「受け取るのはいいですけど、あいつの着たパジャマなんて着ちゃだめですよ、身体が穢れます」
「それじゃあ受け取ったことにならないだろう?」
「じゃあせめて着る前に三十回ほど洗わせてください」
「わかったわかった」
悟空の懇願を軽く受け流す玄奘はもう恋人の顔をしている。
二人でソファに座り、コーヒーを淹れて一息つく。
「あっという間にクリスマスイブも終わってしまったな」
マグカップを両手で抱えて、玄奘がぼんやりと言う。さすがに疲れたらしい。
「本当は二人でデートに行きたかったですけどね」
「来年は一緒に行こう」
悟空にとっては何の迷いもなく来年の約束ができる玄奘がひどく眩しい。この人はおれとずっと一緒にいると何一つ疑うことなく信じている。そして、そんな男性が自分の恋人であることに幸福感でいっぱいになる。しかし、今の悟空には、玄奘に対して一つわだかまりを抱えている。
悟空はカップを置いて、玄奘の手を握った。一つ息をついてから言った。
「悟浄や八戒のプレゼントに散々ケチつけといて、おれそんな資格ないんですけど。すごく申し訳ないと思ってます。あの……、えっとですね、実は……プレゼントを用意できてなくて……一緒にいろいろ見に行ってデートしながら選びたいって思ってたから、その……」
玄奘は黙って首を傾げた。悟空は焦って、言葉をつのらせる。
「自分でも甲斐性なしなのはわかってます。でも、あの、おれ……ずっと玄奘と一緒にいたいと思ってて、来年も、再来年もずっと……、だからその、こんなおれですけど、できれば見放さないでほしいというか、その……プレゼント用意できてなくて申し訳ございませんっ……なんでもするから許してほしいです……」
頭を下げた悟空には玄奘の表情が見えない。
「……悟空、顔を上げて」
優しいけれど、毅然とした玄奘の声がした。そろそろと頭を上げた悟空の頬を玄奘は勢いよく両手で挟んで自分の顔の正面に向けた。
「一緒に歌ったのを忘れたのか?All I Want for Christmas Is You。あれが私の本心だよ。クリスマスに欲しいものなんて悟空以外にない。悟空がここにいてくれればそれでいい、他には何もいらない」
「……玄奘」
まったく迷いのない玄奘の真心に、悟空の瞳は潤んだ。玄奘の整った顔が近付いてくる。二人はゆっくりと優しいキスをした。
「玄奘の唇、今日はボイパで負傷気味なんですから、あまりキスしすぎると簡単に腫れちまいますよ」
「でも、したい。いいだろう?」
「したいのはキスだけですか?」
「ふふ、全部したい。さっき『なんでもする』と言ったの覚えているだろうな?」
「当然ですよ、おれの推し様。何したらいいです?」
「手始めに……もっとキスしてほしい」
欲の色に染められた恋人の瞳に悟空は吸い込まれそうになりながら頷いた。二人の顔はもう鼻先がふれあうほど近い。
「……わかりました」
悟空の唇は玄奘の唇を食んだ。玄奘の腕は悟空の首に周り、より深いキスをねだる。舌と舌がもつれあった。
「……ん、ぁはあん……」
二人の息はすぐに上がり、更なる高みを目指して身体を絡めあった。
アラームで目が覚めた。クリスマスだというのに今日も仕事である。
悟空は習慣のように腕を伸ばして、隣に寝ている玄奘の温もりを探す。が、いない。クリスマスの朝というのに勤行をしているのだろうか。
そういえばサンタコスでしようと思っていたのに、疲れていたせいか昨夜は忘れてしまったと思いながら、悟空は身体を起こす。と、見慣れない赤い包みが枕元に置いてあった。「私の悟空へ」と書いてある。こんなに開けるのが楽しみだった包みは生まれて初めてだ。
心臓がどきどきしている。震える指で包みを開けると、中にはあたたかそうなマフラーが入っていた。
悟空はそれを首に巻き付けると、ベッドを駆けだした。
「玄奘っ」
玄奘は朝食を作っていた。悟空は玄奘に飛びついて抱きしめた。玄奘は黒焦げのパンを皿に置いてから彼を受けとめた。
「ありがとうございますっ」
悟空は玄奘を強く抱きしめる。玄奘は優しく抱きしめ返した。
悟空の肩が震えていることに玄奘はすぐに気づいた。
「……悟空、泣いているのか?」
「だって、おれ……目が覚めて枕元にプレゼントが置いてあったことなんて、これが初めてで……」
彼は施設育ちである。玄奘は真顔になった。
「そうか……」
玄奘は愛おしそうに自分より背の低い彼の頭を撫でた。何度も何度も。
やっと顔をあげた悟空の頬をぬぐってやりながら、玄奘は言った。
「来年もきっと悟空の枕元にはプレゼントが置いてあるよ」
「ありがとう……ございます」
悟空は巻いていたマフラーを自分と玄奘の二人にかけて離れないようにしてから、何度もついばむようなキスをした。
「んっ……ご、悟空……朝ごはんを」
「……おれのサンタにもう少しプレゼントねだってもいいですか?」
悟空の舌は玄奘の口内に侵入する。いたずらするように舌を吸われれば、昨日の余韻ですぐに体温は上がってしまう。
「んぁ……ん……ぁ、はぁあ……、なあ、ご、ごく……」
「だめですか?」
しおらしいのは顔つきだけで、言いながら悟空の手はすでに玄奘のパジャマの裾をめくり、身体のラインをなぞり始める。少しだけ拗ねたような表情に玄奘の心臓はぎゅいんとなる。優しくしてやりたい、悟空の願いを叶えてやりたい、という慈悲心が刺激されてしまう。
「ぁん……ん……、だめ、じゃない……ん」
玄奘は愛しい彼の身体を抱きしめて目を閉じた。
玄奘が帰り際に悟浄から照れくさそうに渡された包みを開けると「株投資入門」と書かれた本であった。玄奘は思わずくすっと笑う。
「なんで悟浄はこんなのくれたんですかね?」
「悟浄は私に自分の得意なことを教えてくれるんだよ。かわいいね」
「かわいいですかね、株ですよ?」
悟空は眉をしかめる。
そのとき、玄奘のスマホの通知音が鳴った。通知を開いて、再び玄奘が微笑む。
「見て、悟空」
スマホには、
「プレゼント当選のお知らせ。厳正なる抽選の結果、あなた様がchan-Butaのパジャマ当選者となりました。おめでとうございます!!」というメッセージと、八戒のドヤ顔自撮りが表示されていた。
玄奘はくすくす笑っているが、悟空は怒りと呆れのため息をつく。
「まったくあいつはっ。抽選もしてねえくせにただの詐欺になっちまうだろうが。殉教者へのプレゼントじゃねえのかよ、まったく」
「まあ、クリスマスだからってきちんと説明すれば、殉教者たちはわかってくださるよ。八戒の気持ちも受け取ってあげなきゃ」
「受け取るのはいいですけど、あいつの着たパジャマなんて着ちゃだめですよ、身体が穢れます」
「それじゃあ受け取ったことにならないだろう?」
「じゃあせめて着る前に三十回ほど洗わせてください」
「わかったわかった」
悟空の懇願を軽く受け流す玄奘はもう恋人の顔をしている。
二人でソファに座り、コーヒーを淹れて一息つく。
「あっという間にクリスマスイブも終わってしまったな」
マグカップを両手で抱えて、玄奘がぼんやりと言う。さすがに疲れたらしい。
「本当は二人でデートに行きたかったですけどね」
「来年は一緒に行こう」
悟空にとっては何の迷いもなく来年の約束ができる玄奘がひどく眩しい。この人はおれとずっと一緒にいると何一つ疑うことなく信じている。そして、そんな男性が自分の恋人であることに幸福感でいっぱいになる。しかし、今の悟空には、玄奘に対して一つわだかまりを抱えている。
悟空はカップを置いて、玄奘の手を握った。一つ息をついてから言った。
「悟浄や八戒のプレゼントに散々ケチつけといて、おれそんな資格ないんですけど。すごく申し訳ないと思ってます。あの……、えっとですね、実は……プレゼントを用意できてなくて……一緒にいろいろ見に行ってデートしながら選びたいって思ってたから、その……」
玄奘は黙って首を傾げた。悟空は焦って、言葉をつのらせる。
「自分でも甲斐性なしなのはわかってます。でも、あの、おれ……ずっと玄奘と一緒にいたいと思ってて、来年も、再来年もずっと……、だからその、こんなおれですけど、できれば見放さないでほしいというか、その……プレゼント用意できてなくて申し訳ございませんっ……なんでもするから許してほしいです……」
頭を下げた悟空には玄奘の表情が見えない。
「……悟空、顔を上げて」
優しいけれど、毅然とした玄奘の声がした。そろそろと頭を上げた悟空の頬を玄奘は勢いよく両手で挟んで自分の顔の正面に向けた。
「一緒に歌ったのを忘れたのか?All I Want for Christmas Is You。あれが私の本心だよ。クリスマスに欲しいものなんて悟空以外にない。悟空がここにいてくれればそれでいい、他には何もいらない」
「……玄奘」
まったく迷いのない玄奘の真心に、悟空の瞳は潤んだ。玄奘の整った顔が近付いてくる。二人はゆっくりと優しいキスをした。
「玄奘の唇、今日はボイパで負傷気味なんですから、あまりキスしすぎると簡単に腫れちまいますよ」
「でも、したい。いいだろう?」
「したいのはキスだけですか?」
「ふふ、全部したい。さっき『なんでもする』と言ったの覚えているだろうな?」
「当然ですよ、おれの推し様。何したらいいです?」
「手始めに……もっとキスしてほしい」
欲の色に染められた恋人の瞳に悟空は吸い込まれそうになりながら頷いた。二人の顔はもう鼻先がふれあうほど近い。
「……わかりました」
悟空の唇は玄奘の唇を食んだ。玄奘の腕は悟空の首に周り、より深いキスをねだる。舌と舌がもつれあった。
「……ん、ぁはあん……」
二人の息はすぐに上がり、更なる高みを目指して身体を絡めあった。
アラームで目が覚めた。クリスマスだというのに今日も仕事である。
悟空は習慣のように腕を伸ばして、隣に寝ている玄奘の温もりを探す。が、いない。クリスマスの朝というのに勤行をしているのだろうか。
そういえばサンタコスでしようと思っていたのに、疲れていたせいか昨夜は忘れてしまったと思いながら、悟空は身体を起こす。と、見慣れない赤い包みが枕元に置いてあった。「私の悟空へ」と書いてある。こんなに開けるのが楽しみだった包みは生まれて初めてだ。
心臓がどきどきしている。震える指で包みを開けると、中にはあたたかそうなマフラーが入っていた。
悟空はそれを首に巻き付けると、ベッドを駆けだした。
「玄奘っ」
玄奘は朝食を作っていた。悟空は玄奘に飛びついて抱きしめた。玄奘は黒焦げのパンを皿に置いてから彼を受けとめた。
「ありがとうございますっ」
悟空は玄奘を強く抱きしめる。玄奘は優しく抱きしめ返した。
悟空の肩が震えていることに玄奘はすぐに気づいた。
「……悟空、泣いているのか?」
「だって、おれ……目が覚めて枕元にプレゼントが置いてあったことなんて、これが初めてで……」
彼は施設育ちである。玄奘は真顔になった。
「そうか……」
玄奘は愛おしそうに自分より背の低い彼の頭を撫でた。何度も何度も。
やっと顔をあげた悟空の頬をぬぐってやりながら、玄奘は言った。
「来年もきっと悟空の枕元にはプレゼントが置いてあるよ」
「ありがとう……ございます」
悟空は巻いていたマフラーを自分と玄奘の二人にかけて離れないようにしてから、何度もついばむようなキスをした。
「んっ……ご、悟空……朝ごはんを」
「……おれのサンタにもう少しプレゼントねだってもいいですか?」
悟空の舌は玄奘の口内に侵入する。いたずらするように舌を吸われれば、昨日の余韻ですぐに体温は上がってしまう。
「んぁ……ん……ぁ、はぁあ……、なあ、ご、ごく……」
「だめですか?」
しおらしいのは顔つきだけで、言いながら悟空の手はすでに玄奘のパジャマの裾をめくり、身体のラインをなぞり始める。少しだけ拗ねたような表情に玄奘の心臓はぎゅいんとなる。優しくしてやりたい、悟空の願いを叶えてやりたい、という慈悲心が刺激されてしまう。
「ぁん……ん……、だめ、じゃない……ん」
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